【適用除外】労働基準法の適用が除外される事業・労働者をまとめて解説
- 1. はじめに
- 2. 同居の親族のみを使用する事業(全部適用除外)
- 2.1. 適用除外
- 2.2. 同居の親族の範囲
- 2.3. 同居の親族以外を使用する場合
- 2.4. 例外
- 3. 家事使用人(全部適用除外)
- 3.1. 適用除外
- 3.2. 家事使用人に該当する場合の例
- 3.3. 家事使用人に該当しない場合の例
- 4. 船員法に規定する船員(一部適用除外)
- 5. 国家公務員・地方公務員(全部または一部適用除外)
- 5.1. 国家公務員
- 5.2. 地方公務員
- 6. 労働時間・休憩・休日の適用除外(一部適用除外)
- 6.1. 労働時間・休憩・休日の適用除外
- 6.2. 農業、畜産、養蚕、水産業に従事する者
- 6.3. 監督または管理の地位にある者(管理監督者)
- 6.4. 機密の事務を取り扱う者
- 6.5. 監視または断続的労働に従事する者
- 7. 解雇手続の適用除外(一部適用除外)
はじめに
労働基準法は、原則として、労働者が使用されるすべての事業に適用されますが、一定の要件に該当する事業・労働者については、その全部または一部を適用しないことがあり、これを「適用除外」といいます。
本稿では、労働基準法が適用除外となる事業・労働者をまとめて解説します。
同居の親族のみを使用する事業(全部適用除外)
適用除外
労働基準法は、同居の親族のみを使用する事業については、適用されません(労働基準法第116条第2項)。
同居の親族は、いわば私生活面での相互協力関係にあり、一般の事業における事業主と労働者との関係性(労働関係)を当てはめることが適当でないことから、労働基準法の適用が除外されます。
同居の親族の範囲
「同居の親族」とは、事業主と生計を同じくしている民法上の親族をいい、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族をいいます(民法第725条)。
同居の親族以外を使用する場合
同居の親族「のみ」を使用している事業であることが、適用除外の要件とされていることから、同居の親族の他に、1人でも他人を使用している場合には、その事業は労働基準法の適用を受け、その他人は労働基準法上の労働者となります。
ただし、この場合でも、同居の親族については、労働基準法上の労働者になりません(昭和54年4月2日基発153号)。
例外
同居の親族であっても、常時同居の親族以外の労働者を使用する事業において、一般事務や現場作業などの業務を行うにつき、事業主の指揮命令に従っていることが明確であり、労働時間、休憩、休日などの就労の実態が他の労働者と同じであって、賃金もこれに応じて支払われている場合には、その同居の親族は、労働基準法上の労働者として扱う必要があります(昭和54年4月2日基発153号)。
家事使用人(全部適用除外)
適用除外
労働基準法は、家事使用人については、適用されません(労働基準法第116条第2項)。
「家事使用人」とは、家事一般に従事する者をいい、家事使用人に該当するかどうかは、従事する作業の種類や性質などを勘案して、その労働の実態によって判断されます(平成11年3月31日基発168号)。
家事使用人に該当する場合の例
法人に雇われ、その役職員の家庭において、その家族の指揮命令の下で家事一般に従事している場合には、家事使用人に該当し、労働基準法上の労働者になりません。
家事使用人に該当しない場合の例
個人家庭における家事を事業として請け負う事業主に雇われ、その指揮命令の下で家事を行う者は、家事使用人に該当せず、労働基準法上の労働者となります。
船員法に規定する船員(一部適用除外)
労働基準法は、船員については、一部を除き適用されません(労働基準法第116条第1項)。
「船員」とは、日本船舶または日本船舶以外の国土交通省令で定める船舶に乗り組む、船長、海員、および予備船員をいいます(船員法第1条第1項)。
船員は、長時間陸上から孤立し、労働と生活が一体となった24時間体制の就労があるなど、海上労働の特殊性から、下記の規定を除いて労働基準法が適用されず、船員法が適用されます。
船員に適用される規定
- 労働基準法の総則に関する規定(第1条から第11条まで)
- 適用除外に関する規定(第116項第2項)
- 罰則に関する規定(第117条から第119条まで、第121条)
ただし、総トン数5トン未満の船舶、湖、川または港のみを航行する船舶、政令の定める総トン数30トン未満の漁船、およびスポーツ、レクリエーション用の小型船舶は、海上労働の特殊性に乏しいことから、船員法を適用せず、陸上の労働者と同様に、労働基準法が適用されます(船員法第1条第2項)。
国家公務員・地方公務員(全部または一部適用除外)
労働基準法では、「この法律及びこの法律に基いて発する命令は、国、都道府県、市町村その他これに準ずべきものについても適用あるものとする。」と定めており、原則として、国家公務員や地方公務員に対しても全面的に適用すると定めています(労働基準法第112条)。
ただし、現在では、国家公務員法や地方公務員法などが制定されたことにより、労働基準法の適用関係は、次のとおりとなっています。
国家公務員
身分 | 適用関係 |
一般職の国家公務員 | 適用除外 (国家公務員法附則第16条) |
現業(国有林野事業)の職員 | 適用される (特定独立行政法人等の労働関係に関する法律第37条第1項第1号) |
特定独立行政法人の職員 (国立公文図書館、造幣局、国立印刷局など、国家公務員の身分が与えられる職員) | 適用される (特定独立行政法人等の労働関係に関する法律第37条第1項第1号・第2号) |
独立行政法人の職員 | 適用される (平成13年2月22日基発93号) |
