【高年齢者雇用安定法】定年・継続雇用に関する会社の義務(60歳・65歳・70歳)を整理して解説

はじめに

日本の人口が減少する中で、高年齢者であっても、働く意欲がある限り、年齢に関わらずその能力を発揮することができるよう、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(以下、「高年齢者雇用安定法」といいます)を中心とした法整備が行われています。

法律の仕組みとして、高年齢者の年齢に応じて、会社が講じるべきとされる措置の内容が異なります。

この記事では、高年齢者雇用安定法について、高年齢者の年齢(60歳・65歳・70歳)に応じて、会社が講じるべき措置の内容を整理して解説します。

定年の年齢

定年」とは、従業員が一定の年齢に達したことを退職の理由とする制度をいいます。

定年の年齢については、高年齢者雇用安定法によって下限が定められており、会社が定年の定めをする場合には、当該定年の年齢は「60歳」を下回ることができないとされています(高年齢者雇用安定法第8条)。

例えば、会社が就業規則によって、定年の年齢を55歳と定めたとしても、その就業規則の定めは法律上無効となります。

また、定年の年齢については、就業規則によって定めておく必要があり(労働基準法第89条第3号)、これらに定年の年齢が定められていない場合には、法的には、定年がないものと解されます。

定年の年齢と高年齢者雇用安定法

高年齢者雇用安定法では、定年の年齢に応じて、高年齢者について次の措置を講じるべき旨を定めています。

高年齢者雇用安定法における措置

  • 65歳未満の定年を定めた場合における、65歳まで雇用確保措置【2013(平成25)年4月1日施行】
  • 70歳まで就業確保措置【2021(令和3)年4月1日施行】

以下、順に解説します。

65歳までの雇用確保措置(65歳未満の定年を定めた場合)

雇用確保措置の内容

法律では、65歳未満の定年の定めをしている会社は、「高年齢者雇用確保措置」として、次の3つの措置のうち、いずれかの措置を講じなければならないと定められています(高年齢者雇用安定法第9条)。

当該措置は、2013(平成25)年4月1日施行の法改正により定められました。

高年齢者雇用確保措置の内容

  1. 65歳までの定年の引上げ
  2. 65歳までの継続雇用制度の導入
  3. 定年の定めの廃止

65歳までの定年の引上げ

65歳まで定年の年齢を引き上げることをいいます。

65歳までの継続雇用制度の導入

継続雇用制度とは

継続雇用制度」とは、現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいいます。

継続雇用制度は、原則として、60歳を超えて働くことを希望する従業員については、全員を雇用する義務があります。

なお、継続雇用制度については、法改正前(2013(平成25)年3月31日まで)までは、労使協定を締結することにより、継続雇用の対象者を限定するための基準を設けることができる仕組みがありましたが、法改正に伴い、当該仕組みは廃止されました(一定期間の経過措置を設けているため、完全に廃止されるのは、2025(令和7)年4月1日)。

継続雇用制度の種類

継続雇用制度は、会社によっては、再雇用制度、勤務延長制度などといわれることがあります。

「勤務延長制度」とは、一般に、60歳以降も職務内容や賃金などの労働条件を変更せずに、65歳までは定年前と同等の待遇(労働条件)で仕事に就く制度をいいます。

再雇用制度」とは、一般に、いったん定年によって退職した後、新たな内容の雇用契約を結び、嘱託社員など定年前とは異なる待遇(労働条件)で仕事に就く制度をいいます。

実務上は、再雇用する際には、契約期間を定めて契約する(有期労働契約を締結する)ことが一般的です。

自社以外の他の会社で継続雇用することも認められますが、その場合には、自社の親会社、子会社、関連会社など、「特殊関係事業主」とされる会社に限定されており、これらに該当しない会社での継続雇用は認められません(高年齢者雇用安定法第9条第2項)。

定年の定めの廃止

定年の年齢について、就業規則による定めを設けないことをいいます。

定年の定めを設けないということは、従業員が自ら退職するか、または、就業規則上の解雇事由にしない限りは、年齢に関わらず従業員を雇用し続けることを意味します。

罰則

会社が高年齢者雇用確保措置を実施しない場合に、刑事罰・行政罰などの罰則は特に定められていません。

ただし、公共職業安定所(ハローワーク)などの指導を繰り返し受けたにも関わらず、何ら具体的な取り組みを行わない会社に対しては、勧告書が発出され、さらに勧告にも従わない場合は、会社名の公表を行う場合があるとされています(高年齢者雇用安定法第10条第3項)。

70歳までの就業確保措置(65歳以上70歳未満の定年を定めた場合)

就業確保措置の内容

高年齢者雇用安定法では、65歳までの雇用が達成されていることを前提に、70歳未満の定年を定めている会社においては、「就業確保措置」を講じるように努めなければならないとされています(高年齢者雇用安定法第10条の2)。

