【労働基準法】女性の妊娠・出産前後の時期に適用される法制度をまとめて解説

はじめに

労働基準法では、女性の母体保護の観点から、妊娠・出産前後の各時期に応じた法制度を設けています。

本稿では、妊娠・出産前後の女性について、労働基準法が定める法制度をまとめて解説します。

まとめ

妊娠・出産前後の女性について、労働基準法が定める法制度をまとめると、下表のとおりです。

時期労働基準法が定める制度
妊娠中他の軽易な業務への転換
産前6週間・産後8週間(原則)産前産後休業
妊娠中および産後1年以内(妊産婦)労働時間の制限・時間外労働の制限・休日労働の制限・深夜業の制限
坑内業務・危険有害業務の就業制限
産後1年未満育児時間
生理日の就業が著しく困難なとき生理休暇

以下、順に解説します。

他の軽易な業務への転換【妊娠中】

使用者は、妊娠中の女性から請求があった場合には、当該女性について、「他の軽易な業務」に転換させなければならないとされています(労働基準法第65条第3項)。

使用者は、請求があった場合には、原則として女性が請求した業務に転換させる必要がありますが、新たに軽易な業務を創設して与える義務はありません(昭和61年3月20日基発151号・婦発69号)。

なお、妊娠中の女性は、他の軽易な業務への転換と、後述する労働時間にかかる制限について、いずれか一方または双方を同時に請求することができるものと解されます。

産前産後休業【産前6週間・産後8週間(原則)】

労働基準法では、女性の母体保護の観点から、産前休業および産後休業の期間について定めています。

産前休業

使用者は、6週間(多胎妊娠の場合は、14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合には、その者を就業させてはならないとされています(労働基準法第65条第1項)。

就業が禁止されるのは、女性が「休業を請求した場合」であることから、使用者は、女性が休業を請求しない場合には、引き続き就業させることができます。

産後休業

使用者は、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならないとされています(労働基準法第65条第2項)。

産前休業と異なり、産後休業は、女性が請求したか否かに関わらず、原則として就業が禁止されます。

ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合には、その者について医師が支障がないと認めた業務に限り、就業させることが認められます。

なお、出産日当日は、産前6週間に含まれると解されます(昭和25年3月31日基収4057号)。

例えば、産前6週間の休業をしていた女性が、出産予定日より2週間遅れて出産した場合には、出産の当日までは産前休業に含まれるため、産前休業期間に関係なく、産後8週間が産後休業期間となります(昭和33年9月29日婦発310号)。

労働時間などの制限【妊娠中および産後1年以内(妊産婦)】

労働基準法では、妊娠中の女性および産後1年を経過しない女性を「妊産婦」と定義し、その保護を図る法制度を設けています(労働基準法第64条の3第1項)。

労働時間の制限

使用者は、妊産婦が請求した場合には、変形労働時間制(1ヵ月単位の変形労働時間制、1年単位の変形労働時間制、および1週間単位の非定型的変形労働時間制)の規定に関わらず、法定労働時間(原則として1日8時間・1週40時間)を超えて労働させてはならないとされています(労働基準法第66条第1項)。

この規定により、変形労働時間制を採用している事業場であっても、妊産婦から請求があった場合には、法定労働時間を超える労働を制限する必要がありますが、妊産婦に対して変形労働時間制自体を適用してはならないという趣旨ではありません。

なお、「フレックスタイム制」は、変形労働時間制の一種ではありますが、特に妊産婦にかかる規制は設けられていません。

時間外労働の制限・休日労働の制限

使用者は、妊産婦が請求した場合には、非常災害・公務員の例外および時間外労働・休日労働に関する労使協定の規定に関わらず、時間外労働をさせてはならず、または休日に労働させてはならないとされています(労働基準法第66条第2項)。

深夜業の制限

使用者は、妊産婦が請求した場合には、深夜業(午後10時から午前5時までの間の時間帯に労働すること)をさせてはならないとされています(労働基準法第66条第3項)。

管理監督者への適用

労働基準法では、監督もしくは管理の地位にある者(以下、「管理監督者」といいます)については、「労働時間」、「休憩」、「休日」に関する各規定を適用しないことを定めています(労働基準法第41条第二号)。

