出生時育児休業(産後パパ育休)に関する労使協定の規定例(記載例)を解説
出生時育児休業(産後パパ育休)とは?
「出生時育児休業」とは、男性が、子の出生後8週間以内に、最大4週間まで休業することができる制度をいいます(育児・介護休業法第9条の2第1項)。
法律の施行日は、2022年10月1日です。
出生時育児休業(産後パパ育休)に関する労使協定
労使協定とは?
「労使協定」とは、従業員の過半数を代表する者と、会社との間で、従業員の労働条件について書面による協定を締結することをいいます(従業員の過半数で組織する労働組合があるときは、その労働組合と会社との間で締結します)。
出生時育児休業(産後パパ育休)に関する労使協定
出生時育児休業(産後パパ育休)の制度では、労使協定を締結することによって、法律上の原則的な取り扱いを一部変更し、例外的な取り扱いをすることが認められています。
労使協定の締結の対象となるのは、次の3つの場合です。
出生時育児休業(産後パパ育休)に関連する労使協定
- 出生時育児休業の対象とならない従業員を定める場合
- 出生時育児休業の申出期限を延長する場合
- 休業期間中に従業員が就労する場合
出生時育児休業(産後パパ育休)に関連する労使協定の規定例(記載例)
出生時育児休業(産後パパ育休)に関連する労使協定の規定例(記載例)は次のとおりです。
労使協定の規定例(記載例)
出生時育児休業にかかる労使協定
株式会社●●(以下、「会社」といいます)と、その従業員の過半数を代表する者は、会社における出生時育児休業(「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」第9条の2)に関して、次のとおり協定します。
(出生時育児休業の対象とならない従業員)
第1条 会社は、次の従業員から出生時育児休業の申出があったときは、その申出を拒むことができるものとします。
一、入社後1年未満の従業員
二、申出の日から8週間以内に雇用関係が終了することが明らかな従業員
三、1週間の所定労働日数が2日以下の従業員
2 前項の場合において、会社は、従業員の申出を拒むときは、その旨を従業員に通知するものとします。
(出生時育児休業の申出期限)
第2条 出生時育児休業の申出期限は、従業員が出生時育児休業を開始する日の1ヵ月前までとします。
2 会社は、出生時育児休業の申出が円滑に行われるよう、次の措置を講じることとします。
一、会社は、全従業員に対し、年1回以上、出生時育児休業を含む育児休業制度の意義、制度の内容、申請方法等に関する研修を実施します。
二、出生時育児休業を含む育児休業に関する相談窓口を、人事部に設置し、従業員に周知します。
三、会社は、出生時育児休業を含む育児休業について、毎年度「男性従業員の取得率●%以上・取得期間平均●ヵ月以上」、「女性従業員の取得率●%以上」を達成することを目標とし、この目標および育児休業の取得の促進に関する方針を、代表取締役社長から従業員に対して、定期的に周知します。 また、男性労働者の取得率や取得期間の目標については、達成状況を踏まえ、必要な際には上方修正を行うことについて労使間で協議を行います。
四、育児休業申出にかかる従業員の意向について、人事部から、当該従業員に書面を交付して回答を求めることで確認することとし、従業員から回答がない場合には、再度当該従業員の意向確認を実施し、意向の把握に努めこととします。
(出生時育児休業中の就業)
第3条 会社は、次の部署に所属する従業員に限り、出生時育児休業期間中の就業を認めることとします。
一、営業部門
二、管理部門
2 出生時育児休業中の就業を希望する従業員は、就業可能日等を申し出ることができるものとします。
(有効期間)
第4条 本協定の有効期間は、●年●月●日から●年●月●日までとします。
2 有効期間満了の1ヵ月前までに、会社または従業員代表者のいずれからも申出がないときには、本協定は更に1年間有効期間を延長するものとし、以降も同様とします。
協定日:●年●月●日
株式会社●● 代表取締役●●●●
従業員代表者 ●●部●●課 ●●●●
以下、順に解説します。
なお、東京労働局のWEBサイトにも「育児・介護休業等に関する労使協定の例」が掲載されていますので、参考にしてください。
第1条(出生時育児休業の対象とならない従業員)
