未払い賃金にかかる「遅延損害金(遅延利息)」の利率や計算方法などを解説
- 1. はじめに
- 2. 未払い賃金が生じる場合の例
- 2.1. 未払い賃金が生じる場合の例
- 2.2. 未払い賃金の時効
- 3. 未払い賃金に対する遅延損害金(遅延利息)の内容
- 4. 労働者が在職している期間の遅延損害金(遅延利息)(民法)
- 4.1. 民法が定める法定利率
- 4.2. 遅延損害金(遅延利息)の発生時期
- 4.3. 法定利率の見直し
- 5. 労働者が退職した後の期間の遅延損害金(遅延利息)(賃金の支払の確保等に関する法律)
- 5.1. 賃金の支払の確保等に関する法律が定める遅延損害金(遅延利息)
- 5.2. 遅延損害金(遅延利息)の発生時期
- 5.3. 遅延損害金(遅延利息)が生じない場合(例外)
- 6. 計算例
- 6.1.1. 退職日までの期間にかかる遅延損害金(遅延利息)
- 6.1.2. 退職日の翌日から支払い日までの期間にかかる遅延損害金(遅延利息)
- 6.1.3. 遅延損害金(遅延利息)の合計額
はじめに
労務管理においては、給与の計算ミスや残業代の支払い漏れなど、様々な要因によって、賃金の未払いが生じることがあります。
未払い賃金については、法律上、その支払いが遅れた期間(本来の支払日の翌日から、実際の支払日までの日数)に応じて、遅延損害金(遅延利息)が生じることから、その利率や計算方法などを適切に理解しておく必要があります。
本稿では、法律が定める未払い賃金にかかる遅延損害金(遅延利息)の利率や計算方法などを解説します。
未払い賃金が生じる場合の例
未払い賃金が生じる場合の例
労務管理においては、例えば、次のような場合に未払い賃金が生じることがあります。
未払い賃金が生じる場合の例
- 給与の計算ミス(人為的な計算間違いなど)
- 昇給・昇格などの未反映
- 手当の未反映(支給要件を満たしているにも関わらず、手当の額に反映していないなど)
- 残業代(割増賃金)の支払い漏れ(残業時間を適切に把握していない、法令に従って適正に計算を行っていないなど)
未払い賃金の時効
従業員が会社に対して賃金を請求する権利(賃金請求権)には、時効(消滅時効)があり、その期間は、法律上、5年と定められていますが、当分の間は「3年」とされています(なお、退職手当の時効は5年)(労働基準法第115条、第143条第3項)。
なお、2020(令和2)年4月1日の労働基準法の改正前は、賃金請求権の時効は2年と定められていましたが、法改正により、時効が実質的に1年延長された経緯があります。
また、時効期間のカウントを始める日のことを、「(時効の)起算日」といいますが、賃金請求権の時効の起算日は、「賃金の支払日(いわゆる給料日)の翌日」とされています(労働した日や、給与の締め日などではありません)(労働基準法第115条)。
月給制の場合、賃金の支払日は毎月訪れますので、各月の賃金の支払日から、それぞれの賃金の時効をカウントします。
未払い賃金に対する遅延損害金(遅延利息)の内容
未払い賃金に対しては、法律に基づき、支払いが遅れた日数に応じて遅延損害金(遅延利息)を支払う必要がありますが、タイミングによって、適用される法律および利率が次のとおり異なります。
【未払い賃金に対する遅延損害金(遅延利息)】
労働者の在職中の遅延損害金(遅延利息) | 労働者の退職後の遅延損害金(遅延利息) | |
適用される期間 | 本来の賃金支払日の翌日から退職日まで | 退職日の翌日から未払い賃金の支払日まで |
適用される法律 | 民法 | 賃金の支払の確保等に関する法律 |
法定利率 | 年3% | 年14.6% |
上記を踏まえ、未払い賃金に対する遅延損害金(遅延利息)は、次の計算式によって算出します。
遅延損害金(遅延利息)の計算式
【労働者の在職中の遅延損害金(遅延利息)】
未払い賃金の額×3%×本来の賃金支払日の翌日から未払い賃金の支払日まで(支払日時点ですでに退職している場合は、退職日まで)の日数÷365日(※)
【労働者の退職後の遅延損害金(遅延利息)】
未払い賃金の額×14.6%×退職日の翌日から未払い賃金の支払日までの日数÷365日(※)
(※)閏年の場合は366日
以下、順に解説します。
労働者が在職している期間の遅延損害金(遅延利息)(民法)
民法が定める法定利率
労働者が在職している期間においては、未払い賃金にかかる遅延損害金(遅延利息)の利率は、民法が定める法定利率に基づき、「年3%」で計算します(民法第404条)。
民法
(法定利率)
第404条 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。
2 法定利率は、年3パーセントとする。
3 前項の規定にかかわらず、法定利率は、法務省令で定めるところにより、3年を一期とし、一期ごとに、次項の規定により変動するものとする。
(以下、省略)
遅延損害金(遅延利息)の発生時期
遅延損害金(遅延利息)は、本来の賃金支払日の翌日から、発生します。
例えば、就業規則や雇用契約書において、賃金の支払日について「給与は毎月末日に支払う」と定めている場合には、その翌日である翌月1日から起算し、未払い賃金の実際の支払日までの日数に応じて遅延損害金(遅延利息)を計算して支払う必要があります(計算例は後述します)。
法定利率の見直し
民法が定める法定利率は、民法第404条第3項に基づき、3年に1回、見直されることとされています。
