面接指導とは?長時間労働(月80時間)をした場合の医師の面接指導の実施義務について解説
はじめに
会社は、従業員が健康で安全に働くことができるよう、配慮する義務(安全配慮義務)を負っています(労働契約法第5条)。
特に長時間労働は、脳血管疾患や虚血性心疾患などの発症との関連性が強いとされており、会社は、これらの疾病を予防することが、安全配慮義務を果たすうえで重要となります。
そこで、労働安全衛生法では、一定の長時間労働をした従業員について、医師による面接指導を行うことを定めています。
この記事では、面接指導について、その実施要件、対象者、実施後の対応、就業規則の規定例(記載例)について解説します。
面接指導とは?
「面接指導」とは、医師が問診などの方法によって、従業員の心身の状況を把握し、その状況に応じて、面接によって必要な指導を行うことをいいます。
会社には、一定の長時間労働をした従業員から申し出があった場合には、医師による面接指導を行わなければならない義務が定められています(労働安全衛生法第66条の8第1項)。
なお、面接指導は、会社の業種、規模、従業員数などに関わらず、従業員を雇用するすべての会社(事業者)が対象となります。
面接指導を実施する医師は、産業医、または産業医の要件を備えた医師など、従業員の健康管理を行うのに必要な医学に関する知識を有する医師が望ましいとされています(平成18年2月24日基発第0224003号)。
面接指導の対象者
面接指導の対象となる従業員
面接指導の対象となる従業員は、1週間あたり40時間(休憩時間を除く)を超えて働いた時間の合計が、1ヵ月あたり80時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる者とされています(労働安全衛生規則第52条の2)。
面接指導は、要件に該当する従業員から、面接指導を受けることの申し出があった場合に、会社に実施することが義務付けられるものであり、要件に該当する従業員について、一律に面接指導を実施する義務があるものではありません(労働安全衛生規則第52条の3)。
ただし、前述のとおり、会社には従業員の健康に対する安全配慮義務があることから、要件に該当する従業員に対しては、面接指導を受けるように勧めるなど、申し出を待つことなく積極的に関与していく必要があると考えます。
面接指導の対象とならない従業員
上記の要件に該当する場合であっても、対象者が、直近1ヵ月以内に面接指導を受けているなどの場合であって、医師が面接指導を受ける必要がないと判断した場合には、面接指導の対象とはなりません。
例外
医師による面接指導は従業員からの申し出に基づいて行われることが原則ですが、特定の従業員については、その申し出を待つことなく、医師による面接指導を行うことが義務付けられています。
申し出を待たずに面接指導を実施する従業員
- 新たな技術、商品または役務の研究開発にかかる業務に従事する従業員で、時間外・休日労働が1ヵ月あたり100時間を超える者(労働安全衛生法第66条の8の2、労働安全衛生規則第52条の7の2)
- 高度プロフェッショナル制度により働く従業員で、健康管理時間が1週間あたり40時間を超えた時間が1ヵ月あたり100時間を超える者(労働安全衛生法第66条の8の4、労働安全衛生規則第52条の7の4)
管理監督者の場合
労働基準法第41条第2号に基づく管理監督者については、厳密な労働時間の管理になじまないことから、労働時間、休憩、休日に関する適用が除外されています。
一方で、労働安全衛生法では、医師の面接指導を実施するために、従業員の労働時間の状況を把握しなければならない義務を定めており、当該義務は、管理監督者についても適用されると解されます(労働安全衛生法第66条の8の3)。
したがって、管理監督者の場合であっても、会社は労働時間の状況を把握し、面接指導の実施要件に該当する管理監督者から会社に申し出があった場合には、面接指導を実施する必要があります。
労働時間の算定方法(月80時間超の把握方法)
1週間あたり40時間を超えて働く時間は、毎月1回以上、一定の期日を定めて把握する必要があります(労働安全衛生規則第52条の2第2項)。
例えば、毎月の給与の締め日に合わせて把握することや、暦月(毎月1日から末日)で把握することなどが考えられます。
