【2025年10月育児・介護休業法改正】「柔軟な働き方を実現するための措置(3歳から小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者等に関する措置)」の義務化を解説(措置の内容、手続など)
- 1. はじめに
- 2. 法改正の要点
- 3. 事業主が講じる措置の内容(選択肢)
- 4. 1.始業時刻変更等の措置
- 5. 2.在宅勤務等の措置
- 6. 3.育児のための所定労働時間の短縮措置(育児短時間勤務)
- 7. 4.労働者が就業しつつ子を養育することを容易にするための休暇を与えるための措置
- 8. 5.その他厚生労働省令で定めるもの
- 9. 事業主が措置を講じる際の手続(意見聴取)
- 9.1. 意見聴取の機会の付与
- 9.2. 労使協定に基づき除外対象となる(措置の対象外となる)労働者
- 10. 労働者への個別周知・意向確認の義務
- 10.1. 労働者への個別周知・意向確認の義務
- 10.2. 個別周知・意向確認の実施時期
- 10.3. 個別周知・意向確認の実施方法
- 10.4. 労働者への通知事項
- 11. 不利益取り扱いの禁止
はじめに
育児・介護休業法の改正により、事業主において、新たに「柔軟な働き方を実現するための措置」を講じることが義務付けられ、2025(令和7)年10月1日に施行されます。
本稿では、改正後の育児・介護休業法が定める「柔軟な働き方を実現するための措置」について、事業主が講じるべき措置の内容、措置を講じる際に必要となる手続など、法改正の内容を詳しく解説します。
なお、法改正を受けて変更が必要となる、育児・介護休業規程の規定例(記載例)については、次の記事をご覧ください。
【2025年10月改正】「柔軟な働き方を実現するための措置」に関する育児・介護休業規程の規定例(記載例)を解説
法改正の要点
育児・介護休業法の改正により、事業主において、新たに「柔軟な働き方を実現するための措置」を講じることが義務付けられます。
法律の条文上は、「3歳から小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者等に関する措置」と定められており、当該措置により、従業員が子どもの年齢に応じて、柔軟な働き方を選択しながら、フルタイムで働くことを可能にすることを目的としています(育児・介護休業法第23条の3)。
法改正の要点は、次のとおりです。
法改正の要点(2025(令和7)年10月1日施行)
- 事業主は、3歳以上、小学校就学前の子を養育する労働者に対して、「柔軟な働き方を実現するための措置」を講じなければならない
- 事業主は、法令が定める措置の候補の中から、2つ以上の措置を講じた上で、労働者がそのうち1つを選択して利用できるようにしなければならない
- 事業主は、講じた措置の内容について、労働者に対して個別に周知し、かつ意向を確認しなければならない
以下、順に解説します。
事業主が講じる措置の内容(選択肢)
法改正により、事業主に対し、法令が定める次の措置の中から、「2つ以上」の措置を選択して講じることが義務付けられました(育児・介護休業法第23条の3第1項第一号から第五号)。
事業主が講じる措置の内容(選択肢)
- 始業時刻変更等の措置
- 在宅勤務等の措置
- 育児のための所定労働時間の短縮措置(育児短時間勤務)
- 労働者が就業しつつ子を養育することを容易にするための休暇を与えるための措置(子の看護等休暇、介護休暇、年次有給休暇として与えられるものを除く)
- その他厚生労働省令で定めるもの
事業主は、法令が定める上記の措置の候補の中から、複数(2つ以上)の措置を講じ、労働者がそのうち1つを選択して利用できるようにする必要があります。
以下、各措置の内容について、順に解説します。
1.始業時刻変更等の措置
- フレックスタイム制、または、始業・終業時刻の繰り上げ・繰り下げ(時差出勤の制度)のうち、いずれかであること
- 所定労働時間を短縮せず、フルタイムで勤務できること
始業時刻変更等の措置は、労働基準法が定める「フレックスタイム制」、または、「始業・終業時刻を繰り上げ・繰り下げる制度(時差出勤の制度)」のいずれかの措置とする必要があります(育児・介護休業法施行規則第75条の2、労働基準法第32条の3)。
いずれの措置による場合でも、所定労働時間を短縮せずに、フルタイムで勤務できるものであることが必要です。
具体的には、フレックスタイム制においては、総労働時間を清算期間における所定労働日数で除した時間が、1日の所定労働時間と同一である必要があり、時差出勤制度においては、1日の所定労働時間を変更しない制度であることが必要とされています。
