フレックスタイム制にかかる労使協定の規定例(記載例)を逐条解説

フレックスタイム制の導入と労使協定

フレックスタイム制とは

フレックスタイム制」とは、一定の期間(最大3ヵ月以内)の労働時間の上限をあらかじめ定めておき、従業員がその範囲内で、日々の始業・終業時刻を自ら決定して働くことを認める制度をいいます(労働基準法第32条の3)。

フレックスタイム制の基本的な内容については、次の記事をご覧ください。

「フレックスタイム制」とは?制度の内容・導入手続(就業規則・労使協定)をわかりやすく解説

フレックスタイム制を導入する際の手続

フレックスタイム制を導入する際に必要な手続として、会社は、就業規則に定めるとともに、従業員の過半数代表者(従業員の過半数で組織する労働組合があるときは、その労働組合)との間で、労使協定を締結する必要があります。

このとき、清算期間が1ヵ月を超える場合には、労使協定を労働基準監督署に届け出る必要があり、これに違反すると罰則(30万円以下の罰金)の対象となります。

また、当該労使協定には有効期間を定めた上で、届出については「様式第3号の3」により行う必要があります(労働基準法施行規則第12条の3第2項)。

なお、清算期間が1ヵ月以内の場合には、労使協定の届出は不要です(労働基準法第32条の3第4項)。

労使協定の記載事項

フレックスタイム制を導入する場合には、労使協定において、次の事項を定める必要があります(労働基準法施行規則第12条の3)。

労使協定の協定事項

  1. 対象となる労働者の範囲
  2. 清算期間(起算日)
  3. 清算期間における総労働時間
  4. 標準となる1日の労働時間
  5. コアタイム(任意)
  6. フレキシブルタイム(任意)
  7. 有効期間の定め(清算期間が1ヵ月を超える場合)

労使協定の規定例(記載例)

フレックスタイム制にかかる労使協定の規定例(記載例)は、次のとおりです。

フレックスタイム制にかかる労使協定の規定例(記載例)

フレックスタイム制にかかる労使協定

●●株式会社(以下、「会社」という)と、会社の従業員を代表する者は、労働基準法第32条の3の規定に基づき、フレックスタイム制の実施について、次のとおり協定する。

(対象となる従業員の範囲)【注1】

第1条 会社は、●●部に所属する従業員に対して、本労使協定に基づきフレックスタイム制を適用する。

(清算期間と起算日)【注2】

第2条 労働時間の清算期間は、毎月1日を起算日とし、1日から月末までの1ヵ月間とする。

(清算期間における総所定労働時間)【注3】

第3条 清算期間における総所定労働時間は、第4条に定める1日の標準労働時間に、清算期間における所定労働日数を乗じて得た時間とする。

2 完全週休2日制の下で働く従業員については、労働基準法第32条の3第3項の規定に基づき、清算期間における法定労働時間の総枠を、清算期間における所定労働日数に8時間を乗じて得た時間数とすることができる。

(1日の標準労働時間)【注4】

第4条 1日の標準労働時間は、8時間とする。

2 従業員が年次有給休暇を取得した場合には、第1項に定める標準労働時間を勤務したものとする。

3 従業員が事業場外に出張する場合において、労働時間を算定することが困難なときは、前項に定める1日の標準労働時間を勤務したものとみなす。

(コアタイム)【注5】

第5条 従業員が必ず勤務しなければならない時間帯(コアタイム)は、午前11時から午後2時までとする。

2 従業員が前項に定める時間帯において、遅刻、早退または欠勤をした場合には、当該時間に応じて賃金を控除する。

(フレキシブルタイム)【注6】

第6条 始業・終業時刻について、従業員の自主的な決定に委ねる時間帯(フレキシブルタイム)は、午前7時から午後9時までとする。ただし、業務上の必要性があり、事前に所属長の許可を得た場合には、当該時間帯以外の時間に勤務することを認める。

