「試用期間」に関する就業規則の規定例(記載例)とポイントを解説

試用期間とは?

試用期間」とは一般に、会社が新たに採用した従業員について、業務遂行能力や勤務態度などを評価し、自社の従業員として、本採用するにふさわしい人物かどうかの適性を見極めるための期間をいいます。

試用期間は、法律によって義務付けられているものではなく、会社の判断によって任意に設けられる制度であるため、試用期間の日数や延長の有無などの具体的内容については、会社ごとに就業規則によって定める必要があります。

今回は、試用期間に関する就業規則の規定例(記載例)と、そのポイントを解説します。

試用期間に関する基本的な内容については、次の記事をご覧ください。

【労務トラブル】試用期間満了による本採用拒否(解雇)|会社のリスクと対応策を解説

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試用期間に関する就業規則の規定例(記載例)①

試用期間について、実務上必要と思われる、最小限の内容を定める場合の就業規則の規定例(記載例)は、次のとおりです。

就業規則の規定例(記載例)①

(試用期間)

第●条 従業員として新たに採用した者については、採用した日から3ヵ月間【注1】を試用期間とする。

2 前項について、会社が特に認めたときは、試用期間を短縮し、または設けないことがある。

3 試用期間中に社員として不適格と認めた者は、本採用をしないことがある【注2】。ただし、入社後14日を経過した者については、労働基準法第20条に定める解雇予告手続【注3】によって行う。

4 試用期間は、勤続年数に通算【注4】する。

【注1】試用期間の長さ

試用期間の長さについては、法律上の制限はありません。

実務感覚としては、一般的な就業規則では、3ヵ月から、長くても6ヵ月程度の試用期間が設けられていることが多いといえます。

【注2】本採用拒否

試用期間中の従業員について、会社が自社の従業員として適性を欠くと判断した場合に、本採用をせず、試用期間の満了をもって従業員との労働契約を終了することを、一般に「本採用拒否」といいます

そして、この「本採用拒否」という行為は、法的には、会社が「解雇」をしたものと評価されるため、従業員を解雇する場合と同様に、後述の解雇予告手続が必要となります。

【注3】解雇予告手続

本採用拒否をする場合には、労働基準法が定める解雇の際の「解雇予告手続」を行う必要があります。

会社が従業員を解雇する場合には、原則として、30日以上前に解雇日を予告しておく必要があり、もし予告をしないで直ちに(即日)解雇をしようとする場合には、解雇予告手当として、30日分以上の平均賃金を支払う必要があります(これらを併用することも可能です)。

ただし、解雇予告手続は、試用期間中であって、入社の日から14日以内の従業員については必要がないと定められている(労働基準法第21条第四号)ことから、規定例(記載例)において「入社後14日を経過した者については…」という文言を記載しています。

【注4】勤続年数への通算

試用期間について、勤続年数に含めるかどうかを記載します。

これは、例えば勤続期間に応じて表彰する場合や、退職金を勤続年数に応じて支給する場合などにおいて影響するため、実務的な観点から記載をしておく必要があります。

試用期間に関する就業規則の規定例(記載例)②

試用期間について、さらに様々な事態に対応し、かつ労務トラブルを防止するために、就業規則の内容を詳細に定める場合の規定例(記載例)は次のとおりです。

就業規則の規定例(記載例)②

(試用期間)

第●条 従業員として新たに採用した者については、採用した日から3ヵ月間を試用期間とする。ただし、従業員としての適性を判定するために必要と認める場合、3ヵ月を限度として試用期間を延長することがある【注5】

2 中途採用者【注6】であって、管理職(課長以上)または高度の専門的業務に従事する者については、採用した日から6ヵ月間を試用期間とする。ただし、従業員としての適性を判定するために必要と認める場合、3ヵ月を限度として試用期間を延長することがある。

3 第1項および第2項について、会社が特に認めたときは、試用期間を短縮し、または設けないことがある。

4 試用期間中における従業員との雇用関係は仮採用によるものとし、会社は、試用期間中に、本人の業務遂行能力、健康状態、出勤状態、勤務成績等を総合的に評価【注7】し、従業員としての適性を認めたときに、試用期間の満了をもって辞令を交付することにより当該従業員を本採用する【注8】ものとする。

