【2026年4月改正】高年齢労働者の労働災害の防止の努力義務化を解説【労働安全衛生法】

- 1. はじめに
- 2. 事業者が講ずべき措置
- 3. 1.安全衛生管理体制の確立等
- 3.1. 安全衛生管理体制の確立
- 3.1.1. 経営トップによる方針表明および体制整備
- 3.1.2. 安全衛生委員会等における調査・審議
- 3.2. 危険源の特定等のリスクアセスメントの実施
- 4. 2.職場環境の改善
- 4.1. 身体機能の低下を補う設備・装置の導入
- 4.2. 高年齢者の特性を考慮した作業管理
- 5. 3.高年齢者の健康や体力の状況の把握
- 5.1. 健康状況の把握
- 5.2. 体力の状況の把握
- 5.3. 健康情報の取り扱い
- 6. 4.高年齢者の健康や体力の状況に応じた対応
- 6.1. 個々の高年齢者の健康や体力の状況を踏まえた措置
- 6.2. 高年齢者の状況に応じた業務の提供
- 7. 5.安全衛生教育
- 7.1. 高年齢者に対する教育
- 7.2. 管理監督者等に対する教育
はじめに
2026(令和8)年4月1日施行の労働安全衛生法の改正により、高年齢労働者の労働災害の防止を図るため、高年齢労働者の特性に配慮した作業環境の改善、作業管理などの必要な措置を講ずることが、事業者の努力義務となりました(労働安全衛生法第62条の2第1項)。
これを踏まえて、「高年齢者の労働災害防止のための指針」(通称、「エイジフレンドリー指針」)が、2026(令和8)年2月10日に公示されました。
本稿では、指針の内容を中心に、事業者が講ずべき措置について解説します。
事業者が講ずべき措置
事業者は、各事業場における高年齢者の就労状況や業務の内容等の実情に応じて、次に掲げる措置を講じることにより、高年齢者の労働災害防止対策に積極的に取り組むことが必要とされています。
事業者が講ずべき措置
- 安全衛生管理体制の確立等
- 職場環境の改善
- 高年齢者の健康や体力の状況の把握
- 高年齢者の健康や体力の状況に応じた対応
- 安全衛生教育
以下、順に解説します。
1.安全衛生管理体制の確立等
安全衛生管理体制の確立
経営トップによる方針表明および体制整備
経営トップ自らが、高年齢者の労働災害防止対策に取り組む姿勢を示し、企業全体の安全意識を高めるため、高年齢者の労働災害防止対策に関する事項を盛り込んだ安全衛生方針を表明することが必要です。
また、安全衛生方針に基づき、高年齢者の労働災害防止対策に取り組む組織(安全衛生部門や人事労務部門など)や担当者を指定することにより、高年齢者の労働災害防止対策の実施体制を明確にすることが必要です。
安全衛生委員会等における調査・審議
安全委員会、衛生委員会、または安全衛生委員会を設けている事業場においては、当該委員会で高年齢者の労働災害防止対策に関する事項を調査・審議することが必要です。
また、高年齢者が、職場で気付いた安全衛生に関するリスクや、自身の不調などを相談できるように、企業内に相談窓口を設置することも有効です。
危険源の特定等のリスクアセスメントの実施
高年齢者の身体機能の低下等による労働災害の発生リスクについて、災害事例やヒヤリハット事例から危険源の洗い出しを行い、当該リスクの高さを考慮して高年齢者の労働災害防止対策の優先順位を検討すること(リスクアセスメント)が必要です。
リスクアセスメントの結果を踏まえて、下記2.から5.の内容を参考に、優先順位の高いものから取り組む事項を決めることが必要です。
2.職場環境の改善
身体機能の低下を補う設備・装置の導入
身体機能が低下した高年齢者であっても、安全に働き続けることができるよう、事業場の施設、設備、装置等の改善を検討し、必要な対策を講じることが必要です。
改善のための共通事項
- 視力や明暗の差への対応力が低下することを前提に、通路を含めた作業場所の照度を確保するとともに、照度が極端に変化する場所や作業の解消を図ること
- 階段には手すりを設け、可能な限り通路の段差を解消すること
- 床や通路の滑りやすい箇所に防滑素材(床材や階段用シート)を採用すること、滑りやすい箇所で作業する労働者に防滑靴を利用させること、滑りの原因となる水分・油分を放置せずに、こまめに清掃すること
- 墜落制止用器具、保護具等の着用を徹底すること
- やむをえず、段差や滑りやすい箇所等の危険箇所を解消することができない場合には、安全標識や危険箇所の掲示により注意喚起を行うこと
高年齢者の特性を考慮した作業管理
筋力、バランス能力、敏しょう性、全身持久力、感覚機能、認知機能の低下等の高年齢者の特性を考慮して、作業内容等の見直しを行うことが必要です。
改善のための共通事項
- 事業場の状況に応じて、勤務形態や勤務時間を工夫することで高年齢者を就労しやすくすること(短時間勤務、隔日勤務、交替制勤務等)
- 高年齢者の特性を踏まえ、ゆとりのある作業スピード、無理のない作業姿勢等に配慮した作業マニュアルを策定すること
