「労働時間等設定改善法」とは?事業主の責務、労働時間等設定改善委員会など、法律の全体像を解説

労働時間等設定改善法とは
「労働時間等設定改善法」(正式名称は、「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」)とは、事業主に対し、労働時間等の設定の改善に向けた自主的な努力を促すことで、労働者がその能力を有効に発揮し、健康で充実した生活を実現することを目指すための法律をいいます(労働時間等設定改善法第1条)。
また、「労働時間等の設定」とは、労働時間、休日数、年次有給休暇を与える時季、深夜業の回数、終業から始業までの時間、その他の労働時間等に関する事項を定めることをいいます(労働時間等設定改善法第1条第2項)。
労働時間等設定改善法は、労働時間等の設定の改善に向けた事業主の努力義務を定めるものであるため、法律に違反することによる罰則の定めはありません。
事業主の責務
事業主は、その雇用する労働者の労働時間等の設定の改善を図るため、次の措置を講ずるように努めなければならないとされています(労働時間等設定改善法第2条第1項)。
事業主の責務
- 業務の繁閑に応じた労働者の始業・終業時刻の設定
- 健康・福祉を確保するために必要な、終業から始業までの時間の設定(勤務間インターバル)
- 年次有給休暇を取得しやすい環境の整備
- その他の必要な措置
1.業務の繁閑に応じた労働者の始業・終業時刻の設定
具体的な取り組みとして、例えば、時期や日によって業務量に変動がある場合には、変形労働時間制やフレックスタイム制を活用することが考えられます(労働時間等設定改善指針/平成20年厚生労働省告示第108号)。
また、年間を通して業務の繁閑が見通せる場合には、1年単位の変形労働時間制を活用することが考えられます。
さらに、業務の進め方について労働者の創造性や主体性が必要な場合には、専門業務型裁量労働制や企画業務型裁量労働制を活用することが考えられます。
2.勤務間インターバル
「勤務間インターバル」とは、終業時刻から次の始業時刻までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル時間)を設けることで、労働者の生活時間や睡眠時間を確保しようとするものです。
インターバル時間数の設定例としては、一律に設定している例、職種によって分けている例、義務とする時間数と健康管理のための努力義務とする時間数を分けている例などがあります。
3.年次有給休暇を取得しやすい環境の整備(後述)
4.その他の必要な措置
事業主は、その雇用する労働者のうち、①その心身の状況および労働時間等に関する実情に照らして、健康の保持に努める必要があると認められる労働者、②子の養育または家族の介護を行う労働者、③単身赴任者、④自ら職業に関する教育訓練を受ける労働者など、特に配慮を必要とする労働者について、その事情を考慮した労働時間等の設定に努めなければならないとされています(労働時間等設定改善法第2条第2項)。
労使の協議体制の整備
労使の協議体制の整備
事業主は、上記の責務を果たすために、労働時間等の改善に向けて、労使で協議する体制を整備する必要があり、例えば、次の機関において協議することが考えられます。
労使の協議体制の整備(例)
- 労働時間等設定改善委員会
- 労働時間等設定改善企業委員会
- 安全衛生委員会
- 衛生委員会
- 36協定の締結時における協議
上記のうち、「労働時間等設定改善委員会」と「労働時間等設定改善企業委員会」については、当該委員会で行われた決議が、労働基準法が定める労使協定の一部を代替する効果を持つため、決議をもって労使協定の締結が不要となるという手続上のメリットがあります。
労働時間等設定改善委員会
労働基準法の特例により、事業場ごとに設置された労働時間等設定改善委員会で、次の事項について、その委員の5分の4以上の多数による議決が行われたときは、当該決議はこれらの事項に関する労使協定と同様の効果を有し、かつ、所轄労働基準監督署長への届出が免除(時間外労働および休日労働に関する協定を除きます)されます(労働時間等設定改善法第7条)。
労働時間等設定改善委員会の決議によって締結・届出が不要となる労使協定
- 1週間単位の非定型的変形労働時間制
- 1ヵ月・1年単位の変形労働時間制
- フレックスタイム制
- 一斉休憩の適用除外
- 時間外労働および休日労働(届出は免除されない)
- 代替休暇