出生時育児休業を取得できる従業員は、原則として、すべての従業員とされています。
ただし、次の従業員については、対象から除かれています。
出生時育児休業を取得できない従業員(例外)
- 有期雇用の従業員
- 労使協定で除外された従業員
1.については、有期雇用の従業員であって、その養育する子の出生日(出産予定日前に子が出生した場合は、出産予定日とする)から起算して、8週間を経過する日の翌日から6ヵ月を経過する日までに、労働契約の期間が満了することが明らかな者は、出生時育児休業を取得することができません(育児・介護休業法第9条の2第1項ただし書き)。
このうち、2.の労使協定によって除外することができる従業員は、次の3つの場合に限定されています(育児・介護休業法第9条の3第2項)。
労使協定で除外できる従業員
- 入社後1年未満の従業員
- 出生時育児休業の申出日から8週間以内に雇用が終了する従業員
- 1週間の所定労働日数が2日以下の従業員
上記の規定例では、3つの場合をすべて記載していますが、すべてを記載する必要はなく、いずれか選択して記載することは問題ありません。
第2条(出生時育児休業の申出期限)
出生時育児休業の申出期限は、原則として、休業開始日の2週間前までとされています。
ただし、省令で定める「雇用環境の整備に関する措置」を実施し、労使協定で定めた場合に限り、申出期限を最長1ヵ月までの範囲内において、労使協定で定める期限まで延長することができるとされています。
「雇用環境の整備に関する措置」の内容は、次のとおりです。
雇用環境の整備に関する措置
①次に掲げる措置のうち、2以上の措置を講ずること
- 従業員に対する育児休業にかかる研修の実施(注1)
- 育児休業に関する相談体制の整備(注2)
- 従業員の育児休業の取得に関する事例の収集および当該事例の提供
- 従業員に対する育児休業に関する制度および育児休業の取得の促進に関する方針の周知
- 育児休業の申出をした従業員の育児休業の取得が円滑に行われるようにするための、業務の配分または人員の配置にかかる必要な措置
②育児休業の取得に関する定量的な目標を設定し、育児休業の取得の促進に関する方針を周知すること(注3)
③育児休業の申出にかかる当該従業員の意向を確認するための措置を講じた上で、その意向を把握するための取り組みを行うこと(注4)
(注1)研修の実施
「研修の実施」について取り組む場合の規定例です。
規定例では、全従業員に対して研修を実施する、としていますが、必ずしも全従業員への研修が義務付けられるものではありません。
ただし、総務部や人事部など、あまりに研修対象者を限定してしまうと、実効性に欠けるため、少なくとも管理職については研修の対象とするなど、対象者の選定に留意する必要があると考えます。
(注2)相談体制の整備
育児休業に関する相談体制を整備するための措置として、規定例のような相談窓口の設置や、相談対応者の研修などが考えられます。
(注3)目標の設定・周知
育児休業に関する目標の設定については、定量的な目標である必要があることに留意する必要があります。
「努力する」「推進する」などといった抽象的な目標ではなく、「取得率30%」などのように、具体的な数値目標を掲げる必要があります。
なお、数値目標の設定に当たっては、育児休業の取得率のほか、当該企業における独自の育児目的の休暇制度を含めた取得率等を設定すること等も可能ですが、少なくとも男性の取得状況に関する目標を設定することが必要です(前記、東京労働局WEBサイト)。
(注4)従業員の意向確認
従業員の意向を確認するための措置は、2022年4月1日の法改正によって、会社に義務付けられています。ここでは、当該法令を参考に、意向確認について具体的に内容を定める必要があると考えます。
第3条(出生時育児休業中の就業)
出生時育児休業の期間中であっても、労使協定の締結など、一定の要件を満たす場合には、部分的に就業することが認められます。
労使協定においては、就業可能な部署を記載することも可能です。
あくまで、会社の提示する日時について、従業員の同意があって、はじめて休業することを認める制度である点に留意する必要があります。
休業中の就業を強制するなど、従業員の意に反して就業させるような運用にならないように、従業員の意思を尊重しながら対応することに留意する必要があります。