- 注意力や集中力を必要とする作業については、作業時間を考慮すること
- 注意力や判断力の低下による災害を防止するため、複数の作業を同時進行させる場合の負担や、優先順位の判断を伴うような作業に係る負担を考慮すること
- 腰部に過度の負担がかかる作業に係る作業方法については、重量物の小口化、取扱回数の減少などの改善を図ること
- 身体的な負担が大きい作業では、定期的な休憩の導入や、作業休止時間の運用を図ること
3.高年齢者の健康や体力の状況の把握
健康状況の把握
労働安全衛生法で定める雇入時の健康診断、定期健康診断などを確実に実施することが必要です。
体力の状況の把握
高年齢者の労働災害を防止する観点から、事業者、高年齢者の双方が当該高年齢者の体力の状況を客観的に把握し、事業者はその体力に合った作業に従事させるとともに、高年齢者が自らの身体機能の維持向上に取り組めるよう、主に高年齢者を対象とした体力チェックを継続的に行うことが望ましいとされています。
健康情報の取り扱い
事業者は、健康情報等を取り扱う際には、「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針(令和4年3月31日改正)」を踏まえた対応をしなければならないことに留意することが必要です。
4.高年齢者の健康や体力の状況に応じた対応
個々の高年齢者の健康や体力の状況を踏まえた措置
高年齢者の健康や体力の状況を踏まえ、必要に応じて就業上の措置を講じることが必要です。
特に、脳・心臓疾患が起こる確率は加齢にしたがって徐々に増加するとされているため、高年齢者については基礎疾患の罹患状況を踏まえ、労働時間の短縮や深夜業の回数の減少、作業の転換等の措置を講じることが必要です。
就業上の措置を講じるに当たっては、健康診断や体力チェック等の結果、当該高年齢者の労働時間や作業内容を見直す必要がある場合は、産業医等の意見を考慮して実施する必要があります。
高年齢者の状況に応じた業務の提供
高年齢者に適切な就労の場を提供するため、職場環境の改善を進めるとともに、職場における働き方のルールを構築するように努めることが必要です。
労働者の健康や体力の状況は加齢にしたがって個人差が拡大するとされているため、高年齢者の業務内容の決定に当たっては、個々の健康や体力の状況に応じて、安全と健康の観点を踏まえて適合する業務を高年齢者とマッチングさせるように努め、継続した業務の提供に配慮することが必要です。
5.安全衛生教育
高年齢者に対する教育
労働安全衛生法で定める雇入れ時の安全衛生教育、一定の危険有害業務において必要となる技能講習や特別教育を確実に行うことが必要です。
高年齢者を対象とした教育においては、作業内容とそのリスクについての理解を得やすくするため、十分な時間をかけ、写真や図、映像等の文字以外の情報も活用することが必要です。
中でも、高年齢者が、再雇用や再就職等により経験のない業種や業務に従事する場合には、特に丁寧な教育訓練を行うことが必要です。
併せて、加齢に伴う健康や体力の状況の低下や個人差の拡大を踏まえ、次に掲げる点を考慮して安全衛生教育を計画的に行い、その定着を図ることが望ましいとされています。
高年齢者に対する安全衛生教育
- 高年齢者が自らの身体機能等の低下が労働災害リスクにつながることを自覚し、体力維持や生活習慣の改善の必要性を理解することが重要であること
- 高年齢者が働き方や作業ルールにあわせた体力チェックの実施を通じ、自らの身体機能等の客観的な認識の必要性を理解することが重要であること
- 高年齢者にみられる転倒災害は、危険に感じられない場所で発生していることも多いため、安全標識や危険箇所の掲示に留意するとともに、わずかな段差等の周りの環境にも常に注意を払うよう意識付けをすることが有効であること
- 高年齢者に対して、第三次産業の多くでみられる軽作業や危険と認識されていない作業であっても、災害に至る可能性があることを周知することが有効であること
- 勤務シフト等から集合研修の実施が困難な事業場においては、視聴覚教材を活用した教育も有効であること
管理監督者等に対する教育
事業場内で教育を行う者や高年齢者が従事する業務の管理監督者、高年齢者と共に働く各年代の労働者に対しても、高年齢者の特性と高年齢者に対する安全衛生対策についての教育を行うことが望ましいとされています。
事業場内で教育を行う者や高年齢者が従事する業務の管理監督者に対しての教育内容としては、①加齢に伴う労働災害リスクの増大への対策についての教育、②管理監督者の責任、労働者の健康問題が経営に及ぼすリスクについての教育が挙げられます。
併せて、高年齢者が脳・心臓疾患を発症するなど、緊急の対応が必要な状況が発生した場合に適切な対応をとることができるよう、事業場において救命講習や緊急時対応の教育を行うことが望ましいとされています。

