「高度プロフェッショナル制度」とは?制度の内容(対象業務・対象労働者・要件など)と手続を解説【労働基準法】

「高度プロフェッショナル制度」とは

高度プロフェッショナル制度」とは、法令によって定められた業務について、高度の専門的知識等を有し、一定の収入要件を満たす労働者を対象として適用することができる制度をいい、これにより、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日および深夜の割増賃金に関する規定を適用しないこととする制度をいいます。

高度プロフェッショナル制度は、業務の性質上、労働時間と成果との間の関連性が高くない業務について、自らの裁量をもって業務を遂行する、いわゆるホワイトカラーの労働者を対象とした制度として、2019(平成31)年4月1日に施行されました。

高度プロフェッショナル制度のメリット・デメリット

高度プロフェッショナル制度のメリット

高度プロフェッショナル制度を適用することにより、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日および深夜の割増賃金に関する規定が適用されないことから、使用者にとっては、割増賃金にかかる人件費を抑制できるというメリットがあります。

一方、労働者にとっては、業務を遂行する上で裁量が大きくなり、自分のやり方、ペース配分で働くことができるというメリットがあります。

高度プロフェッショナル制度のデメリット

高度プロフェッショナル制度の適用においては、使用者に対して、時間外労働の規制や、割増賃金の支払いによる労働時間の抑制機能が働かないことから、業務量の増加によって、長時間労働につながりやすいことに留意する必要があります。

長時間労働によって、もし労働者に健康上の問題が生じた場合には、使用者は安全配慮義務に違反するおそれがあり、労使共にリスクを負うというデメリットがあります。

そこで、使用者には、高度プロフェッショナル制度を適用する際には、健康・福祉を確保するための措置を講じることが求められており、制度の適用後においても、常に労働者の労働時間や健康状態などに配慮する必要があります。

高度プロフェッショナル制度の対象となる職種(対象業務)

高度プロフェッショナル制度は、どのような職種や業務についても適用できるものではなく、次の要件をすべて満たす業務に限り、適用することが認められます(労働基準法第41条の2第1項第1号)。

高度プロフェッショナル制度の対象業務

  • 高度の専門的知識等を必要とし、その性質上、従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして、厚生労働省令で定める業務(以下、「対象業務(※1)」といいます)であること
  • 対象業務に従事する時間について、使用者から具体的な指示(※2)を受けて行うものではないこと

「対象業務」の内容(※1)

「対象業務」の内容は、次のとおりです(労働基準法施行規則第34条の2第3項)。

対象業務の内容

  1. 金融工学等の知識を用いて行う金融商品(ファンド)の開発の業務
  2. ①資産運用(指図を含む)の業務または有価証券の売買その他の取引の業務のうち、投資判断に基づく資産運用の業務(いわゆるファンドマネージャーの業務)、②投資判断に基づく資産運用として行う有価証券の売買その他の取引の業務(いわゆるトレーダーの業務)、③投資判断に基づき自己の計算において行う有価証券の売買その他の取引の業務(いわゆるディーラーの業務)
  3. 有価証券市場における相場等の動向または有価証券の価値等の分析、評価またはこれに基づく投資に関する助言の業務
  4. 顧客の事業の運営に関する重要な事項についての調査または分析、およびこれに基づく当該事項に関する考案または助言の業務(いわゆるコンサルタントの業務)
  5. 新たな技術、商品または役務の研究開発の業務

上記の対象業務は、業務に関する語句(例えば、「研究」や「開発」など)をその名称に含む部署(例えば、「研究開発部」など)において行われる業務の全てが対象業務に該当するものではなく、あくまでも制度を適用する対象労働者が従事する業務内容によって判断する必要があります。

「具体的な指示」とは(※2)

対象業務は、対象労働者が働く時間帯や時間配分について、自ら決定できる広範な裁量が対象労働者に認められている業務である必要があり、使用者から具体的な指示を受けて行うものではないことが必要です。

「具体的な指示」とは、対象労働者から対象業務に従事する時間に関する裁量を失わせるような指示をいい、明確な指示・命令はもちろん、実質的に業務に従事する時間に関する指示と認められる指示についても、「具体的な指示」に含まれます。

