【2025年4月改正】「介護」に関する育児・介護休業法の改正(介護両立支援制度の個別周知・意向確認の義務化、情報提供の義務化など)を解説
はじめに
育児・介護休業法の改正により、事業主に対し、新たに、介護を必要とする労働者に対し、介護両立支援制度の個別周知・意向確認を行うことが義務付けられ、また、労働者が介護両立支援制度を利用しやすい雇用環境の整備を行うことなどが義務付けられました。
改正後の育児・介護休業法は、2025(令和7)年4月1日に施行されます。
本稿では、育児・介護休業法が定める「介護」に関連する法改正について、まとめて解説します。
法改正の要点
育児・介護休業法の改正により、「介護」について、主に次の内容が改正されます。
いずれも、施行日は2025(令和7)年4月1日です。
法改正の要点(2025(令和7)年4月1日施行)
- 介護休暇の対象者の見直し
- 介護両立支援制度等の個別周知・意向確認の義務化
- 介護両立支援制度等の早期の情報提供の義務化
- 介護両立支援制度等を利用しやすい雇用環境整備の義務化
- 介護期のテレワークに関する措置(努力義務)
以下、順に解説します。
介護休暇の対象者の見直し(労使協定により除外できる者の縮小)
介護休暇とは
「介護休暇」とは、要介護状態にある対象家族(配偶者(事実婚を含む)、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫)の介護や世話をするための休暇をいい、対象家族が1人の場合は年5日まで、対象家族が2人以上の場合は年10日まで取得することができます(育児・介護休業法第16条の5)。
なお、介護休暇は、1日または1時間単位で取得することができます。
法改正前(現行法)
介護休暇は、日々雇用される者を除き、原則として、すべての労働者が制度の対象となります。
ただし、事業主は、労働者の過半数を代表する者(労働者の過半数で組織する労働組合がある場合は、その労働組合)との間で労使協定を締結することによって、次の者について、介護休暇の対象から除外することができるとされています(現行の育児・介護休業法第16条の6第2項)。
労使協定により除外できる者(現行法)
- 入社後6ヵ月未満の者
- 1週間の所定労働日数が2日以下の者
労使協定により除外できる者の縮小(改正点)
法改正により、1.の「入社後6ヵ月未満の者」を廃止し、2.の「1週間の所定労働日数が2日以下の者」のみが労使協定による除外対象となります(育児・介護休業法第16条の6第2項、育児・介護休業法第6条第1項、育児・介護休業法施行規則第8条第二号、平成23年3月18日厚生労働省告示第58号)。
したがって、法改正後は、入社して間もない者であっても、介護休暇を取得することが可能となります。
なお、これと対比して、労働基準法が定める年次有給休暇は、原則として、入社日から6ヵ月が経過するまでは取得できません。
介護両立支援制度等の個別周知・意向確認の義務化
法改正の概要
法改正により、労働者が事業主に対し、対象家族が介護を要する状況に至ったことを申し出たときは、事業主は、介護に関する制度および介護両立支援制度等について、当該労働者に対して個別に案内して知らせる(個別周知)と共に、これらの制度の利用について、意向を確認するための措置を講じる(意向確認)ことが義務付けられます(育児・介護休業法第21条第2項)。
個別周知をする事項
事業主が労働者に対し、介護について個別周知をしなければならない事項は、次のとおりです(育児・介護休業法施行規則第69条の7、同第69条の8)。
個別周知をする事項
- 介護休業に関する制度
- 介護両立支援制度等
- 介護休業および介護両立支援制度等の申出先
- 介護休業給付金に関する事項
1.の「介護休業に関する制度」とは、介護休業の対象家族や、回数(対象家族1人につき3回まで取得することができる)、および期間(通算93日まで)などに関する制度内容を周知する必要があります。
2.の「介護両立支援制度等」とは、労働者が就業しながら介護について利用できる、次の制度をいいます(育児・介護休業法施行規則第69条の7)。
介護両立支援制度等
