【入門】「所定」と「法定」の違いは?|所定労働時間と法定労働時間、所定休日と法定休日の違いを解説

はじめに

会社の労務管理を適切に行うためには、「所定」と「法定」とを正しく理解することがとても重要です。

特に、「所定労働時間・法定労働時間」、および、「所定休日・法定休日」については、これらを混同し、誤った労務管理を行うと、法令違反や賃金の未払いなど、思わぬ労務トラブルに発展することがあります。

この記事では、労務管理の入門編として、「所定」と「法定」の違いについて、初学者の方にも分かりやすく解説します。

【関連動画はこちら】

「所定」と「法定」とは?

「所定」とは?

所定」とは一般に、「あらかじめ決められている、指定されている」ことを意味します。

そして、特に労務管理における「所定」とは、「会社があらかじめ定めている」ことを意味ます。

なお、この記事では便宜上「会社」といいますが、正確には、労働基準法では労働者を使用する立場にある者を「使用者」といいます。

「法定」とは?

法定」とは、その名のとおり「法律によって定められている」ことを意味します。

そして、特に労務管理における「法律」とは、「労働基準法」をいいます。

労働基準法は、「強行法規」に分類される法律であり、たとえ当事者間(会社と従業員)で、法律の内容を下回る条件(従業員にとって不利な条件)で労働契約を締結したとしても、法律上は有効とは認められません。

また、会社が労働基準法の定めに違反した場合には、罰則として、罰金や懲役などの刑罰が科されます。

なお、強行法規に対して「任意法規」に分類される法律(民法など)は、法律の内容よりも、当事者間の合意内容を優先することから、当事者間の合意によって、法律とは異なる取り扱いをすることが認められています。

所定労働時間と法定労働時間

「所定労働時間」とは?

所定労働時間」とは、簡単にいうと、労働契約によって定められた労働時間をいいます。

一般的には、会社が決定した所定労働時間を提示し(何時から何時まで働いてほしいか)、従業員がこれに合意する形で、労働契約が成立します。

これにより、従業員は所定労働時間について労働をする義務が生じ、会社は従業員に労働義務を課すことができる、ということになります。

つまり、所定労働時間は、従業員ごとに、個別の労働契約に基づき決定されるものであるため、社員やアルバイト・パートなど雇用形態に応じて異なる所定労働時間を定めることや、シフト制などにより、日によって異なる所定労働時間を定めることも可能です。

「法定労働時間」とは?

「法定労働時間」とは?

法定労働時間」とは、労働基準法が定める原則的な労働時間をいいます。

労働基準法では、原則として、法定労働時間を超えて従業員を働かせてはならないと定めており、このことから法定労働時間とは、いわば労働時間の「上限時間」といえます。

法定労働時間と所定労働時間の違いは、法定労働時間が法律に基づく絶対的な時間(変えることができない時間)であることに対し、所定労働時間は従業員ごとの労働契約の内容によって異なる相対的な時間(変えることができる時間)であるという点にあります。

労働基準法では、法定労働時間として、次の2つの時間を定めています(労働基準法第32条)。

法定労働時間

  • 1日8時間
  • 1週40時間(※)

なお、法定労働時間は、いずれも休憩時間を除いた実労働時間をいいます。

(※)労働時間の特例

労働基準法による労働時間の特例が認められる事業については、法定労働時間は「1週44時間」になります。

労働時間の特例が認められる事業とは、常時10人未満の従業員を使用する、商業(卸売業、小売業など)、映画・演劇業(映画製作業を除く)、保健衛生業(病院、診療所など)、接客娯楽業(旅館、飲食店など)をいいます。

所定労働時間が法定労働時間を超える場合

前述のとおり、労働基準法は強行法規であり、当事者間で法律を下回る条件(従業員にとって法定労働時間よりも不利な条件)で合意をすることは認められないことから、会社は、法定労働時間を超える所定労働時間を定めることはできません(なお、変形労働時間制による場合の例外はありますが、ここでは割愛します)。

