労災保険料の「メリット制」(労災事故の多寡によって労災保険料が増減する制度)の仕組みを解説

はじめに

労災保険では、労災事故の多寡により、保険料が増減する制度である「メリット制」があります。

本稿では、メリット制について、解説します。

メリット制とは

メリット制とは

メリット制」とは、簡単にいうと、労災保険の保険料について、一定規模以上の事業を対象に、労働災害の発生率の高い事業については、保険料の負担を重くする一方で、労働災害の発生率の低い事業については、保険料の負担を軽減する制度をいいます。

労働災害の多寡は、一定期間内の保険給付と労災保険料の比率(収支率)で判断します。

メリット制の目的

労災保険の保険料は、事業主間の公平を期するため、事業の種類ごとに、異なる保険料率が定められています。

しかし、事業の種類が同じであっても、労働災害の防止努力の違いによって、事業主ごとの災害発生率にかなりの差が生じることがあり、これらの事業を同じ保険料率とするのは公平ではありません。

そこで、事業主の労災保険の保険料負担の公平を図り、事業主の災害防止の努力を促進するために、たとえ同種の事業であっても、納付した保険料額と支払われた保険給付等の額との比率(収支率)に応じ、一定の範囲内(原則としてプラスマイナス40%)で労災保険率の引き上げまたは引き下げを行う制度を設けており、これを「メリット制」といいます。

メリット制の仕組みは、継続事業、一括有期事業、単独有期事業で異なります。

「継続事業」とは、事業期間が予定されていない事業のことをいい、一般の工場、商店、事務所などが該当します。

本稿では、継続事業におけるメリット制を解説します(一括有期事業、単独有期事業におけるメリット制は割愛します)。

メリット制が適用される事業

継続事業において、メリット制が適用されるためには、「事業の継続性」に関する要件と、「事業の規模」に関する要件を同時に満たしていることが要件とされています。

「事業の継続性」に関する要件

連続する3保険年度中の最後の保険年度に属する3月31日(基準日)において、労災保険にかかる保険関係成立後3年以上経過している事業であることが要件とされています(労働保険徴収法第12条第3項)。

「事業の規模」に関する要件

事業の規模に関する要件は、次のとおりです(労働保険徴収法第12条第3項、同施行規則第16条第2項、第17条第2項)。

メリット制の適用を受ける事業(継続事業の場合)

100人以上の労働者(※1)を使用する事業、または、20人以上100人未満の労働者(※1)を使用する事業であって、その労働者の数にその事業と同種の事業に係る労災保険率から非業務災害率(1,000分の0.6)(※2)を減じた率を乗じて得た数(災害度係数)が0.4以上であるもの(※3)

(※1)

労働者数は、一部の事業(★)を除き、当該保険年度中の各月の末日(賃金締切日がある場合は、各月の末日の直前の賃金締切日)の使用労働者数の合計数を12で除して得た労働者数(小数点以下は切捨て)をいいます(労働保険徴収法施行規則第17条第1項)。

★船きょ、船舶、岸壁、波止場、停車場または倉庫における貨物の取扱いの事業

(※2)

「非業務災害率」は、それぞれの業種に設定されている労災保険率のうち、通勤災害、二次健康診断などに充てる分の保険料率をいい、業種を問わず1000分の0.6とされています。

(※3)

「災害度係数」とは、メリット制を適用するかどうかを判断するために用いられる、事業所の労働災害リスクを数値化した指標です。

【例1】労働者数が50名の木製品製造業(労災保険率1,000分の13)の場合

災害度係数=50×(1,000分の13-1,000分の0.6)=0.62≧0.4

→災害度係数が0.4以上であることから、メリット制が適用される

【例2】労働者数が70名の食料品製造業(労災保険率1,000分の5.5)の場合

災害度係数=70×(1,000分の5.5-1,000分の0.6)=0.343<0.4

→災害度係数が0.4未満であることから、メリット制は適用されない

収支率(継続事業)

収支率とは

収支率(メリット収支率)」とは、メリット制の適用を受ける事業について、労災保険率を上下させる基準をいいます。

収支率は、その事業についての基準日(3月31日)以前の連続する3保険年度間における業務災害に関する保険給付等の額に対する、業務災害にかかる保険料の額との割合に、第1種調整率を乗じて得た率をいいます(労働保険徴収法第12条第3項)。

