【2026年4月法改正】「治療と就業の両立支援対策」の努力義務化を解説【労働施策総合推進法】

法改正の概要

法改正の背景

高齢者の就労の増加を背景に、何らかの疾病により通院しながら働く労働者の割合も増加しており、今後、職場において、疾病を抱えた労働者の治療と就業の両立への対応が必要となる場面は、増えていくことが予想されます。

また、近年の医療技術の進歩などにより、労働者が疾病にかかった場合でも、すぐに離職しなければならないという状況は、必ずしも当てはまらなくなっています。

事業主にとって、治療と就業の両立支援を行うことは、継続的な人材の確保、労働者の安心感やモチベーションの向上による人材の定着に資するものであり、健康経営の実現のために重要な取り組みであるといえます

労働施策総合推進法の改正

上記の背景を踏まえて、労働施策総合推進法が改正され、「事業主は、疾病、負傷その他の理由により治療を受ける労働者について、就業によって疾病又は負傷の症状が増悪すること等を防止し、その治療と就業との両立を支援するため、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない」と定められました(労働施策総合推進法第27条の3第1項)。

条文上は「努めなければならない」と定められており、努力義務とされています。

本改正は、2026(令和8)年4月1日に施行されます。

本稿では、「治療と就業の両立支援指針(令和8年1月23日時点)」をもとに解説します。

なお、本指針が対象とする労働者は、雇用形態に関わらず、全ての労働者を対象としています。

両立支援を行うための環境整備

事業主が両立支援を行うための環境整備として、例えば、次の取り組みを行うことが挙げられます。

両立支援を行うための環境整備

  • 事業主による基本方針等の表明と労働者への周知
  • 研修等による両立支援に関する意識啓発
  • 相談窓口等の明確化
  • 両立支援に関する制度・体制等の整備

事業主による基本方針等の表明と労働者への周知

事業主として、治療と就業の両立支援に取り組むに当たっての基本方針や具体的な対応方法などの社内ルールを作成し、当事者やその同僚となり得るすべての労働者に周知することで、両立支援の必要性や意義を共有し、治療と就業の両立を実現しやすい職場風土を醸成していきます。

研修等による両立支援に関する意識啓発

治療と就業の両立支援を円滑に実施するため、労働者、管理職に対して、治療と就業の両立に関する研修等を行い、意識啓発を行います。

相談窓口等の明確化

治療と就業の両立支援は、労働者からの申出を原則とすることから、労働者が安心して相談や申出を行えるように、相談窓口の設置や、申出が行われた場合の情報の取り扱いなどを明確にすることが必要です

両立支援に関する制度・体制等の整備(後述)

両立支援に関する制度・体制等の整備

両立支援に関する制度・体制等の整備としては、休暇制度の整備、および勤務制度の整備を行うことが挙げられます。

治療と就業の両立支援においては、「短時間の治療が定期的に繰り返される」、「就業時間に一定の制限が必要となる」、「通勤による負担軽減のために出勤時間をずらす必要がある」などの場合があることから、各事業場の実情に応じ、次のような休暇制度、勤務制度を導入することにより、治療のための配慮を行うことが望ましいとされています

休暇制度の整備

休暇制度の例

  • 時間単位の年次有給休暇
  • 傷病休暇・病気休暇

時間単位の年次有給休暇

治療のために、労働基準法に基づき1時間単位で年次有給休暇を取得するものです。

年次有給休暇は、原則として1日単位が原則とされていますが、労使協定の締結等により、1時間単位で取得することが認められています。

傷病休暇・病気休暇

事業主が自主的に設ける法定外の休暇として、年次有給休暇とは別に、入院治療や通院を目的として休暇を付与するものをいいます。

勤務制度の整備

勤務制度の例

  • 時差出勤制度
  • 短時間勤務制度
  • 在宅勤務(テレワーク)
  • 試し出勤制度

時差出勤制度

始業・終業時刻を変更することにより、身体に負担のかかる通勤時間帯を避けて通勤することができます。

短時間勤務制度

所定労働時間を短縮することにより、療養中・療養後の身体への負担を軽減することができます。

在宅勤務(テレワーク)

パソコンなどの情報通信機器を活用して自宅で勤務することにより、通勤による身体への負担を軽減することができます。

試し出勤制度

長期間にわたり休業していた労働者に対し、円滑な復職を支援するために、勤務時間や勤務日数を短縮した試し出勤などを行うことをいいます。

復職や治療を受けながら就労することに不安を感じている労働者や、受入れに不安を感じている職場の関係者にとって、試し出勤制度があることで不安を解消し、円滑な就労に向けて準備を行うことができます。

治療と就業の両立支援の進め方

治療と就業の両立支援は、一般に、次の流れで進められます。

両立支援の進め方

  1. 労働者からの申出
  2. 産業医等の意見聴取
  3. 就業継続の可否の判断
  4. 「両立支援プラン」の作成
  5. 長期休業を行う場合への対応・フォロー
  6. 治療後の経過が悪い場合の対応
  7. 業務遂行に影響を及ぼしうる状態の継続が判明した場合への対応
  8. 疾病が再発した場合の対応

