「勤務間インターバル」とは?制度設計のポイント、就業規則の規定例(記載例)などを解説【労働時間等設定改善法】

はじめに

本稿では、勤務間インターバルについて、制度設計のポイント、就業規則の規定例(記載例)などを解説します。

勤務間インターバルとは

「インターバル(interval)」とは、一般に、時間の間隔や休息時間を意味します。

そして、「勤務間インターバル」とは、労務管理において、労働者が休息するための時間を確保するために、前日の終業時刻と、翌日の始業時刻との間に、一定時間以上の間隔を確保することをいいます

勤務間インターバルの主な目的は、労働者の生活時間や睡眠時間を十分に確保することによって、心身の健康を保つことにあります。

厚生労働省の令和6年就労条件総合調査によると、勤務間インターバルを導入している企業の割合は5.7%であり、導入を予定または検討している企業の割合は15.6%、導入予定はなく、検討もしていない企業の割合は78.5%となっています。

労働時間等設定改善法と勤務間インターバル

労働時間等設定改善法

勤務間インターバルは、2019(令和元)年4月1日施行の労働時間等設定改善法の改正により、新たに定められました。

「労働時間等設定改善法」(正式名称は、「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」)とは、事業主に対し、労働時間等の設定の改善に向けた自主的な努力を促すことで、労働者がその能力を有効に発揮し、健康で充実した生活を実現することを目指すための法律をいいます(労働時間等設定改善法第1条)。

また、「労働時間等の設定」とは、労働時間、休日数、年次有給休暇を与える時季、深夜業の回数、終業から始業までの時間、その他の労働時間等に関する事項を定めることをいいます(労働時間等設定改善法第1条第2項)。

労働時間等設定改善法については、次の記事をご覧ください。

「労働時間等設定改善法」とは?事業主の責務、労働時間等設定改善委員会など、法律の全体像を解説

勤務間インターバルの定め

労働時間等設定改善法では、事業主の責務について、次のとおり定めています。

労働時間等設定改善法

(事業主等の責務)

第2条 事業主は、その雇用する労働者の労働時間等の設定の改善を図るため、業務の繁閑に応じた労働者の始業及び終業の時刻の設定、健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間の設定、年次有給休暇を取得しやすい環境の整備その他の必要な措置を講ずるように努めなければならない。

条文のうち下線部分が、勤務間インターバルを定めた部分です。

労働時間等設定改善法は、労働時間等の設定の改善に向けた事業主の努力義務(事業主として取り組むことが望ましいもの)を定めるものであるため、法律に違反することによる罰則の定めはありません。

法律では、勤務間インターバルの時間数など、具体的な内容は定められていないため、どのような制度にするかは、事業主が任意に定めることができます

勤務間インターバルの制度設計

勤務間インターバルの制度を設計する際には、一般に、次の事項を検討する必要があります。

勤務間インターバルの制度設計

  1. 制度の対象者
  2. インターバル時間
  3. 休息時間が翌日の始業時刻に及ぶ場合の取り扱い
  4. 例外規定(適用除外)

以下、順に解説します。

1.制度の対象者

勤務間インターバルの制度の対象者を決定します。

例えば、時間外労働や深夜労働が多くなりやすい業務や部署などを対象とすることが考えられます。

2.インターバル時間

インターバル時間とは、終業時刻から始業時刻までの間の休息時間をいいます。

法律上、インターバル時間について定めはありませんので、任意に定めることができます。

なお、EU諸国では既に勤務間インターバル制度を導入しており、1993年に制定された「EU労働時間指令」では、24時間につき最低連続11時間の休息時間が定められています。

インターバル時間の定め方には、例えば、次のようなパターンがあります。

インターバル時間の定め方

  • 一律に設定する
  • 職種などによって分けて設定する
  • 義務とする時間数と、健康管理のための努力義務とする時間数を分けて設定する(※)

(※)例えば、9時間以上のインターバルの取得を最低限の義務とした上で、健康管理上の目標として、11時間以上のインターバルを確保することを努力目標とすることなどが考えられます。