5 試用期間の満了の際、能力、業績、勤務成績等を評価し、賃金等の労働条件(昇給、降給を含む)を変更することがある。

6 試用期間中または試用期間満了時に、従業員としての適性がないと認められたときは本採用しない。

7 試用期間は、勤続年数に通算する。

(試用期間中の解雇)【注9】

第●条 従業員がその試用期間中において、次のいずれかに該当するときは、解雇することがある。

一、無断遅刻・欠勤を繰り返すとき

二、業務効率や勤務態度が悪く、繰り返し注意をしても従わないとき

三、協調性を欠く言動が多く、組織人としての適格性がないと認められるとき

四、上司の指揮命令に従わないとき

五、会社の規則や職場のルールに従わないとき

六、能力・知識面が著しく不足しており、今後の改善が見込めないとき

七、業務習得能力、技能等が著しく劣ると認められ、あるいは、業務に熱意がなく、知識や技能に対する習得意欲がないと認められるとき

八、心身の健康面に不安があり、勤務を継続することが困難と認められるとき

九、採用時に提出した書類と事実が異なっているとき、または採用面接時において虚偽の申告をしたとき

十、会社が指定した重要な書類を、度重なる督促をしたにも関わらず提出しないとき

十一、職場の風紀を乱す言動を繰り返すとき

十二、犯罪、反社会的行為、その他会社の社会的な信用を失墜させる行為をしたとき

十三、第●条の解雇事由、第●条の懲戒解雇事由に該当するとき

十四、その他、前各号に準じる事由により本採用することが不適当であると会社が認めたとき

2 前項に基づき採用後14日以内に解雇するときは、解雇予告手当は支払わない。

【注5】試用期間の延長の定め

試用期間中に従業員の適性を見極められず、本採用の可否を判断することができない場合に備えて、試用期間を延長することができる旨を定めておくことが有用です。

就業規則に試用期間の延長の定めがない場合には、会社は当然には試用期間を延長することはできないと解されるため、この場合には、従業員の同意を得たうえで延長することが必要になると考えられます。

なお、試用期間の延長を繰り返すことにより、試用期間があまりに長期間にわたる場合には、公序良俗に反するものとして、試用期間として認められない可能性があります(ブラザー工業事件/名古屋地方裁判所昭和59年3月23日判決)。

【注6】中途採用者の試用期間

試用期間をすべての従業員について一律に定める必要はなく、例えば、中途採用者であって、管理職や高度の専門性を期待する従業員については、特に慎重に適性を判断する必要性から、新入社員とは異なる試用期間を設けることもあります。

【注7】試用期間の意味

会社によっては、試用期間が制度として形骸化しているケースがあります。

試用期間において、従業員のどのような点に着目して適性を判断するのか曖昧で、本採用のための基準が存在しないような場合です。

このような場合に会社が本採用拒否(解雇)をすると、当該解雇に合理性がないものと判断される可能性が高いと考えられますので、会社は、従業員に対して、どの程度の業務遂行能力・技術・資格などを求め、どのような点に着目して本採用の可否を判断するのか、その判断基準を定めておくことも有用と考えます。

【注8】本採用の手続

試用期間満了後に従業員を本採用する場合には、できる限り、辞令を交付するなどの手続を行うことが必要です。

本採用の際の辞令の交付など手続的な手順が何ら存在しないとなると、試用期間が形骸化していると評価される可能性が高まるため、本採用手続については厳格に運用する必要があると考えます。

【注9】試用期間中の解雇

試用期間の満了を待たず、試用期間中に解雇する場合には、試用期間の満了時に本採用を拒否する場合に比べて、より一層、高度の合理性と相当性が必要になると解されます(ニュース証券事件/東京高等裁判所平成21年9月15日判決)。

これは、試用期間が、その期間中に適性の有無を判断するために設けられた期間であり、期間満了を待たずして適性がないと判断するからには、それだけの合理的事情(例えば、指導を繰り返しても何ら改善がなく、従業員としての適性に著しく欠けるものと判断することができるような特段の事情が認められる場合など)が必要であるといえます。

一般的な就業規則では、全従業員を対象とする解雇規定が設けられていますが、試用期間においては、試用期間特有の解雇事由も存することから、試用期間中に解雇を行う場合に備えて、試用期間中の従業員を対象とした解雇規定を別に定めておくことが望ましいといえます。