育児・介護休業法が定める「不利益取扱いの禁止」について、通達・指針などを解説

はじめに

育児・介護休業法では、労働者が育児休業の申し出などをしたことを理由として、事業主は不利益な取扱いをしてはならない旨が定められています。

しかし、具体的にどのような行為が不利益な取扱いに該当するかについては、法律には定められていないため、行政通達や指針などを踏まえて判断する必要があります。

本稿では、育児・介護休業法が定める「不利益取扱いの禁止」について解説します。

なお、「不利益取扱いの禁止」の解釈においては、裁判例も参考になります。

裁判例については、次の記事をご覧ください。

【裁判例】「不利益取扱いの禁止」(男女雇用機会均等法、育児・介護休業法)に関する裁判例5選

不利益取扱いの禁止に関する定め

育児・介護休業法では、不利益取扱いの禁止について、次のとおり定めています。

育児・介護休業法における不利益取扱いの禁止

(不利益取扱いの禁止)

第10条 事業主は、労働者が育児休業申出等(育児休業申出及び出生時育児休業申出をいう。以下同じ。)をし、若しくは育児休業をしたこと又は第9条の5第2項の規定による申出若しくは同条第4項の同意をしなかったことその他の同条第2項から第5項までの規定に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない

また、同法では、育児休業の他にも、介護休業、子の看護休暇、介護休暇、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、所定労働時間の短縮等の措置、始業時刻変更等の措置について申し出をし、または制度を利用したことを理由とする解雇その他不利益な取扱いについて禁止しています(育児・介護休業法第16条、第16条の4、第16条の7、第16条の10、第18条の2、第20条の2、第21条第2項、第23条の2)。

「解雇その他不利益な取扱い」とは

「解雇その他不利益な取扱い」とは

妊娠・出産・育児休業等を理由とする不利益取扱いについては、行政通達によって、その解釈が示されています(平成27年1月23日雇児発0123第1号)。

通達では、育児・介護休業法第10条により禁止される「解雇その他不利益な取扱い」とは、労働者が育児休業の申出または取得をしたこととの間に、「因果関係がある行為であること」を示したものであり、育児休業の期間中に行われる解雇等がすべて禁止されるものではないとしています。

そして、「因果関係がある」とは、妊娠・出産・育児休業等の事由を「契機として」不利益取扱いが行われた場合は、原則として妊娠・出産・育児休業等を「理由として」不利益取扱いがなされたものと解され、法違反になるとしています。

「契機として」とは

通達では、「契機として」いるか否かは、基本的に、妊娠・出産・育児休業等の事由と時間的に近接しているかどうかで判断するとしています。

具体的には、原則として、妊娠・出産・育児休業等の事由の終了から「1年以内」に不利益取扱いがなされた場合は、「契機として」いると判断すると解されています(厚生労働省「妊娠・出産・育児休業等を契機とする不利益取扱いに係るQ&A(以下、「厚生労働省Q&A」)問1)。

ただし、事由の終了から1年を超えている場合であっても、実施時期が事前に決まっている、または、ある程度定期的になされる措置(人事異動、人事考課、雇止めなど)については、事由の終了後、最初のタイミングまでの間に不利益取扱いがなされた場合は、「契機として」いるものと判断すべきと解されています。

例外(「解雇その他不利益な取扱い」に該当しない場合)

妊娠・出産・育児休業等を「契機として」いても、次の2つのいずれかに該当する場合には、「解雇その他不利益な取扱い」に該当せず、法違反にはならないものと解されます。

例外的に「解雇その他不利益な取扱い」に該当しない場合

  1. 業務上の必要性がある場合(例外1)
  2. 労働者が同意をしている場合(例外2)

業務上の必要性がある場合(例外1)

妊娠・出産・育児休業等を「契機として」いても、①業務上の必要性から不利益取扱いをせざるを得ず、かつ、②業務上の必要性が、当該不利益取扱いにより受ける影響を上回ると認められる「特段の事情」が存在するときは、例外的に法違反にはならないと解されています(厚生労働省Q&A問2)。

