【重要裁判例】九水運輸商事事件(福岡高等裁判所平成30年9月20日判決)を解説【同一労働同一賃金】

はじめに
九水運輸商事事件は、北九州市中央卸売市場で海産物の荷役業務等を行う会社において、有期労働契約を締結して勤務するパート社員4名が、正社員との間で通勤手当に格差があること、および皆勤手当が就業規則の変更により廃止されたことについて、損害賠償等を求めたものです。
同一労働同一賃金に関する裁判例の多くが、手当・賞与・退職金などについて「支給するか否か」自体が争われたのに対し、本事件は、「通勤手当の金額そのものの差」(正社員の半額)が争点となった点に特徴があります。
また、労働契約法第20条の問題(正社員との格差)に加えて、労働契約法第10条の問題(就業規則の不利益変更の合理性)も同時に争われました。
通勤手当について争われた最高裁判所の判決としては、ハマキョウレックス事件が参考になりますので、次の記事もご覧ください。
【重要裁判例】ハマキョウレックス事件(平成30年6月1日最高裁判所判決)を解説【同一労働同一賃金】
本稿では、九水運輸商事事件について解説します。
事件の概要
被告(使用者側)
被告は、昭和51年6月21日に設立され、北九州市中央卸売市場内で、主に海産物の荷役業務を取り扱う株式会社(以下、「会社」といいます)です。
会社には、期間の定めのない労働契約を締結した正社員21名のほかに、正社員よりも所定労働時間が短く、期間の定めのある労働契約を締結したパート社員(パートタイマー)30名が在籍していました。
原告(労働者側)
原告らは、いずれも会社との間で雇用期間を3ヵ月とする有期労働契約を締結し、荷役作業に従事していたパート社員4名です。
原告らが会社に入社した日は、原告X1が平成8年5月15日、原告X2が平成24年2月10日、原告X3が平成21年4月23日、原告X4が平成11年2月17日であり、いずれも契約を更新しながら長年にわたって勤務していました。
原告らの賃金は時給制で、雇入通知書には基本賃金の他、皆勤手当5,000円、通勤手当5,000円(欠勤2日以内のみ支給)が記載されていました。
一方、正社員には、通勤手当として月額1万円が支給されており、パート社員との間に月額5,000円の差がありました。
原告らは、正社員に支給される通勤手当がパート社員である自分たちの2倍とされていることは労働契約法第20条に違反するとして、会社に対し、通勤手当の差額および慰謝料の支払いを求めました。
また、平成26年10月に行われた就業規則の改定によって、パート社員の皆勤手当が廃止されたことについても、労働契約法第10条の要件を満たさない無効な不利益変更であるとして、未払いの皆勤手当の支払いを求めました。
判決(結論)
福岡高等裁判所は、正社員とパート社員の通勤手当の相違(月額5,000円)は労働契約法第20条に違反する不合理なものであると判断し、会社に対して差額相当額の損害賠償の支払いを命じました。
また、パート社員の皆勤手当を廃止する就業規則の変更についても、労働契約法第10条にいう合理的なものとはいえないとして無効と判断し、廃止後の期間についても未払いの皆勤手当相当額の支払いを命じました。
問題となった賃金体系(正社員とパート社員の比較)
当時の会社における正社員とパート社員の待遇の違いは、次のとおりです。
| 項目 | 正社員 | パート社員 |
| 通勤手当 | 月額1万円 | 月額5,000円(欠勤2日以内のみ支給) →不合理と判断 |
| 皆勤手当 | - | 月額5,000円→廃止(※) |
(※)パート社員には別途、月額5,000円の皆勤手当も支給されていましたが、平成26年10月の就業規則改定により廃止されました。
この廃止の有効性(労働契約法第10条の合理性)も、本事件の争点となりました。
上記の待遇に対し、パート社員である原告らは、次の点について、会社の取扱いが違法・無効であることを主張しました。
主な争点
- 【争点1】パート社員の通勤手当が、正社員の半額とされている点(労働契約法第20条)
- 【争点2】就業規則の変更によりパート社員の皆勤手当が廃止されたことの有効性(労働契約法第10条)
裁判所の判断(第1審・第2審)
第1審(福岡地方裁判所小倉支部)
第1審(平成30年2月1日判決)は、通勤手当の相違について労働契約法第20条に違反する不合理なものと判断し、平成25年4月分以降の差額に相当する損害賠償の支払いを命じました。