- 介護休暇に関する制度
- 所定外労働の制限に関する制度
- 時間外労働の制限に関する制度
- 深夜業の制限に関する制度
- 介護のための所定労働時間の短縮等の措置
個別周知の実施方法
事業主が行う労働者に対する個別周知は、次のいずれかの方法によって行う必要があります(育児・介護休業法施行規則第69条の6、同第69条の3)。
個別周知の方法
- 面談による方法
- 書面を交付する方法
- ファックスを利用して送信する方法(労働者が希望する場合に限る)
- 電子メール等を送信する方法(労働者が希望する場合に限り、かつ当該労働者が電子メール等の記録を出力することにより、書面を作成することができるものに限る)
なお、「面談による方法」については、オンラインによる面談でも差支えありません。
介護両立支援制度等の早期の情報提供の義務化
法改正により、前述の個別周知・意向確認とは別に、年齢が40歳に達した労働者に対しては、介護休業に関する制度や介護両立支援制度等の利用について、労働者の理解と関心を深めるために、情報を提供することが義務付けられます(育児・介護休業法第21条第3項)。
情報提供を行うタイミング
事業主が情報提供を行うタイミングは、次の期間のうち、いずれかとされています(育児・介護休業法施行規則第69条の11)。
情報提供の時期
- 40歳に達した日が属する年度の、初日から末日までの期間
- 40歳に達した日の翌日から起算して1年間
情報提供は、40歳に達した対象者に対して、一律に行う必要があるため、事業主は、上記のいずれのタイミングで行うかを決めた上で、毎年同じタイミングで(例えば、年度当初などに対象者を一堂に集めて説明会を行うなど)、対象者に対する情報提供を行う運用が考えられます。
情報提供を行う内容
情報提供を行う内容は、前述の個別周知をしなければならない事項と同じです(育児・介護休業法施行規則第69条の10)。
情報提供の実施方法
事業主が行う労働者に対する情報提供は、次のいずれかの方法によって行う必要があります(育児・介護休業法施行規則第69条の12)。
情報提供の実施方法
- 面談による方法
- 書面を交付する方法
- ファックスを利用して送信する方法
- 電子メール等を送信する方法
ここでは、前述の個別周知・意向確認をする場合と異なり、ファックスおよび電子メールによる方法について、労働者の希望があることを要件としていないため、例えば、対象者に対して、一律に電子メールで情報提供を行うことも可能です。
介護両立支援制度等を利用しやすい雇用環境整備の義務化
法改正により、介護に関する制度を利用しやすい職場環境を整備し、制度利用の申出が円滑に行われるようにするため、事業主に対し、次の措置のうち、いずれか1つ以上の措置を講じることが義務付けられます(育児・介護休業法第22条第2項、同条第4項、育児・介護休業法施行規則第71条の2、同第71条の4)。
雇用環境整備の義務化
- 介護休業および介護両立支援制度等に関する研修の実施
- 介護休業および介護両立支援制度等に関する相談体制の整備(相談窓口の設置等)
- 介護休業および介護両立支援制度等の利用に関する事例の収集および当該事例の提供
- 介護休業に関する制度・介護両立支援制度等、および、介護休業の取得・介護両立支援制度等の利用の促進に関する方針の周知
なお、すでに育児休業については、同様の内容で雇用環境の整備が義務付けられていることから、例えば、事業主が育児休業に関する相談窓口を設置している場合には、同じ窓口において、介護休業および介護両立支援制度等に関する相談を受け付けるように体制を整えることなどが考えられます。
介護期のテレワークに関する措置(努力義務)
現行法では、事業主は、家族を介護する労働者について、介護休業、介護休暇、所定労働時間の短縮等の措置に準じて、介護を必要とする期間や、回数などに配慮した必要な措置を講ずるように努めなければならない(努力義務)とされています(育児・介護休業法第24条第4項)。
法改正により、これらの措置に加えて、対象家族を介護する労働者が利用できる「在宅勤務(テレワーク)」などの措置を講じるように、努めなければならない(努力義務)とされました。