【重要裁判例】井関松山製造所事件(高松高等裁判所令和元年7月8日判決)を解説【同一労働同一賃金】

はじめに

井関松山製造所事件は、農業機械メーカーの子会社である株式会社井関松山製造所において、有期労働契約を締結して勤務していた期間工(有期契約労働者)3名が、無期契約労働者(正社員)との間で、賞与、家族手当、住宅手当および精勤手当について不合理な格差があるとして、損害賠償等を求めたものです。

長澤運輸事件、ハマキョウレックス事件など、同一労働同一賃金について判断を示した最高裁判所判決とは異なり、本事件は高等裁判所の判断が実質的な最終判断となった事件です。

最高裁判所は上告を受理したものの、労使双方の上告をいずれも棄却し、実体判断を示さないまま高松高等裁判所の判決が確定しました。

また、本事件のもう一つの重要な特徴は、有期契約労働者が労働契約法第18条に基づき無期労働契約に転換した後についても、無期転換前と同様の待遇の相違が是正されない限り、引き続き損害賠償請求ができると判断した点です。

無期転換ルールとの関係を考えるうえで、実務上非常に参考になる裁判例です。

長澤運輸事件、ハマキョウレックス事件、大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件、日本郵便事件、名古屋自動車学校事件については、次の記事をご覧ください。

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本稿では、井関松山製造所事件について解説します。

事件の概要

被告(使用者側)

被告は、株式会社井関松山製造所(以下、「会社」といいます)です。

会社は農業機械メーカーの子会社で、工場においてライン工などの業務を担っています。

原告(労働者側)

原告らは、いずれも平成19年7月16日、契約期間を6ヵ月とする有期契約労働者として会社に入社し、その後も有期労働契約の更新を繰り返しながら勤務していました。

原告らは、平成30年9月1日、労働契約法第18条第1項に基づく無期転換の申込みにより、それぞれ会社との間で無期労働契約を締結したものとみなされました。

原告らは、会社における無期契約労働者(正社員)とほぼ同じ業務内容に従事していましたが、無期契約労働者との間では、職務の内容および配置の変更の範囲に相違がありました。

原告らは、無期契約労働者に支給される賞与、家族手当、住宅手当および精勤手当が、有期契約労働者である自分たちには支給されないことは労働契約法第20条に違反するとして、会社に対し、地位確認や賃金請求、および予備的に不法行為に基づく損害賠償を求めて訴訟を提起しました。

判決(結論)

高松高等裁判所は、家族手当、住宅手当および精勤手当の不支給についてはいずれも労働契約法第20条に違反する不合理なものと判断した一方、賞与の不支給については不合理とはいえないと判断しました

また、「原告らが平成30年9月に無期転換した後についても、無期転換社員就業規則が制定されたことのみでは、会社が家族手当等に相当する損害賠償の支払義務を免れるものではない」として、無期転換後の期間分についても損害賠償請求を認めました。

なお、最高裁判所は令和3年1月19日、労使双方の上告をいずれも棄却し、実体判断を示さないまま本判決が確定しました。

問題となった賃金体系(正社員(無期契約労働者)と有期契約労働者の比較)

当時の会社における無期契約労働者と有期契約労働者の待遇の違いは、次のとおりです。

 項目正社員(無期契約労働者)有期契約労働者
賞与支給あり(年2回、各季35万9,000円~38万9,000円程度)支給なし(一律5,000円の寸志のみ。不合理でないと判断)
家族手当支給あり支給なし(不合理と判断)
住宅手当支給あり(扶養の有無等により類型化、金額に差)支給なし(不合理と判断)
精勤手当支給あり(日給月給者が皆勤の場合)支給なし(不合理と判断)

上記の待遇に対し、有期契約労働者である原告らは、主に次の点について、無期契約労働者との間に不合理な差があることを主張しました。

主な争点

  • 【争点1】有期契約労働者に「家族手当」が支給されない点
  • 【争点2】有期契約労働者に「住宅手当」が支給されない点
  • 【争点3】有期契約労働者に「精勤手当」が支給されない点
  • 【争点4】有期契約労働者に「賞与」が支給されない点

裁判所の判断(第1審・第2審)

第1審(松山地方裁判所)

第1審(平成30年4月24日判決)は、家族手当、住宅手当および精勤手当の不支給についてはいずれも不合理と判断し、会社に対して未払額相当の損害賠償の支払いを命じました。

他方、賞与の不支給については不合理とはいえないと判断し、この点に関する原告らの請求を棄却しました。

また、地位確認請求および賃金請求(主位的請求)についても、労働契約法第20条に補充的効力がないことを理由に、いずれも棄却しました。

第2審(高松高等裁判所)

