勤務時間外の「研修」「教育訓練」「勉強会」は労働時間に該当する?労働時間の該当性を判断する際のポイントを解説

はじめに

労働時間の管理は、労働基準法が定める法定労働時間、時間外労働の上限規制、割増賃金の支払いなどに直結するため、企業にとっては、労働時間をいかに正確に把握するかが、労務管理における重要な課題のひとつといえます。

企業では、労働者を対象とした研修、教育訓練、勉強会などが実施されることがありますが、これらの時間については、その時間を労働時間として取り扱うべきかどうか、法律上の明確な線引きがありません。

本稿では、研修、教育訓練、勉強会などについて、これらの時間が労働時間に該当するかどうかを判断する際のポイントを解説します。

「労働時間」とは

労働基準法では、法定労働時間(労働基準法第32条)や時間外労働の上限規制(同法第36条)など、労働時間を基準とした様々な規制を定めていますが、「労働時間」そのものを定義する定めはありません。

この点について、最高裁判所は、「労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいう」とした上で、「ある時間が労働時間に該当するかどうかは、労働契約や就業規則、労使間の合意等の定め方によって決まるものではなく、労働者の行為が客観的に見て使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるかどうかによって判断されるべきである」という考え方を示しました(三菱重工業長崎造船所事件/最高裁判所平成12年3月9日判決)。

もっとも、上記の基準は抽象的なものであるため、これを研修・教育訓練等の場面にそのまま当てはめて判断することは容易ではありません。

そこで、実務上は、行政通達やリーフレット、裁判例で示された判断基準を参考にして、個別に判断する必要があります。

研修・教育訓練の労働時間の該当性

研修・教育訓練の例

使用者が行う研修・教育訓練として、例えば、次のような時間が挙げられます(以下、まとめて「研修・教育訓練等」といいます)。

研修・教育訓練等の例

  • 始業前や終業後に行われる社内勉強会の時間
  • 昇進試験、資格取得のための勉強時間
  • 使用者が実施する研修会、教育訓練の時間

研修・教育訓練等が労働時間に該当するかどうかについて、労働基準法などの法令において、明確な基準はありません。

そこで、使用者は、研修・教育訓練等の目的や性質に応じて、労働時間に該当するかどうかを個別に判断する必要があります。

労働時間の該当性の判断基準

実務上、研修・教育訓練等が労働時間に該当するかどうかを判断する際には、厚生労働省のリーフレット「労働時間の考え方:「研修・教育訓練」等の取扱い」が参考になります。

同リーフレットでは、次のように記載されています。

研修・教育訓練の取扱い

研修・教育訓練について、業務上義務付けられていない自由参加のものであれば、その研修・教育訓練の時間は、労働時間に該当しない。

反対に、研修・教育訓練について、業務上義務付けられている強制参加のものであれば、それは労働時間に該当するといえます。

リーフレットによれば、研修等の時間が労働時間に該当するかどうかは、「業務上義務付けられているかどうか」が重要な判断基準となります。

そこで、次に、「どんな場合に、業務上義務付けられているといえるのか」が問題となります。

これには労働者の認識(主観)も影響するため、表面的に任意参加の形式にしているかどうかだけで判断することは適切ではありません。

表面上は任意参加とされていても、労働者にとっては参加が強制されていると認識しているケースは多いものです。

業務上義務付けられているかどうかの判断基準

研修・教育訓練等が業務上義務付けられていると判断されるための要素として、例えば次のようなものが挙げられます。

業務上義務付けられているかどうかの判断基準

  1. 業務内容と直接的な関係がある、もしくは密接な関連性があるもの
  2. 職場環境の維持向上に関するもの(安全衛生に関するものなど)
  3. 法令で使用者の義務とされているもの

1.労働者の業務内容と直接的な関係がある、もしくは密接な関連性があるもの

例えば、形式上は研修会への参加は強制していないものの、出席しなければ業務に最低限必要な知識やスキルが習得できず、実質的に業務が行えないような場合がこれに該当します。

また、労働者が業務を遂行するうえで、その資格の取得が不可欠とされているような場合において、その資格の取得に対応するための研修会や勉強時間が該当します。

一方、資格の取得であっても、自己啓発として取得するための勉強時間は、労働時間に該当しません。

ここで、「資格の取得が不可欠」というためには、例えば、労働者が資格を取得しない、もしくは受験しないことで、人事査定においてマイナスの評価がなされる(その結果、昇給や給与・賞与に影響がある)など、労働者に何らかの不利益が生じる場合には、使用者から労働者に対する事実上の命令が存するといえるため、その場合は労働時間に該当すると判断される可能性が高いといえます。

