【労働基準法の改正履歴】過去11年間の法改正の内容(履歴)を整理して解説

はじめに

労働条件の最低基準を定める法律として、「労働基準法」があります。

労働基準法は、改正が頻繁に行われるものではありませんが、改正があった場合には、労務管理における重要度が比較的高く、対応漏れによるリスクが生じることがあります。

したがって、労務管理においては、過去の法改正の内容を把握しておき、対応漏れが生じていないかどうか、適宜確認しておくことが必要です。

本稿では、2013(平成25)年4月1日から、現在(2024(令和6)年4月1日時点で施行済みの法律)に至るまでの、過去11年間の法改正の内容を整理して解説します(なお、労働基準法施行規則、主要通達の改正を含みます)。

2013(平成25)年4月1日改正

2013(平成25)年4月1日改正

  • 有期労働契約の更新基準の明示義務

法改正により、有期労働契約であって、契約期間の満了後に労働契約を更新する可能性がある労働契約を締結する場合には、労働条件通知書において、「期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項」を明示しなければならない(例えば、契約期間満了時の業務量により判断する、労働者の勤務成績、態度により判断するなど)こととされました(労働基準法施行規則第5条第1項)。

2017(平成29)年1月20日改正

2017(平成29)年1月20日改正

  • 労働時間の適正把握のためのガイドラインの策定

使用者が、労働者の労働時間を適正に把握するために講ずべき措置の具体的内容を明らかにするために、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が策定されました

同ガイドラインは、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」(平成13年4月6日基発339号、通称「ヨンロク通達」)に代わるものとして策定され、同ガイドラインの策定に伴って、同基準は廃止されました。

2019年(平成31)4月1日改正

2019年(平成31)4月1日改正

  • 時間外労働の上限規制(特別条項)
  • 年次有給休暇の取得義務(年5日)
  • 高度プロフェッショナル制度の創設
  • フレックスタイム制の拡充
  • 労働条件の明示方法の追加

時間外労働の上限規制(特別条項)

改正前は、36協定において特別条項を適用する場合(時間外労働が月45時間・年360時間を超える場合)の上限時間については、労使間の合意に基づき決定することができたため、実質的には、何時間でも(青天井で)協定することが可能でした。

法改正により、特別条項を適用する場合には、次のとおり上限時間が定められました

時間外労働の上限規制(特別条項)

  • 月100時間未満(休日労働を含む)
  • 2~6ヵ月平均月80時間以内(休日労働を含む)
  • 年720時間以内
  • 特別条項の適用は年に6回(6ヵ月)まで

年次有給休暇の取得義務(年5日)

法改正により、使用者に対し、原則として、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年5日の年次有給休暇を取得させることが義務付けられました(労働基準法第39条第7項)。

高度プロフェッショナル制度の創設

法改正により、「高度プロフェッショナル制度」が創設され、高度の専門的知識等を有し、職務の範囲が明確で一定の年収要件を満たす労働者を対象として、労使委員会の決議、労働者本人の同意、休日確保措置および健康・福祉確保措置などを講ずるなどの要件を満たすことにより、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日および深夜の割増賃金に関する規定を適用しないことができることとされました(労働基準法第41条の2)。

フレックスタイム制の拡充

法改正により、フレックスタイム制について、より柔軟な働き方の選択を可能にするため、清算期間が、1ヵ月から3ヵ月に延長されました(労働基準法第32条の3第1項第2号)。

労働条件の明示方法の追加

労働契約を締結する際における労働者への労働条件の明示方法について、改正前は、明示方法は、書面の交付に限られていましたが、法改正により、労働者が希望した場合には、FAX、電子メール、またはSNSなどによって明示することができるようになりました(労働基準法施行規則第5条第4項)。

2020(令和2)年4月1日改正

2020(令和2)年4月1日改正

  • 賃金請求権の消滅時効期間の延長

改正前は、賃金の請求期間(消滅時効期間)については2年とされていましたが、法改正により、これを5年に延長するとともに、当分の間、当該期間は「3年」とされました。

2023(令和5)年4月1日改正

2023(令和5)年4月1日改正

  • 中小企業の割増賃金率の引き上げ
  • デジタルマネー(電子マネー)による賃金の支払い

中小企業の割増賃金率の引き上げ

法改正より、中小企業の使用者は、1ヵ月60時間を超える時間外労働に対して、50%以上の割増率で計算した割増賃金を支払う義務が適用されることとなりました(労働基準法第37条第1項)。

大企業においては、2010(平成22)年4月1日の法改正により、すでに当該法律が適用されていましたが、中小企業においては、その適用が猶予されていた経緯がありました。

デジタルマネー(電子マネー)による賃金の支払い

一般に、使用者から労働者に対する賃金の支払いは、労働者の指定する銀行口座に振り込むことによって行われていますが、法改正により、一定の要件を満たす場合には、賃金をデジタルマネー(電子マネー)で支払うことが認められることとなりました(労働基準法施行規則第7条の2第1項第3号)。