そして、①の、業務上の必要性から不利益取扱いをせざるを得ない状況であるかどうかは、例えば、次の事項を勘案して判断します。

経営状況(業績悪化等)を理由とする場合

経営状況(業績悪化等)を理由とする場合の判断

  • 債務超過や赤字の累積など、不利益取扱いをせざるを得ない事情が生じているか
  • 不利益取扱いを回避するために、真摯かつ合理的な努力(他部門への配置転換等)がなされたか
  • 不利益取扱いが行われる対象者の選定が妥当か(職務経験等による客観的・合理的基準による公正な選定か)

本人の能力不足・成績不良等を理由とする場合

本人の能力不足・成績不良等を理由とする場合の判断

  • 妊娠等の事由の発生以前から能力不足等を問題としていたか
  • 不利益取扱いの内容・程度が、能力不足等の状況と比較して妥当か
  • 同様の状況にある他の(問題のある)労働者に対する取扱いと均衡が図られているか
  • 改善の機会を相当程度与えたか否か(妊娠等の事由の発生以前から、通常の(問題のない)労働者を相当程度上回るような指導がなされていたか)
  • 同様の状況にある他の(問題のある)労働者と同程度の研修・指導等が行われていたか
  • 改善の機会を与えてもなお、改善する見込みがないと言えるか

労働者が同意をしている場合(例外2)

妊娠・出産・育児休業等を「契機として」いても、「労働者が同意している場合で、有利な影響が不利な影響の内容・程度を上回り、事業主から適切に説明がなされるなど、一般的な労働者なら同意するような合理的な理由が客観的に存在するとき」は、例外的に法違反にはならないと解されています(厚生労働省Q&A問3)。

これは、単に当該労働者が同意しただけでは足りず、有利な影響が不利な影響を上回っていて、事業主から適切な説明を受けたなど、当該労働者以外の労働者であっても、合理的な意思決定ができる者であれば、誰しもが同意するような理由が客観的に存在している状況にあることが必要です。

この場合には、そもそも法が禁止する「不利益な取扱い」には当たらないものと解されます。

具体的には、次の事項を勘案して判断します。

労働者が同意をしている場合の判断

  • 事業主から労働者に対して適切な説明が行われ、労働者が十分に理解した上で当該取扱いに応じるかどうかを決めることができたか
  • 説明の際には、不利益取扱いによる直接的な影響だけでなく、間接的な影響についても説明されたか(例えば、降格(直接的影響)に伴う、減給(間接的影響)が生じる場合など)
  • 書面など、労働者が理解しやすい形で明確に説明がなされたか
  • 自由な意思決定を妨げるような説明がなされていないか(例えば、「この段階で退職を決めるなら会社都合の退職という扱いにするが、同意が遅くなると自己都合退職にするので失業給付が減額される」と説明するなど)
  • 契機となった事由や取扱いによる有利な影響(労働者の意向に沿って業務量が軽減されるなど)があって、その有利な影響が不利な影響を上回っているか

「解雇その他不利益な取扱い」となる行為の具体例

「解雇その他不利益な取扱い」となる行為の具体例として、厚生労働省の指針では、例えば、次の行為が該当するとしています(「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針(令和3年9月30日厚生労働省告示第366号)」)。

「解雇その他不利益な取扱い」となる行為の具体例

  • 解雇すること
  • 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと(以下、「雇止め」という)(※1)
  • あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること
  • 退職または労働契約内容の変更(正規雇用労働者を、パートタイム労働者等の非正規雇用労働者とするなど)の強要を行うこと(※2)
  • 自宅待機を命ずること(※3)
  • 労働者が希望する期間を超えて、その意に反して所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、または所定労働時間の短縮措置等を適用すること
  • 降格させること
  • 減給をし、または賞与等において不利益な算定を行うこと(※4)
  • 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと(※5)
  • 不利益な配置の変更を行うこと(※6)
  • 就業環境を害すること(※7)

期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと(※1)

次の場合には、育児・介護休業をしている労働者の雇止めは、不利益取扱いに該当しない可能性が高いと考えられます。

  • 事業縮小や、担当していた業務の終了・中止などにより、育児・介護休業をしている労働者を含め、契約内容や更新回数等に照らして、同様の地位にある労働者の全員を雇止めする場合
  • 事業縮小や、担当していた業務の終了・中止等により、労働者の一部を雇止めする場合であって、能力不足や勤務不良等を理由に、育児・介護休業をしている労働者を雇止めすること(ただし、この場合において、当該能力不足や勤務不良等が、育児・介護休業を取得する以前から問題とされていたことや、育児・介護休業を取得したことのみをもって、当該休業を取得していない者よりも不利に評価したものではないことなどが求められる)

