【2024年法改正】専門業務型裁量労働制の改正(対象者の同意・同意の撤回手続・健康福祉確保措置の拡充など)を解説

はじめに

専門業務型裁量労働制について、2024(令和6)年4月1日に労働基準法施行規則などが改正されます。

この記事では、法改正の内容と、会社が法改正に向けて対応することが必要となる事項を解説します。

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専門業務型裁量労働制とは

専門業務型裁量労働制」とは、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分などを大幅に従業員の裁量にゆだねる必要がある業務について、労使間であらかじめ定めた時間を働いたものとみなす制度をいいます(労働基準法第38条の3第1項)。

専門業務型裁量労働制は、従業員に高い専門性や経験が求められる業務であって、業務遂行の手段や方法の決定を従業員にゆだねることにより、業務に対する個別具体的な指示をほとんど必要としないような場合に適用することができます。

専門業務型裁量労働制では、従業員が業務を遂行した場合に、実際に何時間働いたかに関わらず、労使間で合意された一定時間を働いたものと「みなす」ことに特徴があります。

専門業務型裁量労働制に関する詳細は、次の記事をご覧ください。

「専門業務型裁量労働制」とは?制度内容・適用業務(職種)・手続(労使協定)などを解説

改正される法律と施行日

改正される法律は、「労働基準法施行規則」(厚生労働省令)、および関連する厚生労働省の告示、指針です。

いずれも施行日は、2024(令和6)年4月1日です。

専門業務型裁量労働制を継続して導入する会社では、2024(令和6)年3月31日までに、労働基準監督署に対し、協定届の届出を行う必要があります。

対象業務の拡大(19業務→20業務)

専門業務型裁量労働制は、どのような業務についても適用できるものではなく、法律によって定められた対象業務に限られています。

法律の改正前は、専門業務型裁量労働制は、「19」の業務に限り、導入することができました(労働基準法施行規則第24条の2の2第2項第6号、平成9年2月14日労働省告示第7号)。

法律の改正後は、下記の対象業務が追加されることにより、「20」の業務が対象となります(令和5年3月30日厚生労働省告示第115号)。

追加される対象業務

銀行または証券会社における、顧客の合併・買収に関する調査または分析、およびこれに基づく合併・買収に関する考案および助言の業務

労使協定事項の追加(対象者の同意・同意の撤回手続)

労使協定の締結

専門業務型裁量労働制を導入するための手続として、会社と、従業員の過半数代表者との間で、労使協定を締結することが必要です。

労使協定においては、原則として、次の事項を労使協定に定めて締結した上で、所定の様式である「専門業務型裁量労働制に関する協定届(様式第13号)」により、所轄の労働基準監督署に届け出ることが必要です(労働基準法第38条の3第2項)。

  1. 制度の対象とする業務
  2. 労働時間としてみなす時間(みなし労働時間)
  3. 対象となる業務遂行の手段や時間配分の決定等に関して、会社が対象従業員に具体的な指示をしないこと
  4. 対象従業員の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の内容
  5. 対象従業員からの苦情の処理のために実施する措置の内容
  6. 労使協定の有効期間
  7. 4.および5.に関して、従業員ごとに講じた措置の記録を、労使協定の有効期間およびその期間満了後3年間保存すること

法改正後

法改正により、上記の労使協定の協定事項に加えて、次の事項が追加されます(労働基準法施行規則第24条の2の2第3項)。

法改正により追加される協定事項

  1. 制度の適用に当たって従業員本人の同意を得ること
  2. 制度の適用に同意をしなかった従業員に対して、解雇その他不利益な取り扱いをしてはならないこと
  3. 1.の同意の撤回に関する手続
  4. 1.の同意およびその撤回に関する従業員ごとの記録を、協定の有効期間中および当該有効期間の満了後3年間保存すること

法改正前は、専門業務型裁量労働制を適用する場合に、従業員本人の同意を得ることは要件とされていませんでした。

法改正後は、専門業務型裁量労働制を適用する場合には、従業員本人の同意を得ることが必要になるとともに、従業員が同意をしない場合でも、会社は解雇その他の不利益な取り扱いをしてはなりません。

また、従業員の同意は、一度同意した場合でも、その後、同意を撤回することができるように、撤回のための手続を定めておく必要があります。

同意を得られない(または撤回した)場合の留意点

専門業務型裁量労働制の適用に当たって、従業員本人の同意を得られない、または同意を撤回するということは、労務管理上、当該従業員については、みなし労働時間によらない、通常の労働時間管理を行う必要があることを意味します。

通常の労働時間管理とは、会社が従業員に対する指揮・命令を行い、労働時間を厳密に管理することを意味します。

ただし、そもそも専門業務型裁量労働制は、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分などを大幅に従業員の裁量にゆだねる必要がある業務に適用するものであり、通常の労働時間管理になじまない場合もあります。

すると、同意をしない、または同意を撤回した従業員については、その業務について、専門業務型裁量労働制が適用される業務と同様の業務に従事させることができない場合があり得ます。

その場合には、会社は、もし従業員が同意をせず、または同意を撤回した場合には、どのような業務に従事することとなるのか(それによって労働時間や賃金などの労働条件の変更が伴う場合には、当該労働条件)について、従業員の同意を得る際に、事前に説明しておくことが必要になると考えます。

健康・福祉を確保するための措置の拡充

専門業務型裁量労働制においては、裁量労働によって働き過ぎにつながるなど、従業員が健康上の不安を感じないように、健康・福祉を確保するための措置を講じなければならないとされています(労働基準法第38条の3第1項第四号、平成15年10月22日基発第1022001号)。