(休憩時間)【注7】

第7条 休憩時間は、午前12時から午後1時までの60分間とする。

(労働時間および賃金の清算)【注8】

第8条 フレックスタイム制の対象となる従業員が、第3条に定める清算期間における総所定労働時間を超えて勤務した場合は、賃金規程に基づき時間外手当を支払う。

2 フレックスタイム制の対象となる従業員が、第3条に定める清算期間における総所定労働時間に不足したときは、不足した時間について、賃金を控除する。

(法定休日労働)【注9】

第9条 従業員が、所属長の許可を得た上で法定休日に労働した場合は、当該労働時間を第3条の総労働時間から除外し、賃金規程に基づき割増賃金を支払う。

(フレックスタイム制の解除)【注10】

第10条 会社は、業務上の必要性または緊急事態の発生、その他やむを得ない事情により必要と認めるときは、あらかじめ従業員代表の意見を聴いたうえで、フレックスタイム制を解除することができる。

2 前項の規定によりフレックスタイム制が解除された期間は、通常の労働時間の規定を適用し、清算期間中に解除された期間があるときは、当該解除された期間を除いた期間を清算期間として、フレックスタイム制における労働時間および賃金の清算を行うこととする。

(有効期間)

第11条 本協定の有効期間は、●年●月●日から、●年●月●日までの1年間とする。ただし、有効期間満了日の1ヵ月前までに、当事者のいずれからも更新しない旨の申し出がないときは、自動的に更新し、その後も同様とする。

協定日:●年●月●日

(会社) 株式会社●● 代表取締役社長 ●●●● 印

(従業員代表) 株式会社●● 従業員代表 ●●●● 印

【注1】対象となる従業員の範囲(第1条)

フレックスタイム制を適用する従業員の範囲(部署、職種、雇用区分など)を定めます。

なお、満18歳未満の従業員(年少者)に対しては、フレックスタイム制を適用することはできません(労働基準法第60条第1項)。

【注2】清算期間と起算日(第2条)

清算期間は、3ヵ月以内の期間で設定する必要があります。

清算期間は、その起算日を明記する必要があり、単に「1ヵ月」などと清算期間を具体的に特定できない記載をすることは適切ではありません。

【注3】清算期間における総所定労働時間(第3条)

総所定労働時間(1項)

総所定労働時間とは、フレックスタイム制において、従業員が労働する義務のある時間を定めるものであり、清算期間を平均して1週間の労働時間が法定労働時間の範囲内となるように、清算期間における総労働時間(労働時間の総枠)の範囲内で定める必要があります。

清算期間における総労働時間(労働時間の総枠)は、次の計算によって算出します。

清算期間における総労働時間(労働時間の総枠)

1週間の法定労働時間×清算期間の暦日数÷7日

1週間の法定労働時間は、原則として40時間となります(特例措置対象事業場は、44時間)。

例えば、4月の1ヵ月(暦日数30日)を清算期間とする場合には、その月の総労働時間(労働時間の総枠)は「171.4時間」(40時間×30日÷7日)となります。

これにより、月単位の清算期間とした場合の総労働時間(労働時間の総枠)は、次のとおりとなります。

清算期間の暦日数法定労働時間の総枠
(週40時間制の事業場)
法定労働時間の総枠
(週44時間制の事業場)
31日177.1時間194.8時間
30日171.4時間188.5時間
29日165.7時間182.2時間
28日160.0時間176.0時間

総所定労働時間は、規定例のように、清算期間における所定労働日に対して1日の所定労働時間を乗じて算定する方法の他にも、例えば、「1ヵ月160 時間」というように、各清算期間を通じて一律に総所定労働時間を定めることもできます。

完全週休2日制の特例(2項)

清算期間が1ヵ月の場合で、清算期間を通じて完全週休2日制を実施している場合には、清算期間における曜日の巡りによる矛盾を解消するための措置として、労使協定を締結することによって、清算期間の総所定労働時間が法定労働時間の総枠を超えることを認める特例があります(労働基準法第32条の3第3項)。

【注4】1日の標準労働時間

フレックスタイム制において、従業員が年次有給休暇を取得した日について、その取得した日が何時間分の労働に相当するのか(何時間分の賃金を支払うのか)を定めるものです。

ここでは、7時間や8時間など、単に時間数を定めれば足ります。

【注5】コアタイム(第5条)

コアタイムとは

コアタイム」とは、従業員が必ず勤務しなければならないとされる時間帯をいいます。

コアタイムを設ける場合には、その時間帯の開始および終了の時刻を定めます。

コタタイムは、法律上必ず設けなければならないものではありませんが、コアタイムを設けることで、その時間帯に会議や打ち合わせなど、共同で行う仕事のスケジュールを組みやすくなります。

