【2026年改正】カスタマーハラスメント(カスハラ)対策の義務化について解説【労働施策総合推進法】

- 1. はじめに
- 2. カスタマーハラスメントの定義
- 3. 「顧客等」とは【定義1】
- 4. 「社会通念上許容される範囲を超えた言動」とは【定義2】
- 4.1.1. 「言動の内容」が社会通念上許容される範囲を超えるものの例
- 4.1.2. 「手段・態様」が社会通念上許容される範囲を超えるものの例
- 5. 「労働者の就業環境が害される」とは【定義3】
- 6. 事業主が講ずべき雇用管理上の措置
- 6.1. 1.事業主の方針等の明確化およびその周知・啓発
- 6.1.1. 方針の明確化・周知
- 6.1.2. 対処の内容の周知
- 6.2. 2.相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 6.2.1. 相談窓口の設置・周知
- 6.2.2. 相談窓口の担当者による適切な対応
- 6.3. 3.職場におけるカスタマーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
- 6.3.1. 事実関係の把握
- 6.3.2. 被害者に対する配慮
- 6.3.3. 再発防止に向けた措置
- 6.4. 4.職場におけるカスタマーハラスメントへの対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置
はじめに
労働施策総合推進法が改正され、事業主に対し、カスタマーハラスメントについて雇用管理上の措置を講じることが義務付けられます。
本改正は、2026年10月1日に施行される予定です。
カスタマーハラスメントの定義
「カスタマーハラスメント」とは、次の3つの要素をすべて満たすものをいいます(労働施策総合推進法第33条第1項)。
カスタマーハラスメントの定義
- 顧客等(顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の利害関係者)が行うこと【定義1】
- 社会通念上、許容される範囲を超えた言動であること【定義2】
- 労働者の就業環境が害されること【定義3】
以下、順に解説します。
「顧客等」とは【定義1】
「顧客等」とは、顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の利害関係者をいい、例えば、次の者が該当します(事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(案)/令和7年12月10日)。
「顧客等」の例
- 事業主が販売する商品の購入やサービスの利用をする者
- 事業主の行う事業に関する内容等に関し、問い合わせをする者
- 取引先の担当者
- 企業間での契約締結に向けた交渉を行う際の担当者
- 施設・サービスの利用者およびその家族 ・施設の近隣住民
「社会通念上許容される範囲を超えた言動」とは【定義2】
「社会通念上許容される範囲を超えた言動」とは、権利の濫用・逸脱に当たるようなものをいい、社会通念に照らし、①顧客等の言動の内容が契約内容からして相当性を欠くもの、または、②手段や態様が相当でないものをいいます。
社会通念上許容される範囲を超えた言動であるかどうかは、顧客等の「言動の内容」および「手段・態様」に着目し、総合的に判断する必要がありますが、「言動の内容」または「手段・態様」の一方のみが社会通念上許容される範囲を超える場合でも、カスタマーハラスメントに該当し得ると解されます。
具体例は、次のとおりです。
「言動の内容」が社会通念上許容される範囲を超えるものの例
「言動の内容」が社会通念上許容される範囲を超えるもの(例)
- そもそも要求に理由がない、または商品・サービス等と全く関係のない要求(例:性的な要求や、労働者のプライバシーに関わる要求をすることなど)
- 契約等により想定しているサービスを著しく超える要求(例:契約内容を著しく超えたサービスの提供を要求することなど)
- 対応が著しく困難、または対応が不可能な要求(例:契約金額の著しい減額の要求をすることなど)
- 不当な損害賠償要求(例:商品やサービス等の内容と無関係である不当な損害賠償を要求することなど)
「手段・態様」が社会通念上許容される範囲を超えるものの例
「手段・態様」が社会通念上許容される範囲を超えるもの(例)
- 身体的な攻撃(暴行、傷害等)(例:殴る、蹴る、叩く等の暴行を行うこと/物を投げつけること/わざとぶつかること/つばを吐きかけることなど)
- 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要等)(例:店舗の物を壊すことをほのめかす発言や、SNS等のインターネット上へ悪評を投稿することをほのめかす発言によって労働者を脅すこと/SNS等のインターネット上へ労働者のプライバシーに関する情報の投稿等をすること/労働者の人格を否定するような言動を行うこと(相手の性的指向・ジェンダーアイデンティティに関する侮辱的な言動を行うことを含む)/土下座を強要すること/盗撮や無断での撮影をすること/労働者の性的指向・ジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の者に暴露すること、または当該労働者が開示することを強要するもしくは禁止することなど)
- 威圧的な言動(例:大きな声をあげて労働者や周囲を威圧すること/反社会的な言動を行うことなど)
- 継続的、執拗な言動(例:同様の質問を執拗に繰り返すこと/当初の話からのすり替え、揚げ足取り、執拗な責め立てをすること/同様の電子メール等を執拗に繰り返し送りつけることなど)
- 拘束的な言動(不退去、居座り、監禁)(例:長時間に渡って居座ること/電話で労働者を拘束することなど)
「労働者の就業環境が害される」とは【定義3】
「労働者の就業環境が害される」とは、当該言動により労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることをいいます。
