「専門業務型裁量労働制」とは?制度内容・適用業務(職種)・手続(労使協定)などを解説

「専門業務型裁量労働制」とは?

「専門業務型裁量労働制」とは?

専門業務型裁量労働制」とは、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分などを大幅に従業員の裁量にゆだねる必要がある業務について、労使の間であらかじめ定めた時間を働いたものとみなす制度をいいます(労働基準法第38条の3第1項)。

専門業務型裁量労働制は、従業員に高い専門性や経験が求められる業務であって、業務遂行の手段や方法の決定を従業員にゆだねることにより、個別具体的な業務に対する指示をほとんど必要としないような場合に適用することができます。

専門業務型裁量労働制は、どのような業務(職種)についても導入できるものではなく、法令によって定められた19の業務(職種)に限られています。

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「みなし労働時間」とは?

専門業務型裁量労働制においては、従業員が業務を遂行した場合に、労使で合意された一定時間を働いたものと「みなす」ことに特徴があります。

実際に何時間働いたかどうかに関わらず、一定時間働いたものとみなされるため、みなし労働時間を何時間とするのかは、制度の適用においてもっとも重要な事項となります。

また、みなした時間が実際の労働時間と大幅に乖離している場合には、制度が有効に機能していない可能性があるといえます。

専門業務型裁量労働制のメリット・デメリット

専門業務型裁量労働制を導入することにより、従業員にとっては、業務を進めるうえでの裁量が大きくなり、自分のペース、やり方で働くことができるというメリットがあります。

しかし、業務量の増減による影響を受けやすく、業務量が多くなるほど、その分裁量は小さくなり、業務過多による健康上の問題が生じるリスクが高まります。

一方、会社にとっては、実際の労働時間を厳密に把握する必要性がなくなることで、労務管理の負担が軽減されること、また、みなし労働時間を設定することによって、労働時間を平準化し、残業代(割増賃金)など人件費の予測がしやすくなるメリットがあります。

しかし、専門業務型裁量労働制の適用においては、安易に運用すると、長時間労働につながりやすいことに留意する必要があり、従業員に健康上の問題が生じた場合には、会社は安全配慮義務に違反するおそれがあります。

そこで、会社は、専門業務型裁量労働制を導入する場合には、常に従業員の業務量や労働時間に気を配り、みなし労働時間と実際の労働時間とが乖離していないかどうかに留意する必要があります。

専門業務型裁量労働制の対象となる19業務(職種)

専門業務型裁量労働制は、下記の19業務に限り、導入することができます(労働基準法施行規則第24条の2第2項、平成15年10月22日厚生労働省告示第354号)。

専門業務型裁量労働制の対象となる19業務(職種)

  1. 新商品・新技術の研究開発または人文科学・自然科学に関する研究の業務
  2. 情報処理システムの分析または設計の業務
  3. 新聞・出版の事業における記事の取材・編集の業務または放送番組の制作のための取材・編集の業務
  4. 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
  5. 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサーまたはディレクターの業務
  6. 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
  7. 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握またはそれを活用するための方法に関する考案・助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
  8. 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現または助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
  9. ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
  10. 有価証券市場における相場等の動向または有価証券の価値等の分析、評価またはこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
  11. 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
  12. 学校教育法に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る)
  13. 公認会計士の業務
  14. 弁護士の業務
  15. 建築士(一級建築士、二級建築士および木造建築士)の業務
  16. 不動産鑑定士の業務
  17. 弁理士の業務
  18. 税理士の業務
  19. 中小企業診断士の業務

制度導入のための手続(労使協定)

労使協定の締結

専門業務型裁量労働制を導入するためには、会社と、従業員の過半数の代表者(または過半数労働組合)との間で、労使協定を締結することが必要です。

制度を導入する際は、原則として、次の事項を労使協定に定めて締結した上で、所定の様式(様式第13号「専門業務型裁量労働制に関する協定届」)により、事業所を管轄する労働基準監督署に届け出ることが必要です(労働基準法第38条の3第2項、昭和63年3月14日基発150号)。