また、コアタイムの時間帯については、コアタイムを設ける日と設けない日を区別して定めることや、日によってコアタイムの時間帯が異なるように定めること、あるいはコアタイムを分割することなども可能です。

遅刻・早退・欠勤の取り扱い(2項)

フレックスタイム制においては、遅刻、早退または欠勤は、コアタイムについてのみ生じることとなりますので、規定例では、コアタイムに遅刻等があった場合に、賃金を控除する旨を定めています。

なお、フレキシブルタイムについては、従業員の裁量で始業・就業時刻を決めることができるため、遅刻、早退または欠勤という概念はありません。

【注6】フレキシブルタイム(第6条)

フレキシブルタイムとは

フレキシブルタイム」とは、その時間帯であれば、従業員の裁量によって、いつ出社または退社してもよいとされる時間帯をいいます。

フレキシブルタイムを設ける場合には、その時間帯の開始および終了の時刻を定めます。

フレキシブルタイムは、法律上必ず定めなければならないものではありません。

規定例の他にも、さらに勤務時間帯を制限する規定として、「始業時刻は午前7時から午前10時までとし、終業時刻は午後3時から午後7時までとする」などと規定することも考えられます。

フレキシブルタイムの留意点

フレックスタイム制を採用する場合には、始業時刻と終業時刻の「両方」を従業員の決定に委ねる必要があり、始業時刻または終業時刻の一方についてのみ従業員の決定に委ねているだけでは、法律の定めるフレックスタイム制とは認められないことに留意する必要があります(昭和63年1月1日基発第一号)。

また、フレキシブルタイムが極端に短い場合や、コアタイムの開始から終了までの時間と標準となる1日の労働時間がほぼ一致しているなどの場合は、フレックスタイム制の趣旨に沿わず、認められないものと解されます(昭和63年1月1日基発第一号)。

【注7】休憩時間(第7条)

フレックスタイム制を採用した場合でも、会社は、労働基準法の定めに従って休憩時間を与える必要があります(昭和63年3月14日基発第150号)。

したがって、労働時間が6時間を超える場合には少なくとも45分、労働時間が8時間を超える場合には少なくとも60分の休憩時間を与える必要があります(労働基準法第34条)。

休憩時間は、原則として、従業員が一斉に取得しなければならないとされており(労働基準法第34条第2項)、したがって、コアタイムを設ける場合には、コアタイム中に休憩時間を定めることが一般的です。

【注8】労働時間および賃金の清算(第8条)

フレックスタイム制において、清算期間における実労働時間が総所定労働時間に足りない場合の賃金の清算方法として、次の2通りの方法があり、いずれの方法によるかを労使協定で定めておく必要があります。

実労働時間が総所定労働時間に足りない場合の賃金の清算方法

  • 不足する時間分の賃金を控除する(欠勤控除)
  • 賃金を控除せず(一時的には過払いとなる)、不足する時間を翌月に繰り越す(翌月の労働時間に上乗せする)

不足する時間を翌月に繰り越す場合には、繰り越しを受けた翌月の労働時間(総所定労働時間+前の清算期間から繰り越された不足時間)は、繰り越した時間も含めて、法定労働時間の範囲内でなければならないことに留意する必要があります(昭和63年1月1日基発第一号)。

なお、実労働時間が総労働時間を超過する場合に、その時間を翌月に繰り越す(翌月の労働時間を減らす)ことは、「賃金の全額払いの原則」に違反し、認められません(労働基準法第24条)。

【注9】法定休日労働(第9条)

フレックスタイム制のもとで、法定休日労働(1週に1日の法定休日に労働すること)を行った場合には、当該法定休日労働をした時間は、清算期間における総労働時間や時間外労働とは別のものとして取り扱われ、割増賃金を支払う必要があります。

【注10】フレックスタイム制の解除(第10条)

フレックスタイム制を適用することが適切でないと会社が判断する場合には、フレックスタイム制の適用を解除する旨を定めておくとよいと考えます。

他にも、「遅刻、早退または欠勤により、不足時間の累計が●日間(または●時間)を超えた者については、フレックスタイム制の適用を解除することがある」など、不適格事由を定めておくことも考えられます。