3.休息時間が翌日の始業時刻に及ぶ場合の取り扱い

インターバル制度を設ける際には、休息時間が翌日の始業時刻に及ぶ場合の取り扱いについて定めておく必要があります。

事例

  • 始業時刻…午前9時
  • 終業時刻…午後6時
  • 休憩時間…1時間(所定労働時間は8時間)
  • インターバル時間…11時間

上記の事例において、退社した時刻が午前0時になったとします。

すると、次の出社時刻は、11時間後の午前11時となります。

このとき、労務管理上、次の方法によって対応することが考えられます。

時差出勤する方法

午前11時に時差出勤し、そこから所定労働時間と同じ時間(8時間)を働き、終業時刻は午後8時になります。

この場合における就業規則の規定例(記載例)は、次のとおりです。

始業時刻と終業時刻を繰り下げる場合

第●条 従業員が時間外労働を行った場合は、時間外労働の終了時刻から、翌日の始業時刻までの間、連続して11時間の休息時間を設ける。

2 時間外労働の終了時刻より連続11時間の休息時間が翌日の始業時刻にかかる場合は、その休息時間が経過するまで始業時刻を遅らせるものとし、終業時刻についても、始業時刻を遅らせた時間だけ遅らせるものとする。

ただし、この方法では、インターバルを確保した翌日の終業時刻が遅くなり、このような働き方を繰り返すことで、勤務がさらに不規則になっていくことが懸念されます。

時間単位の年次有給休暇を取得する方法

インターバルを確保したことで始業時刻が遅れた場合に、その遅れた時間に相当する年次有給休暇を取得することを認めるという方法です。

例えば、始業時刻が2時間遅れた場合には、2時間分の年次有給休暇を取得することで、本来の終業時刻である午後6時に帰宅することが可能になります。

勤務したものとみなす方法

インターバルを確保したことで始業時刻が遅れた場合に、その遅れた時間について、働いたものとみなし、終業時刻は変更しないという方法です。

例えば、始業時刻が2時間遅れた場合には、午前9時から11時までの2時間は働いたものとみなして取り扱うことで、本来の終業時刻である午後6時に帰宅することが可能になります。

ただし、この場合においては、終業時刻後に時間外労働をした場合に、どの時点から割増賃金が発生するのかなどについて、あらかじめ定めておく必要があると考えます。

この場合における就業規則の規定例(記載例)は、次のとおりです。

始業時刻のみを繰り下げる場合

第●条 従業員が時間外労働を行った場合は、時間外労働の終了時刻から、翌日の始業時刻までの間、連続して11時間の休息時間を設ける。

2 時間外労働の終了時刻より連続11時間の休息時間が翌日の始業時刻にかかる場合は、その休息時間が経過するまでの時間は労働したものとみなし、賃金は減額しない。

フレックスタイム制によって勤務する方法

フレックスタイム制度を導入することによって、その日の始業時刻と終業時刻の決定を労働者に委ねる方法です。

これにより、始業時刻が遅れた場合でも、終業時刻を何時とするかは労働者が決定することができます。

ただし、コアタイムを設けている場合で、インターバルによって始業時刻がコアタイムの時間帯に及ぶ場合には、一時的にコアタイムの適用を除外するなどの工夫が必要です。

4.例外規定(適用除外)

トラブルへの対応など、やむを得ない理由でインターバル時間を確保できない場合や、インターバルを設けることで事業運営に支障が生じる場合などには、あらかじめ例外規定を定めておくことで、一時的に制度の適用を除外することも考えられます。

また、繁忙期があらかじめ予期される場合には、勤務間インターバルの適用を除外する期間を定めておくことも考えられます。

ただし、これらの場合でも、適用除外とする回数や期間を制限する(月に4回まで、年に2ヵ月まで)など、できる限りインターバルが確保されるように工夫する必要があると考えます。

勤務間インターバルを適用除外とする例

  • 重大なクレームに対応する業務
  • 納期の逼迫、取引先の事情による納期の前倒しに対応する業務
  • 突発的な設備のトラブルに対応する業務
  • 予算、決算、資金調達などの業務
  • 災害その他避けることのできない事由によって臨時の必要がある場合