「出生時育児休業給付金」とは?支給要件、支給額の計算方法、支給日数などを解説(雇用保険法)
- 1. はじめに
- 2. 「出生時育児休業給付金」の定義(概要)
- 3. 出生時育児休業給付金の支給要件
- 3.1. 支給要件
- 3.2. 支給要件1
- 3.3. 支給要件2
- 3.4. 支給回数
- 4. 出生時育児休業給付金の支給額
- 4.1. 出生時育児休業給付金の支給額
- 4.1.1. 休業開始時賃金日額(A)
- 4.1.2. 休業をした日数(B)
- 4.1.3. 支給率(67%)(C)
- 4.2. 育児休業給付金との関係
- 4.3. 所得税などの課税
- 5. 休業中に事業主から賃金が支払われた場合の支給額の調整
- 6. 出生時育児休業期間中に就労をした場合の取り扱い
- 6.1. 原則(28日間の出生時育児休業を取得した場合)
- 6.2. 例外(28日より短い出生時育児休業を取得した場合)
- 7. 出生時育児休業給付金の申請手続
- 7.1. 申請先
- 7.2. 申請期限
- 7.3. 申請書および添付書類
- 8. 出生時育児休業給付金が支給されない場合
はじめに
2022(令和4)年10月1日に育児・介護休業法が改正され、「出生時育児休業(通称、産後パパ育休)」が創設されました。
これに伴って、同時に雇用保険法が改正され、出生時育児休業を取得した場合における休業期間中の給付として、「出生時育児休業給付金」が創設されました(雇用保険法第61条の8)。
本稿では、出生時育児休業給付金について、支給要件、支給額の計算方法、支給日数などについて解説をします。
「出生時育児休業給付金」の定義(概要)
「出生時育児休業給付金」とは、雇用保険の被保険者が、子の出生後8週間以内に、出生時育児休業を取得した場合において、最大で28日間、休業前の賃金の67%相当額を支給する給付金をいいます(雇用保険法第61条の8)。
「出生時育児休業」とは、育児・介護休業法に基づき、主に男性が、子の出生日から8週間が経過する日の翌日までの期間内に(一般に、女性が産後休業を取得している期間内に)、最大で4週間(28日)まで休業することができる制度をいいます(育児・介護休業法第9条の2第1項)。
労働者が出生時育児休業を取得した場合において、事業主には、休業期間中の賃金を支払う義務がありません。
そこで、雇用保険法では、労働者(雇用保険の被保険者)の休業期間中の生活を保障するために、休業をした労働者に対する給付金を設けることによって、労働者の生活と雇用の安定を図っています。
出生時育児休業給付金は、育児休業(原則として、子が1歳に達するまでの休業)を取得した場合の「育児休業給付金」と共通する部分が多くありますが、支給日数や休業中の就労を可能としている点などが異なりますので、育児休業給付金との相違点を理解しておく必要があります。
出生時育児休業給付金の支給要件
支給要件
出生時育児休業給付金が支給されるための要件は、原則として、次のとおりです(雇用保険法第61条の8第1項)。
出生時育児休業給付金の支給要件
- 雇用保険の被保険者が、「出生時育児休業」を取得したこと
- 原則として、出生時育児休業を開始した日前の2年間において、雇用保険のみなし被保険者期間が通算12ヵ月以上あること
支給要件1
出生時育児休業給付金は、雇用保険の被保険者が、育児・介護休業法に基づき「出生時育児休業」を取得した場合において、その休業期間に対して支給されます。
支給要件2
出生時育児休業給付金が支給されるためには、原則として、出生時育児休業を開始した日前の2年間において、雇用保険の被保険者であった期間(これを「みなし被保険者期間」といいます)が通算12ヵ月以上あることが要件とされています(雇用保険法第61条の8第1項)。
ただし、2年間の間において、被保険者が疾病、負傷、出産、事業所の休業などの理由により、引き続き30日以上賃金を受けることができなかった場合は、賃金を受けることができなかった日数を2年間に加算した期間(ただし、最大で4年間まで)となります(雇用保険法施行規則第101条の32)。
「出生時育児休業を開始した日」とは、出生時育児休業を2回に分割して取得する場合には、初回の休業開始日をいいます。
「みなし被保険者期間」とは、雇用保険の被保険者であった期間をいい、賃金の支払いの基礎となった日数が11日以上ある月(11日以上ない場合は、就業した時間が80時間以上の月)を、1ヵ月として数えます(雇用保険法第61条の8第3項、雇用保険法第14条)。
支給回数
出生時育児休業は、法律上、2回に分割して取得することができるため、出生時育児休業給付金も、2回まで受給することができます。
したがって、出生時育児休業を3回以上に分割して取得した場合には、3回目以降の出生時育児休業に対しては、出生時育児休業給付金は支給されません。
出生時育児休業給付金の支給額
出生時育児休業給付金の支給額
出生時育児休業給付金の支給額は、次の計算式に基づき算定されます(雇用保険法第61条の8第4項)。
出生時育児休業給付金の支給額
休業開始時賃金日額(A)×出生時育児休業をした日数(B)×支給率67%(C)
休業開始時賃金日額(A)
「休業開始時賃金日額」は、被保険者が出生時育児休業を開始した日を基準として算定した、賃金の日額をいいます。
賃金日額は、「出生時育児休業を開始する前6ヵ月間の賃金÷180」によって計算します。
なお、賃金日額を計算する際の賃金は、賃金の総支給額であり(手取りではない)、賞与は含まれません。
休業をした日数(B)
出生時育児休業は、法律上、最大で4週間(28日)まで取得することができるため、出生時育児休業給付金の支給日数も、最大で「28日」とされています。