したがって、未払い賃金を請求するまでの間に法定利率に変更があった場合は、変更前後の期間について、それぞれ異なる利率で遅延損害金(遅延利息)を計算することに留意する必要があります。
本稿執筆時点(2024年9月時点)における法定利率の推移をまとめると、次のとおりです。
適用期間 | 利率 |
2020(令和2)年3月31日まで | 年5%(※) |
2020(令和2)年4月1日から 2023(令和5)年3月31日まで | 年3% |
2023(令和5)年4月1日から 2026(令和8)年3月31日まで | 年3% (前回から据え置き) |
2026(令和8)年4月1日以降 | 未確定 (変動の可能性あり) |
(※)なお、2020(令和2)年4月1日に民法が改正される前は、商法第514条が定める商事法定利率として、年6%(営利企業の場合)の遅延損害金(遅延利息)が定められていました(商事法定利率は民法の改正に伴い廃止され、民法が定める法定利率に統一されました)。
したがって、2020(令和2)年3月31日までに生じた未払い賃金については、商事法定利率である6%が優先して適用されることとなります。
労働者が退職した後の期間の遅延損害金(遅延利息)(賃金の支払の確保等に関する法律)
賃金の支払の確保等に関する法律が定める遅延損害金(遅延利息)
労働者が退職した後の期間においては、未払い賃金にかかる遅延損害金(遅延利息)の利率は、「賃金の支払の確保等に関する法律」が適用され、「年14.6%」で計算します(賃金の支払の確保等に関する法律第6条第1項)。
賃金の支払の確保等に関する法律
(退職労働者の賃金に係る遅延利息)
第6条 事業主は、その事業を退職した労働者に係る賃金(退職手当を除く。以下この条において同じ。)の全部又は一部をその退職の日(退職の日後に支払期日が到来する賃金にあっては、当該支払期日。以下この条において同じ。)までに支払わなかった場合には、当該労働者に対し、当該退職の日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該退職の日の経過後まだ支払われていない賃金の額に年14.6パーセントを超えない範囲内で政令で定める率を乗じて得た金額を遅延利息として支払わなければならない。
条文中に定められている「年14.6パーセントを超えない範囲内で政令で定める率」は、政令によって、次のとおり定められています(賃金の支払の確保等に関する法律施行令第1条)。
賃金の支払の確保等に関する法律施行令
(退職労働者の賃金に係る遅延利息の率)
第1条 賃金の支払の確保等に関する法律(以下「法」という。)第6条第1項の政令で定める率は、年14.6パーセントとする。
遅延損害金(遅延利息)の発生時期
遅延損害金(遅延利息)は、退職日の翌日から発生します。
例えば、退職日が9月末日であった場合、その翌日の10月1日から起算し、未払い賃金の実際の支払日までの期間に応じて遅延損害金(遅延利息)を支払う必要があります(計算例は後述します)。
遅延損害金(遅延利息)が生じない場合(例外)
遅延損害金(遅延利息)は、次に定めるやむを得ない事由によって賃金の支払が遅滞している場合には、その事由の存する期間について適用しないこととされています(賃金の支払の確保等に関する法律第6条第2項、賃金の支払の確保等に関する法律施行規則第6条)。
遅延損害金(遅延利息)が生じない場合(例外)
- 天災地変が生じた場合
- 事業主が破産手続開始の決定を受け、または賃金の支払の確保等に関する法律施行令第2条第1項各号に掲げる事由(特別清算開始の命令を受けたこと、再生手続開始の決定があったこと、更生手続開始の決定があったことなど)のいずれかに該当することとなった場合
- 法令の制約により賃金の支払に充てるべき資金の確保が困難である場合
- 支払が遅滞している賃金の全部または一部の存否に係る事項に関し、合理的な理由により、裁判所または労働委員会で争っている場合
- その他前各号に掲げる事由に準ずる事由がある場合
計算例
遅延損害金(遅延利息)の計算例は、次のとおりです。
本事例は、在職中に未払い賃金が発生し、その後退職したケースを想定しています。
事例
- 未払い賃金が発生した日:9月20日(給与の支払日)
- 未払い賃金の額:10万円
- 退職日:同年11月1日
- 未払い賃金の支払日:同年12月1日
退職日までの期間にかかる遅延損害金(遅延利息)
本来の支払日(9月20日)の翌日である9月21日から起算し、退職日(11月1日)までの日数に応じて、民法に基づき年3%の遅延損害金(遅延利息)が生じます。
(計算①)
未払い賃金(10万円)×3%×42日(遅延日数)÷365日(※)≒346円(①)(1円未満切り上げ)
(※)閏年の場合は366日
退職日の翌日から支払い日までの期間にかかる遅延損害金(遅延利息)
退職日(11月1日)の翌日である11月2日から、支払日(12月1日)までの日数に応じて、賃金の支払の確保等に関する法律に基づき、年14.6%の遅延損害金(遅延利息)が生じます。
(計算②)
未払い賃金(10万円)×14.6%×30日(遅延日数)÷365日(※)≒1,200円(②)(1円未満切り上げ)
(※)閏年の場合は366日
遅延損害金(遅延利息)の合計額
(計算③)
346円(①)+1,200円(②)=1,546円
なお、計算の結果生じた小数点以下の端数の処理については、法律上の決まりはありませんが、切り上げか四捨五入をしておけば問題ありません。