退職または労働契約内容の変更(正規雇用労働者を、パートタイム労働者等の非正規雇用労働者とするなど)の強要を行うこと(※2)

退職勧奨や、正規雇用労働者をパートタイム労働者等の非正規雇用労働者とするような労働契約内容の変更は、表面上は労働者の同意を得ていたとしても、それが労働者の真意に基づくものでないと認められる場合には、「労働契約内容の変更の強要を行うこと」に該当するものと解されます。

自宅待機を命ずること(※3)

事業主が、育児・介護休業の休業終了予定日を超えて休業すること、または子の看護休暇や介護休暇の取得の申出に係る日以外の日に休業することを労働者に強要することは、「自宅待機」に該当するものと解されます。

減給をし、または賞与等において不利益な算定を行うこと(※4)

①育児・介護休業の休業期間中、子の看護休暇・介護休暇を取得した日、または所定労働時間の短縮措置等の適用期間中の現に働かなかった時間について賃金を支払わないこと、②退職金や賞与の算定に当たり、現に勤務した日数を考慮する場合に、休業した期間、休暇を取得した日数、または所定労働時間の短縮措置等の適用により現に短縮された時間の総和に相当する日数を日割りで算定対象期間から控除することなど、専ら当該育児休業等により労務を提供しなかった期間は働かなかったものとして取り扱うことは、不利益な取扱いに該当しないものと解されます。

一方で、休業期間、休暇を取得した日数、または所定労働時間の短縮措置等の適用により現に短縮された時間の総和に相当する日数を超えて働かなかったものとして取り扱うことは、「不利益な算定を行うこと」に該当するものと解されます。

また、実際には労務の不提供が生じていないにもかかわらず、育児休業などの申出をしたことのみをもって、賃金・賞与・退職金を減額することもこれに該当するものと解されます。

昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと(※5)

育児・介護休業をした労働者について、①休業期間を超える一定期間昇進・昇格の選考対象としない人事評価制度とすること、②実際には労務の不提供が生じていないにもかかわらず、育児休業等の申出等をしたことのみをもって、当該育児休業等の申出等をしていない者よりも不利に評価することは、「不利益な評価」に該当するものと解されます。

不利益な配置の変更を行うこと(※6)

配置の変更が不利益な取扱いに該当するか否かについては、配置の変更前後の賃金その他の労働条件、通勤事情、当人の将来に及ぼす影響など、諸般の事情について総合的に比較考量の上、判断すべきものとされています。

例えば、通常の人事異動のルールからは十分に説明できない職務または就業場所の変更を行うことにより、当該労働者に相当程度の経済的または精神的な不利益を生じさせることは、「不利益な配置の変更を行うこと」に該当するものと解されます。

また、所定労働時間の短縮措置の適用について、当該措置の対象となる業務に従事する労働者を、当該措置の適用を受けることの申出をした日から適用終了予定日までの間に、労使協定により当該措置を講じないものとしている業務に転換させることは、「不利益な配置の変更を行うこと」に該当する可能性が高いものと解されます。

就業環境を害すること(※7)

業務に従事させない、専ら雑務に従事させるなどの行為は、「就業環境を害すること」に該当するものと解されます。

違反時の罰則

各都道府県の労働局に設置されている雇用均等室では、育児・介護休業法に関する労働者からの相談を受け付けており、労働者から相談があった場合には、雇用均等室は、会社への事情聴取、資料提出を求めることなどによって事実関係を確認します。

その結果、もし育児・介護休業法に違反すると判断されるケースについては、必要に応じて、会社に対し、「助言」、「指導」または「勧告」がなされ、是正報告が求められます

このとき、会社が正当な理由なく是正報告を行わない場合には、厚生労働大臣名での勧告書が交付されます。

さらに、会社が当該勧告にも従わない場合には、最終的に企業名が公表されることとなります。

また、「解雇その他不利益な取扱い」に該当する法律行為が行われた場合においては、当該行為は民事上無効と解されることがあります。