例えば、会社が仮に「1日10時間」とする所定労働時間を定めたとしても、1日8時間を超える2時間(従業員にとって法定労働時間よりも不利な部分)については、法律上は無効なもの(効力が認められないもの)として取り扱われることとなります。

所定労働時間・法定労働時間と36協定・割増賃金との関係

所定時間外労働・法定時間外労働と36(さぶろく)協定

法定労働時間を超えて従業員が働く場合、会社は、従業員の過半数代表者との間で、書面による協定(通称、「36(さぶろく)協定」)を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出ることにより、法定労働時間を超えて働くことが可能となります(労働基準法第36条)。

このとき、法定労働時間を超えて働く時間のことを、「時間外労働(または法定時間外労働)」といいます(以下、「法定時間外労働」といいます)。

一方、所定労働時間を超えて働く時間のことを、一般に「所定時間外労働」、「所定外労働」などといいます(以下、「所定時間外労働」といいます)。

一般的には、これらをまとめて「残業」といわれることがありますが、労務管理においては、同じ「残業」であっても、それが所定労働時間を超えた時間(所定時間外労働)であるのか、法定労働時間を超えた時間(法定時間外労働)であるのかは、36協定や割増賃金(後述)に影響を与えるため、両者を区別することが重要です。

36協定の締結が必要となるのは、あくまで法定労働時間を超える場合であって、所定労働時間を超える場合でも、法定労働時間以内に収まる場合には、36協定を締結する必要はありません。

所定時間外労働・法定時間外労働と割増賃金

法定時間外労働に対しては、その時間に対して、通常の賃金に25%以上を割り増しした、「割増賃金」を支払う必要があります(労働基準法第37条)。

例えば、時給が1,000円の従業員であれば、法定時間外労働1時間あたり1,250円を支払う、ということです。

また、法定時間外労働が1ヵ月に60時間を超える場合には、その時間に対しては、通常の賃金に50%以上を割り増しする必要があります(中小企業は2023(令和5)年4月1日から適用)。

一方、所定労働時間を超える所定時間外労働については、それが法定労働時間に達しない限りは、通常の賃金を支払えば足り、割り増しをする必要はありません

例えば、時給が1,000円の従業員であれば、所定時間外労働1時間あたり1,000円を支払えば足りる、ということです。

ただし、会社によっては、所定労働時間が法定労働時間未満の場合(例えば、所定労働時間が1日7時間の場合)であっても、所定労働時間を超えた場合には、その時間に対して25%以上の割増賃金率で計算した割増賃金を支給するとしている会社もあります。

このような取り扱いは、法律の定めを上回るもの(従業員にとって有利なもの)であることから問題なく認められます。

「法内残業(法定内残業)」と「法外残業(法定外残業)」

所定労働時間が法定労働時間未満(例えば、所定労働時間が1日7時間の場合)の会社では、所定労働時間(7時間)を超え、法定労働時間(8時間)以内の所定時間外労働を「法内残業(法定内残業)」(割り増しをする必要がない残業を意味する)、法定労働時間を超える法定時間外労働を「法外残業(法定外残業)」(割り増しをする必要がある残業を意味する)などと区別しているケースもあります。

あくまで労務管理上、所定時間外労働と法定時間外労働とを区別するために、会社が独自に用いる用語であって、法律用語ではありません。

所定休日と法定休日

「休日」とは?

「休日」とは、従業員が労働する義務を負わない日のことをいいます。

「法定休日」とは?

休日については、法律上、原則として「毎週少なくとも1日」の休日を与えなければならないと定められており、この休日のことを「法定休日」といいます(労働基準法第35条第1項)。

つまり、法定休日とは、法律が定めている「最低限の休日」といえます。

法定休日は、日曜日や祝祭日など、曜日とは関係ありませんので、毎週少なくとも1日の休日を与えている限り、例えば、土曜日や日曜日、祝祭日を必ずしも休日にする必要はありません。

「所定休日(法定外休日)」とは?