また、出席しなければ何らかのペナルティが科されたり、使用者から不参加の理由を聞かれたりする場合も、事実上の命令が存すると解されます。

一方、使用者が一定の資格を取得した労働者について、資格手当の支給など労働条件面で優遇している場合や、勉強会参加者への弁当の支給など何らかの支援措置がある場合については、資格を取得していない労働者を不利に取り扱うものではないため、基本的に労働時間に該当すると判断される可能性は低いといえます。

前掲のリーフレットでは、この点に関して、次のような具体例を挙げています。

具体例

  • 使用者が外国人講師を呼んで開催している、任意参加の英会話講習を労働者が受講する時間は、労働時間に該当しない(英会話は業務と関連性がないことが前提)。
  • 使用者が指定する社外研修について、休日に参加するよう指示され、後日レポートの提出も課されるなど、実質的な業務指示で参加する研修は、労働時間に該当する。
  • 労働者自らが担当する業務について、あらかじめ先輩社員がその業務に従事しているところを見学しなければ実際の業務に就くことができないとされている場合の業務見学は、労働時間に該当する。

なお、研修会や勉強会の結果を、報告書やメールなどで使用者に報告させる場合には、業務との関連が強くなる傾向があり、労働時間に該当する可能性が高いといえます。

2.職場環境の維持向上に関するもの(安全衛生に関するものなど)

主に安全衛生の観点から、使用者が労働者に対して実施する研修・教育訓練等があります。

使用者は労働者の労働安全衛生について、労働安全衛生法など諸法令の適用を受けるため、必要に応じて職場環境の維持向上のために研修等を実施する必要があります。

特に、労働安全衛生法によって義務付けられる安全衛生教育については、行政通達により労働時間に該当するとされています(昭和47年9月18日基発602号)。

労働安全衛生法による安全衛生教育】

労働安全衛生法第59条および第60条の安全衛生教育は、労働者がその業務に従事する場合の労働災害の防止をはかるため、事業者の責任において実施されなければならないものであり、したがって、安全衛生教育については所定労働時間内に行うのを原則とすること。

また、安全衛生教育の実施に要する時間は労働時間と解されるので、当該教育が法定時間外に行われた場合には、当然割増賃金が支払われなければならないものであること。

3.法令で使用者の義務とされているもの

法令で訓練の実施が使用者に義務付けられているものとして、消防法に基づく消火、通報、避難訓練が挙げられます。

これらの時間は行政通達により、労働時間に該当することが明確にされているため、原則として労働時間に該当します(昭和23年10月23日基収3141号)。

消防法に基づく消火、通報、避難訓練

消防法第8条の規定により法定労働時間を超えて訓練を行う場合においては時間外労働として法第36条の協定を締結して行わなければならない。

【参考】関連裁判例

NTT西日本ほか事件/大阪高等裁判所平成22年11月19日判決

使用者がウェブ学習を奨励した時間が労働時間に該当するかどうか争われた事件です。

裁判所は、①ウェブ学習は、パソコンを操作してその作業をすること自体が、使用者の利潤を得るための業務ではないこと、②ウェブ学習は、むしろ、労働者個人のスキルアップのための材料や機会を提供し、各労働者がその自主的な意思によって作業をすることによってスキルアップを図るものであること、③使用者は自己研鑽のためのツールを提供して推奨しているにすぎず、それをもって業務の指示とみることはできないことを理由に、「使用者の指揮命令下においてなされた労働時間と認めることはできない」と判断しました。

豊田労基署長(トヨタ自動車)事件/名古屋地方裁判所平成19年11月30日判決

労働者が過労死した事件で、労働者の行っていた「QCサークル活動」が労働時間に該当するかどうかが争われた事案です。

QCサークル活動とは、労働者が、自社の製品やサービスなどの品質管理や品質改善を行うために小グループ(QCサークル)をつくり、活動することをいいます。

裁判所は、「QCサークル活動は、事業主の事業活動に直接役立つものであり、使用者の支配下にある業務と認められる」として、労働時間に該当すると判断しました。

八尾自動車興産事件/大阪地方裁判所昭和58年2月14日判決

裁判所は、経営協議会の下に設けられていた「各専門委員会」に出席していた時間について、その時間は使用者の業務としてなされたものであって、労働者が各専門委員会に出席して活動した時間は、時間外の労働時間というべきであるから、これに対して、使用者は割増賃金を支払う義務があると判断しました。