2.在宅勤務等の措置
在宅勤務等の措置(要件)
- 最低限、勤務日のうち半数程度は利用できるものであること
- 原則として、時間単位(1日の所定労働時間数に満たない時間)で利用できるものであること
- 所定労働時間を短縮せず、フルタイムで勤務できること
在宅勤務等の措置を利用できる日数は、最低限、勤務日のうち半数程度は利用できるものである必要があり、具体的には、1ヵ月について、次の要件を満たす必要があります(育児・介護休業法施行規則第75条の3第1項)。
在宅勤務等の措置の必要日数
- 1週間の所定労働日数が5日の労働者…10労働日以上の日数(※)
- 1週間の所定労働日数が5日以外の労働者…(※)を基準として、1週間の所定労働日数(または1週間あたりの平均所定労働日数)に応じた日数以上の日数
(例)1週間の所定労働日数が3日の場合…10労働日×5分の3=6日以上の日数
在宅勤務等の措置を利用できる時間の単位は、「1日の所定労働時間数に満たない時間」である必要があり、例えば、半日単位や1時間単位などで利用できるようにすることが考えられます。
さらに、在宅勤務等を時間単位で行う場合、始業時刻から連続し、または終業時刻まで連続して利用できるものである必要がありますので、労働時間の途中でしか在宅勤務を認めないとすることはできません。
なお、在宅勤務等を時間単位で行う場合において、1日の所定労働時間に1時間未満の時間がある場合には、1時間未満の端数を1時間に切り上げる(例えば、所定労働時間が7時間30分である場合には、8時間とする)必要があります(育児・介護休業法施行規則第75条の3第2項)。
また、在宅勤務等の措置は、所定労働時間を短縮せずに、フルタイムで勤務できるものであることが必要です。
3.育児のための所定労働時間の短縮措置(育児短時間勤務)
育児のための所定労働時間の短縮措置(要件)
- 原則として、1日6時間とする措置を設けること
育児のための所定労働時間の短縮措置は、1日の所定労働時間を、原則として「6時間」とする措置を含むものとする必要があります(育児・介護休業法施行規則第75条の3第3項)。
また、厚生労働省の指針(厚生労働省告示第287号)では、上記に加えて、次のような措置を併せて講じることが望ましいとされています(指針第2第10の2(2))。
【併せて講じることが望ましい措置(例)】
- 1日の所定労働時間を5時間または7時間とする措置
- 1週間のうち所定労働時間を短縮する曜日を固定する措置
- 週休3日とする措置
4.労働者が就業しつつ子を養育することを容易にするための休暇を与えるための措置
労働者が就業しつつ子を養育することを容易にするための休暇を与えるための措置(要件)
- 子の看護等休暇、介護休暇、年次有給休暇とは別に、新たな休暇を与えること
- 1年間に10日以上の休暇を与えること
- 原則として、1時間単位で取得できるものであること
- フルタイムを前提とし、所定労働時間を短縮しないこと
この措置では、育児・介護休業法が定める子の看護等休暇、介護休暇、および労働基準法が定める年次有給休暇とは別に、新たな休暇を与えることが必要です。
この場合において、当該休暇は、「1年間に10労働日以上」の日数が取得できるものとする必要があります(育児・介護休業法施行規則第75条の3第4項)。
なお、法律上は、当該休暇に対して賃金を支払うことまでは義務付けられていないため、当該休暇を取得した日(または時間)については、原則として無給となります。
また、当該休暇は、原則として、1時間単位で取得することができ、始業時刻から連続し、または終業時刻まで連続して取得できるものである必要があります(育児・介護休業法第23条の3第2項、育児・介護休業法施行規則第75条の5第1項)。
なお、休暇を1時間単位で取得する場合において、1日の所定労働時間に1時間未満の時間がある場合には、1時間未満の端数を1時間に切り上げる(例えば、所定労働時間が7時間30分である場合には、8時間とする)必要があります(育児・介護休業法施行規則第75条の5第2項)。
また、新たな休暇を与える措置は、所定労働時間を短縮せずに、フルタイムで勤務できるものであることが必要です。
5.その他厚生労働省令で定めるもの
その他の措置として、厚生労働省令では、「保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与」を定めています(育児・介護休業法施行規則第75条の4)。
「保育施設の設置・運営」とは、事業主自らが保育施設を設置し、運営する場合の他、例えば、他の事業主が設置・運営する保育施設に委託をし、その費用を負担することが考えられます。