一方、法定休日とは別に定められる、会社の休日(法律で義務付けられていない休日)のことを、「所定休日」といいます(法定休日と区別するために、「法定外休日」ということもあります)。

例えば、毎週土曜日と日曜日を休日とする、いわゆる完全週休2日制の会社においては、いずれか1日が法定休日、もう1日が法定外休日となります。

このとき、必ずしも日曜日を法定休日とする必要はなく、土曜日と日曜日のいずれを法定休日とするのかは、会社が就業規則などによって定める必要があります。

従業員にとっては、休日が所定休日か法定休日であるかは、あまり意識しないことが多いといえますが、会社の労務管理においては、後述する割増賃金の算定などにも影響するため、両者を区別して管理することが重要です。

なお、従業員が労働する義務を負う日のことを、「(所定)労働日」といいます。

(所定)労働日は、所定休日・法定休日以外の日をいいますが、(所定)労働日を数える際には、「所定労働日数」ということがあります(例えば、「1週間の所定労働日数が何日」、「1ヵ月の平均所定労働日数が何日」などという用い方をします)。

変形休日制

法定休日の例外として、「4週間を通じて4日以上」の休日を与える場合には、毎週少なくとも1日の休日を与える必要はなく、これを「変形休日制」といいます(労働基準法第35条第2項)。

法定休日を与えない場合の罰則

会社が法定休日を与えない場合の罰則として、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が定められています(労働基準法第119条)。

所定休日・法定休日と36協定・割増賃金との関係

所定休日労働・法定休日労働と36協定

従業員が法定休日に働く場合には、法定時間外労働をする場合と同様に、36(さぶろく)協定を締結することが必要です(労働基準法第36条)。

36協定においては、法定休日労働に関する記入欄として、「労働させることができる法定休日の日数」や「労働させることができる法定休日における始業及び終業の時刻」などが設けられています。

「労働させることができる法定休日の日数」としては、例えば「1ヵ月に2日」などのように、法定休日をさせる可能性のある上限日数を記載します。

また、「労働させることができる法定休日における始業及び終業の時刻」としては、例えば「9時から18時」などのように記載します。

一方、従業員が所定休日にのみ働く場合(法定休日には働かない場合)には、36協定を締結する必要はありません。

所定休日労働・法定休日労働と割増賃金

法定休日労働に対しては、その時間に対して、通常の賃金に35%以上を割り増しした、「割増賃金」を支払う必要があります(労働基準法第37条)

一方、所定労働時間を超える所定休日労働については、通常の賃金を支払えば足り、割り増しをする必要はありません。

休日に関するその他の事項

「休日」と「休暇」の違い

「休日」とは、労働契約において従業員が労働する義務を負わない日(そもそも働く必要のない日)のことをいいますが、「休暇」とは、労働契約によって労働の義務がある日ではあるものの、一定の事由(法律に基づく年次有給休暇や、就業規則に基づく特別休暇など)により、会社が労働の義務を免除することをいいます。

所定休日・法定休日と代休

代休」とは、法定休日に労働をさせた場合に、事後的に、別の労働日を休日として取り扱うことをいいます。

重要なのは、「法定休日に休日労働をした」という事実がすでに確定している点にあります。

たとえ会社がその後に代休を与えたとしても、法定休日労働がなされた事実まで帳消しにできるものではないため、会社には法定休日労働に対する割増賃金(35%以上)を支払う義務が残ります。

なお、法律上は、従業員が法定休日に働いたとしても、あくまで割増賃金の支払いが求められているだけで、代休を与える義務はありません

所定休日・法定休日と年間休日数との関係

法定休日は週に1日とされているため、年間に換算すると、1年は52週間(365日÷7日)であることから、理論上は、年間休日数は最低52日あれば足りることとなります。

しかし、同時に法定労働時間による制限があり、所定労働時間を1日8時間とした場合に出勤できる日数は、週に5日(週40時間÷1日8時間)が限度となり、少なくとも週に2日(7日-5日)の休日を与える必要があります。

この週に2日の休日を年間に換算すると、年間休日数は104日(週2日×52週)となります(つまり、法定休日52日に対し、所定休日を52日加える必要がある)。

会社が年間休日数を定める際には、法定労働時間と法定休日の両方の基準を満たすように定める必要があります。