地方公務員
身分 | 適用関係 |
一般職の地方公務員 (県の職員、市の職員、公立学校の教員、消防士など) | 一部適用除外 (地方公務員法第58条第3項) |
地方公営企業の職員 (水道局職員、交通局職員、電気事業職員、ガス事業職員など) | 一部適用除外 (地方公営企業法第39条第1項) |
労働時間・休憩・休日の適用除外(一部適用除外)
労働時間・休憩・休日の適用除外
労働基準法のうち、「労働時間」、「休憩」、および「休日」に関する規定は、次のいずれかに該当する労働者については適用されません(労働基準法第41条)。
労働時間・休憩・休日の適用除外
- 農業、畜産、養蚕、水産業に従事する者
- 監督または管理の地位にある者(管理監督者)、機密の事務を取り扱う者
- 監視または断続的労働に従事する者で、使用者が労働基準監督署長の許可を受けたもの
上記の者については、事業の種類や、労働者の地位、労働の態様によって、労働時間、休憩、休日の規定を適用することが不適当と考えられるため、適用が除外されています。
上記の者については、法定労働時間や法定休日にかかる規制が適用されないため、時間外労働や休日労働をさせたとしても、割増賃金を支給する必要はありません。
ただし、労働基準法の規定のうち、労働時間、休憩、休日以外の規定は通常の労働者と同じく適用されることから、例えば、上記の者に対しても、年次有給休暇を与え、あるいは深夜労働に従事させた場合には、当該深夜労働に対する割増賃金を支払う必要があります(昭和22年11月26日基発389号)。
農業、畜産、養蚕、水産業に従事する者
林業に従事する者については、適用が除外されていません。
監督または管理の地位にある者(管理監督者)
「監督または管理の地位にある者」とは、一般的に、部長、工場長など、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいい、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきとされています(昭和63年3月14日基発150号)。
管理監督者については、次の記事をご覧ください。
管理監督者(管理職)に残業代は不要?労働基準法が適用除外となる要件を解説
機密の事務を取り扱う者
「機密の事務を取り扱う者」とは、必ずしも機密書類を取り扱う者を意味するものではなく、秘書その他職務が経営者や監督管理の地位にある者と一体不可分であって、厳格な労働時間管理になじまない者をいいます(昭和22年9月13日発基17号)。
監視または断続的労働に従事する者
「監視に従事する者」とは、守衛や門番など、原則として、一定部署で監視することが本来の業務であり、常態として心身の緊張度の低い労働に従事する者をいいます。
したがって、交通関係の監視、車両誘導を行う駐車場の監視など、精神的緊張の高い業務や、危険または有害な場所における業務などは該当しないものと解されます(昭和63年3月14日基発150号)。
「断続的労働に従事する者」とは、寮や寄宿舎の管理人、役員専属の自動車運転者など、業務がとぎれとぎれにあり、労働時間中に手待時間が多く実作業時間が少ない業務に従事する者をいいます(昭和63年3月14日基発150号)。
これらの者は、通常の労働者に比べて労働の密度が疎であって、労働時間などの規定を適用しなくても、必ずしも労働者の保護に欠けることがないと考えられることから、適用除外とされています。
解雇手続の適用除外(一部適用除外)
会社が従業員を解雇する場合には、原則として、解雇までに次のいずれかの手続をとる必要があります(労働基準法第20条)。
解雇の手続
- 解雇をする30日以上前に「解雇予告」をすること
- 平均賃金の30日分以上の「解雇予告手当」を支払うこと
これにより、会社が従業員を解雇する場合には、原則として30日以上前に解雇の日を予告する必要があり、もし予告をせず、直ちに解雇をしようとする場合には、解雇予告手当を支払う必要があります。
なお、例えば、15日前に解雇予告し、同時に15日分の解雇予告手当を支払うなど、両者を併用することも可能です。
ただし、この解雇予告に関する手続は、次に該当する労働者については、適用が除外されます(労働基準法第21条)。
解雇手続の適用除外
- 日日雇い入れられる者
- 2ヵ月以内の期間を定めて使用される者
- 季節的業務に4ヵ月以内の期間を定めて使用される者
- 試の使用期間中の者
ただし、上記の者であっても、次の場合には、解雇手続が必要となります。
原則 (解雇手続の適用除外) | 例外 (解雇手続が必要となる) |
日日雇い入れられる者 | 1ヵ月を超えて引き続き使用された場合 |
2ヵ月以内の期間を定めて使用される者 | 所定の期間を超えて引き続き使用された場合 |
季節的業務に4ヵ月以内の期間を定めて使用される者 | 所定の期間を超えて引き続き使用された場合 |
試の使用期間中の者 | 14日を超えて引き続き使用された場合 |
「所定の期間を超えて引き続き使用された場合」とは、当初の労働契約などで定めた契約期間の満了後も、契約の更新などによって引き続き使用されている場合をいいます。
また、「試の試用期間中の者」については、就業規則などで定められている試用期間の長さとは関係なく、14日を超えて引き続き使用される場合には、解雇の手続が必要となります。
例えば、試用期間を3ヵ月と定めている会社で、本採用をせず、試用期間満了をもって退職する場合には、14日を超えているため解雇手続が必要となります(昭和24年5月14日基収1498号)。
試用期間の満了による解雇については、次の記事をご覧ください。
【労務トラブル】試用期間満了による本採用拒否(解雇)|会社のリスクと対応策を解説