【裁判例】「不利益取扱いの禁止」(男女雇用機会均等法、育児・介護休業法)に関する裁判例5選

はじめに

男女雇用機会均等法および育児・介護休業法では、労働者が育児休業の申し出などをしたことを理由として、事業主は解雇など、不利益な取扱いをしてはならない旨が定められています。

しかし、具体的にどのような行為が不利益な取扱いに該当するかについては、法律では定められていないため、裁判例などを踏まえて判断する必要があります。

本稿では、男女雇用機会均等法および育児・介護休業法が定める「不利益取扱いの禁止」に関する裁判例を紹介します。

なお、「不利益取扱いの禁止」の解釈においては、行政通達・指針も参考になります。

行政通達・指針については、次の記事をご覧ください。

育児・介護休業法が定める「不利益取扱いの禁止」について、通達・指針などを解説

広島中央保健生活協同組合事件/最高裁判所平成26(2014)年10月23日判決

事案の概要

本事案は、法人に勤務する労働者が、妊娠を機に、妊娠中の軽易業務への転換(労働基準法第65条第3項)を請求したことによって、別部署に異動した際、管理職(副主任)を免ぜられ(降格され)、その後、育児休業を経て、希望により転換前の部署に復職しても、既に後任者がいたことから、副主任に戻されなかったため、降格措置は男女雇用機会均等法に違反し無効だとして、副主任手当の支払い等を求めた事案です。

妊娠中の軽易業務への転換

(労働基準法第65条第3項)

使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。

法律の定め

男女雇用機会均等法第9条第3項では、「事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第65条第1項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第2項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」と定めています。

また、「厚生労働省令で定めるもの」として、同法施行規則第2条の2第6号では、労働基準法第65条第3項の請求に基づく、妊娠中の軽易業務への転換を理由とする不利益取扱いを定めています。

裁判所の判断

男女雇用機会均等法の法的性質

裁判所は、男女雇用機会均等法第9条第3項の規定は、同法の目的、基本的理念を実現するために、これに反する事業主による措置を禁止する強行規定(当事者の意思にかかわりなく適用される規定)として設けられたものであり、妊娠、出産等を理由として解雇その他不利益な取扱いをすることは、同項に違反するものとして違法であり、無効となることを示しました。

判断基準

裁判所は、妊娠中の軽易業務への転換を契機に降格させる事業主の措置は、原則として男女雇用機会均等法第9条第3項が禁止する取扱いに当たるとしつつ、例外的に、次のいずれかの場合は、法違反にならないことを示しました。

例外的に法違反にならない場合

  • 労働者が、自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる、合理的な理由が客観的に存在するとき(①)
  • 事業主において、降格措置をとることなく軽易業務へ転換させることに、円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって、降格措置が同項の趣旨・目的に実質的に反しないと認められる特段の事情が存在するとき(②)

①の、自由な意思に基づく承諾の存否は、当該措置による労働者の利益・不利益、使用者の説明、労働者の意向等に照らして、労働者が降格の影響を十分に理解した上で諾否を決定し得たか否かという観点から判断するとしています。

裁判所は、本事案において、①については、自由な意思に基づく承諾があったとは認めず、②については、特段の事情の存否について審理が尽くされていないとして、控訴審に差し戻しました。

ネギシ事件/東京高等裁判所平成28(2016)年11月24日判決

事案の概要

本事案は、労働者X(原告)が、会社Y(被告)に対し、Yが妊娠中のXに対して行った解雇の意思表示は、Xの妊娠を理由とするものであって、男女雇用機会均等法第9条第3項に違反し、無効であるなどと主張して、雇用契約上の地位を有することの確認および同地位を前提とした賃金等の支払いを求めた事案です。

