【労働基準法】「退職時の証明書」「解雇理由の証明書」への記載事項、ひな型(書式例)、作成時のポイントを解説

はじめに
労働基準法では、労働者は、退職する際において、使用者に対し、「退職時の証明書」および「解雇理由の証明書」を請求することができる権利が定められており、使用者は、労働者から請求があった場合には、遅滞なく証明書を交付する義務があります。
本稿では、労働基準法が定める「退職時の証明書」と「解雇理由の証明書」について、証明書への記載事項、ひな型(書式例)、作成時のポイントを解説します。
「退職時の証明書」とは
「退職時の証明書」とは
労働基準法では、労働者が退職する場合において、下記の事項について、証明書を請求した場合には、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならないとされています(労働基準法第22条第1項)。
退職時の証明書を交付する趣旨は、解雇など退職をめぐる紛争の防止や、労働者の再就職に役立たせるためと解されます。
退職時の証明書への記載事項
- 使用期間
- 業務の種類
- その事業における地位
- 賃金
- 退職の事由(退職の事由が解雇の場合は、解雇の理由を含む)
労働基準法では、退職時の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならないとされています(労働基準法第22条第3項)。
したがって、実務上、使用者は、労働者から退職時の証明書を請求された場合には、上記の記載事項のうち、どの事項について証明を要するのか、労働者に意向を確認しておく必要があります。
また、退職時の証明を求める回数については、制限はありませんので、使用者は、すでに退職時の証明書を発行した場合でも、労働者から再び請求があった場合には、これに応じる義務があると解されます(平成11年3月31日基発169号)。
ただし、退職時の証明にかかる請求権の時効は2年とされていますので、労働者から時効期間を過ぎて請求があっても、使用者はこれに応じる義務はありません(労働基準法第115条、平成11年3月31日基発169号)。
使用者の交付義務
使用者は、退職の原因によって、証明書の交付を拒否することはできません。
使用者と労働者との間で、退職の事由について、見解の相違がある場合(例えば、使用者は、労働者が退職勧奨に基づき合意退職したと認識しているが、労働者は、解雇されたと認識している場合など)は、使用者は、自らの見解を証明書に記載した上で、労働者に交付すれば、労働基準法には違反しないものと解されます(平成11年3月31日基発169号)。
なお、雇用保険の離職票など、他の書面を交付することをもって、退職時の証明書の交付に代えることはできないものと解されます(平成11年3月31日基発169号)。
「退職時の証明書」のひな型(書式例)
退職時の証明書については、特に決められた書式はありませんので、使用者が任意に作成したもので構いません。
退職時の証明書のひな型(書式例)は、次のとおりです。
退職時の証明書のひな型(書式例)
証明日:●年●月●日
●●●●殿
株式会社●●
代表取締役●●●● 印
退職証明書
貴殿の退職について、下記のとおり証明します。
記
1.使用期間
入社日:●年●月●日
退職日:●年●月●日(使用期間:●年●ヵ月)
2.業務の種類および事業における地位
年 | 月 | 部署 | 地位 | 業務の種類 |
3.賃金(退職時)
賃金の内訳 | 金額(月額) |
基本給 | ●円 |
●●手当 | ●円 |
●●手当 | ●円 |
合計 | ●円 |
4.退職の事由【注1】
(該当するものにチェックを付ける)
□自己都合による退職
□当社の勧奨による退職
□定年による退職
□契約期間満了による退職
□移籍出向による退職
□その他( )による退職
□解雇 (解雇の場合は、下欄に具体的な理由を記載すること)
(解雇の理由)【注2】 |
以上
【注1】退職の事由
「退職の事由」とは、自己都合退職、退職勧奨、解雇、定年退職など、労働者が身分を失った事由をいいます(平成11年1月29日基発45号、平成15年12月26日基発1226002号)。
また、労働者が解雇される場合には、「解雇の理由」についても、「退職の事由」に含まれることから、解雇の理由を併せて記載する必要があります。
ただし、前述のとおり、退職時の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならないことから、解雇された労働者が、解雇の事実のみについて、使用者に証明書を請求した場合には、使用者は、解雇の理由を証明書に記入してはならず、解雇の事実のみを証明書に記入する義務があります(労働基準法第22条第3項)。
【注2】解雇の理由
「解雇の理由」については、具体的に示す必要があり、就業規則の一定の条項に該当することを理由として解雇した場合には、就業規則の当該条項の内容および当該条項に該当するに至った事実関係を証明書に記入する必要があります(平成11年1月29日基発45号、平成15年12月26日基発1226002号)。
解雇理由の記入例は、次のとおりです。
「解雇の理由」の記入例
