【雇用保険(基本手当)】自己都合退職と会社都合退職(特定受給資格者・特定理由離職者)の違いを解説

はじめに

雇用保険では、従業員が会社を退職し、失業状態に陥った場合の生活を保障するために、「基本手当」が支給されます。

基本手当は、雇用保険の被保険者であった期間(加入期間)に応じて、給付される日数が異なりますが、従業員の自己都合による退職ではなく、会社の倒産・解雇など、会社都合による退職については、より手厚い保護を要するとして、支給要件が緩和されたり、給付日数が増えることがあります

今回は、雇用保険の基本手当において、離職理由(自己都合または会社都合)によって、支給要件や給付内容にどのような違いが生じるのかを解説します。

雇用保険の「基本手当」と離職理由

基本手当」とは、雇用保険の被保険者であった従業員が会社を退職(離職)した後、一時的に失業状態に陥った場合に、求職者の1日も早い再就職を支援することを目的として、失業中の生活を保障するために支給される手当をいいます。

基本手当は、1日単位で支給され、1日あたりの金額は、離職前における賃金を元に算出されます。

基本手当が支給される日数(これを「所定給付日数」といいます)の上限は、離職理由(自己都合または会社都合)によって異なり、さらに、離職時の年齢、雇用保険の加入期間によって給付日数が異なります(90日から360日まで)。

基本手当の受給者は、離職理由に応じて、次のように分類されます。

基本手当の受給者(離職理由による分類)

  1. 一般の離職者(自己都合による退職)
  2. 特定受給資格者・特定理由離職者(会社都合による退職)

特定受給資格者・特定理由離職者(会社都合による退職)とは?

基本手当を支給する趣旨は、求職者の再就職を支援することにありますが、支援を要する度合いは、求職者ごとの事情によって、それぞれ異なります。

そこで、雇用保険では、特に支援を要する離職者を分類して、「特定受給資格者」または「特定理由離職者」として手厚い支援を行うこととしています(なお、他に「就職困難者」という受給資格もありますが、ここでは割愛します)。

特定受給資格者とは?

特定受給資格者」とは、倒産や解雇などの理由により、再就職の準備をする時間的な余裕がなく、離職を余儀なくされた者をいいます。

特定受給資格者に該当する離職の一例は、次のとおりです。

なお、詳細(正式な定義と判断基準)は、「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準」をご覧ください。

特定受給資格者(「倒産」等により離職した者)

特定受給資格者に該当し得る離職の例①(「倒産」等により離職した者)

  • 会社の倒産等による離職
  • 事業所の廃止による離職
  • 事業所の移転により、通勤が困難となったことによる離職

特定受給資格者(「解雇」等により離職した者)

特定受給資格者に該当し得る離職の例②(「解雇」等により離職した者)

  • 解雇(自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇を除く)による離職
  • 労働契約の締結に際し明示された労働条件が事実と著しく相違したことによる離職
  • 3分の1超の賃金が支払期日までに支払われなかったことによる離職
  • 賃金が85%未満に低下したことによる離職
  • 長時間の時間外労働を原因とする離職(離職の直前6ヵ月間のうち、いずれか1ヵ月で100時間超など)
  • 期間の定めのある労働契約の更新により3年以上引き続き雇用されるに至った場合において、当該労働契約が更新されないこととなったことにより離職した者
  • 期間の定めのある労働契約の締結に際し当該労働契約が更新されることが明示された場合において、当該労働契約が更新されないこととなったことによる離職
  • 事業主から退職勧奨を受けたことによる離職
  • 事業所において使用者の責めに帰すべき事由により行われた休業が引き続き3ヵ月以上となったことによる離職

特定理由離職者とは?

特定理由離職者」とは、特定受給資格者以外の者であって、期間の定めのある労働契約が更新されなかったことその他やむを得ない理由により離職した者をいいます。

特定理由離職者に該当し得る離職の例

  • 期間の定めのある労働契約の期間が満了し、かつ、当該労働契約の更新がないことにより離職した者(その者が当該更新を希望したにもかかわらず、当該更新についての合意が成立するに至らなかった場合に限る)
  • 正当な理由のある自己都合による離職

(正当な理由のある自己都合の一例)

  • 体力の不足、心身の障害、疾病等による離職
  • 妊娠、出産、育児等による離職(雇用保険法の受給期間延長措置を受けた者)
  • 父母の死亡、疾病、負傷等のため、父母を扶養するために離職を余儀なくされた場合等、家庭の事情が急変したことによる離職
  • 配偶者または扶養すべき親族と別居生活を続けることが困難となったことによる離職
  • 結婚に伴う住所の変更、事業所の通勤困難な地への移転等の理由により、通勤が不可能または困難になったことによる離職

特定受給資格者・特定理由離職者と一般の離職者との違い

基本手当の受給において、特定受給資格者または特定理由離職者に該当することによって、一般の離職者(自己都合による退職)と比較して、主に次の違いが生じることとなります。

特定受給資格者と一般の離職者との違い

  1. 基本手当の受給要件が緩和される
  2. 給付制限期間がない
  3. 基本手当を受給できる日数(所定給付日数)の優遇

【違い①】基本手当の受給要件が緩和される

一般の離職者(自己都合)の場合

離職者が基本手当を受給するためには、原則として、離職の日以前2年間に、雇用保険の被保険者であった期間が通算して12ヵ月以上あることが必要です。

「雇用保険の被保険者であった期間」とは、離職の日から遡って1ヵ月ごとに区切った期間において、賃金の支払いの基礎となった日数が11日以上ある月を1ヵ月として数えます。