裁判所の判断

裁判所(第一審)は、解雇理由として指摘する事実は、その事実が認められないか、あるいは、有効な解雇理由にならないとして、解雇を無効としました。

これに対して、Yが控訴したところ、裁判所(第二審)は、妊娠中の解雇でも、解雇理由が相当であるとして、解雇を有効とし、原判決を取り消し、Xの請求を棄却しました。

裁判所が解雇を有効と判断した主な理由は、次のとおりです。

解雇を有効と判断した理由

  • Yは正社員12名、パート12名ほどの小規模な会社であり、検品部門にはそのうち半数の職員が在籍しているところ、Xをこのまま雇用し続ければ、その言葉遣いや態度等により、他の職員らとの軋轢がいっそう悪化し、他の職員らが早退したり退職したりする事態となる。
  • とりわけ検品部門は人数的にも業務的にもYの業務において重要な役割を果たしており、その責任者や他の職員が退職する事態となれば、Yの業務に重大な打撃を与えることになるとY代表者が判断したのも、首肯できるものであると認められる。
  • Yは小規模な会社であり、Xを他の部門に配置換えすることは事実上困難であるから、解雇に代わる有効な代替手段がないことも認められる。
  • Yの代表者は、これまで再三にわたり、Xに対し、言葉遣いや態度等を改めるよう注意し、改めない場合には会社を辞めるしかないと指導、警告してきたにもかかわらず、Xは反省して態度を改めることをしなかったものである。
  • 本件解雇は、妊娠中のXに対してされたものではあるが、Xが妊娠したことを理由としてされたものではないことをYが証明したものといえる(例えば、本件解雇の直前にEの妊娠が発覚したが、Eは以後も雇用が継続されており、Yが妊娠を理由として職員を解雇しようとしていたことは証拠上窺われない)。

シュプリンガー・ジャパン事件/東京地方裁判所平成29(2017)年7月3日判決

事案の概要

本事案は、会社Y(被告)の従業員であった労働者Ⅹ(原告)が、産前産後休業および育児休業を取得した後にYがⅩを解雇したことが、男女雇用機会均等法第9条第3項、および育児・介護休業法第10条に違反し無効であるなどとして、Yに対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と、解雇された後の賃金等の支払いを求めた事案です。

裁判所の判断

解雇に至る経緯からすれば、Yは、本件解雇は妊娠等に近接して行われており(Yが復職の申出に応じず、退職の合意が不成立となった挙句、解雇したという経緯からすれば、育児休業終了後8ヵ月が経過していても時間的に近接しているとの評価を妨げない)、かつ、客観的に合理的な理由を欠いており、社会通念上相当であるとは認められないことを、少なくとも当然に認識するべきであったとみることができるから、男女雇用機会均等法第9条第3項および育児・介護休業法第10条に違反し、少なくともその趣旨に反したものであって、本件解雇は無効というべきであると判断しました。

裁判所が解雇を無効と判断した主な理由は、次のとおりです。

解雇を無効と判断した理由

  • 事業主が解雇をするに際し、形式上、妊娠等以外の理由を示しさえすれば、男女雇用機会均等法および育児・介護休業法の保護が及ばないとしたのでは、当該規定の実質的な意義は大きく削がれることになる。
  • もちろん、男女雇用機会均等法および育児・介護休業法とされずとも、労働契約法第16条違反と判断されれば解雇の効力は否定され、結果として労働者の救済は図られ得るにせよ、男女雇用機会均等法および育児・介護休業法の各規定をもってしても、妊娠等を実質的な、あるいは、隠れた理由とする解雇に対して何らの歯止めにもならないとすれば、労働者はそうした解雇を争わざるを得ないことなどにより、大きな負担を強いられることは避けられない。
  • 事業主において、外形上、妊娠等以外の解雇事由を主張しているが、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないことを認識しており、あるいは、これを当然に認識すべき場合において、妊娠等と近接して解雇が行われたときは、男女雇用機会均等法第9条第3項および育児・介護休業法第10条と実質的に同一の規範に違反したものとみることができるから、このような解雇は、これらの各規定に反しており、少なくともその趣旨に反した違法なものと解するのが相当である。

フーズシステムほか事件/東京地方裁判所平成30(2018)年7月5日判決

事案の概要

本事案は、Y1(被告)に期間の定めなく雇用され、事務統括という役職にあったⅩ(原告)が、育児のために所定労働時間の短縮を申し出たところ、Yの取締役であるY2(被告)およびYの従業員から、意に反する降格や退職強要等を受けた上、有期雇用契約への転換を強いられ、最終的に解雇(雇止め)されたため、自身の妊娠、出産を契機として行われた降格、有期雇用契約への転換および解雇がいずれも無効であるとして、Y1に対し事務統括としての雇用契約上の権利を有する地位にあること、および賃金等の支払いを求めた事案です。

