「時間外労働の上限規制」とは?残業時間の上限や36協定についてわかりやすく解説
- 1. はじめに
- 2. 「法定労働時間」と「法定休日」
- 2.1. 「法定労働時間」と「時間外労働」
- 2.1.1. 法定労働時間
- 2.1.2. 時間外労働
- 2.2. 「法定休日」と「休日労働」
- 2.2.1. 法定休日
- 2.2.2. 休日労働
- 3. 36(さぶろく)協定とは?
- 4. 時間外労働の上限規制【原則】
- 5. 時間外労働の上限規制【例外】
- 5.1. 時間外労働の上限規制の例外
- 5.2. 「特別条項」とは?
- 5.2.1. 特別条項を設ける場合の上限規制
- 5.2.2. 月100時間未満
- 5.2.3. 2~6ヵ月平均で月80時間以内
- 5.2.4. 年720時間以内
- 5.2.5. 特別条項の適用は年に6回(ヵ月)まで
- 6. 時間外労働の上限規制と休日労働との関係
はじめに
会社の労務管理においては、日々の労働時間を管理し、割増賃金の支払いや、36(さぶろく)協定の締結を適切に行うことが求められます。
従業員が法定労働時間を超えて働く場合(時間外労働をする場合)、その時間には労働基準法による上限時間が設けられているため、会社は法違反にならないために規制の内容を正しく理解し、遵守する必要があります。
時間外労働の上限規制は、労働基準法の改正により、大企業では2019(令和元)年4月1日から、中小企業では2020(令和2)年4月1日から施行されています。
この記事では、時間外労働の上限規制の内容と、それと密接に関連する36(さぶろく)協定について解説します。
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「法定労働時間」と「法定休日」
時間外労働の上限規制は、従業員が法定労働時間を超え、または法定休日に働く時間に関する規制であることから、まずは、法定労働時間と法定休日について正しく理解することが不可欠です。
「法定労働時間」と「時間外労働」
法定労働時間
「法定労働時間」とは、その名のとおり、「法」(労働基準法)が「定」める労働時間であり、従業員の労働時間は、原則として法定労働時間以内に収める必要があります。
つまり、法定労働時間は、いわば「労働時間の原則的な上限時間」を定めているものといえます。
法定労働時間(労働基準法第32条)
- 1日8時間
- 1週40時間
なお、週の法定労働時間である1週40時間は、労働時間の特例が認められる事業については、法定労働時間は「1週44時間」になります。
労働時間の特例が認められる事業とは、常時10人未満の従業員を使用する、商業(卸売業、小売業など)、映画・演劇業(映画製作業を除く)、保健衛生業(病院、診療所など)、接客娯楽業(旅館、飲食店など)をいいます。
時間外労働
従業員が法定労働時間を超えて働く時間のことを、「時間外労働(または法定時間外労働)」といいます(以下、所定時間外労働と混同しないよう、「(法定)時間外労働」といいます)。
一方、会社が定める所定労働時間(始業時刻から終業時刻までの間の労働時間)を超えて働く時間については、(法定)時間外労働と区別するために、「所定時間外労働」や「所定外労働」などといいます。
例えば、所定労働時間が1日7時間の場合、7時間を超えて8時間までの労働時間は「所定時間外労働」となり、法定労働時間8時間を超える労働時間は「(法定)時間外労働」となります。
法律上は、(法定)時間外労働なのか、所定時間外労働なのかによって、割増賃金の支払いや36協定の内容に大きく影響するため、これらを明確に区別して労務管理を行うことが重要です。
「法定休日」と「休日労働」
法定休日
労働基準法では、原則として、「毎週少なくとも1日」の休日を与えなければならないと定められており、この休日のことを「法定休日」といいます(労働基準法第35条第1項)。
つまり、法定休日は、いわば「法律により定められている最低限の休日」を定めているものといえます。
法定休日は、日曜日や祝祭日など、曜日とは関係ありませんので、毎週少なくとも1日の休日を与えている限り、例えば、土曜日や日曜日、祝祭日を必ずしも休日にする必要はありません。
なお、法定休日には例外があり、会社が「4週間を通じて4日以上」の休日を与える場合には、毎週少なくとも1日の休日を与える必要はないとされており、これを「変形休日制」といいます(労働基準法第35条第2項)。
休日労働
従業員が法定休日に働くことを、「休日労働(または法定休日労働)」といいます(以下、所定休日労働と混同しないよう、「(法定)休日労働」といいます)。
一方、会社が法定休日以外に定める休日を「所定休日」といい、所定休日に働くことを「所定休日労働」などといいます。
法律上は、(法定)休日労働なのか、所定休日労働なのかによって、割増賃金の支払いや36協定の内容に大きく影響するため、これらを明確に区別して労務管理を行うことが重要となります。
36(さぶろく)協定とは?
