年次有給休暇の出勤率(8割)の算定方法(出勤日数÷全労働日)を解説
- 1. 年次有給休暇の権利の発生要件
- 1.1. 年次有給休暇とは
- 1.2. 年次有給休暇の権利の発生要件
- 2. 「6ヵ月間の継続勤務」に関する要件(在籍要件)
- 2.1.1. 休職期間、病欠期間
- 2.1.2. 労働組合の専従期間
- 2.1.3. 会社の合併
- 2.1.4. パート・アルバイトなど短期の雇用契約
- 2.1.5. 定年後の再雇用
- 3. 「全労働日の8割以上出勤」に関する要件(出勤率要件)
- 3.1. 「全労働日」とは
- 3.2. 出勤率の算定
- 4. 「全労働日」に含まない日
- 5. 出勤したものとみなす日(産前産後休業・育児休業など)
- 5.1. 出勤したものとみなす日
- 5.2. 出勤したものとみなされない日
- 5.2.1. 生理休暇
- 5.2.2. 子の看護休暇・介護休暇
- 5.2.3. 特別休暇
- 6. その他の留意点
- 6.1. 精皆勤手当、賞与の査定
- 6.2. 出勤率が8割未満だった場合の取り扱い
年次有給休暇の権利の発生要件
年次有給休暇とは
「年次有給休暇」とは、労働契約上、本来は従業員が労働義務を負う日(就業日)であるものの、従業員の法律上の権利として、賃金を保障されたうえで休暇を取得する(=労働義務を免除される)ことを認める制度をいいます。
年次有給休暇の権利の発生要件
年次有給休暇は、法律上、従業員が雇入れの日(入社日)から6ヵ月間(次年度以降は1年間)継続して勤務し、かつ、その期間中の全労働日の8割以上を出勤することによって、その権利が発生します(労働基準法第39条第1項)。
年次有給休暇の権利の発生要件
- 雇入れの日から6ヵ月間(次年度以降は1年間)、継続して勤務すること(在籍要件)
- 全労働日の8割以上出勤すること(出勤率要件)
なお、年次有給休暇の権利は、上記の要件を充足することによって、法律上当然に発生するものであり、従業員の請求を待って生ずるものではないと解されています(白石営林署事件/最高裁判所昭和48年3月2日判決)。
「6ヵ月間の継続勤務」に関する要件(在籍要件)
「継続勤務」とは、労働契約が存続している期間であり、「在籍期間」を意味します。
継続勤務に該当するかどうかは、勤務の実態に即して、実質的に判断すべきものと解されており、例えば、形式上は労働関係が終了し、別の労働契約が成立している場合であっても、前後の契約を通じて、実質的に労働関係が継続していると認められる限りは、継続勤務に該当します。
休職期間、病欠期間
会社の就業規則に基づく休職期間(私傷病休職など)や、長期の病欠期間などは、継続勤務として通算されます。
労働組合の専従期間
従業員が労働組合活動に専従する期間は、継続勤務として通算されます。
会社の合併
会社の合併により、事業の実態が継続するときは、継続勤務として通算されます。
パート・アルバイトなど短期の雇用契約
パート・アルバイトなどの従業員で、6ヵ月未満の短期の雇用契約を締結している場合であっても、当該契約を更新することにより、結果的に6ヵ月以上引き続き雇用されるときは、継続勤務として通算されます(昭和63年3月14日基発150号)。
また、パート・アルバイトなどの従業員を、正規の従業員(正社員)に切り替えた場合も同様に、継続勤務として通算されます。
定年後の再雇用
定年退職によって退職した者を、引き続き嘱託社員などとして再雇用している場合は、継続勤務として通算されます。
このことは、社内規程に基づき、会社から既に退職手当が支給されている場合も、同様です。
ただし、行政解釈では、退職と再雇用との間に相当期間が空いており、客観的に労働関係が途切れていると認められる場合は、この限りでないとしています(昭和63年3月14日基発150号)。
「全労働日の8割以上出勤」に関する要件(出勤率要件)
「全労働日」とは
「全労働日」とは、労働契約により、労働義務のあるすべての日をいいます。
基本的には、6ヵ月(次年度以降は1年)の間における総暦日数から、会社の所定休日を除いた日数が、全労働日となります(昭和63年3月14日基発150号)。
なお、「所定休日」とは、就業規則や雇用契約書によって定められている、労働契約上の休日をいいます。
全労働日の算定
全労働日=6ヵ月(次年度以降は1年)の総暦日数-会社の所定休日
所定休日を控除した日をもって全労働日を算定することから、「全労働日」には、休日労働をした日は含まれないことに留意する必要があります(昭和63年3月14日基発150号)。
出勤率の算定
年次有給休暇は、全労働日のうち、8割(80%)以上出勤することが要件とされています。
出勤率が8割以上であることという年次有給休暇権の成立要件は、法の制定時の状況などを踏まえ、従業員の責めに帰すべき事由による欠勤率が特に高い者を、その対象から除外する趣旨で定められたものと解されています(八千代交通事件/最高裁判所平成25年6月6日判決)。
基本的には、次のように、出勤日数を全労働日で割ることによって、出勤率を算定します。
出勤率の算定
出勤率=出勤日数(出勤したものとみなす日を含む)÷全労働日(全労働日から除外する日を除く)
「出勤日数」には、休日出勤した日は除きますが、遅刻・早退した日は含めることに留意する必要があります。