第2審(令和元年7月8日判決)は、第1審の判断は相当であるとして、原告・被告双方の控訴をいずれも棄却し、第1審の判断をそのまま維持しました。

また、当審における追加請求(無期転換後である平成29年11月から平成30年11月までの分)についても、一部認容しました。

最高裁判所の判決

最高裁判所は令和3年1月19日、労使双方の上告をいずれも棄却しました。

これにより、本事件については最高裁判所としての実体判断は示されないまま、高松高等裁判所の判決がそのまま確定しました。

高等裁判所の判決の理由①(労働契約法第20条の判断枠組みについて)

高松高等裁判所は、まず、「労働契約法第20条は、有期契約労働者の公正な処遇を図る趣旨の規定であるが、規定の文言から明らかなとおり、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件に相違があることを前提としているのであって、使用者に対し、それぞれの労働者の職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇をするよう要求する規定と解される」としました。

そのうえで、「労働者の賃金が複数の賃金項目から構成されている場合には、個々の賃金項目に係る賃金は、通常、賃金項目ごとに、その趣旨を異にするものということができ、有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である」と示し、長澤運輸事件、ハマキョウレックス事件の最高裁判決が示した判断枠組みを踏襲しました。

また、労働契約法20条違反の効果について、「同条の規定は、私法上の効力を有するものであって、有期労働契約のうち同条に違反する労働条件の相違を設ける部分は無効と解されるものの、同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではない」としたうえで、「両者間における労働条件の相違が不合理とされる場合、例えば、使用者において、当該有期契約労働者に対し、各種手当等の支給に関して同条に違反する取扱いをした場合には、不法行為の成立は妨げられない」としました。

このように、高松高等裁判所は、すでに示されていた最高裁判決の判断枠組みを踏まえたうえで、賃金項目ごとに、その趣旨・目的を個別に検討するという手法により、具体的な当てはめを行いました。

高等裁判所の判決の理由②(個別の手当についての判断)

【争点1~3】家族手当・住宅手当・精勤手当が支給されない点

高松高等裁判所は、これら3つの手当について、扶養家族の有無およびその人数、賃貸住宅への居住の有無、勤務日数といった明確に定められた支給基準により一定額が支給されるものとされており、職務の内容の差異等に基づくものとは解し難いこと、賞与と異なり、会社には手当の支給の有無および支給額の多寡について格段の裁量もないことから、「手当の支給条件の差違について、会社が主張する人事政策上の配慮等の必要性を認めるに足りない」としました。

その結果、「家族手当、住宅手当および精勤手当の不支給は、いずれも労働契約法第20条に違反する不合理なものである」と判断しました。

【争点4】有期契約労働者に「賞与」が支給されない点

高松高等裁判所は、賞与について、月例賃金とは別に支給される一時金であって、労務の対価の後払い、功労報酬、生活費の補助、労働者の意欲向上等といった多様な趣旨を含み得るものであり、賞与を支給するか否かは使用者の経営および人事施策上の裁量判断によるとしました。

そのうえで、会社における賞与の配分には一定の裁量があり、賃金支給額を基準として算定される部分が大きいこと、有期契約労働者にも一律に寸志が支給されていたこと、有期契約労働者にも組長以上への昇進や中途採用による無期契約労働者への登用の途が開かれていたことなどを考慮し、「長期雇用を前提とする無期契約労働者に対し賞与の支給を手厚くすることにより有為な人材の獲得・定着を図るという会社の人事施策上の目的にも相応の合理性が認められる」としました。

その結果、「会社が有期契約労働者に対して無期契約労働者と同額の賞与を支給しないことが労働契約法第20条に違反するものとはいえない」と判断しました。

【争点5】無期転換後も、手当の不支給を理由とする損害賠償請求ができるか

高松高等裁判所は、原告らが平成30年9月に無期労働契約に転換した後についても、会社が制定した無期転換社員就業規則により家族手当等が支給されないこととされていた点について、同規則は、手当等の支給に関する限り、制定前の有期契約労働者の労働条件と同一であること、会社が同規則の制定に当たって労働組合と交渉したことを認めるに足りる証拠がないこと、原告らが同規則の労働条件を受け入れたことを認めるに足りる証拠もないことを指摘しました。

その結果、「無期転換社員就業規則の制定のみをもって、会社が家族手当等に相当する損害賠償の支払義務を負わないと解するべき根拠は認め難い」として、無期転換後の期間についても、原告らの損害賠償請求を認めました

なお、原告らが所属する労働組合は、平成26年11月以降、会社に対し、有期契約労働者への手当支給に関する要求書を複数回送付し、団体交渉を求めていましたが、会社は就業規則を改訂するなどの対応をしませんでした。

高松高等裁判所は、この経緯から、「会社が本件取扱いをしたことについて過失があり、不法行為が成立する」と判断しました。