従業員が(法定)時間外労働をする場合、または(法定)休日労働をする場合には、会社は、従業員の過半数代表者との間で「36(さぶろく)協定」を締結したうえで、管轄の労働基準監督署に届け出る必要があります(労働基準法第36条)。
会社が36協定を締結せずに、法定労働時間を超え、または法定休日に従業員を働かせた場合には、罰則として「6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が定められています(労働基準法第119条)。
時間外労働の上限規制【原則】
会社は36協定を締結した場合であっても、(法定)時間外労働は、原則として次の上限時間以内に収める必要があります。
時間外労働の上限規制(原則)
- 月45時間以内
- 年360時間以内
- 対象期間が3ヵ月を超える1年単位の変形労働時間制のもとでは、月42時間以内、1年間320時間以内
(法定)時間外労働は、原則として、1ヵ月あたり45時間以内に収める必要があります。
この基準は、所定時間外労働に対する上限時間ではなく、あくまで法定労働時間を超える時間をカウントすることに留意してください。
例えば、所定労働時間が1日7時間の場合、7時間を超えて8時間までの労働時間は、所定時間外労働となりますが、この時間は上限規制である月45時間にはカウントせず、あくまで、1日8時間を超える(法定)時間外労働をした時間をカウントします。
また、時間外労働の上限規制では、1ヵ月の上限時間と併せて、1年間の上限時間も定められていることから、年間を通じてすべての月で時間外労働が45時間まで認められるものではなく(すべての月で45時間働くと、年間で540時間となる)、時間外労働を年間360時間以内に収めるためには、平均して月30時間以内に収めなければならないことになります。
したがって、労務管理においては、時間外労働を1ヵ月単位で把握すると同時に、年単位でも把握する必要があります。
なお、この1ヵ月・1年の起算日(どの日から期間を数えるか)については、36協定によって定めます。
時間外労働の上限規制【例外】
時間外労働の上限規制の例外
原則として、(法定)時間外労働は月45時間以内・年360時間以内に収める必要がありますが、実際には、予期しないトラブルなどへの対応により、原則の上限時間を超えて働かなければならない場合があり得ます。
そこで、法律ではこのような場合に備えて、例外として、もうひとつの上限規制を設けており、会社が36協定において「特別条項」を設けることにより、特例的に原則の上限時間を超えて働くことが認められます。
「特別条項」とは?
労働基準法では、原則の上限時間を超えることができる場合として、「当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に第3項(注:原則的な上限時間)の限度時間を超えて労働させる必要がある場合」と定めています(労働基準法第36条第5項)。
そこで、36協定においては、具体的にどのような場合に、原則の上限時間を超えて働くことになるのかを定めることとされています。
業務量の増加が「通常予見することができない」といえるためには、日常業務に基づく恒常的な残業など、通常想定される事由は認められないといえます。
【36協定】「特別条項」の発動(適用)事由と発動時の手続(協議・通告)を解説
特別条項を設ける場合の上限規制
特別条項を適用する場合には、次のとおり上限規制が定められています。
時間外労働の上限規制(特別条項)
- 月100時間未満
- 2~6ヵ月平均で月80時間以内
- 年720時間以内
- 特別条項の適用は年に6回(ヵ月)まで
月100時間未満
まずは、100時間「未満」であることに留意する必要があり、100時間ちょうどの時間外労働をすると、法令に違反することとなります。
いかなる場合であっても、月100時間を超える時間外労働は認められません。
2~6ヵ月平均で月80時間以内
「2~6ヵ月平均」というのは、(法定)時間外労働をした月からみて、その月を含む直前の2ヵ月、3ヵ月、4ヵ月、5ヵ月、6ヵ月のいずれにおいても平均80時間以内であることをいいます。
例えば、1月に90時間の時間外労働があった場合には、2月の時間外労働の上限時間は、1月の90時間と平均して80時間に収める必要があります。
すると、2月の時間外労働の上限時間は、「70時間」(80時間×2-90時間)となります。
つまり、ある月の時間外労働の上限が何時間になるかについては、それよりも前の月(最大6ヵ月まで)の時間外労働の平均をもとに算出する必要があります。
労務管理が煩雑になることを避けるためには、できる限り80時間を超える時間外労働を行わないようにする必要があります。
なお、月100時間、2~6ヵ月平均で月80時間という上限規制は、過労による脳・心臓疾患の労災の認定基準である「過労死ライン」が根拠になっています。
年720時間以内
1ヵ月単位・複数月単位(平均)の上限時間と併せて、1年間の上限時間も定められていることから、時間外労働を年間720時間以内に収めるためには、年間を通じて平均して月60時間以内に収めなければならないことになります。
特別条項の適用は年に6回(ヵ月)まで
特別条項を適用できるのは、年に6回(ヵ月)までになります。
つまり、1年のうち半分の月は、時間外労働を原則の上限時間である月45時間以内に収める必要があることを意味します。
時間外労働の上限規制と休日労働との関係
前述の時間外労働の上限規制において、上限時間に(法定)休日労働の時間を含めるのかどうか、という点については、各上限規制によって次のとおり異なります。
上限規制 | (法定)休日労働 |
月45時間 | 含まない |
年360時間 | 含まない |
月100時間未満 | 含む |
2~6ヵ月平均で月80時間以内 | 含む |
年720時間以内 | 含まない |
特別条項を設けた場合における「月100時間未満」と「2~6ヵ月平均で月80時間以内」の上限規制については、(法定)休日労働をした時間を「含めて」カウントすることに留意する必要があります。
これにより、例えば、ある1ヵ月の(法定)時間外労働が合計45時間、(法定)休日労働が合計30時間といった場合であっても、月45時間の上限規制は、あくまで(法定)時間外労働をした時間のみをカウントし、それ以外の(法定)休日労働をカウントしませんので、法律に違反しないことになります。
一方で、上限時間を延長する場合における月100時間未満または複数月平均で月80時間の上限規制では、(法定)休日労働を含めてカウントすることから、この場合の1ヵ月の合計労働時間は75時間(45時間+30時間)となることに注意する必要があります。