出勤率の計算例は、次のとおりです。
出勤率の計算例
【事例】
- 入社日…4月1日
- 最初の年次有給休暇の付与日(基準日)…10月1日
- 6ヵ月の間の全労働日…120日
- 6ヵ月の間に出勤した日数…110日(10日は病気により欠勤した)
【出勤率】
出勤率=110日÷120日≒91.666…%
∴91.666…%>80%であることから、年次有給休暇の権利が発生する
「全労働日」に含まない日
次の日については、労使間の衡平の観点からみて、出勤日数に算入するのが相当ではないことから、「全労働日」に含まれないものとされています(平成25年7月10日基発0710第3号)
全労働日に含まない日
- 不可抗力による休業日
- 使用者側に起因する経営、管理上の障害による休業日
- 正当な同盟罷業その他正当な争議行為により労務の提供が全くなされなかった日
- 代替休暇を取得し、終日出勤しなかった日(平成21年5月29日基発0529001号)(※)
- 所定の休日に労働した日
なお、従業員の責めに帰すべき事由によるとはいえない不就労日は、上記に該当する場合を除き、出勤率の算定に当たっては、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものとされています。
行政通達では、例えば、裁判所の判決により解雇が無効と確定した場合(八千代交通事件/最高裁判所平成25年6月6日判決)や、労働委員会による救済命令を受けて会社が解雇の取消しを行った場合の解雇日から復職日までの不就労日のように、従業員が会社から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日が考えられるとされています。
(※)「代替休暇」とは、法定時間外労働が1ヵ月あたり60時間を超えた場合に、その超える時間に対する割増賃金(割増率が50%になる部分)の一部の支払いに代えて、相当の休暇を与えることにより、割増賃金の支払いを免れることができる制度です(労働基準法第37条第3項)。
代替休暇を取得した日については、法律の定める手続によって、従業員が労働義務を免除された日であることから、全労働日に含まないとされています。
出勤したものとみなす日(産前産後休業・育児休業など)
出勤したものとみなす日
従業員が次の事由によって出勤しなかった場合であっても、当該日については出勤したものとみなして出勤率を算定する必要があります(労働基準法第39条第10項)。
出勤したものとみなす日
- 業務上の傷病による療養休業期間
- 育児休業期間
- 介護休業期間
- 産前産後休業期間(※)
- 年次有給休暇を取得して、休んだ期間
- 裁判所の判決により解雇が無効と確定した期間(八千代交通事件/最高裁判所平成25年6月6日判決)
(※)6週間以内に出産する予定の女性が、労働基準法第65条に基づき産前休業をしたところ、予定の出産日より遅れて分娩し、結果的には産前6週間を超えて休業したときであっても、休業期間はすべて出勤したものとみなされます(昭和23年7月31日基収2675号)。
出勤したものとみなされない日
次の日については、出勤率の算定において、出勤したものとみなす必要はありません。
ただし、就業規則などによって、これと異なる定めをすることは問題ありません。
生理休暇
生理日の就業が著しく困難な女性従業員は、休暇を請求することができますが(労働基準法第68条)、当該休暇を取得した日は、年次有給休暇の出勤率の算定において、出勤したものとみなされません(昭和23年7月31日基収2675号)。
子の看護休暇・介護休暇
小学校に就学する前の子を養育する従業員は、育児介護休業法に基づき、子の看護のために休暇(子の看護休暇)を請求することができます(育児・介護休業法第16条の2)。
また、病気やケガ、高齢といった理由で要介護状態になった家族の介護や世話をする従業員は、その介護のための休暇(介護休業)を請求することができます(育児・介護休業法第16条の5)。
子の看護休暇、介護休暇は、いずれも年次有給休暇の出勤率の算定において、出勤したものとみなされません。
特別休暇
法定の休暇以外に、会社が福利厚生的に独自に定める休暇として、慶弔休暇、夏季休暇、私傷病休暇などがありますが、これらを年次有給休暇の出勤率の算定において、出勤したものとみなすかどうかは、就業規則の定めによります。
その他の留意点
精皆勤手当、賞与の査定
出勤率は、あくまでも年次有給休暇の権利の発生にかかる基準であることから、例えば、会社で支給される精皆勤手当について、独自の出勤率要件を定めることや、賞与の査定において、出勤率に応じて賞与額を決定することは問題ありません。
ただし、行政解釈では、労働基準法の趣旨を逸脱しないように留意する必要があり、年次有給休暇を取得した場合に精皆勤手当を不支給にするなど、年次有給休暇の取得の抑制につながる取り扱いはすべきでないとされています(昭和63年1月1日基発1号)。
出勤率が8割未満だった場合の取り扱い
過去6ヵ月間(次年度以降は1年間)の出勤率が8割に満たなければ、その後の1年間の年次有給休暇は付与されません。
ただし、継続勤務期間を把握するにあたっては、当該期間(出勤率が8割未満だった期間)も算入されます(平成6年1月4日基発1号)。