「具体的な指示」として、例えば、次のような指示が挙げられます。

時間に関する「具体的な指示」の例

  • 出勤時間(始業・終業時刻)の指定や、深夜労働や休日労働命令など、労働時間に関する業務命令や指示をすること
  • 対象労働者の働く時間帯の選択や時間配分に関する裁量を失わせるような、成果・業務量の要求や、納期・期限を設定すること
  • 業務量に比べて著しく短い期限の設定など、実質的に業務に従事する時間に関する指示をすること
  • 特定の日時を指定して会議に出席することを一方的に義務付けること
  • 作業工程、作業手順などの日々のスケジュールに関する指示をすること

なお、業務の開始時において、当該業務の目的、目標、期限などの基本的事項を指示することや、業務の途中経過の報告を受けつつ、基本的事項について所要の変更の指示をすることは問題ないと解されます。

高度プロフェッショナル制度の対象労働者

高度プロフェッショナル制度を適用する対象労働者は、次の要件をすべて満たす者である必要があります(労働基準法第41条の2第1項第2号)。

また、対象労働者の範囲は、労使委員会の決議によって、明らかにする必要があります(後述)。

対象労働者の要件

  1. 使用者との間の合意(※1)に基づき、職務が明確に定められている(※2)こと
  2. 使用者から支払われる見込賃金額が、年収額として「1,075万円以上であること(※3)

(※1)使用者との合意

使用者との合意は、①業務の内容、②責任の程度、③職務において求められる成果を、書面(職務記述書)にて明らかにした上で、その書面に対象労働者の署名を受けることにより行う必要があります(労働基準法施行規則第34条の2第4項)。

(※2)職務の明確性

対象労働者の職務の内容と、それ以外の職務の内容との区別が客観的になされており、かつ、対象労働者が対象業務に常態として従事していることが必要とされています。

したがって、対象業務以外の業務にも常態として従事している場合は、対象労働者とはなりません。

(※3)収入要件

対象労働者の賃金は、「基準年間平均給与額の3倍の額を相当程度上回る水準として、厚生労働省令で定める額以上」である必要があり、法令により、年収額として1,075万円以上である必要があるとされています(労働基準法施行規則第34条の2第6項)。

高度プロフェッショナル制度を適用するための手続

高度プロフェッショナル制度を適用するためには、次の手続が必要となります(労働基準法第41条の2第1項)。

高度プロフェッショナル制度の適用手続

  1. 労使委員会を設置し、運営に関する規程を作成すること【手続1】
  2. 労使委員会の委員の5分の4以上の多数による議決により、法定の決議事項について決議すること【手続2】
  3. 労使委員会の決議を管轄の労働基準監督署に届け出ること【手続3】
  4. 対象労働者の同意を得ること【手続4】
  5. 制度の運用状況を、管轄の労働基準監督署に定期的に報告すること【手続5】

以下、順に解説します。

【手続1】労使委員会の設置・運営規程の作成

労使委員会とは

労使委員会」とは、高度プロフェッショナル制度を適用する事業場において、労働条件(労働時間、賃金など)に関する事項を調査・審議し、使用者に対して意見を述べることを目的として組織される委員会をいいます。

労使委員会は、使用者を代表する委員と、労働者を代表者する委員を構成員として組織されます。

労使委員会の運営規程の作成

労使委員会の運営に関するルールとして、労使委員会の招集、定足数、議事、その他労使委員会の運営に関する事項について、規程を作成する必要があります(労働基準法第41条の2第3項、労働基準法施行規則第24条の2の4第4項)。

なお、規程の作成または変更に当たっては、労使委員会の同意を得ることが必要です(労働基準法施行規則第24条の2の4第5項)。

【手続2】労使委員会による決議

労使委員会による決議

高度プロフェッショナル制度を適用するためには、労使委員会において、委員の5分の4以上の多数による議決により、次の事項について決議することが必要です。

  1. 対象業務
  2. 対象労働者の範囲
  3. 健康管理時間の把握
  4. 休日の確保
  5. 選択的措置
  6. 健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置
  7. 同意の撤回に関する手続
  8. 苦情処理措置
  9. 不利益取り扱いの禁止
  10. その他厚生労働省令で定める事項

1.対象業務

前述の要件を満たす対象業務を決議する必要があります。

2.対象労働者の範囲

前述の要件を満たす対象労働者の範囲を決議する必要があります。

3.健康管理時間の把握

高度プロフェッショナル制度を適用するためには、使用者が対象労働者の健康管理時間を把握する措置を実施すること、および健康管理時間の把握方法を決議で明らかにする必要があります。

