【重要裁判例】メトロコマース事件(令和2年10月13日最高裁判所判決)を解説【同一労働同一賃金】

はじめに

メトロコマース事件(令和2年10月13日最高裁判所判決)は、東京メトロの完全子会社が運営する駅構内の売店において、有期労働契約を締結して勤務していた契約社員が、正社員との間で、退職金等について不合理な格差があるとして、会社を訴えたものです。

本事件は、同じ日に判決が言い渡された大阪医科薬科大学事件とともに、退職金についても、労働契約法第20条の判断の枠組みが及ぶことを最高裁判所として初めて示した重要な裁判例です。

大阪医科薬科大学事件については、次の記事をご覧ください。

【重要裁判例】大阪医科薬科大学事件(令和2年10月13日最高裁判所判決)を解説【同一労働同一賃金】

本稿では、メトロコマース事件について解説します。

事件の概要

被告(使用者側)

被告は、株式会社メトロコマース(以下、「会社」といいます)です。

同社は、東京地下鉄株式会社(東京メトロ)の完全子会社であって、東京メトロの駅構内における新聞、飲食料品、雑貨類等の物品販売等の事業を行う株式会社であり、平成25年7月1日当時の従業員数は848名でした。

原告(労働者側)

原告は4名で、原告らは、会社との間で有期労働契約を締結し、東京メトロの駅構内の売店における販売業務に従事していた契約社員B(以下、「契約社員B」といいます)です。

契約社員Bは、契約期間を1年以内とする有期労働契約であり、原則として契約が更新され、就業規則上の定年は65歳と定められていました。

原告らは、いずれも65歳の定年により契約が終了するまで、10年前後の長期間にわたって勤務していました。

一方、正社員は、無期労働契約を締結しており、本社の各部署や関連事業所等に配置され、業務の必要により配置転換や職種転換、出向を命じられることがあるなど、契約社員Bとは職務の内容や異動の範囲に違いがありました。

原告らは、正社員に支給される退職金等が契約社員Bである自分たちには支給されないことは労働契約法第20条に違反するとして、会社に対し、不法行為等に基づき、上記相違にかかる退職金に相当する額等の損害賠償を求めて訴訟を提起しました

判決(結論)

最高裁判所は、退職金についてはこれを不合理とはいえないと判断し、この点に関する原告らの損害賠償請求をいずれも棄却しました

なお、住宅手当、褒賞および弁護士費用相当額に関する部分については、原告らおよび会社の各上告受理申立て理由が上告受理の決定においてそれぞれ排除されたため、原審(東京高等裁判所)の判断がそのまま確定しました。

この結果、原告X1が最終的に受け取ることとなったのは、住宅手当、褒賞および弁護士費用に相当する損害金としてそれぞれ22万800円、8万円および3万80円の合計33万880円、原告X2が受け取ることとなったのは、それぞれ11万400円、5万円および1万6,040円の合計17万6,440円でした。

問題となった賃金体系(正社員と契約社員Bの比較)

当時の会社における正社員と契約社員Bの待遇の違いは、次のとおりです。

 項目正社員契約社員B
基本給月給制
(年齢給+職務給。年齢給は18歳で5万円から1歳ごとに1,000円増額、40歳以降は一律7万2,000円。職務給は職務グループ・号俸により10万8,000円~33万7,000円)
時給制
(1,000円で開始。平成22年4月以降、毎年10円ずつ昇給)
住宅手当支給あり支給なし(※1)
家族手当支給あり支給なし
賞与年2回(本給2ヵ月分+17万6,000円が平均的な支給実績)年2回(各12万円)
退職金支給あり(本給×勤続年数に応じた支給月数)支給なし
褒賞(勤続10年・定年退職時)支給あり支給なし(※1)
早出残業手当の割増率最初の2時間は27%、以降は35%法定どおり25%(※2)

(※1)住宅手当および褒賞については、原審(東京高等裁判所)が一部の支給を認め、この部分は最高裁判所でも争われず確定しました。

(※2)早出残業手当の割増率の相違については、第1審(東京地方裁判所)が不合理と判断し、この部分は確定しました。

上記の待遇に対し、契約社員Bは、主に次の点について、正社員との間に不合理な差があることを主張しました。

主な争点

  • 契約社員Bに「退職金」が支給されない点

裁判所の判断(第1審・第2審)