また、「これに準ずる便宜の供与」とは、労働者からの希望に基づきベビーシッターを手配し、その費用を事業主が負担することなどを意味すると解されます(育児・介護休業法第23条第2項が定める育児短時間勤務の代替措置にかかる行政通達として、平成21年12月28日職発第1228第4号・雇児発第1228第2号)。
事業主が措置を講じる際の手続(意見聴取)
意見聴取の機会の付与
事業主は、柔軟な働き方を実現するための措置を講じるときは、あらかじめ(事前に)、労働者の過半数を代表する者(労働者の過半数で組織する労働組合がある場合は、その労働組合)から、意見を聴かなければならないとされています(育児・介護休業法第23条の3第4項)。
なお、法律上は、労働者代表の意見を聴けば足り、同意を得ることや、労使協定を締結することまでは求められていません。
また、意見聴取の方法について、法律上は特に定めはありませんが、書面で行うことが望ましいと考えます。
労使協定に基づき除外対象となる(措置の対象外となる)労働者
事業主は、労働者の過半数を代表する者(労働者の過半数で組織する労働組合がある場合は、その労働組合)との間で労使協定を締結することによって、次の者について、措置の対象から除外することが認められています(育児・介護休業法第23条の3第3項、育児・介護休業法施行規則第75条の6)。
労使協定に基づき除外対象となる労働者
- 事業主に引き続き雇用された期間が1年に満たない労働者
- 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
- (休暇を1日未満の時間単位で取得する場合のみ)業務の性質または業務の実施体制に照らして、1日未満の単位で休暇を取得することが困難と認められる業務に従事する労働者
「1日未満の単位で休暇を取得することが困難と認められる業務」とは、業務の性質または実施体制に照らして、時間単位で休暇を取得することが困難な業務をいい、例えば、次の業務が該当するとされています(指針第2第10の2(9))。
1日未満の単位で休暇を取得することが困難と認められる業務の例
- 国際路線等に就航する航空機において従事する客室乗務員等の業務等であって、所定労働時間の途中まで、または途中から休暇を取得させることが困難な業務
- 長時間の移動を要する遠隔地で行う業務であって、時間単位の休暇を取得した後の勤務時間または取得する前の勤務時間では処理することが困難な業務
- 流れ作業方式や交替制勤務による業務であって、時間単位で休暇を取得する者を勤務体制に組み込むことによって業務を遂行することが困難な業務
労働者への個別周知・意向確認の義務
労働者への個別周知・意向確認の義務
事業主は、3歳に満たない子を養育する労働者に対しては、事業主が講じた措置について選択する機会を与えるために、一定期間内に労働者に個別周知し、意向を確認する必要があります(育児・介護休業法第23条の3第5項)。
個別周知・意向確認の実施時期
労働者への個別周知・意向確認は、子が1歳11ヵ月に達する日の翌々日から、2歳11ヵ月に達する日の翌日までの1年間の間に行う必要があります(育児・介護休業法施行規則第75条の8)。
個別周知・意向確認の実施方法
事業主が行う労働者に対する個別周知・意向確認は、次のいずれかの方法によって行う必要があります(育児・介護休業法施行規則第75条の7、同規則第69条の3第2項)。
個別周知・意向確認の方法
- 面談による方法
- 書面を交付する方法
- ファックスを利用して送信する方法(労働者が希望する場合に限る)
- 電子メール等を送信する方法(労働者が希望する場合に限り、かつ当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより、書面を作成することができるものに限る)
労働者への通知事項
事業主は、個別周知・意向確認を行うに際しては、労働者に対して、次の内容を通知する必要があります(育児・介護休業法施行規則第75条の9)。
労働者への通知事項
- 事業主が講じた措置の内容(選択肢)
- 措置を利用する場合の申出先(例えば、申出をする部署、担当者など)
- 所定外労働の制限に関する制度、時間外労働の制限に関する制度、深夜業の制限に関する制度(いずれも、3歳以降小学校就学前までの子を養育する労働者を対象とする制度)
不利益取り扱いの禁止
事業主は、労働者が措置にかかる申し出をし、もしくは当該労働者に措置が講じられたこと、または確認した労働者の意向の内容などを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取り扱いをしてはならないとされています(育児・介護休業法第23条の3第7項)。