「労働時間等設定改善委員会」とは?労使協定の特例、運営規程の規定例(記載例)などを解説

労働時間等設定改善法と労働時間等設定改善委員会

労働時間等設定改善法とは

労働時間等設定改善法」(正式名称は、「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」)とは、使用者に対し、労働時間等の設定の改善に向けた自主的な努力を促すことで、労働者がその能力を有効に発揮し、健康で充実した生活を実現することを目指すための法律をいいます(労働時間等設定改善法第1条)。

また、「労働時間等の設定」とは、労働時間、休日数、年次有給休暇を与える時季、深夜業の回数、終業から始業までの時間(勤務間インターバル)、その他の労働時間等に関する事項を定めることをいいます(労働時間等設定改善法第1条第2項)。

詳しくは、次の記事をご覧ください。

「労働時間等設定改善法」とは?事業主の責務、労働時間等設定改善委員会など、法律の全体像を解説

労働時間等設定改善委員会とは

労働時間等設定改善委員会」とは、労働時間等設定改善法に基づき、労働時間等の設定の改善に向けた取り組みについて、労使で協議を行うために設置される委員会をいいます。

労働時間等設定改善委員会は、事業場において任意に設置される委員会であり、法令によって設置が義務付けられているものではありません。

労働基準法の特例により、事業場ごとに設置された労働時間等設定改善委員会において、一定の事項について、その委員の5分の4以上の多数による議決が行われたときは、当該決議はこれらの事項に関する労使協定と同様の効果を有し、かつ、所轄労働基準監督署長への届出(時間外労働および休日労働に関する協定の届出を除きます)が免除されるというメリットがあります(労働時間等設定改善法第7条)。

労働時間等設定改善委員会と労使協定

「労使協定」とは、使用者と、労働者の過半数を代表する者(労働者の過半数で組織する労働組合があるときは、その労働組合)との間において締結される、労働者の労働条件に関する協定をいいます。

労働基準法では、15種類の労使協定が定められています。

労使協定は、その種類によって、所轄労働基準監督署長への届出義務がある(様式の指定がある)ものとないもの、および有効期間を定める必要があるものとないものとに分類されます。

労使協定のうち、労働時間等設定改善委員会の決議による特例が認められているものは、次のとおりです。

 労使協定の種類届出有効期間労働基準法特例の適用
任意貯蓄必要不要18条
賃金の一部控除不要不要24条
デジタルマネーによる賃金の支払い不要不要24条
1ヵ月単位の変形労働時間制※1必要必要32条の2
フレックスタイム制不要※2不要32条の3
1年単位の変形労働時間制必要必要32条の4
1週間単位の非定型的変形労働時間制必要不要32条の5
休憩の一斉付与の除外不要不要34条
時間外および休日労働(36協定)必要必要36条※4
10代替休暇不要不要37条
11事業場外のみなし労働時間制必要※3必要38条の2
12専門業務型裁量労働制必要必要38条の3
13時間単位年休不要不要39条4項
14年次有給休暇の計画的付与不要不要39条6項
15年次有給休暇中の賃金不要不要39条9項

※1就業規則によって制度を導入する場合には、労使協定の締結は不要

※2清算期間が1ヵ月を超える場合には、届出が必要

※3「みなし労働時間」が法定労働時間以下であるときは、届出は不要

※4時間外および休日労働(36協定)の届出については、免除されない

労働時間等設定改善委員会の組織・運営

上記の労働基準法の特例を受けるためには、労働時間等設定改善委員会の組織・運営において、次の要件をすべて満たすことが必要とされています(労働時間等設定改善法施行規則第2条、第3条)。

労働基準法の特例を受けるための要件

  1. 委員会の委員の半数は、 事業場の労働者の過半数を代表する者(労働者の過半数で組織する労働組合があるときは、その労働組合)の推薦に基づき指名された者であること
  2. 委員会の開催の都度、その議事録を作成し、かつ、その開催日から3年間保存すること
  3. 委員の任期、委員会の招集、定足数、議事など、委員会の運営に関する規程を定めること

過半数代表者の選任等

「労働者の過半数を代表する者」(以下、「過半数代表者」といいます)とは、次の各号のいずれにも該当する者とされています(労働時間等設定改善法施行規則第1条第1項)。

過半数代表者の要件

  1. 労働基準法第41条第2号に定める監督または管理の地位にある者(いわゆる管理監督者)でないこと
  2. 投票、挙手等の方法による手続により選出された者であって、使用者の意向に基づき選出されたものでないこと

