「有給休暇の計画的付与(計画年休)」とは?制度の内容・手続(労使協定)などをわかりやすく解説

有給休暇の計画的付与(計画年休)とは?

有給休暇の計画的付与とは?

有給休暇の計画的付与」とは、会社と従業員との間で取り決めを行うことによって、有給休暇の取得日について事前に計画を作成し、当該計画に従って、有給休暇を取得する制度をいいます(労働基準法第39条第6項)。

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制度のメリット・デメリット

有給休暇は、本来、従業員の権利であるため、取得するかどうか、またその取得日をいつにするかについては、従業員の意思に委ねられるべき性質のものです。

しかし、従業員からの請求を待っていたのでは、なかなか有給休暇の取得が進まないなどの事情がある場合において、有給休暇の取得を促進するための制度として、一定の手続(労使協定)を行うことを条件として、有給休暇の取得日を事前に取り決めることが認められています。

有給休暇を計画的に付与することによって、有給休暇の取得を促進することができるとともに、従業員のワークライフバランスの促進や、労働環境の改善を図ることができるなどのメリットがあります。

一方で、計画的付与の対象とする日数が多くなるほど、従業員にとって自身の希望で取得できる有給休暇の日数が少なくなるため、かえって従業員の不満につながる可能性もある点が、計画的付与を行うことのデメリットといえます。

有給休暇の取得義務(年5日)との関係

会社には、年10日以上の有給休暇が付与される従業員について、そのうち年5日の有給休暇を取得させなければならない法律上の義務(以下、「有給休暇の取得義務」といいます)があります(労働基準法第39条第7項)。

そして、有給休暇の計画的付与は、会社が有給休暇の取得義務を果たすための手段のひとつとして用いられることがあります。

法律では、従業員が計画的付与によって有給休暇を取得した場合には、当該取得した分の有給休暇の日数について、有給休暇の取得義務の対象となる5日間から差し引くことができると定めています(労働基準法第39条第8項)。

従業員には、年に5日間の有給休暇を、自身のタイミングで取得してもらうことが理想的ではありますが、これを完全に従業員の意思に委ねていると、5日間の有給休暇を取り忘れるリスクが生じ、この場合に法律に違反して罰則(30万円以下の罰金)が科されるのは会社です。

そこで、例えば、あらかじめ会社と従業員との間で、年に5日間の有給休暇を計画的付与の対象としておき、当該計画に従って有給休暇を取得することにより、会社が有給休暇の取得義務を果たし、法令を遵守することができるようになります。

計画的付与の対象とする日数の限度(上限)

有給休暇の計画的付与は、従業員に付与される有給休暇の日数すべてについて認められているものではありません。

有給休暇の計画的付与の対象とすることができる日数には上限が設けられており、従業員の有給休暇の日数のうち、「5日間を超える部分」について計画的付与の対象とすることができると定められています。

これは反対に、従業員の有給休暇の日数のうち、5日間については、計画的付与の対象にすることができないことを意味します。

その趣旨は、従業員が病気などの個人的な理由による取得ができるように、最低限の日数を留保しておく必要があるためです。

したがって、従業員の有給休暇のうち5日間は、計画的付与の対象とはせず、従業員が自由に取得できる有給休暇として残しておくことが必要です。

例えば、付与される有給休暇の日数が10日間の従業員に対しては、計画的付与の対象となるのは、10日から5日を差し引いた5日間が上限となります。

なお、前年度に取得されなかった有給休暇について、次年度に繰り越された日数がある場合には、その繰り越された有給休暇の日数を含めて、5日を超える部分を計画的付与の対象とすることができます。

計画的付与の方法(パターン)

有給休暇の計画的付与の方法として、次の3つのパターンに分類することができます。

計画的付与のパターン

  • 会社単位で取得する方法(一斉付与方式)
  • 組織単位で取得する方法(交替制付与方式)
  • 個人単位で取得する方法(個人別付与方式)

会社単位で取得する方法(一斉付与方式)

