【社長・経営者向け】会社の労務トラブル・労働問題は誰に相談したらいい?相談先を無料・有料別に8つ紹介

はじめに

この記事では、会社の社長・経営者や労務管理の担当者が、社内で発生した労務トラブルや労働問題への対応に迫られた場合に、誰に相談して解説を図れば良いのか、その相談先を紹介します。

労務トラブルの特徴として、事案ごとの個別性が強く、その対応にあたっては専門知識や経験が求められるため、労務分野に精通した専門家に相談することが解決への一番の近道といえます。

労務トラブルに限った話ではありませんが、イレギュラーな事態が生じた場合の相談先をあらかじめ検討し、確保しておくことは、経営におけるリスクマネジメントとして重要です。

労務トラブル・労働問題の相談先

労務トラブル・労働問題とは?

会社における「労務トラブル・労働問題(以下、「労務トラブル」といいます)」とは、例えば、次のような事態が生じる場合をいいます。

労務トラブル(一例)

  • 就業規則に違反した従業員を懲戒処分にする場合
  • 会社の指示(配置転換・業務命令など)に従わない従業員がいる場合
  • 素行や能力に問題のある従業員がいる場合
  • 従業員による横領などが発覚した場合
  • 社内でハラスメント(パワハラ・セクハラなど)が発覚した場合
  • 従業員から未払の賃金(残業代など)を請求された場合
  • 業務による過労によって従業員に精神的な疾患(うつ病など)が生じた場合

会社が従業員を雇用する以上は、程度や頻度の差こそあれ、イレギュラーな労務トラブルが生じることがあります。

会社に顧問の弁護士や社会保険労務士がいれば、すぐに相談することができますが、顧問がいない場合には、誰に相談をするべきなのか、判断に迷うことがあります。

そこで、会社の労務トラブルの相談先について、無料・有料別に8つ紹介します。

労務トラブルの相談先

会社が無料で労務トラブルを相談できる先として、次の6つが挙げられます。

労務トラブルの相談先(無料)

  1. 総合労働相談コーナー
  2. 社会保険労務士会
  3. 弁護士会(各都道府県)
  4. ひまわりほっとダイヤル(全国の弁護士会)
  5. 各自治体
  6. 厚生労働省(委託事業)

また、会社が有料で労務トラブルを相談できる先として、次の2つが挙げられます。

労務トラブルの相談先(有料)

  1. 社会保険労務士
  2. 弁護士

以下、順に解説します。

労務トラブルの相談先(無料)

1.総合労働相談コーナー

全国の都道府県労働局や労働基準監督署には、労務トラブルを相談できる機関として「総合労働相談コーナー」が設けられています。

総合労働相談コーナーは、厚生労働省が管轄している労働関連の相談窓口で、会社または従業員のいずれの立場からも、無料で相談をすることができます

なお、窓口が労働基準監督署の中に設置されていることから誤解しやすいのですが、相談員は、あくまで総合労働相談を担当する職員であって、労働基準監督官ではありません。

総合労働相談コーナーのメリットは、予約が不要で、無料で利用できるという点で、相談の敷居が低い点にあります。

反対に、デメリットとして、これは個人的な見解ですが、相談員の立場上、労務トラブルの相談に対して、一歩踏み込んだアドバイスを期待しにくい、という点があります。

法律の基本的な内容や手続については回答してもらえますが、あくまで行政の職員という相談員の立場(中立的な立場)があるため、会社側の目線でトラブル解決に向けた見解や具体策を得ることまでは期待しにくく、最終的には、行政の紛争解決援助制度として、紛争調整委員会による「あっせん」の手続を紹介するなどして相談を終了することがあります。

2.社会保険労務士会

全国社会保険労務士会

全国社会保険労務士会では、「職場のトラブル相談ダイヤル」を設けており、会社または従業員のいずれの立場からも、職場のトラブルを相談することができます。

ここでは、まず担当する社会保険労務士がヒアリングを行い、事情を把握したうえで、労務トラブルの解決手段として紛争調整委員会による「あっせん」の手続を紹介することにより、和解による解決を図ることが、基本的な方針とされています。

「あっせん」とは、裁判「外」での紛争解決手続をいい、裁判によらないで、当事者双方の話し合いに基づいて労務トラブルの解決を図ろうとする制度です。

会社の方針として、できれば従業員との間の話し合いによって、トラブルを円満に解決したいという場合には、有効に利用することができそうです。

各都道府県の社会保険労務士会

各都道府県に設置されている社会保険労務士会では、無料相談を実施している場合があります。

ここでは、各社会保険労務士会に所属する社会保険労務士が相談対応をしています。

ただし、電話相談は1回あたり30分程度を上限とする(東京都社会保険労務士会「社労士110番」の場合)など、相談時間に上限が設けられていることが一般的で、労務トラブルなど、込み入った事情を相談するような場面では、解決案が得られるまで、じっくり相談するといったことは難しいといえます。

