消滅した年次有給休暇を積み立てる「積立有給休暇」とは?制度のポイントと就業規則の規定例(記載例)を解説

はじめに
会社では、従業員のワークライフバランスの推進のために、年次有給休暇の取得率の向上など、様々な取り組みが行われます。
その中で、消滅した年次有給休暇を積み立てておき、従業員が病気の治療や介護など、一定の事由のために用いることができる制度(以下、「積立有給休暇」といいます)が導入されることがあります。
本稿では、積立有給休暇を導入・運用する際のポイントと、就業規則の規定例(記載例)を解説します。
積立有給休暇とは
積立有給休暇とは
「積立有給休暇」とは、一般に、従業員がその権利を行使することなく、時効によって消滅(失効)した年次有給休暇の全部または一部を積み立てておき、後日、一定の事由のために取得することを認める制度をいいます。
特別休暇を新設するのではなく、既存の年次有給休暇をリサイクルする点が特徴です。
労働基準法に基づき従業員に与えられた年次有給休暇(以下、「法定の年次有給休暇」といいます)は、付与日から2年が経過することで、時効によって消滅します(労働基準法第115条)。
そこで、この消滅した年次有給休暇を積み立てておき、従業員の病気や介護など、いざというときのために利用できるようにしておくことがあります。
労働基準法との関係
積立有給休暇は、法律に基づく制度ではないため、どのような制度内容とするかは、会社が自由に決めることができます。
積立有給休暇は、労働基準法が適用されないため、法定の年次有給休暇と異なり、例えば、取得目的を制限するなどしても、労働基準法に違反しません。
積立有給休暇の導入状況(統計)
令和6年度の『「仕事と生活の調和」の実現及び特別な休暇制度の普及促進に関する意識調査報告書(令和7年3月三菱UFJリサーチ&コンサルティング)』における失効した年次有給休暇の積立制度の導入状況をみると、「制度がある」と回答した会社は全体の15.7%でした。
また、従業員規模別では、300~999人では20.6%、1,000人以上では40.5%となっており、規模が大きい(従業員数が多い)ほど、制度の導入割合が高い傾向がみられます。
法定の年次有給休暇との違い
法定の年次有給休暇は、労働基準法に基づき、付与日数や時効が定められており、これを下回ることはできません。
一方、積立有給休暇は、すでに時効で消滅した年次有給休暇を用いることから、労働基準法の適用はなく、制度をどのように設計するかは会社の自由です。
【表】積立有給休暇と法定の年次有給休暇の比較
| 法定の年次有給休暇 | 積立有給休暇 | |
| 労働基準法の適用 | あり | なし |
| 付与日数 | 年10日から20日(勤続年数に応じて増える) | 何日でも可 |
| 取得目的 | 制限してはならない | 制限することができる |
| 時効 | あり(2年) | なし |
| 取得義務 | あり(年5日) | なし(※1) |
| 取得時の賃金 | 通常賃金・平均賃金・標準報酬日額のいずれかによる | 決まりはない(※2) |
(※1)法定の年次有給休暇は、年10日以上の年次有給休暇が付与される従業員について、年に5日以上取得することが義務付けられていますが(労働基準法第39条第7項)、積立有給休暇についてはそのような義務はありません。
(※2)積立有給休暇を取得した日の賃金額については制約がないため、例えば、積立有給休暇を取得した場合は日額10,000円を支払うなど、定額で支払うこともできます。
積立有給休暇を導入するメリット・デメリット
積立有給休暇を導入することによる、会社や従業員のメリットとデメリットは、以下のとおりです。
メリット
従業員にとっては、本来であれば消滅するはずの年次有給休暇を、病気の治療や介護など不測の事態のために積み立てておくことにより、安心して働くことができます。
また、積立有給休暇を、資格の取得や語学留学などの自己啓発に充てることにより、将来のキャリア設計にも資するものとなります。
会社にとっては、制度を導入することにより、福利厚生が充実し採用面で有利になる、従業員のワークライフバランスを促進できる、従業員の病気や介護による離職を防止できるなどのメリットがあります。
デメリット
会社にとっては、本来であれば時効で消滅するはずの年次有給休暇の取得を認めることにより、コスト面では負担が増加します。
また、前提として、法定の年次有給休暇を申請しやすい社風や職場環境でなければ、自ずと積立有給休暇も取得されにくいものとなりますので、会社は、従業員が法定の年次有給休暇と積立有給休暇をバランスよく取得できるように、周知・啓発を行っていく必要があります。
積立有給休暇の制度内容
積立有給休暇を導入する際には、次の事項を検討する必要があります。
積立有給休暇の制度内容
- 制度の名称
- 積立日数の限度
- 取得目的
- 取得日数の限度
- 休暇を取得した日の取り扱い
- 退職時の取り扱い
1.制度の名称