なお、審査基準を満たし、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者(指定資金移動業者)についてのみ、デジタルマネーによる賃金を取り扱うことが認められます。

2024(令和6)年4月1日改正

2024(令和6)年4月1日改正

  • 労働条件通知書の明示事項の追加
  • 専門業務型裁量労働制の改正
  • 企画業務型裁量労働制の改正
  • 時間外労働の上限規制の適用(医師・建設業・運送業)

労働条件通知書の明示事項の追加

使用者と労働者との間の労働契約関係を明確にすることを目的として、法改正によって、次のとおり、労働条件を通知する際の明示事項および説明事項が追加されました。

 対象者対応する時期法改正前の明示事項法改正後の明示事項
すべての労働者労働契約の締結時・更新時・「雇入れ直後」の就業場所および従事する業務(平成11年1月29日基発45号)・同左
就業場所および業務の「変更の範囲」(※1、※2)
有期契約の労働者有期労働契約の締結時・更新時・有期労働契約を更新する場合の基準・同左
更新上限の有無と内容(※3、※4)
・(変更時・更新時)更新上限を新設・短縮する場合は、その理由
有期契約の労働者有期労働契約の更新時(無期転換申込権が発生する場合)無期転換の申込に関する事項(※5、※6)
・無期転換後の労働条件
・待遇の均衡を考慮した事項(努力義務)(※7)

(※1)「変更の範囲」とは、将来の配置転換や人事異動などによって変わり得る、就業場所および業務の範囲をいう。

(※2)労働基準法施行規則第5条第1項第一号の三

(※3)例えば、「更新回数は2回までとする」、「通算契約期間は3年までとする」などと記載する。

(※4)労働基準法施行規則第5条第1項第一号の二

(※5)「無期転換の申し込みに関する事項」とは、例えば、労働者が無期転換申込権を行使する際の申込期限や、申し込んだ場合の転換時期、申込手続などが考えられる。

(※6)労働基準法施行規則第5条第5項

(※7)有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準第5条

専門業務型裁量労働制の改正

対象業務の拡大

改正前は、専門業務型裁量労働制は、19の業務に限り、導入することができましたが、法改正により、専門業務型裁量労働制を適用できる対象業務として、「銀行または証券会社における、顧客の合併・買収に関する調査または分析、およびこれに基づく合併・買収に関する考案および助言の業務」が追加されました(これにより、20の業務が対象となりました)(令和5年3月30日厚生労働省告示第115号)。

労使協定事項の追加(本人の同意)

法改正により、労使協定の協定事項に加えて、次の事項が追加されました(労働基準法施行規則第24条の2の2第3項)。

法改正により追加された協定事項

  1. 制度の適用に当たって労働者本人の同意を得ること
  2. 制度の適用に同意をしなかった労働者に対して、解雇その他不利益な取り扱いをしてはならないこと
  3. 1.の同意の撤回に関する手続
  4. 1.の同意およびその撤回に関する労働者ごとの記録を、協定の有効期間中および当該有効期間の満了後3年間保存すること

健康・福祉を確保するための措置の拡充

法改正により、制度を適用する労働者の健康・福祉を確保するための措置として、勤務間インターバルの確保、深夜労働の回数制限、労働時間の上限措置(一定の労働時間を超えた場合の制度の適用解除)、一定の労働時間を超える対象労働者への医師の面接指導が追加されました。

企画業務型裁量労働制の改正

企画業務型裁量労働制を適用するためには、労使委員会において、労使委員会の委員の5分の4以上の多数による議決により、法定の決議事項について決議することが必要です。

法改正により、決議事項について、「制度の適用に関する同意の撤回に関する手続」および「対象となる労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合には、労使委員会に変更内容の説明を行うこと」などが追加されました(労働基準法施行規則第24条の2の3第3項)。

時間外労働の上限規制の適用(医師・建設業・運送業)

一般の業種については、大企業は2019(令和元)年4月1日から、中小企業は2020(令和2)年4月1日から、上限規制が適用されていますが、医師・建設業・運送業については、2024(令和6)年3月31日まで上限規制の適用が猶予されていました。

そして、2024(令和6)年4月1日以降は、医師・建設業・運送業についても、上限規制が適用されることになりました

なお、原則的な上限時間(月45時間以内・年360時間以内)については、一般の業種と同じですが、特別条項によって、これを超えて働く場合の上限時間については、次のとおり、内容が異なります。

一般の業種医師建設業運送業
・月100時間未満(休日労働を含む)
・2~6ヵ月平均で80時間以内(休日労働を含む)
・年720時間以内
・特別条項の適用は年に6回(6ヵ月)まで
(A水準)
・年960時間以内(休日労働含む)
・月100時間未満(休日労働含む)(例外あり)
(B・C水準)
・年1,860時間以内(休日労働含む)
・月100時間未満(休日労働含む)(例外あり)
一般の業種と同じ
(ただし、災害の復旧・復興の事業については、「月100時間未満」と、「2~6ヵ月平均で80時間以内」の上限を適用しない)
年960時間以内