- 事業場外労働
- 専門業務型裁量労働制
- 年次有給休暇の時間単位付与制度
- 年次有給休暇の計画的付与制度
労働基準法の特例を受けるためには、次の要件をすべて満たす必要があります(労働時間等設定改善法施行規則第2条、第3条)。
労働基準法の特例を受けるための要件
- 委員会の委員の半数は、 事業場の労働者の過半数を代表する者(労働者の過半数で組織する労働組合がある場合には、その労働組合)の推薦に基づき指名された者であること
- 委員会の開催の都度、その議事録を作成し、かつ、その開催日から3年間保存すること
- 委員の任期、委員会の招集、定足数、議事など、委員会の運営に関する規程を定めること
労働時間等設定改善企業委員会
労働基準法の特例により、労働時間等設定改善企業委員会で、代替休暇、年次有給休暇の時間単位付与制度、年次有給休暇の計画的付与制度に関する事項について、その委員の5分の4以上の多数による議決が行われたときは、当該決議はこれらの事項に関する事業場ごとの労使協定と同様の効果を有するものとなります(労働時間等設定改善法第7条の2)。
労働基準法の特例を受けるためには、労働時間等設定改善委員会の要件に加えて、労働時間等設定改善企業委員会の決議に先立ち、事業場ごとに、当該事業場における年次有給休暇の計画的付与制度などについて、労働時間等設定改善企業委員会の審議に委ねる旨を定めた労使協定を締結する必要があります。
労使の協議事項の例
労働時間等の設定の改善に向けた労使の協議事項としては、例えば、次の内容を労使で話し合うことが有効と解されます。
労働時間等の設定の改善に向けた労使の協議事項(例)
- 時間外・休日労働の現状の把握
- 年次有給休暇の取得率の現状の把握
- 長時間労働をしている労働者の心身の健康保持や時間外・休日労働の削減対策
- 健康面などの理由で特に配慮を必要とする労働者への対応
- 年次有給休暇の取得率の目標設定
- 年次有給休暇を取得しやすくするための具体策
3.の削減対策の具体的な取組事例としては、例えば、労働時間に関する意識の改革、「ノー残業デー」や「ノー残業ウィーク」の導入、休日労働を行った場合の代休の付与などがあります。
4.の「健康面などの理由で特に配慮を必要とする労働者」とは、例えば、次の労働者をいいます。
健康面などの理由で特に配慮を必要とする労働者(例)
- 特に健康の保持に努める必要があると認められる労働者(健康診断の結果を踏まえた医師などの意見を勘案して配慮の必要がある者、病気休暇から復帰する者など)
- 子の養育・家族の介護を行う労働者(育児・介護休業法に定められている制度を積極的に周知し、利用しやすい環境をつくることなど)
- 妊娠中・出産後の女性労働者(保健指導や健康診査を受けるために必要な時間を確保できるように、勤務時間の短縮や休業などの措置を講じることなど)
- 公民権の行使または公の職務の執行をする労働者(裁判員の職務を行う場合など、公民としての権利を行使するための休暇制度を設けることなど)
- 自発的な職業能力開発を図る労働者(有給の教育訓練休暇や長期教育訓練休暇など、特別な休暇を付与することなど)
- 地域活動などを行う労働者(地域活動やボランティア活動などに参加する者に対し、特別休暇の付与、年次有給休暇の時間単位付与などを行うこと)
5.の年次有給休暇の取得率の目標設定の取り組みとしては、年次有給休暇管理簿を活用し、年次有給休暇の取得促進につなげることがあります。
年次有給休暇管理簿により、年次有給休暇の取得状況の確認を行い、労働者やその上司に周知すると共に、取得が進んでいない労働者に対しては、業務の負担軽減を図るなどの対応を行うことなどが有効といえます。
6.の年次有給休暇を取得しやすくするための取り組みとしては、年次有給休暇の時間単位付与制度や計画的付与制度を導入することが考えられます。
年次有給休暇の時間単位付与制度とは、1時間を単位とした年次有給休暇(時間単位年休)の取得を認める制度をいいます(労働基準法第39条第4項)。
また、年次有給休暇の計画的付与制度とは、労使の間で取り決めを行うことによって、年次有給休暇の取得日について事前に計画を作成し、当該計画に従って、年次有給休暇を取得する制度をいいます(労働基準法第39条第6項)
これらの制度を活用することによって、年次有給休暇の取得を促進することができると共に、労働者のワークライフバランスの促進や、労働環境の改善を図ることができるなどのメリットがあります。