第1審(東京地方裁判所)

第1審(平成29年3月23日判決)は、早出残業手当の割増率の相違についてのみ不合理と判断し、割増率の差額に相当する損害金(原告1人あたり4,109円)の支払いを命じました。

他方、退職金、住宅手当、褒賞など、その他の労働条件の相違については、いずれも不合理とは認めず、契約社員Bの請求の大部分を退けました。

第2審(東京高等裁判所)

第2審(平成31年2月20日判決)は、第1審の判断を変更し、退職金について、正社員と同一の基準に基づいて算定した額の少なくとも4分の1に相当する額を下回る部分は不合理であると判断し、契約社員Bの請求を一部認容しました。

また、住宅手当および褒賞についても、一部の支給を認めました。

最高裁判所の判決

最高裁判所は、原審の判断のうち、退職金について不合理であるとした部分は是認することができないとして、この部分を破棄し、契約社員Bの退職金に関する請求を棄却しました。

他方、住宅手当、褒賞および弁護士費用相当額に関する部分については、当事者双方の上告受理申立て理由がいずれも排除され、原審の判断がそのまま確定しました。

最高裁判所の判決の理由①(労働契約法第20条の判断枠組みについて)

最高裁判所は、まず、「労働契約法第20条は、有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期契約労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり、両者の間の労働条件の相違が退職金の支給に係るものであったとしても、それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる」としました。

もっとも、その判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、当該使用者における退職金の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものであると示しました。

このように、最高裁判所は、退職金についても、他の労働条件と同様に、その性質・目的や労働契約法第20条所定の諸事情(職務の内容、変更の範囲、その他の事情)を踏まえて不合理性を判断するという枠組みを示したうえで、具体的な当てはめを行いました。

最高裁判所の判決の理由②(個別の労働条件について)

最高裁判所は、まず、正社員と契約社員Bの職務の内容等について、次のように整理しました。

正社員と契約社員Bの職務の内容等

  • 両者の業務の内容はおおむね共通するものの、正社員は、休暇や欠勤で不在の販売員に代わって早番や遅番の業務を行う代務業務や、複数の売店を統括するエリアマネージャー業務に従事することがあったのに対し、契約社員Bは売店業務に専従しており、両者の職務の内容には一定の相違があった
  • 正社員は業務の必要により配置転換等を命じられる現実の可能性があり、正当な理由なくこれを拒否することはできなかったのに対し、契約社員Bは業務の場所の変更を命じられることはあっても業務の内容に変更はなく、配置転換等を命じられることはなかった
  • 売店業務に従事する正社員が他の多数の正社員と職務の内容および変更の範囲を異にしていたことについては、会社の組織再編等に起因する事情が存在したこと、契約社員Aや正社員へ段階的に職種を変更するための登用制度が設けられていたことなども、労働契約法第20条にいう「その他の事情」として考慮するのが相当である

【争点】契約社員Bに「退職金」が支給されない点

最高裁判所は、正社員に対する退職金について、本給に勤続年数に応じた支給月数を乗じた金額を支給するものであり、その算定基礎となる本給は、年齢によって定められる部分と、職務遂行能力に応じた資格・号俸により定められる職能給の性質を有する部分から成るものであることを確認しました。

そのうえで、「上記退職金は、職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり、会社は、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたものといえる」としました。

これらの事情に加え、契約社員Bの有期労働契約が原則として更新され、定年が65歳と定められるなど、必ずしも短期雇用を前提としたものとはいえず、原告らがいずれも10年前後の勤続期間を有していたことを斟酌しても、最高裁判所は、「両者の間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは、不合理であるとまで評価することができるものとはいえない」と判断しました。

その結果、「売店業務に従事する正社員に対して退職金を支給する一方で、契約社員Bである原告らに対してこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法第20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である」としました。

なお、本判決には、契約社員Bにも長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金を一部認めるべきであったとする、裁判官の反対意見が付されています。