支給率(67%)(C)
出生時育児休業給付金は、休業1日あたり、休業開始時の賃金日額の「67%」が支給されます。
育児休業給付金との関係
出生時育児休業に引き続いて、その後、育児休業(原則として、子が1歳になるまで休業することができる制度)を取得した場合には、「育児休業給付金」が支給されます(男性は、子の出生後8週間は、育児休業と出生時育児休業のいずれかを選択して取得することができます)。
育児休業給付金は、育児休業を開始してから180日までは賃金日額の67%が支給され、181日目以降は賃金日額の50%が支給されます。
このとき、育児休業給付金について、賃金日額の67%が支給される期間である180日については、すでに出生時育児休業給付金を受給した日数も通算されます(雇用保険法第61条の7第6項、同法第61条の8第8項)。
例えば、出生時育児休業を28日間取得した後、引き続いて育児休業を取得した場合、賃金日額の67%の育児休業給付金が支給されるのは、180日から28日を差し引いた、残りの152日間となります。
所得税などの課税
出生時育児休業給付金に対しては、所得税などが課税されず(雇用保険法第12条)、また、休業期間中は社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)が免除されます。
休業中に事業主から賃金が支払われた場合の支給額の調整
出生時育児休業中に事業主から賃金が支払われた場合は、事業主から支給された賃金の額に応じて、次のとおり、支給額の調整が行われます(雇用保険法第61条の8第5項)。
なお、この支給額の調整にかかる仕組みは、育児休業給付金と同様です。
事業主から賃金が支払われた場合の支給額の調整
- 事業主から支払われた賃金が、「休業開始時賃金日額×休業日数」(以下、「A」という)に対して13%以下の場合…「A×67%」を支給(全額支給)
- 事業主から支払われた賃金が、Aに対して、13%超80%未満の場合…「A×80%-事業主から支給された賃金額」を支給(一部支給)
- 事業主から支払われた賃金が、Aに対して、80%以上の場合…給付金は支給されない(全額不支給)
出生時育児休業期間中に就労をした場合の取り扱い
原則(28日間の出生時育児休業を取得した場合)
出生時育児休業給付金の支給については、休業期間中における就労日数の上限が設けられており、上限を超える場合には給付金は支給されません(雇用保険法施行規則第101条の31)。
原則として、休業期間中における就労日数の上限は「10日」とされており、10日を超える場合は、就労時間でみて、80時間が上限となります。
ただし、これは出生時育児休業を28日間(最大限)取得した場合の上限であり、休業日数が28日より短い場合は、その日数に比例して上限日数も短くなります。
例外(28日より短い出生時育児休業を取得した場合)
被保険者が28日より短い休業をした場合には、前記の上限日数(または時間)は、休業期間に比例して変動します。
具体的には、次の計算によって、上限日数を算出します。
上限日数の計算式
10日×(休業をした日数÷28日)=上限日数
例えば、出生時育児休業として14日間休業した場合、出生時育児休業給付金の支給対象となる日数の上限は、「10日×(14日÷28日)=5日」となり、給付金を満額受給するためには、原則として就労日数を5日以内に収める必要があります。
このとき、計算結果に1日未満の端数があるときは、これを切り上げた日数とします。
また、休業日数が上記日数を超える場合には、次の計算によって算出する時間が上限となります。
上限時間の計算式
80時間×(休業をした日数÷28日)=上限時間
出生時育児休業給付金の申請手続
申請先
出生時育児休業給付金の支給申請手続は、事業所を管轄するハローワーク(公共職業安定所)に申請書を提出することによって行います。
申請期限
出生時育児休業給付金の申請は、出生の日(出産予定日前に子が出生した場合は、当該出産予定日)から起算して、8週間を経過する日の翌日から申請することができ、当該日から起算して、2ヵ月を経過する日の属する月の末日までの期間に申請する必要があります(雇用保険法施行規則第101条の33)。
例えば、4月15日が出生日から8週間経過日であった場合には、6月末日までに申請を行う必要があります。
この申請期限は、出生時育児休業を2回に分割して取得した場合においても同じです。
したがって、支給申請は、休業を2回に分割した場合でも、子の出生後8週間経過後にまとめて1回で行います。
申請書および添付書類
給付金の申請に際しては、主に次の書類を提出する必要があります。
申請書類
- 出生時育児休業給付金支給申請書
- 休業開始時賃金月額証明書、および賃金の額を証明する書面(賃金台帳など)
- 休業の対象となる子がいることを証明する書面(母子健康手帳など)
- 被保険者が雇用されていることを証明する書面(労働者名簿など)
なお、2.の休業開始時賃金月額証明書については、同一の子について2回以上の育児休業をした場合、当該証明書は、初回の育児休業についてのみ提出することが求められます。
出生時育児休業給付金が支給されない場合
被保険者が次のいずれかに該当する出生時育児休業をしたときは、出生時育児休業給付金は支給されません(雇用保険法第61条の8第2項)。
出生時育児休業給付金が支給されない場合
- 同一の子について、被保険者が出生時育児休業を3回以上に分割して取得した場合における、3回目以後の出生時育児休業
- 同一の子について取得した出生時育児休業の日数が、合計28日に達した日後の出生時育児休業