この判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とすることが適当とされています。
なお、当該言動の頻度や継続性は考慮されますが、強い身体的または精神的苦痛を与える態様の言動の場合は、1回の言動でも、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じ、就業環境を害する場合があり得ると解されます。
事業主が講ずべき雇用管理上の措置
労働施策総合推進法では、事業主が講ずべき雇用管理上の措置として、「労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、労働者の就業環境を害する当該顧客等言動への対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」とされています(労働施策総合推進法第33条第1項)。
具体的には、事業主は、次の措置を講じる必要があります。
事業主が講ずべき雇用管理上の措置
- 事業主の方針等の明確化およびその周知・啓発
- 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 職場におけるカスタマーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
- 職場におけるカスタマーハラスメントへの対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置
- 1.から4.までの措置と併せて講ずべき措置
1.事業主の方針等の明確化およびその周知・啓発
方針の明確化・周知
事業主として、職場におけるカスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発することが必要です。
また、当該方針を顧客等に周知・啓発することも、被害の防止に当たっては効果的と考えられます。
周知の例としては、当該方針を、①社内報・パンフレット・社内ホームページなどに掲載すること、②トップメッセージとして社内に発信すること、③研修・講習を実施することなどが考えられます。
対処の内容の周知
また、職場におけるカスタマーハラスメントの内容と、カスタマーハラスメントへの対処の内容を、管理監督者を含む労働者に周知することが必要です。
例えば、①カスタマーハラスメントへの対処の内容を規定やマニュアルに定め、当該内容を労働者に対して周知すること、②当該内容について研修・講習を実施することなどが効果的と考えられます。
2.相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
相談窓口の設置・周知
例えば、①相談に対応する担当者をあらかじめ定めること、②相談に対応するための制度を設けること、③外部の機関に相談への対応を委託することなどが考えられます。
なお、職場における他のハラスメント(パワーハラスメントなど)の相談窓口と一体的に設置することも考えられます。
また、相談に対応する担当者として、労働者の上司に当たる管理監督者などを定めることも考えられます。
相談窓口の担当者による適切な対応
相談窓口が機能するためには、単に相談窓口を設置するだけでなく、相談窓口の担当者が、相談の内容や状況に応じて適切に対応できるようにしておくことが必要です。
例えば、①状況に応じて、相談窓口の担当者と関係部門とが連携を図ることができる仕組みを整備すること、②あらかじめマニュアルを作成しておき、マニュアルに記載された留意点などに基づき対応すること、③相談窓口の担当者に対し、相談を受けた場合の対応についての研修を行うことなどが考えられます。
なお、事業主は、労働者が相談を行ったことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないとされています(労働施策総合推進法第33条第2項)。
3.職場におけるカスタマーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
事実関係の把握
カスタマーハラスメントが発生した場合には、まず、事案にかかる事実関係を迅速かつ正確に確認することが必要です。
なお、行為者が、他の事業主が雇用する労働者または他の事業主である場合には、必要に応じて、他の事業主に事実関係の確認への協力を求めることも含まれます。
労働施策総合推進法では、事業主は、他の事業主から当該他の事業主が講ずる措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければならないとされています(労働施策総合推進法第33条第3項)。
被害者に対する配慮
被害の事実が確認された場合には、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うことが必要です。
例えば、①事案の内容や状況に応じ、管理監督者等が被害者に代わって対応すること、②被害者と行為者を引き離すこと等の措置を講ずること、③暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る言動については警察へ通報することなどが考えられます。
再発防止に向けた措置
被害の再発防止に向けて、例えば、職場におけるカスタマーハラスメントの発生の原因や背景となった商品・サービス・接客などにおける問題や、顧客等とのコミュニケーションの不足の改善を図るなど、再発防止に向けた措置を講ずることが必要です。
4.職場におけるカスタマーハラスメントへの対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置
事業主は、職場におけるカスタマーハラスメントの抑止のための措置として、労働者に対し過度な要求を繰り返すなど特に悪質と考えられるものへの対処の方針をあらかじめ定め、管理監督者を含む労働者に周知するとともに、当該方針において定めた対処を行うことができる体制を整備しなければならないとされています。