裁判所の判断

育児・介護休業法第23条の2の対象は、事業主による不利益な取扱いであるから、当該労働者と事業主との合意に基づき労働条件を不利益に変更したような場合には、事業主単独の一方的な措置により労働者を不利益に取扱ったものではないから、直ちに違法、無効であるとはいえない

ただし、労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており、当該合意は、もともと所定労働時間の短縮の申出という使用者の利益とは必ずしも一致しない場面においてされる労働者と使用者の合意であり、かつ、労働者は自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があることに照らせば、当該合意の成立および有効性についての判断は慎重にされるべきである。

そうすると、所定労働時間の短縮の申出に際してなされた労働者に不利益な内容を含む使用者と労働者の合意が有効に成立したというためには、当該合意により労働者にもたらされる不利益の内容および程度、労働者が当該合意をするに至った経緯およびその態様、当該合意に先立つ労働者への情報提供または説明の内容等を総合考慮し、当該合意が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要であるというべきである。

裁判所が有期雇用契約への転換を無効と判断した主な理由は、次のとおりです。

有期雇用契約への転換を無効と判断した理由

  • ⅩとY1とのパート契約の締結は、Ⅹに対して従前の雇用契約に基づく労働条件と比較して相当大きな不利益を与えるものであること。
  • Y2は、Ⅹに対し、経営状況を詳しく説明したことはなかったこと。
  • Y2は、Ⅹに対し、勤務時間を短くするためにはパート社員になるしかないと説明したのみで、嘱託社員のまま時短勤務にできない理由についてそれ以上の説明をしなかったものの、実際には嘱託社員のままでも時短勤務は可能であったこと。
  • パート契約の締結により、事務統括手当の不支給等の経済的不利益が生ずることについて、Y1から十分な説明を受けたと認めるに足りる証拠はないこと。
  • Ⅹは、第1子の出産により他の従業員に迷惑をかけているとの気兼ねなどから同契約の締結に至ったことなどの事情を総合考慮すると、パート契約がⅩの自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在すると認めることはできず、パート契約への変更は無効であること。

ジャパンビジネスラボ事件/東京高等裁判所令和元(2019)年11月28日判決

事案の概要

語学スクールを運営する会社Y(被告)と、期間の定めのない労働契約である正社員契約を締結し勤務していた労働者X(原告)が、出産後、育児休業を取得し、子を預けられる保育園がなく育児休業の期間を1年6ヵ月まで延長した後、なお育児休業終了日までに保育園が決まらなかった事情の下で、育児休業終了日にYとの間で、期間1年、1週間3日勤務の契約社員契約とする合意をして復職し、1年後に期間満了により雇止めとされたことから、契約社員契約に関する合意によって、正社員契約は解約されておらず、または、仮に合意が正社員契約を解約する合意であったとしても、当該合意は男女雇用機会均等法および育児・介護休業法に違反することなどを主張し、正社員としての労働契約上の地位確認および未払賃金等の支払いを求めた事案です。

裁判所の判断

裁判所は、Yによる雇止めには客観的に合理的な理由が十分にあるとはいえず、社会通念上やむを得ないものと解するには足りないとした原審判断を変更し、雇止めは客観的に合理的な理由を有し、社会通念上相当であり、契約社員契約が期間満了により終了したとして、Xの請求を棄却しました。

雇止めを有効と判断した理由

  • YとXとが取り交わした雇用契約書の記載から、雇用形態のうち、「契約社員(1年更新)」が選択され、Xは契約社員として期間を1年更新とする有期労働契約を締結したものであるから、これにより、正社員契約を解約したものと認められ、合意には、労働者の自由な意思に基づいてしたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するものといえる。
  • したがって、男女雇用機会均等法第9条および育児・介護休業法第10条の「不利益な取扱い」には当たらず、また、合意に至る経緯、Yによる雇用形態等の説明に照らし、当該合意は、労働者の自由な意思に基づいてされたものと認める合理的な理由が客観的に存在し、合意に錯誤はなく、Xが正社員への復帰を希望することを停止条件とする無期労働契約の締結を含むものではなく、契約社員が正社員に戻ることを希望した場合に、速やかに正社員に復帰させる合意があったとはいえない
  • XはY代表者の命令に反し、執務室における録音を繰り返し、マスコミ等の外部関係者らに対し、あえて事実と異なる情報を提供し、Yの名誉、信用等を毀損するおそれがある行為に及び、Yとの信頼関係を破壊する行為に終始している。