また、この要件は必ずしも1つの会社だけで満たす必要はないため、入社後間もない退職であっても、前の会社で雇用保険に加入していて、その期間を含めると通算12ヵ月以上の期間がある場合でも、基本手当を受給することができます。

特定受給資格者・特定理由離職者(会社都合)の場合

特定受給資格者・特定理由離職者の場合、基本手当を受給するために、原則として、離職の日以前1年間に、被保険者であった期間が通算して6ヵ月以上あることが必要されており、一般の離職者と比べて要件が緩和されています

【違い②】給付制限期間がない

一般の離職者(自己都合)の場合

自己都合による退職や、自己の責任による重大な理由による解雇(懲戒解雇など)の場合には、3ヵ月の給付制限が行われ、給付制限期間中は基本手当を受給することはできません。

特定受給資格者・特定理由離職者(会社都合)の場合

特定受給資格者・特定理由離職者については、給付制限が行われないことから、待期を終えた翌日から基本手当を受給することができます。

待期とは?

基本手当を受給するためには、離職後、ハローワーク(公共職業安定所)で求職の申し込みをする必要があります(基本手当は、再就職を支援するための手当であるため)が、求職の申し込みをした日から起算して、失業状態の日を通算して7日間は基本手当が支給されず、この期間のことを「待期期間」といいます。

この待期期間がある点については、一般の離職者も、特定受給資格者・特定理由離職者も同じであるため、特定受給資格者・特定理由離職者であっても、基本手当を受給できるのは、待期期間が終了した後になります。

【違い③】基本手当を受給できる日数(所定給付日数)の優遇

一般の離職者(自己都合)の場合

年齢を問わず、雇用保険の被保険者であった期間(加入期間)に応じて、基本手当を受給できる日数(所定給付日数)が定められています。

特定受給資格者・特定理由離職者(会社都合)の場合

特定受給資格者・特定理由離職者については、離職時の年齢と、雇用保険の被保険者であった期間に応じて所定給付日数が異なります

例えば、雇用保険の被保険者であった期間が5年で、離職時の年齢が30歳の場合、一般の離職者であれば所定給付日数は90日となりますが、特定受給資格者の場合には180日となるように、一般の離職者よりも所定給付日数が多く(手厚く)定められています(なお、年齢や加入期間によっては所定給付日数が同じ場合もあります)。

【まとめ】特定受給資格者・特定理由離職者と一般の離職者との違い

区分加入期間待期期間給付制限所定給付日数
一般の離職者(自己都合)離職の日以前2年間に12ヵ月以上求職の申込から7日間3ヵ月(自己都合の場合)加入期間によって異なる
特定受給資格者・特定理由離職者(会社都合)離職の日以前1年間に6ヵ月以上求職の申込から7日間なし年齢と加入期間によって異なる(手厚い)

離職理由について会社と従業員の認識が異なる場合

離職理由をめぐるトラブル

基本手当を受給する上で、離職理由(自己都合または会社都合)は受給資格に影響を与え、所定給付日数に影響するため、従業員にとっては、離職理由が大きな関心ごとになる場合があります。

特に、会社が認識している離職理由と、従業員が認識している離職理由に相違がある場合、どのように取り扱われるかが問題になる場合があります。

例えば、会社側は従業員が自ら退職を願い出た(自己都合)と認識している一方、従業員側は、会社内での問題(ハラスメントや長時間労働など)が原因で、やむを得ず退職した(会社都合)と認識している場合があります。

離職理由の判断と手続の流れ

会社が認識している離職理由と、従業員が認識している離職理由に相違がある場合、以下の手続に従って、最終的に、ハローワーク(公共職業安定所)によって離職理由(自己都合または会社都合)の判断が行われることとなります。

①会社による離職証明書の作成

会社は、「雇用保険被保険者離職証明書」を作成する際に、離職理由について、離職理由欄の該当する項目を選択し、具体的事情の記載欄(事業主用)に、離職に至った原因や経緯について記載します。

②従業員(離職者)による異議の申出

従業員(離職者)は、離職証明書に事業主が記載した離職理由を確認し、異議がある場合には、離職者本人の判断欄において、異議あり・なしのいずれかに丸印を記載することで、離職理由について異議のある旨を意思表示することができます。

③ハローワーク(公共職業安定所)の判定

ハローワークでは、会社から提出された離職証明書を元に、両者の主張を把握し、その主張を確認することのできる資料に基づいて、事実の確認を行います。

その際、必要に応じて、ハローワークから会社に対して、事実の確認など事情の聴取が行われることがあります。

最終的に、確認した事実を踏まえて、ハローワークによって離職理由の判定がなされることとなります。

離職理由について会社と従業員との間で相違がある場合には、言った、言わないというトラブルに発展しやすいため、会社にとって最低限必要となる対応として、従業員が退職に至った原因や経緯を整理した上で、ハローワークに対して説得力のある説明をすることができるよう、客観的な資料を準備しておくことが望ましいと考えます。