「職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)」に関して必要な雇用管理上の措置を解説【労働施策総合推進法】

- 1. はじめに
- 2. 職場におけるパワーハラスメントとは
- 2.1. 「優越的な関係を背景とした言動」とは
- 2.2. 「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」とは
- 2.3. 「労働者の就業環境が害される」とは
- 3. 職場におけるパワーハラスメントの類型
- 4. 事業主が講ずべき雇用管理上の措置
- 4.1. 1.業主の方針等の明確化およびその周知・啓発
- 4.1.1. 方針の明確化・周知
- 4.1.2. 加害者への対処方針
- 4.2. 2.相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 4.2.1. 相談窓口の設置・周知
- 4.2.2. 相談窓口の担当者による適切な対応
- 4.2.3. 望ましいとされる相談体制
- 4.3. 3.職場におけるパワーハラスメントにかかる事後の迅速かつ適切な対応
- 4.3.1. 事実関係の把握
- 4.3.2. 被害者に対する配慮
- 4.3.3. 行為者に対する措置
- 4.3.4. 再発防止に向けた措置
はじめに
労働施策総合推進法では、事業主に対し、職場におけるパワーハラスメントを防止するために必要な雇用管理上の措置を講じることが義務付けられています。
本稿では、当該措置の内容について、厚生労働省の指針(事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針/令和2年厚生労働省告示第5号(令和2年6月1日適用))に基づき、解説します。
職場におけるパワーハラスメントとは
「職場におけるパワーハラスメント」とは、職場において行われる、次の要素をすべて満たすものをいいます(労働施策総合推進法第30条の2第1項)。
職場におけるパワーハラスメントとは
- 優越的な関係を背景とした言動であること
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動であること
- 労働者の就業環境が害されること
「優越的な関係を背景とした言動」とは
「優越的な関係を背景とした言動」とは、業務を遂行するに当たって、ある者から言動を受ける労働者が、その言動の行為者に対して、抵抗または拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものをいい、例えば、次のような言動が該当します。
「優越的な関係を背景とした言動」の例
- 職務上の地位が上位の者による言動
- 同僚または部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その者の協力を得なければ、業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
- 同僚または部下からの集団による行為で、これに抵抗または拒絶することが困難であるもの
「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」とは
「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」とは、社会通念に照らし、その言動が明らかに業務上必要性がない、またはその態様が相当でないものをいい、例えば、次のような言動が該当します。
「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」の例
- 業務上明らかに必要性のない言動
- 業務の目的を大きく逸脱した言動
- 業務を遂行するための手段として不適当な言動
- 行為の回数、行為者の数など、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動
この判断に当たっては、当該言動の目的、当該言動が行われた経緯・状況、業務の内容、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性など、様々な要素を総合的に考慮する必要があります。
客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる、適正な業務指示や指導などについては、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。
「労働者の就業環境が害される」とは
「労働者の就業環境が害される」とは、行為者の言動により、労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることをいいます。
この判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」を基準とし、同様の状況でその言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準として判断されます。
職場におけるパワーハラスメントの類型
職場におけるパワーハラスメントの代表的な言動の類型としては、次のようなものがあります(括弧書きは、典型的に職場におけるパワーハラスメントに該当するといえる例です)。
職場におけるパワーハラスメントの類型
- 身体的な攻撃[暴行・傷害](殴打、足蹴りをする/相手に物を投げつけるなど)
- 精神的な攻撃[脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言](人格を否定するような言動/相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動/業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う/他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行う/相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メールなどを当該相手を含む複数の労働者宛てに送信するなど)
- 人間関係からの切り離し[隔離・仲間外し・無視](自身の意に沿わない労働者に対して仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修をさせる/一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させるなど)
- 過大な要求[業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害](長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務において、直接関係のない作業を命じる/新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責する/業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせるなど)
- 過小な要求[業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと](管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる/気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないなど)
- 個の侵害[私的なことに過度に立ち入ること](労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりする/労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療などの機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露するなど)
事業主が講ずべき雇用管理上の措置
労働施策総合推進法では、事業主が職場におけるパワーハラスメントを防止するために講ずべき雇用管理上の措置として、「労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と定められています(労働施策総合推進法第30条の2第1項)。
具体的には、事業主は、次の措置を講じる必要があります。
事業主が講ずべき雇用管理上の措置
- 事業主の方針等の明確化およびその周知・啓発
- 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 職場におけるパワーハラスメントにかかる事後の迅速かつ適切な対応
1.業主の方針等の明確化およびその周知・啓発
方針の明確化・周知
事業主として、職場におけるパワーハラスメントの内容および職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発することが必要です。
周知の例としては、当該方針を、①就業規則など服務規律を定めた文書に定めること、②社内報・パンフレット・社内ホームページなどに掲載すること、③研修・講習を実施することなどが考えられます。
加害者への対処方針
職場におけるパワーハラスメントにかかる言動を行った者については、厳正に対処する旨の方針および対処の内容(懲戒処分に関する規定など)を、就業規則などに定め、管理監督者を含む労働者に周知・啓発することが必要です。
2.相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
相談窓口の設置・周知
例えば、①相談に対応する担当者をあらかじめ定めること、②相談に対応するための制度を設けること、③外部の機関に相談への対応を委託することなどが考えられます。
相談窓口の担当者による適切な対応
相談窓口が機能するためには、単に相談窓口を設置するだけでなく、相談窓口の担当者が、相談の内容や状況に応じて適切に対応できるようにすることが必要です。
例えば、①状況に応じて、相談窓口の担当者と人事部門とが連携を図ることができる仕組みとすること、②あらかじめマニュアルを作成しておき、マニュアルに記載された留意点などに基づき対応すること、③相談窓口の担当者に対し、相談を受けた場合の対応についての研修を行うことなどが考えられます。
なお、事業主は、労働者が相談を行ったこと、または事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないとされています(労働施策総合推進法第30条の2第2項)。
望ましいとされる相談体制
職場におけるパワーハラスメントは、職場におけるセクシュアルハラスメント、妊娠、出産、育児休業に関するハラスメントなどと複合的に生じることも想定されることから、例えば、職場におけるパワーハラスメントの相談窓口がセクシュアルハラスメントの相談窓口を兼ねるなど、職場におけるパワーハラスメントの相談窓口を他のハラスメントの相談窓口と一体的に設置し、一元的に相談に応じることのできる体制を整備することが望ましいとされています。
3.職場におけるパワーハラスメントにかかる事後の迅速かつ適切な対応
事実関係の把握
職場におけるパワーハラスメントが発生した場合には、まず、事案にかかる事実関係を迅速かつ正確に確認する必要があります。
例えば、相談窓口の担当者、人事部門または専門の委員会などが、相談者および行為者の双方から事実関係を確認することが必要です。
被害者に対する配慮
被害の事実が確認された場合には、速やかに被害者に対する配慮のための措置を講じることが必要です。
例えば、事案の内容や状況に応じて、①被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、②被害者と行為者を引き離すための配置転換、③行為者の謝罪、④被害者の労働条件上の不利益の回復、⑤管理監督者または産業保健スタッフなどによる被害者のメンタルヘルス不調への相談対応などの措置を講じることなどが考えられます。
行為者に対する措置
職場におけるパワーハラスメントの事実が確認できた場合には、行為者に対する措置を講じることを検討することが必要です。
例えば、就業規則の規定に基づき、行為者に対して必要な懲戒処分などの措置を講じることを検討することが必要です。
再発防止に向けた措置
被害の再発防止に向けて、改めて職場におけるパワーハラスメントに関する方針を周知・啓発するなどの措置を講じることが必要です。