- 職務上の地位を利用し、自身が担当していた取引先から、計100万円の金銭を不正に受領していたことが発覚したため、会社就業規則第●条の定め(職務上の地位を利用して私利を図り、取引先等より不当な金品を受けたとき)に基づき、懲戒解雇とした。
- 正当な理由なく、10労働日以上の無断欠勤をし、かつ出勤の督促にも応じなかったため、会社就業規則第●条の定め(正当な理由なく無断欠勤が10労働日以上に及び、出勤の督促に応じなかったとき)に基づき、懲戒解雇とした。
「解雇理由の証明書」とは
労働基準法では、同法第20条第1項による解雇の予告がされた日から、退職の日までの間において、労働者が当該解雇の理由について証明書を請求した場合には、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならないとされています(労働基準法第22条第2項)。
解雇理由の証明書を作成する趣旨は、解雇をめぐる紛争を未然に防止するためと解されます。
「第20条第1項による解雇の予告」とは、使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、原則として、少なくとも30日前にその予告をしなければならないことが義務付けられているものです。
ただし、解雇の予告がされた日以後に、労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合には、使用者は、当該退職の日以後は、解雇理由の証明書を交付することを要しないとされています(労働基準法第22条第2項但書)。
また、退職時の証明書と同様に、解雇理由の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならないとされています(労働基準法第22条第3項)。
なお、本条は、解雇予告の期間中に解雇を予告された労働者から請求があった場合に、使用者に当該解雇の理由を記載した証明書を交付することを義務付けるものであることから、解雇予告の義務がない即時解雇の場合には、適用されないものと解されます(平成15年10月22日基発1022001号)。
この場合、即時解雇の通知後に、労働者が解雇の理由についての証明書を請求した場合には、使用者は、退職時の証明書の交付によって、解雇の理由にかかる証明書の交付義務を負うものと解されます(労働基準法第22条第1項)。
「解雇理由の証明書」のひな型(書式例)
解雇理由の証明書については、特に決められた書式はありませんので、使用者が任意に作成したもので構いません。
解雇理由の証明書のひな型(書式例)は、次のとおりです。
解雇理由の証明書のひな型(書式例)
証明日:●年●月●日
●●●●殿
株式会社●●
代表取締役●●●● 印
解雇理由証明書
当社が、●年●月●日付けで貴殿に予告した解雇は、以下の理由によるものであることを証明します。
【解雇理由】
該当するものにチェックを付け、具体的な理由等を( )の中に記入する
□天災その他やむを得ない理由(具体的には、●●●●●●●●によって、当社の事業の継続が不可能となったこと)による解雇
□事業縮小等当社の都合(具体的には、当社が、●●●●●●●●となったこと)による解雇
□職務命令に対する重大な違反行為(具体的には、貴殿が●●●●●●●●したことにより、就業規則第●条に該当したこと)による解雇【注1】
□業務にかかる不正な行為(具体的には、貴殿が●●●●●●●●したことにより、就業規則第●条に該当したこと)による解雇【注1】
□勤務態度または勤務成績が不良であること(具体的には、貴殿が●●●●●●●●したことにより、就業規則第●条に該当したこと)による解雇【注1】
□その他(具体的には、貴殿が●●●●●●●●したことにより、就業規則第●条に該当したこと)による解雇【注1】
以上
【注1】解雇の理由
「解雇の理由」については、退職時の証明書と同様に、具体的に示す必要があり、就業規則の一定の条項に該当することを理由として解雇した場合には、就業規則の当該条項の内容および当該条項に該当するに至った事実関係を証明書に記入する必要があります(平成15年10月22日基発1022001号)。
通信等の禁止
使用者は、あらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目的として、退職時の証明書および解雇理由の証明書において、秘密の記号を記入してはならないとされています(労働基準法第22条第4項)。
本条は、労働者の就職を妨害することを目的とした、いわゆるブラックリストの作成を禁止する趣旨と解されます。
罰則
退職時の証明書および解雇理由の証明書の規定に違反した者は、30万円以下の罰金が定められています(労働基準法第120条第一号)。
証明書交付義務の違反には、交付請求を無視すること、交付を拒否すること、理由なく遅らせて交付すること、虚偽の事実を記載した証明書を交付することなども含まれると解されます(平成11年3月31日基発169号)。
また、通信等の禁止の規定に違反した者は、6ヵ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が定められています(労働基準法第119条第一号)。