収支率(メリット収支率)

収支率=基準日(3月31日)以前の連続する3保険年度間における業務災害に関する保険給付等の額(①)÷業務災害にかかる保険料の額(②)×第1種調整率(③)

基準日(3月31日)以前の連続する3保険年度間における業務災害に関する保険給付等の額(①)

基準日(3月31日)以前の連続する3保険年度間における業務災害に関する保険給付等の額に、業務災害に関する特別支給金を加えた額をいいます。

通勤災害や、二次健康診断等給付にかかる保険給付の額は、収支率算定の基礎に含まれません。

保険給付等の額には、「短期給付」と「長期給付」が含まれます。

「短期給付」とは、療養補償給付や休業補償給付など、補償する期間が比較的短い給付のことをいいます。

短期給付の額は、原則として、保険給付および特別支給金の全額をメリット収支率の分子に算入します。

ただし、療養補償給付、休業補償給付、傷病補償年金、介護補償給付、休業特別支給金および傷病特別年金については、負傷または発病した日から3年以内の分として支給した額のみ算入します(労働保険徴収法施行規則第18条第2項)。

「長期給付」とは、年金のように補償する期間が長い給付のことをいいます。

ただし、メリット収支率の算定にあたっては、傷病補償年金および傷病特別年金は短期給付として扱います。

長期給付の額は、障害補償年金、遺族補償年金、障害特別年金および遺族特別年金については、実際に年金として支給した額ではなく、年金給付の額をその業務災害発生当時の一時金に換算した額(労働基準法相当額)を一括して算入します。

業務災害にかかる保険料の額(②)

収支率の算定に用いられる保険料の額は、基準日以前の連続する3保険年度間における一般保険料の額のうち、労災保険率(メリット制が適用された場合は、引き上げまたは引き下げられた率)に応ずる部分の額から、非業務災害率に応ずる部分の額を減じた額に、第一種特別加入保険料の額を加えた額をいいます。

第1種調整率(③)

「第1種調整率」は、業務災害に関する年金による保険給付に関する費用、特定疾病にかかった者にかかる保険給付に要する費用、その他の事情を考慮して、下表の率とされています(労働保険徴収法施行規則第19条の2)。

【第1種調整率】

業種第1種調整率
下記以外の事業100分の67
林業の事業100分の51
建設の事業100分の63
港湾貨物取扱事業または港湾荷役業の事業100分の63
船舶所有者の事業100分の35

メリット労災保険率の適用

メリット制の適用を受ける事業の連続する3保険年度間の収支率が100分の85を超え、または、100分の75以下となる場合には、メリット労災保険率が適用されます(労働保険徴収法第12条第3項)。

このとき、労災保険率から非業務災害率を減じた率を、40%の範囲内で上げ下げし、これに非業務災害率を加えた率が、その事業についての基準日の属する保険年度の「翌々保険年度」の労災保険率となります。

【メリット収支率とメリット増減率】

メリット収支率メリット増減率
75%以下その値が小さいほど、労災保険率が低くなる(最大40%の割引)
85%超その値が大きいほど、労災保険率が高くなる(最大40%の割増)
75%超85%以下労災保険率の増減はない

決定された労災保険率の通知

メリット制の適用により決定された労災保険率は、所轄都道府県労働局歳入徴収官から事業主に通知されます。

特例メリット制

継続事業のメリット制が適用される事業のうち、一定の規模以下の事業(※1)の事業主が、厚生労働省令で定める労働者の安全または衛生を確保するための特別の措置(※2)を講じた上で申告したときは、労災保険率から非業務災害率を減じた率の上げ下げする範囲を最大45%とする特例が適用されます(労働保険徴収法第12条の2、労働保険徴収法施行規則第20条の2)。

(※1)

主たる事業の種類事業全体の常時使用する労働者数
金融業、保険業、不動産業、小売業50人以下
卸売業、サービス業100人以下
上記以外の事業300人以下

(※2)

具体的には、機械設置等の計画届の免除の認定を受けた事業主が講ずる措置(労働安全衛生マネジメントシステムの実施)を講じて、都道府県労働局長の確認を受けることが必要です。