なお、使用者は、過半数代表者が推薦等に関する事務を円滑に遂行することができるように、必要な配慮を行わなければならないとされています(労働時間等設定改善法施行規則第1条第3項)。

不利益取り扱いの禁止など

使用者は、労働者が過半数代表者であること、過半数代表者になろうとしたこと、過半数代表者として正当な行為をしたことを理由として、不利益な取り扱いをしてはならないとされています(労働時間等設定改善法施行規則第1条第2項)。

労働時間等設定改善委員会の議事録の作成・保存

使用者は、労働時間等設定改善委員会の開催の都度、その議事録を作成し、その開催の日から起算して3年間保存しなければならないとされています(労働時間等設定改善法施行規則第2条、附則第4条)。

労働時間等設定改善委員会の運営規程の作成

労働基準法の特例を受けるためには、労働時間等設定改善委員会の委員の任期および委員会の招集、定足数、議事その他委員会の運営について必要な事項に関する規程を定める必要があります(労働時間等設定改善法施行規則第3条第1項)。

また、使用者は、規程の作成または変更については、労働時間等設定改善委員会の同意を得る必要があります(労働時間等設定改善法施行規則第3条第2項)。

なお、使用者は、労働時間等設定改善委員会の委員が同条の決議等に関する事務を円滑に遂行することができるよう、必要な配慮を行わなければならないとされています(労働時間等設定改善法施行規則第3条第3項)。

労働時間等設定改善委員会に関する規程の規定例(記載例)

労働時間等設定改善委員会に関する規程の規定例(記載例)

労働時間等設定改善委員会運営規程(A株式会社B支店)

(目的)

第1条 A株式会社B支店労働時間等設定改善委員会(以下、「委員会」という)は、支店における労働時間等の設定の改善を図るための措置その他労働時間等の設定の改善に関する事項を調査審議し、使用者に対して意見を述べることを目的とする。

(委員会の組織)

第2条 委員会の委員は6名とし、B支店の支店長(以下、「支店長」という)が指名する。ただし、支店長は、委員の半数について、B支店の労働者の過半数を代表する者(以下、「過半数代表者」という)の推薦に基づいて指名しなければならない。

2 委員に欠員を生じた場合には、支店長は、速やかに委員を補充しなければならない。この場合において、過半数代表者の推薦に基づき指名された委員に欠員が生じた場合には、支店長は、当該過半数代表者の推薦に基づき、新たに委員を指名する。

3 委員会には委員長を置くこととし、委員長は、委員会における選挙によって決定する。

(委員の任期)

第3条 委員会の委員の任期は2年とする。ただし、再任を妨げない。

2 途中で補充された委員の任期は、前任者の残任期間とする。

3 委員の任期が満了したときは、当該委員は、後任者が指名されるまで、その職務を行うものとする。

(招集)

第4条 委員会は、委員長が委員に対して適当な方法で通知してこれを招集する。ただし、委員長が選任されるまでの間は、支店長が招集するものとする。

(定足数)

第5条 委員会は、委員の3分の2以上が出席し、かつ、過半数代表者の推薦により指名された委員、および当該推薦により指名された委員以外の委員が、それぞれ少なくとも2人以上出席しなければ、開催することができない。

(調査・審議事項)

第6条 委員会は、次の各号について調査審議するものとする。

一、年間の総実労働時間の短縮に関すること

二、所定外労働時間の目安に関すること

三、年次有給休暇の取得の促進に関すること

四、労働時間等の設定の改善に関する特別措置法第7条第1項の規定に基づく決議に関すること

五、その他労働時間等の設定の改善のための措置に関すること

2 委員会の議事は、原則として、出席した委員の過半数により決するものとする。ただし、前項第四号に規定する労働時間等の設定の改善に関する特別措置法第7条第1項の規定に基づく決議を行う場合には、当該決議に係る委員会への出席の有無を問わず、委員の5分の4以上の多数による議決を必要とする

(議事録の作成)

第7条 委員会は、開催の都度議事録を作成するものとし、委員会に出席した委員が、記名押印する。

(議事録の保存)

第8条 委員会は、第6条第1項第四号に定める決議にかかる議事録については、3年間保存することとする。

(協議事項)

第9条 この規程に定めるものの他、委員会の運営について疑義が生じた場合には、委員会において協議して決定する。