なお、労使協定の有効期間(下表6.)については、不適切に制度が運用されることを防ぐため、3年以内とすることが望ましいとされています(平成15年10月22日基発1022001号)。

  1. 制度の対象とする業務
  2. 対象となる業務遂行の手段や時間配分の決定等に関して、使用者が労働者に具体的な指示をしないこと
  3. 労働時間としてみなす時間
  4. 対象となる労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
  5. 対象となる労働者からの苦情の処理のために実施する措置の具体的内容
  6. 労使協定の有効期間
  7. 4.および5.に関して、従業員ごとに講じた措置の記録を、労使協定の有効期間およびその期間満了後3年間保存すること

健康・福祉を確保するための措置

専門業務型裁量労働制においては、裁量労働によって働き過ぎにつながるなど、従業員が健康上の不安を感じないように、健康・福祉を確保するための措置、および苦情の処理のために実施する措置を定めなければならないとされています(労働基準法第38条の3第1項第四号、第五号、平成15年10月22日厚生労働省告示第353号)。

健康・福祉を確保するための措置として、例えば次の取り組みが挙げられます。

健康・福祉確保措置の例

  • 代償休日、特別休暇の付与
  • 健康診断の実施
  • 年次有給休暇の連続取得の促進
  • 心とからだの健康問題についての相談窓口の設置
  • 必要に応じた配置転換
  • 産業医による助言・指導や保健指導の実施

苦情の処理のために実施する措置

苦情処理措置の内容として明らかにしなければならないとされる事項は、次の3つです。

苦情処理措置の例

  • 苦情処理窓口、担当者
  • 取り扱う苦情の範囲
  • 苦情の処理手順、方法に関する具体的内容

苦情処理窓口の担当者は、できる限り、社長や人事担当者以外の従業員を窓口とするといった工夫をすることにより、苦情の申し出をしやすい仕組みにすることが求められます。

また、取り扱う苦情の範囲については、制度の実施に関する苦情に加えて、対象となる従業員に適用される評価制度や賃金制度など、専門業務型裁量労働制に付随する苦情を含むものとすることが望ましいとされています。

専門業務型裁量労働制における残業代(割増賃金)

専門業務型裁量労働制が適用される場合でも、休憩時間(労働基準法第34条)、休日(同35条)、時間外・休日労働(同36条・37条)、深夜業(第37条)に関する規制は適用されます。

したがって、みなし労働時間が法定労働時間(1日8時間)を超える場合には、36協定の締結・届出、および残業代(割増賃金)の支払いが必要となります。

例えば、みなし労働時間を1日9時間とする労使協定を締結する場合には、法定労働時間(1日8時間)を超えるため、36協定において、1日1時間の時間外労働を協定するとともに、当該時間外労働に対して残業代(割増賃金)を支払う必要があります。

また、深夜の時間帯(午後10時から午前5時)において労働が行われた場合には、通常の従業員と同様に、割増賃金の支払いが必要となります。

フレックスタイム制との違い(比較)

専門業務型裁量労働制と比較されやすい制度として、フレックスタイム制があります。

フレックスタイム制は、あくまでも始業と終業の時刻を従業員の裁量で決定できるものであり、就業中の業務遂行については従業員の裁量の余地はなく、会社の指示命令に従って労務を提供する必要があります。

一方、専門業務型裁量労働制は、会社の具体的な指示命令の範囲が限定的で、労働時間をどのように配分して業務を遂行するのかなど、従業員の裁量に大幅にゆだねられている点において違いがあります。

また、労働時間については、フレックスタイム制では、把握された実際の労働時間で賃金が算定されるのに対して、専門業務型裁量労働制では、みなされた労働時間(みなし労働時間)で賃金が算定される点において違いがあります。

さらに、前述のとおり、専門業務型裁量労働制は限られた19の業務(職種)においてしか適用できませんが、フレックスタイム制においては、そのような制限はなく、どのような業種(職種)であっても適用することができる点において違いがあります。