就業確保措置は、2021(令和3)年4月1日施行の法改正により、定められました。

ポイントは、就業確保措置を講じることが、会社にとって「努力義務」に留まっている点です。

努力義務とは、法的な拘束力がなく、あくまでも会社に自発的な努力を促すといった効力に留まることをいいます。

したがって、この法律に従わなかったとしても、罰則が適用されることはありません。

就業確保措置には、次の5つがあります。

就業確保措置の内容

  1. 70歳までの定年の引上げ
  2. 70歳までの継続雇用制度の導入
  3. 定年の定めの廃止
  4. 高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入(創業支援等措置)
  5. 高年齢者が希望するときは、事業主が自ら実施する、または事業主が委託・出資などをする団体が行う社会貢献事業に、70歳まで継続的に従事できる制度の導入(創業支援等措置)

会社は、上記の5つの措置のうち、いずれか一つを選択することも、複数の措置を選択することもできます。

例えば、68歳まで定年の年齢を引き上げ、68歳から70歳までは継続雇用制度により、希望者のみ雇用するといった制度によることも可能です。

1.70歳までの定年の引上げ

70歳まで定年の年齢を引き上げることをいいます。

2.70歳までの継続雇用制度の導入

現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて、満70歳まで雇用する制度をいいます。

70歳までの継続雇用制度は、65歳までの継続雇用制度とは異なり、会社が自社の特殊関係事業主以外の他の会社において継続雇用をすることも認められます

この場合、他の会社との間で、従業員を継続雇用することを約するための契約を締結する必要があります。

また、65歳以降70歳までの継続雇用制度においては、継続雇用の対象者を限定するための基準を設ける(制度の適用対象となる従業員を制限する)ことが認められます(なお、後述の創業支援等措置についても同様)。

この点は、原則として継続雇用を義務付けている、65歳までの継続雇用制度と異なります。

例えば、継続雇用制度の対象となる従業員について、会社は次のような基準を設けることができます。

対象者を限定する例

  • 過去3年間の人事考課が平均してB(普通)評価以上である者
  • 過去3年間の出勤率が90%以上である者
  • 過去3年間の定期健康診断の結果を踏まえ、健康上問題がなく、業務上支障がないと認められる者

ただし、「会社が必要と認めた者に限る」など、実質的には基準が存しないといえるような場合には、会社が恣意的に一部の高年齢者を排除することが可能であり、法律の趣旨に反すると解されます。

3.定年の定めの廃止

定年の年齢について、就業規則による定めを設けないことをいいます。

4.5.創業支援等措置

70歳までの就業確保措置においては、自社での直接雇用によらない措置が定められています。

内容は後述します。

創業支援等措置とは

創業支援等措置とは

前述の4.と5.の措置を、「創業支援等措置」といいます。

創業支援等措置とは、会社が従業員を、満70歳まで自社で雇い続けるのではなく、定年を迎えた従業員の起業などを支援し、各従業員の希望に応じた多様な働き方を支援することをいいます。

この措置は、事業主が直接雇用するものではないことから、65歳までの措置を「雇用」確保措置、70歳までの措置を「就業」確保措置として、用語を区別しています。

創業支援等措置を実施する場合の手続

会社が創業支援等措置を実施する場合には、実施する措置の内容について計画を作成した上で、当該計画について、従業員の過半数代表者(または過半数労働組合)の同意を得る必要があります(高年齢者雇用安定法第10条の2)。

創業支援等措置を実施する場合の手続は次のとおりです。

創業支援等措置を実施する場合の手続

  • 措置の内容について記載した計画を作成する
  • 計画について、従業員の過半数代表者(または過半数労働組合)の同意を得る
  • 計画の内容を従業員に周知する

創業支援等措置の内容

業務委託契約の締結

業務委託契約」とは、フリーランス(個人事業主)などとして起業する従業員との間で、業務の委託に関する内容(業務内容や報酬など)を取り決める契約をいいます。

業務委託契約は、書面で締結する必要があり、計画内容に基づいて、個々の契約条件を定めます。

また、契約の際、会社は労働基準法などの労働関係諸法令が適用されない働き方であることを十分に説明する必要があります。

これは、雇用(会社員)による場合と、業務委託契約(個人事業主)とでは、労働時間に関する規制の適用の有無、社会保険への加入の有無などについて、大きな違いが生じるため、予期せぬトラブルを防止するためにも、従業員がその違いを十分に理解しておく必要があるためです。

社会貢献事業への従事

社会貢献事業」とは、不特定かつ多数の者の利益に資することを目的とした事業をいいます。

社会貢献事業に該当するかどうかについては、具体的な基準があるものではなく、その事業の性質や内容などを勘案して、個別に判断されることとなります。

会社が自ら実施する社会貢献事業はもちろん、会社が出資(資金提供)をしている公益社団法人などで従事することも含まれます。

なお、ここでは「就業機会の確保」という目的があるため、無償(ボランティア)ではなく、有償で働く機会を与える必要があります。

また、自社以外の他の団体が実施する社会貢献事業に従事する場合には、従業員の就業先となる団体との間で、当該団体が社会貢献活動に従事する機会を提供することを約する契約を締結する必要があります。