【重要裁判例】大阪医科薬科大学事件(令和2年10月13日最高裁判所判決)を解説【同一労働同一賃金】

はじめに

大阪医科薬科大学事件(令和2年10月13日最高裁判所判決)は、学校法人が運営する大学において、有期労働契約を締結して勤務するアルバイト職員が、正職員との間で、賞与や私傷病による欠勤中の賃金等について不合理な格差があるとして、大学を訴えたものです。

本事件は、同じ日に判決が言い渡されたメトロコマース事件とともに、賞与や退職金といった労働条件についても、労働契約法第20条の判断の枠組みが及ぶことを最高裁判所として初めて示した重要な裁判例です。

本稿では、大阪医科薬科大学事件について解説します。

事件の概要

被告(使用者側)

被告は、学校法人大阪医科薬科大学(以下、「大学」といいます)です。

同大学は、大阪医科大学、同大学附属病院等を運営する学校法人で、平成28年4月1日に学校法人大阪薬科大学と合併しました(合併前の名称は学校法人大阪医科大学)。

原告(労働者側)

原告は、大学との間で有期労働契約を締結し、薬理学教室内の秘書業務に従事していたアルバイト職員(以下、「アルバイト職員」といいます)です。

平成25年1月に時給950円で契約を締結した後、契約を3度更新しながら勤務し、平成28年3月31日に退職しました。

アルバイト職員は平成27年3月に適応障害と診断され、以後退職日まで出勤せず、欠勤扱いとなっていました。

なお、アルバイト職員の所定労働時間は、正職員と同じくフルタイムでした。

大学における正職員は、大学や附属病院等のあらゆる業務に携わり、出向や配置換え等を命じられることがあるなど、業務の内容や責任の程度、異動の可能性において、アルバイト職員と違いがありました。

これに対し、アルバイト職員は、雇用期間の上限が5年と定められ、業務の内容は定型的で簡便な作業が中心であり、原則として配置転換も予定されていませんでした。

アルバイト職員は、正職員に支給される賞与、私傷病による欠勤中の賃金等が、アルバイト職員に支給されないことは、労働契約法第20条に違反するとして、大学に対し、不法行為に基づき、上記相違に係る賃金に相当する額等の損害賠償を求めて訴訟を提起しました

判決(結論)

最高裁判所は、賞与および私傷病による欠勤中の賃金については、いずれも不合理であるとはいえないと判断し、これらに関するアルバイト職員の損害賠償請求をいずれも棄却しました

なお、夏期特別有給休暇に関する部分については、第1審原告および第1審被告の各上告受理申立て理由が上告受理の決定においてそれぞれ排除されたため、原審(大阪高等裁判所)の判断がそのまま確定しました。

この結果、アルバイト職員が最終的に受け取ることとなったのは、夏期特別有給休暇の日数分の賃金相当額50,110円および弁護士費用相当額5,000円の合計55,110円でした。

問題となった賃金体系(正職員とアルバイト職員の比較)

当時の大学における正職員とアルバイト職員の待遇の違いは、次のとおりです。

 項目正職員アルバイト職員
基本給月給制
(採用時の職種・年齢・学歴・職歴等を考慮して決定し、勤務成績を踏まえ勤続年数に応じて昇給)
時給制
(950円で契約を開始し、昇給の定めなし)
賞与支給あり
(年2回、通年で基本給4.6ヵ月分が一応の基準)
支給なし
私傷病による欠勤中の賃金支給あり
(6ヵ月間は給料全額、その後は休職給として標準給与の2割)
支給なし
年末年始・創立記念日の休日賃金支給あり支給なし
夏期特別有給休暇付与あり付与なし(※)
年次有給休暇正職員就業規則所定の日数労働基準法所定の日数のみ

(※)夏期特別有給休暇については、原審(大阪高等裁判所)が正職員と同様に付与すべきと判断し、この部分は最高裁判所でも争われず確定しました。

上記の待遇に対し、アルバイト職員は、主に次の点について、正職員との間に不合理な差があることを主張しました。

主な争点

  • 【争点1】アルバイト職員に「賞与」が支給されない点
  • 【争点2】アルバイト職員に「私傷病による欠勤中の賃金」が支給されない点

裁判所の判断(第1審・第2審)

第1審(大阪地方裁判所)

第1審(平成30年1月24日判決)は、アルバイト職員が主張した労働条件の相違について、いずれも労働契約法第20条に違反する不合理なものとはいえないと判断し、アルバイト職員の請求をすべて棄却しました。

第2審(大阪高等裁判所)

第2審(平成31年2月15日判決)は、第1審の判断を変更し、正職員に対する賞与の支給基準の60%を下回る部分、および私傷病による欠勤中の賃金のうち給料1ヵ月分と休職給2ヵ月分を下回る部分について、いずれも不合理であると判断し、アルバイト職員の請求を一部認容しました。