1.労働者からの申出

治療と就業の両立支援は、一般に、両立支援を必要とする労働者からの申出から始まります。

まずは、両立支援を必要とする労働者が、支援に必要な情報を収集して、事業主に提出します。

この際、労働者は、自らの業務に関する情報を主治医に提供した上で、主治医から以下の情報の提供を受けることが望ましいとされています。

主治医からの情報提供(例)

  • 症状、治療の状況・現在の症状(入院や通院治療の必要性とその期間、治療の内容やスケジュール、通勤や業務遂行に影響を及ぼしうる症状や副作用の有無とその内容など)
  • 退院後または通院治療中の就業継続の可否に関する意見
  • 望ましい就業上の措置に関する意見(避けるべき作業、時間外労働の可否、出張の可否など)
  • その他、配慮が必要な事項に関する意見(通院時間の確保、休憩場所の確保など)

2.産業医等の意見聴取

事業主は、収集した情報に基づいて就業上の措置などを検討するに当たり、産業医等がいる場合は、産業医等に対して主治医から提供された情報を提供し、就業継続の可否、就業可能な場合の就業上の措置、治療に対する配慮に関する意見などを聴取することが必要です。

3.就業継続の可否の判断

事業主は、主治医や産業医等の意見を勘案し、就業を継続させるか否か、具体的な就業上の措置や治療に対する配慮の内容および実施時期などについて、検討を行います。

その際、労働者本人から希望を聴取し、十分な話し合いを通じて、本人の了解が得られるように努めることが必要です。

検討に当たっては、疾病に罹患していることをもって、安易に就業を禁止するのではなく、主治医や産業医等の意見を勘案して、可能な限り、配置転換や作業時間の短縮その他の必要な措置を講ずることによって、就業の機会を失わせないように留意することが必要です。

4.「両立支援プラン」の作成

事業主が労働者の就業継続が可能と判断した場合には、就業上の措置および治療に対する配慮の内容や実施時期などを事業主が決定し、実施します。

事業主は、労働者が治療をしながら就業の継続が可能であると判断した場合、業務によって疾病が増悪することがないよう就業上の措置などを決定し、実施する必要がありますが、その際、必要に応じて、産業医、保健師、看護師等の産業保健スタッフ、主治医と連携して、具体的な措置や配慮の内容およびスケジュールなどについてまとめた計画(両立支援プラン)を作成することが望ましいとされています

両立支援プランに盛り込むことが望ましい事項

1.治療・投薬等の状況および今後の治療・通院の予定

2.就業上の措置および治療への配慮の具体的内容および実施時期

・期間

・作業の転換(業務内容の変更)

・労働時間の短縮 ・就業場所の変更

・治療への配慮内容(定期的な休暇の取得等)

3.フォローアップの方法およびスケジュール(産業医、保健師、看護師等の産業保健スタッフ、人事労務担当者による面談など)

事業主は、治療の経過によっては、必要な措置の内容が変わることも考えられるため、適時労働者に状況を確認し、必要に応じて両立支援プラン、就業上の措置および治療に対する配慮の内容などを見直すことが必要です。

5.長期休業を行う場合への対応・フォロー(入院等による休業を要する場合)

事業主が労働者の長期の休業が必要と判断した場合、休業開始前の対応・休業中のフォローアップを事業主が行うとともに、主治医や産業医等の意見、本人の意向、復帰予定の部署の意見などを総合的に勘案し、職場復帰の可否を事業主が判断した上で、職場復帰後の就業上の措置および治療に対する配慮の内容などを事業主が検討・決定し、実施します。

6.治療後の経過が悪い場合の対応

労働者の中には、治療後の経過が悪く、病状の悪化により、業務遂行が困難になり、治療と就業の両立が困難になる場合もあります。

その場合は、事業主は、労働者の意向も考慮しつつ、主治医や産業医等の医師の意見を求め、治療や症状の経過に沿って、就業継続の可否について慎重に判断することが必要です。

また、事業主は、労働のため病勢が著しく増悪するおそれがある場合には、あらかじめ産業医その他専門の医師の意見を聴いた上で、労働安全衛生法に基づき、就業禁止の措置を取る必要がある点にも留意することが必要です(労働安全衛生法第68条)。

7.業務遂行に影響を及ぼしうる状態の継続が判明した場合への対応

労働者に、業務遂行に影響を及ぼしうる状態が継続することが判明した場合には、作業転換など就業上の措置について主治医や産業医等の医師の意見を求め、その意見を勘案し、十分な話合いを通じて労働者本人の了解が得られるよう努めた上で、就業上の措置を実施します。

8.疾病が再発した場合の対応

労働者が通常勤務に復帰した後に、同じ疾病が再発することもあります。

治療と就業の両立支援を行うに当たっては、疾病が再発することも念頭に置き、再発した際には、その状況に合わせて改めて対応を検討することが必要です。