制度の名称は、「積立休暇」、「ストック休暇」、「保存休暇」など、会社によって様々です。
2.積立日数の限度
積立有給休暇を導入する際には、最大で何日まで積立できるようにするか、積立日数の上限を定める必要があります。
積立日数については、年間の積立日数と、総積立日数の上限をそれぞれ定める必要があります。
年間の積立日数については、時効消滅する年次有給休暇の日数のうち、年間で何日まで積み立てることができるのかを定めます。
例えば、「1年間に積み立てることができる日数は、時効消滅する年次有給休暇のうち10日を上限とする」などと定めます。
また、総積立日数については、従業員が、最大で何日まで(または何年分まで)積立有給休暇の日数を積み立てることができるのかを定める必要があります。
積立日数が多いに越したことはありませんが、会社にとっては日数の管理が煩雑になり、また、休暇が長期間に及ぶと、職場内での業務の調整が難しくなるなどの弊害が生じることがあります。
これらのバランスを考慮すると、一般的には、積み立てることのできる日数の上限は、20日から40日程度(法定の年次有給休暇と同程度)が適当と考えます。
なお、前述の統計では、失効した年次有給休暇の積立制度があると回答した会社について、積立可能な日数の上限をみると、全体では、「20~40日未満」が37.7%でもっとも割合が高く、次いで「40~60日未満」が33.9%となっています。
また、従業員規模別にみると、いずれの従業員規模でも「40日未満」が4割弱から5割程度となっています。
3.取得目的
一般的には、次のような取得目的を定めることが考えられます。
積立有給休暇の取得目的(例)
- 病気や怪我など私傷病の療養のため
- 家族の看護・介護のため
- 不妊治療のため
- ボランティアのため
- 自己啓発のため(資格の取得、セミナー受講、海外留学など)
なお、前述の統計では、失効した年次有給休暇の積立制度を導入している会社について、積み立てた休暇を取得可能な事由をみると、全体では、「本人の私傷病や治療のため」が94.9%でもっとも割合が高く、次いで「家族の看護・介護のため」が63.4%となっています。
従業員規模別にみると、いずれの従業員規模でも「本人の私傷病や治療のため」が9割超となっています。
4.取得日数の限度
例えば、1回あたりの取得日数の限度を定める、1年あたりの取得日数の限度を定める、取得回数の限度を定めるなどすることは問題ありません。
5.休暇を取得した日の取り扱い
積立有給休暇を取得した場合に、例えば、賞与や退職金の支給額の算定において、積立有給休暇を取得した日を出勤したものと扱うのか、または欠勤したものとして扱うのかについて、決めておく必要があります。
6.退職時の取り扱い
積立有給休暇を退職時にまとめて取得できるかどうかについて、事前にルールを決めておく方がよいと考えます。
法定の年次有給休暇は、退職日の直前であっても取得を認める必要がありますが、積立有給休暇制度については、就業規則に基づき、退職日の直前の取得を認めないとすることは問題ありません。
積立有給休暇の就業規則の規定例(記載例)
積立有給休暇の就業規則の規定例(記載例)は、次のとおりです。
積立有給休暇の就業規則の規定例
(積立有給休暇制度)
第1条 会社は、従業員がその権利を行使することなく、時効によって消滅した年次有給休暇の全部または一部を積み立てておき、一定事由のために休暇を取得することを認める制度(以下、本制度を「積立有給休暇制度」という)を設ける。
(積立日数の上限)
第2条 積立有給休暇制度によって従業員が積み立てることができる積立有給休暇の日数は、年間で10日を上限とし、かつ、保有することができる総日数は20日を上限とする。
2 積立有給休暇は、積立後3年を経過した場合は消滅するものとする。
(積立有給休暇の取得目的)
第3条 積立有給休暇は、次の各号の目的に限り、取得することができる。
(1)私傷病(病気・怪我)の療養のため
(2)家族の看護・介護のため
(3)自己啓発(資格の取得、セミナー受講、海外留学など)のため
(積立有給休暇の申請)
第4条 従業員は、積立有給休暇を取得する際は、取得する日の3日前までに、所属長に対して「積立有給休暇申請書」を提出し、承認を得なければならない。
2 従業員が請求した時季に積立有給休暇を取得させることが、事業の正常な運営を妨げる場合は、他の時季に取得させることがある。
3 積立有給休暇は、労働日を単位として取得するものとし、時間単位での取得は認めない。
(出勤率の算定)
第5条 積立有給休暇を取得した日は、次の各号のとおり取り扱うものとする。
(1)翌年度の年次有給休暇の付与のための出勤率の算定においては、積立有給休暇を取得した日を出勤したものとして取り扱う。
(2)賞与の支給額の算定においては、積立有給休暇を取得した日を欠勤したものとして取り扱う。
(3)退職金の支給額の算定においては、積立有給休暇を取得した日を出勤したものとして取り扱う。