また、夏期特別有給休暇についても、フルタイムで勤務するアルバイト職員に正職員と同様に付与しないのは不合理であるとして、この部分についても原告の請求を認容しました

最高裁判所の判決

最高裁判所は、原審の判断のうち、賞与および私傷病による欠勤中の賃金についていずれも不合理であるとした部分は是認することができないとして、これらを破棄し、アルバイト職員の請求を棄却しました。

他方、夏期特別有給休暇に関する部分については、当事者双方の上告受理申立て理由がいずれも排除され、原審の判断がそのまま確定しました。

最高裁判所の判決の理由①(労働契約法第20条の判断枠組みについて)

最高裁判所は、「労働契約法第20条は、有期労働契約を締結した労働者と無期労働契約を締結した労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期労働契約を締結した労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり、両者の間の労働条件の相違が賞与の支給に係るものであったとしても、それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる」としました。

もっとも、その判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、当該使用者における賞与の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものであると示しました。

このように、最高裁判所は、賞与や私傷病による欠勤中の賃金についても、他の手当と同様に、その性質・目的や労働契約法第20条所定の諸事情(職務の内容、変更の範囲、その他の事情)を踏まえて不合理性を判断するという枠組みを示したうえで、具体的な当てはめを行いました。

最高裁判所の判決の理由②(個別の労働条件について)

最高裁判所は、まず、正職員とアルバイト職員の職務の内容等について、次のように整理しました。

正職員とアルバイト職員の職務内容等の相違

  • 両者の業務の内容には共通する部分もあるものの、アルバイト職員の業務は相当に軽易であることがうかがわれるのに対し、教室事務員である正職員は、これに加えて、学内の英文学術誌の編集事務等、病理解剖に関する遺族等への対応や部門間の連携を要する業務、毒劇物等の試薬の管理業務等にも従事する必要があり、両者の職務の内容には一定の相違がある
  • 教室事務員である正職員は人事異動を命じられる可能性があったのに対し、アルバイト職員は原則として業務命令によって配置転換されることはなく、両者の職務の内容および配置の変更の範囲にも一定の相違がある
  • 教室事務員である正職員が、他の大多数の正職員と比較して極めて少数にまで減少した経緯には、教室事務員の業務の内容や大学の人員配置の見直し等に起因する事情があったこと、アルバイト職員には契約職員・正職員へ段階的に職種を変更するための登用制度が設けられていたことなども、労働契約法第20条にいう「その他の事情」として考慮するのが相当である

【争点1】アルバイト職員に「賞与」が支給されない点

最高裁判所は、正職員に対する賞与について、正職員給与規則において必要と認めたときに支給すると定められている一時金であり、通年で基本給の4.6ヵ月分が一応の支給基準となっていること、大学の業績には連動しておらず、算定期間における労務の対価の後払いや一律の功労報償、将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むものであることを確認しました。

そのうえで、正職員の基本給が勤務成績を踏まえ勤続年数に応じて昇給する職能給的な性格を有し、業務の内容の難度や責任の程度が高く、人材の育成・活用を目的とした人事異動が行われていたことなどから、大学は、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、正職員に対して賞与を支給することとしたものといえるとしました。

これらの事情に加え、契約職員には正職員の約80%に相当する賞与が支給されていたこと、アルバイト職員に対する年間の支給額は、正職員の基本給および賞与の合計額と比較して55%程度の水準であったことなども考慮したうえで、最高裁判所は、正職員とアルバイト職員との間に賞与に係る労働条件の相違があることは、不合理であるとまで評価することができるものとはいえないと判断しました。

その結果、教室事務員である正職員に対して賞与を支給する一方で、アルバイト職員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法第20条にいう「不合理と認められるものに当たらない」と解するのが相当であるとしました。

【争点2】アルバイト職員に「私傷病による欠勤中の賃金」が支給されない点

最高裁判所は、私傷病による欠勤中の賃金について、正職員が長期にわたり継続して就労し、または将来にわたって継続して就労することが期待されることに照らし、その生活保障を図るとともに、雇用を維持し確保するという目的による制度であるとしました。

そのうえで、教室事務員である正職員とアルバイト職員との間には職務の内容および変更の範囲に一定の相違があったこと、アルバイト職員は契約期間を1年以内とし、長期雇用を前提とした勤務を予定しているとはいい難いこと、アルバイト職員自身の勤続期間も欠勤期間を含めて3年余りにとどまり、契約が当然に更新される状況にあったこともうかがえないことなどから、教室事務員であるアルバイト職員には、雇用を維持し確保することを前提とする制度の趣旨が直ちに妥当するものとはいえないとしました。

その結果、教室事務員である正職員に対して私傷病による欠勤中の賃金を支給する一方で、アルバイト職員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法第20条にいう「不合理と認められるものに当たらない」と解するのが相当であると判断しました。