法改正後は、健康・福祉を確保するための措置を講じるにあたっては、①事業場における対象従業員全員を対象とする制度的な措置、および、②個々の対象従業員の状況に応じて講じる措置の分類から、それぞれ1つずつ以上の措置を実施することが望ましいとされています(労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針)。

なお、このうち特に、対象従業員について把握した勤務状況や健康状態を踏まえ、「労働時間の上限措置」を実施することが望ましいとされています。

健康・福祉を確保するための措置

【①事業場における対象従業員全員を対象とする制度的な措置】※下線が法改正により追加

  • 勤務間インターバルの確保(追加)
  • 深夜労働の回数制限(追加)
  • 労働時間の上限措置(一定の労働時間を超えた場合の制度の適用解除)(追加)
  • 年次有給休暇の連続取得の促進

【②個々の対象従業員の状況に応じて講じる措置】※下線が法改正により追加

  • 一定の労働時間を超える対象従業員への医師の面接指導(追加)
  • 代償休日または特別休暇の付与
  • 健康診断の実施
  • 心とからだの健康問題についての相談窓口の設置
  • 適切な部署への配置転換
  • 産業医による助言・指導、または保健指導の実施

法改正に向けた会社の対応

専門業務型裁量労働制を適用する会社においては、法改正への対応として、次の対応が必要になります。

法改正への対応事項

  1. 労使協定書の変更
  2. 就業規則の変更
  3. 同意書の書面作成
  4. 3.の撤回手続の検討、撤回届の書面作成
  5. 協定届の労働基準監督署への届出

以下、順に解説します。

1.労使協定書の変更

労使協定書においては、これまでの記載事項に加えて、対象従業員の同意に関する、次の内容を定める必要があると考えます。

労使協定書に追加する規定例(記載例)

専門業務型裁量労働制に関する協定書

(従業員の事前の同意)

第●条 会社は、従業員を専門業務型裁量労働制が適用される対象業務に従事させる場合には、事前に本人の書面による同意を得なければならないものとする。

2 会社は、前項の同意を得るに際しては、従業員に対し、次の事項を説明するものとする。

一、同意した場合における業務内容、みなし労働時間および賃金等の労働条件

二、同意しない場合における業務内容、労働時間および賃金等の労働条件

三、第一号によって同意をした場合における、同意の撤回手続(撤回の申出先となる部署・担当者、および申出の方法など)

3 第1項において同意をした従業員は、所定の手続に従い、当該同意を撤回することができるものとする。

(不利益取り扱いの禁止)

第●条 会社は、前条において、同意をしなかった従業員、または同意を撤回した従業員に対して、当該同意をしなかったこと、または同意を撤回したことを理由として、解雇その他不利益な取り扱いをしてはならないものとする。

2.就業規則の変更

就業規則においては、専門業務型裁量労働制の適用に当たって、本人の同意を得ること、および当該同意の撤回手続について、規定することが考えられます。

就業規則の規定例(記載例)

(専門業務型裁量労働制の適用)

第●条 研究・開発業務に従事する従業員であって、別に労使協定で定める専門業務型裁量労働制の適用に同意をした者は、当該労使協定に基づいて業務に従事するものとする。ただし、当該同意は、労使協定で定める手続により、撤回することができるものとする。

3.同意書の書面作成

専門業務型裁量労働制の適用について本人の同意を得るに当たって、法律では、書面によって同意を得ることまでは求められていませんが、当該同意は労務管理上、重要な手続であることから、適切に同意を得たことを証するために、書面を作成することが望ましいと考えます。

同意書の書式例

専門業務型裁量労働制の適用に関する同意書

株式会社●● 御中

私は、●年●月●日付で締結された、「専門業務型裁量労働制に関する協定書」によって協定された専門業務型裁量労働制の適用について、同意します。

また、本制度に同意した場合における業務、みなし労働時間および賃金等の労働条件について、事前に説明を受け、異議はありません。

同意日:●年●月●日

所属:●部●課

氏名:●●●●

4.3.の撤回手続の検討、撤回届の書面作成

撤回届の書式例

専門業務型裁量労働制にかかる同意の撤回届

株式会社●● 御中

私は、●年●月●日付の「専門業務型裁量労働制の適用に関する同意書」によって同意をした専門業務型裁量労働制の適用について、当該同意を撤回します。

また、本撤回によって、撤回後に適用されることとなる業務、労働時間および賃金等の労働条件について、事前に説明を受け、異議はありません。

撤回日:●年●月●日

所属:●●部●●課

氏名:●●●●

5.協定届の労働基準監督署への届出

専門業務型裁量労働制を適用する場合には、「専門業務型裁量労働制に関する協定届(様式第13号)」を、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。

法改正を受けて、協定届の様式についても変更があり、「労働者の同意を得なければならないこと(中略)についての協定の有無」などの事項について、「有・無」のいずれかに丸印をする確認欄が設けられています。

また、「同意の撤回に関する手続」の欄が新たに設けられ、どのような手続によって同意を撤回することができるのかを記入する必要があります。

様式第13号裏面の「記載心得」6では、当該欄には、「撤回の申出先となる部署および担当者、申出の方法などを具体的に記入すること」と記載されています。

そこで、当該欄には、例えば、「同意の撤回を希望する日の1ヵ月前までに、所属部長に申し出た上で、同意撤回届を提出する」などと記入することが考えられます。