また、1週間あたり40時間を超えて働く時間には、所定休日労働・法定休日労働をした時間数を含みます。
これは、面接指導は長時間労働を防止し、心身の負担を軽減することがその趣旨であることから、休日出勤も含めた1ヵ月の総労働時間でみて、過重労働になっていないかどうかを判断する必要があるためです。
具体的には、月80時間を超えるかどうかは、次の計算式によって判定します(平成18年2月24日基発第0224003号)。
計算式(月80時間超の把握方法)
1ヵ月の総労働時間数(※)-(1ヵ月の暦日数÷7)×40時間
(※)1ヵ月の総労働時間数=所定労働時間数+時間外労働(残業)時間数+休日労働時間数(法定休日労働を含む)
例えば、5月の1ヵ月間であれば、約177時間(31日÷7×40時間)が基準となることから、もし5月の総労働時間数が257時間(177時間+80時間)を超える場合には、面接指導の対象となります。
なお、会社は、1ヵ月あたり80時間を超えたことにより、面接指導の対象となった従業員に対しては、速やかに、その超えた時間に関する情報を通知する必要があるとされています(労働安全衛生規則第52条の2第3項)。
面接指導の実施時期
面接指導の申出期限
従業員による面接指導の申し出については、会社が1ヵ月あたり80時間を算定した期日が経過した後、「遅滞なく」行うものと定められており、法律による具体的な期限は特に設けられていませんが、行政通達によると、「遅滞なく」とは、概ね1ヵ月以内をいうとされています(労働安全衛生規則第52条の3第2項)(平成18年2月24日基発第0224003号)。
面接指導の実施期限
会社は、面接指導の対象となった従業員から申し出があった場合には、「遅滞なく」面接指導を行うものと定められており、法律による具体的な期限は特に設けられていませんが、行政通達によると、「遅滞なく」とは、申出後、概ね1ヵ月以内をいうとされています(労働安全衛生規則第52条の3第3項)(平成18年2月24日基発第0224003号)。
面接指導の記録
会社は、面接指導を実施した場合、その結果の記録を作成して、これを5年間保存する必要があります(労働安全衛生規則第52条の6第1項)。
面接指導を実施した後の対応
医師からの意見聴取
会社は、面接指導を実施した場合、その結果に基づいて、従業員の健康を保持するために必要な措置について、医師の意見を聴かなければならないとされています(労働安全衛生法第66条の8第4項)
医師からの意見聴取は、面接指導を実施した後、遅滞なく(面接指導を実施してから概ね1ヵ月以内)行う必要があります(平成18年2月24日基発第0224003号)。
面接指導の実施後の措置
会社は、医師の意見を聴取した場合において、その意見をふまえて必要と判断するときは、以下の措置を実施する必要があります(労働安全衛生法第66条の8第5項)。
面接指導実施後の措置
- 就業場所の変更
- 作業の転換
- 労働時間の短縮
- 深夜業の回数の減少等の措置
- 医師の意見の衛生委員会・安全衛生委員会・労働時間等設定改善委員会への報告
- その他の適切な措置
面接指導に関する就業規則の規定例(記載例)
面接指導について、就業規則に定める場合の規定例(記載例)は次のとおりです。
面接指導に関する就業規則の規定例(記載例)
(面接指導)
第●条 会社は、週40時間を超える労働が1ヵ月当たり80時間を超え、疲労の蓄積が認められる従業員から申し出があった場合には、会社が指定する医師による面接指導(問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいう)を行う。 ただし、従業員が自ら希望する医師により面接指導を受け、その結果を証明する書面を会社に提出したときを除く。
2 新商品の開発業務に従事し、労働基準法第36条の規定の適用が一部除外される従業員については、前項の時間が100時間を超えたときは、本人の申し出がなくとも、会社は医師による面接指導を行う。
3 前各項に定める面接指導にもとづく医師の意見および当該従業員の実情等から必要があると認めるときは、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数制限等の措置を講じるほか、当該意見を安全衛生委員会に報告する。