「相談時間の範囲内で構わないので、念のため、一般論を確認しておきたい」といったような目的であれば、有効に利用することができそうです。

3.弁護士会(各都道府県)

社会保険労務士会と同様に、各都道府県に設置されている弁護士会でも、無料相談を実施している場合があります。

ここでも、相談時間に上限が設けられていることが一般的(15分程度など)で、事情を説明した上で、具体的な解決策を得るまでに至ることは難しく、最終的には、所属の弁護士を紹介するなどして相談を終了することがあります。

4.ひまわりほっとダイヤル(全国の弁護士会)

ひまわりほっとダイヤル」という、電話で弁護士への相談や面談予約ができるサービスがあります。

これは中小企業の経営者に向けた、日本弁護士連合会と全国52ヵ所の弁護士会が提供するサービスで、労務トラブルに限らず、ビジネスで生じる法律問題について幅広く相談することができます

なお、同じく弁護士が法律相談に応じる機関として、「法テラス(日本司法支援センター)」がありますが、法テラスは、経済的に余裕のない個人に向けられたサービスであり、会社が利用することはできません。

5.各自治体

各自治体でも、無料で労働相談を実施している場合があります。

無料相談の情報は、各都道府県や各市町村のホームページに掲載されており、社会保険労務士や弁護士に無料で相談することができる場合があります。

6.厚生労働省(委託事業)

厚生労働省の委託事業として、「労働条件相談ほっとライン」があります。

これは、専門知識を持つ相談員が行う電話による無料相談で、主に労働基準監督署などが閉庁している平日の夜間や、土日・祝日に相談することができます

有給休暇の取りにくい職場環境で働く従業員など、仕事の時間帯に相談することが難しい場合に利用することができる相談先である点が特徴的です。

労務トラブルの相談先(有料)

1.社会保険労務士

社会保険労務士とは、労務管理・社会保険に関する国家資格をいいます。

社会保険労務士が取り扱う業務は、一般的に、就業規則など諸規程の作成、給与計算代行、社会保険手続代行、助成金申請代行、年金相談など、多岐にわたります。

助成金申請や障害年金などに注力している社会保険労務士事務所もありますので、まずは労務トラブルへの相談対応ができる社会保険労務士を探すことが必要となります。

労務トラブルを相談できる社会保険労務士を探す場合には、例えば、ホームページに掲載されている取扱分野、経歴、ブログ、セミナーなどの情報から、労務トラブルの相談対応についてどれくらい注力をしているのかを判別する方法があります。

なお、社会保険労務士事務所の中には、初回の30分程度は無料で相談に応じるサービスを提供している場合がありますが、労務トラブルの相談においては、短時間(無料相談の範囲内)で終了することは殆どありませんので、無料相談の枠にとらわれずに社会保険労務士を選定することが望ましいと考えます。

2.弁護士

弁護士は、法律問題に関するプロフェッショナルであり、労務トラブルについても、法的な面から解決案を提示してもらえることが期待されます。

弁護士の相談料は、一般的には「1時間あたり何円」というように、相談時間に応じたタイムチャージ制になります。

報酬の相場は、各事務所の報酬規定によりますが、一般的には、前述の社会保険労務士よりも高額になる傾向があります。

弁護士に相談することのメリット

弁護士に依頼することのメリットは、労務トラブルが訴訟に発展した場合に、そのまま訴訟の代理人として対応することができる点にあります。

この点は、社会保険労務士にはないメリットといえます。

例えば、従業員の代理人弁護士から内容証明郵便が送付されてきた場合など、労務トラブルが訴訟に発展する可能性が高い場合には、会社も早い段階から弁護士に相談しておく方が、その後の対応がスムーズになります。

弁護士を探す際のポイント

弁護士を探す際のポイントは、その弁護士が労務分野に精通しているかどうか、という点が最も重要です。

弁護士は法律問題のプロフェッショナルであるとはいえ、労務分野は数ある法律の中の一つに過ぎません。

したがって、必然的に、弁護士の中でも労務分野に注力している弁護士と、そうでない弁護士とに分かれます。

また、労務分野に注力していても、「企業側」に立つことが多いのか、「労働者側」に立つことが多いのかという立場の違いもあります。

会社の社長や経営者が、自社の労務トラブルについて相談できる弁護士を探す場合には、できる限り労務分野に注力し、かつ企業側に立って対応してもらえる弁護士を探すことが必要となります。