「健康管理時間」とは、対象労働者が事業場内にいた時間と、事業場外において労働した時間とを合計した時間をいいます

健康管理時間は、直行直帰による出張など、やむを得ず自己申告による場合を除き、原則として、タイムカードや勤怠管理システムへの記録など、客観的な方法によって把握する必要があります(労働基準法第41条の2第1項第3号、労働基準法施行規則第34条の2第8項)。

4.休日の確保

高度プロフェッショナル制度を適用するためには、対象労働者に対し、年間104日以上、かつ4週間を通じ4日以上の休日を与える必要があります(労働基準法第41条の2第1項第4号)。

また、労使委員会の決議で、休日の取得の手続を具体的に明らかにする必要があります。

5.選択的措置

高度プロフェッショナル制度を適用するためには、次のいずれかに該当する措置を決議で定め、実施する必要があります(労働基準法第41条の2第1項第5号)。

選択的措置の内容

  1. 勤務間インターバルの確保(11時間以上)および深夜業の回数制限(1ヵ月に4回以内)
  2. 健康管理時間の上限措置(1週間40時間を超える健康管理時間について、1ヵ月について100時間以内、または3ヵ月について240時間以内)
  3. 1年に1回以上、連続2週間の休日を与えること(対象労働者が請求した場合は連続1週間を2回以上)
  4. 臨時の健康診断の実施(1週間40時間を超える健康管理時間について、1ヵ月に80時間を超えた対象労働者、または申出があった対象労働者に対して実施する)

6.健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置

高度プロフェッショナル制度を適用するためには、次の措置のうちから決議で定め、実施する必要があります(労働基準法第41条の2第1項第6号)。

健康・福祉確保措置の内容

  1. 決議事項5の「選択的措置」のいずれかの措置(決議事項5において決議で定めたもの以外)
  2. 医師による面接指導
  3. 代償休日または特別休暇の付与
  4. 心とからだの健康問題にかかる相談窓口の設置
  5. 適切な部署への配置転換
  6. 産業医などによる助言指導または保健指導

7.同意の撤回に関する手続

対象労働者の同意の撤回に関する手続として、撤回の申出先となる部署および担当者、撤回の申出方法など、その具体的内容を明らかにして決議をする必要があります(労働基準法第41条の2第1項第7号)。

8.苦情処理措置

対象労働者からの苦情の処理に関する措置を使用者が実施すること、およびその具体的内容として、苦情の申出先となる部署および担当者、取り扱う苦情の範囲、処理の手順、方法など、その具体的内容を明らかにして決議をする必要があります(労働基準法第41条の2第1項第8号)。

9.不利益取り扱いの禁止

制度の適用について同意をしなかった対象労働者に対して、解雇その他不利益な取り扱いをしてはならないことを決議する必要があります(労働基準法第41条の2第1項第9号)。

10.その他厚生労働省令で定める事項

その他、次の事項について決議する必要があります(労働基準法第41条の2第1項第10号)。

  • 決議の有効期間の定め(有効期間は1年とすることが望ましい)
  • 当該決議は再度決議をしない限り更新されないこと
  • 労使委員会の開催頻度および開催時期(労使委員会の開催頻度および開催時期は、少なくとも6ヵ月に1回とし、労働基準監督署への定期報告を行う時期に開催することが必要)
  • 常時50人未満の事業場である場合は、対象労働者の健康管理などを行うために必要な知識を有する医師を選任すること
  • 法令に定める事項について、対象労働者ごとに記録し、当該記録を決議の有効期間中およびその満了後3年間保存すること

【手続3】

対象労働者に高度プロフェッショナル制度を適用するためには、使用者は、労使委員会の決議に従い、対象労働者本人の同意を得る必要があります。

なお、当該同意は、原則として、書面に対象労働者の署名を受けることによって行います。

【手続4】労働基準監督署への届出義務

労使委員会による決議を行った後、当該決議の内容について、所定の様式「高度プロフェッショナル制度に関する決議届(様式第14号の2)」により、事業場を管轄する労働基準監督署に届け出ることが必要です(労働基準法施行規則第34条の2第1項)。

労使委員会の決議の届出は、高度プロフェッショナル制度の効力が発生するための要件であり、使用者がこの届出をしない場合には、制度を適用することができません。

【手続5】労働基準監督署への定期報告の義務

使用者は、労使委員会の決議が行われた日から起算して、6ヵ月以内ごとに1回、所定の様式「高度プロフェッショナル制度に関する報告(様式第14号の3)」により、管轄の労働基準監督署に対して定期的に報告を行う必要があります(労働基準法施行規則第34条の2の2)。