したがって、妊産婦が管理監督者に該当する場合には、労働時間の制限、時間外労働の制限、休日労働の制限にかかる各規定は適用されません(昭和61年3月20日基発151号・婦発69号)。

一方で、管理監督者についても、深夜業に関する規定は適用される(例えば、管理監督者が深夜労働をした場合には、深夜労働にかかる割増賃金の支払い義務がある)ことから、管理監督者である妊産婦が深夜業の制限を請求した場合には、深夜業をさせてはなりません(昭和61年3月20日基発151号・婦発69号)。

【管理監督者である妊産婦に対する法制度の適用(〇:適用あり/×:適用なし)】

 一般労働者の妊産婦管理監督者の妊産婦
労働時間の制限×
時間外労働の制限×
休日労働の制限×
深夜業の制限

就業制限【妊娠中および産後1年以内(妊産婦)】

坑内業務

使用者は、妊娠中の女性を、坑内で行われるすべての業務に就かせてはならないとされています(労働基準法第64条の2第一号)。

また、産後1年を経過しない女性が、坑内で行われる業務に従事しない旨を使用者に申し出た場合も同様に、坑内で行われるすべての業務に就かせてはならないとされています。

妊娠中の女性については、申し出の有無に関わらず、坑内で行われるすべての業務に就かせてはならないのに対し、産後1年を経過しない女性については、業務に従事しない旨を申し出た場合に制限が生じる点が異なります。

なお、妊産婦であるか否かに関わらず、満18歳以上の女性については、坑内で行われる業務のうち、人力により行われる掘削の業務その他の女性に有害な業務として厚生労働省令で定めるものに就かせることはできません(労働基準法第64条の2第二号)。

危険有害業務の就業制限

使用者は、妊娠中の女性および産後1年を経過しない女性(妊産婦)を、重量物を取り扱う業務、有害ガスを発散する場所における業務、その他妊産婦の妊娠・出産・哺(ほ)育などに有害な業務に就かせてはならないとされています(労働基準法第64条の3第1項)。

具体的には、妊娠中の女性については、女性労働基準規則第2条第1項が定める24の業務が就業制限の対象となります(重量物を取り扱う業務、ボイラーの取り扱いの業務など)。

また、産後1年を経過しない女性については、女性労働基準規則第2条第2項が定める22の業務が就業制限の対象となりますが、このうち19の業務(ボイラーの取り扱いの業務など)については、女性がその業務に従事しない旨を使用者に申し出た場合に就業制限の対象となります。

育児時間【産後1年未満】

育児時間とは

生後満1年に達しない生児を育てる女性は、法定された休憩時間のほか、1日2回、各々少なくとも30分、その生児を育てるための時間(育児時間)を請求することができ、使用者は、育児時間中は、その女性を使用してはならないとされています(労働基準法第67条)。

育児時間は、法定された休憩時間とは別に、授乳などの世話のために設けられた制度であることから、男性労働者に育児時間を与える必要はありません。

育児時間の与え方

休憩時間は、労働基準法により、労働時間の途中に与える必要があるとされているのに対し、育児時間は、勤務時間の始めまたは終わりに請求することができます(昭和33年6月25日基収4317号)。

育児時間の回数については、1日の労働時間が4時間以内であるような場合には、1日1回の育児時間を与えれば足りると解されます(昭和36年1月9日基収8996号)。

育児時間の賃金については、法律上、有給または無給の定めがないため、就業規則や労働契約などの定めに従うこととなります(昭和33年6月25日基収4317号)。

生理休暇【生理日の就業が著しく困難なとき】

生理休暇とは

使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇(生理休暇)を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならないとされています(労働基準法第68条)。

生理日の就業が著しく困難な状況であれば、従事している業務の種類や内容を問わず、休暇を請求することができますが、単に生理日であることのみでは、休暇を請求することは認められません(昭和61年3月20日基発151号・婦発69号)。

生理休暇の与え方

生理休暇を取得した際の賃金については、法律上、有給または無給の定めがないため、就業規則や労働契約などの定めに従うこととなります(昭和63年3月14日基発150号・婦発47号)。

生理休暇の請求は、必ずしも1日単位で行わなければならないものではなく、女性が半日単位や時間単位で請求した場合には、使用者は、その範囲で就業させなければ足りると解されます(昭和61年3月20日基発151号・婦発69号)。