これは、会社と従業員との間で有給休暇の取得日を事前に取り決めておいて、会社単位(会社全体)で、従業員全員が同一の日に、一斉に有給休暇を取得する方法をいいます。

従業員にとっては(社内的には)有給休暇の取得となりますが、対外的には、会社の休日となります。

製造業など、工場の稼働を一時ストップさせることにより、全従業員を一斉に休ませることのできる会社などで用いられることがあります。

これにより、例えば、「飛び石連休」の場合(休日と休日の間に、平日が挟まっているような場合)に、その間の平日を会社単位で有給休暇を取得することにより、連休として取り扱う(通称、「ブリッジホリデー」)などといったことが可能になります。

組織単位で取得する方法(交替制付与方式)

会社の中でも、班・チーム・グループ・部門などの組織単位で、交替して、それぞれ有給休暇を計画的に取得する方法です。

会社全体ではなく、細分化された組織ごとに、その業務の繁閑に合わせて取得日を計画することができる点において、メリットがあります。

例えば、流通業・サービス業・小売業など、会社全体の休日(定休日)を増やすことが難しいような業種や、組織ごとに業務の繁閑の差が大きい会社において活用しやすい方法といえます。

個人単位で取得する方法(個人別付与方式)

有給休暇の取得日について、計画表などを用いて、従業員ごとに、個別に計画を立てることにより有給休暇を取得する方法です。

この方法では、原則として、従業員の希望する日に取得する必要があり、誕生日や記念日、旅行の予定など、個人的なイベントに合わせて計画を立てるケースもあります。

会社によっては「アニバーサリー休暇」や「多目的休暇」などの名称の制度として運用することもあります。

あらかじめ計画を立て、有給休暇の取得日について会社と事前に共有しておくことにより、従業員にとっては心理的に有給休暇を取得し易くなるというメリットがあります。

また、会社としても各従業員について有給休暇の取得日を事前に把握することができることで、業務のスケジュールをコントロールし易いというメリットがあります。

計画的付与の手続(労使協定)

計画的付与の手続(労使協定)

有給休暇の計画的付与を行う際の手続として、会社は、従業員との間で労使協定を締結する必要があります。

「労使協定」とは、会社の代表者と、従業員の過半数の代表者(従業員の過半数で組織する労働組合があれば、その労働組合)との間で締結する協定をいいます。

従業員の過半数代表者は、選挙などの民主的な手続によって選出する必要があり、会社が指名することはできません。

労使協定の記載内容

労使協定には、一般的に次の内容を記載します。

労使協定の記載内容(例)

  • 計画的付与の対象者
  • 対象となる有給休暇の日数
  • 計画的付与の具体的な方法
  • 計画的付与日の変更
  • 有給休暇がない従業員の取り扱い

労使協定の届出の必要性

労使協定には、労使協定の際に締結した書面(協定書)を管轄の労働基準監督署に届け出る義務が定められているものがあります(36協定など)。

これに対して、計画的付与にかかる労使協定は、労働基準監督署へ届け出る義務はありませんので、労使協定を締結した後、協定書を社内保管することで足ります。

また、労使協定には有効期間を定める必要がありますが、例えば「1年経過後、労使双方に異議がなければ自動更新とする」などと定めておくことで、定期的に協定をし直す手間を省くことも可能です。

有給休暇がない(足りない)従業員の取り扱い

有給休暇の計画的付与を行う上での留意点として、「有給休暇がない従業員」をどのように取り扱うのかが問題となります。

法律上は、入社した従業員について、初めて有給休暇が付与されるのは、入社日から6ヵ月経過後です。

もし、新入社員や中途入社の社員について、入社後間もないタイミングで、会社全体で、または、当該従業員が属する組織単位で一斉に有給休暇を計画的に取得する場合には、当該従業員について休業させる必要があります。

このときの取り扱いとして、第一に、「特別の休暇」を与え、他の従業員と同じように有給休暇を取得したものとして取り扱うことが考えられます。

第二に、「休業手当」を支給することが考えられます。

会社は、特別休暇を与えない場合でも、休業した従業員について、欠勤扱いにして賃金を支給しないものとして取り扱うことはできず、最低でも、平均賃金の60%以上の休業手当を支給する必要があります。

休業手当とは、会社都合によって従業員を休業させる場合に支給する義務のある手当(労働基準法第26条)をいい、会社が計画的付与を行うことによって、新入社員などが休業せざるを得ないこととなった場合には、会社は当該従業員に対して、休業手当を支給する必要があることに留意する必要があります。