また、皆勤手当を廃止する就業規則の変更についても、労働契約法第10条の要件を満たさないとして無効と判断し、未払いの皆勤手当相当額の支払いを命じました。
第2審(福岡高等裁判所)(本判決)
第2審は、第1審の判断を基本的に維持しつつ、原告らの控訴の一部を認めて、原審の口頭弁論終結日後から当審の口頭弁論終結日までの期間分の未払いの皆勤手当についても、追加で支払いを命じました。
他方、会社側の控訴はいずれも棄却されました。
高等裁判所の判決の理由①(労働契約法第20条の判断枠組みについて)
福岡高等裁判所は、まず、「労働契約法第20条の規定は私法上の効力を有するものと解するのが相当であり、有期労働契約のうち同条に違反する労働条件の相違を設ける部分は無効となるものと解される」としました。
もっとも、「同条は、有期契約労働者について無期契約労働者との職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であり(略)有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が同条に違反する場合であっても、同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではない」としました。
これにより、通勤手当の相違が労働契約法第20条に違反すると判断されても、パート社員である原告らに正社員と同額(月額1万円)の通勤手当請求権が当然に生じるわけではないことが示されました。
このように、福岡高等裁判所は、ハマキョウレックス事件や長澤運輸事件の最高裁判決が示した判断枠組みを踏襲したうえで、通勤手当の趣旨・目的を個別に検討するという手法により、具体的な当てはめを行いました。
高等裁判所の判決の理由②(個別の争点についての判断)
【争点1】パート社員の通勤手当が、正社員の半額とされている点
福岡高等裁判所は、まず、原告らの雇入通知書には皆勤手当とは別に通勤手当が記載されていたこと、パート社員が通勤に最も多く利用する交通手段は自家用車であったことから、「本件改定前に原告らに支給されていた通勤手当は、通勤に要する交通費を補填する趣旨で支給されていたものというべきである」としました。
そのうえで、労働契約に期間の定めがあるか否かによって通勤に要する費用が異なるものではないこと、正社員とパート社員とで通勤に利用する交通手段に相違は認められず、パート社員の通勤時間や通勤経路が正社員のそれに比して短いといった事情もうかがわれないことを総合考慮し、「本件相違は労働契約法第20条にいう不合理な労働条件に当たると解するのが相当である」と判断しました。
また、会社が主張した「正社員とパート社員とでは職務の内容等に大きな相違があり、出勤率向上の重要性も異なる」との主張についても、「会社が主張する上記相違は、いずれも通勤に要する費用の多寡と直接関連するものではない」として、これを退けました。
【争点2】就業規則の変更によりパート社員の皆勤手当が廃止されたことの有効性
福岡高等裁判所は、皆勤手当の廃止について、原告らの賃金の総支給額の平均が約10万円ないし約14万6,000円と比較的低額であること、原告らがほぼ毎月皆勤手当の支給を受けられていたという実態から、「月額5,000円という金額の喪失が原告らに与える影響が少ないということはできず、皆勤手当に対する原告らの期待が高くなかったということもできない」としました。
また、会社が主張した代替措置(年次有給休暇の計画的付与等)についても、「労働者が自由に年次有給休暇を取得することができる日数を減少させるものでもあることを考慮すると、本件代替措置によって、皆勤手当の廃止により原告らが受ける不利益の程度が緩和されていると認めることはできない」としました。
さらに、会社の業績悪化や給与計算の負担についても、当期利益が赤字であるのは平成26年度のみであり、平成25年度および平成27年度はいずれも黒字であることから、「月額5,000円の皆勤手当を廃止しなければならないほど会社の業績が悪化していると認めることはできない」として、これを退けました。
その結果、「本件改定のうち皆勤手当の廃止に係る部分が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるということはできず、労働契約法第10条にいう合理的なものに当たると認めることはできない」として、皆勤手当の廃止を無効と判断しました。


