有期労働契約(有期雇用)に関する法規制(契約期間、労働条件の明示、無期転換、雇止めなど)を整理して解説
- 1. はじめに(有期労働契約と法律)
- 2. 有期労働契約の期間に関する規制(上限・下限)
- 2.1. 契約期間の上限
- 2.2. 契約期間の下限
- 3. 有期労働契約を締結する際の明示事項(労働条件通知書)
- 3.1. 更新の判断基準
- 3.2. 通算契約期間または契約更新回数の上限
- 3.3. パートタイム・有期雇用労働法に基づく労働条件の明示事項
- 4. 有期労働契約から無期労働契約への転換(無期転換ルール)
- 4.1. 無期転換ルール(無期転換申込権)
- 4.2. 無期転換ルールの対象者
- 4.3. 無期転換申込権の行使
- 4.4. 有期労働契約を更新する際の対応
- 5. 有期労働契約と同一労働同一賃金
- 6. 有期労働契約を雇止めする(更新しない)場合の留意点
- 6.1. 有期労働契約の途中解約(解雇)
- 6.2. 契約期間の満了後、更新しない(雇止めする)場合
- 6.3. 有期労働契約を更新しない(雇止めする)際の予告手続
- 6.4. 雇止めの理由の明示
はじめに(有期労働契約と法律)
「有期労働契約」とは、6ヵ月や1年など、あらかじめ期間を定めて雇用される契約をいい、一般に、パート、アルバイト、契約社員、嘱託社員などと呼ばれる雇用形態が該当します。
契約によって定められた期間が満了した場合、そのまま契約を終了することもあれば、契約を更新して引き続き雇用することもあります。
また、従業員が契約の更新を望んでいても、会社が契約の更新を行わない(一般に、「雇止め」といいます)場合もあります。
有期労働契約は、立場的に従業員が不利になりやすい傾向があることから、次のように、複数の法令によって、その保護が図られています。
有期労働契約に関連する法令
- 労働基準法
- 労働契約法
- 短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下、「パートタイム・有期雇用労働法」といいます)
- 有期労働契約の締結、更新、雇止め等に関する基準(以下、「雇止めに関する基準」といいます)
この記事では、会社が従業員との間で有期労働契約を締結する場合に適用される、有期労働契約に関連する法令を整理しながら解説します。
有期労働契約の期間に関する規制(上限・下限)
契約期間の上限
会社が期間を定めて従業員を雇用する場合、原則として、契約期間の上限は3年とされています(労働基準法第14条)。
ただし、これは1回の契約における契約期間の上限であり、契約を更新することによって、結果的に3年を超えることは問題ありません。
また、例外として、専門的な知識を有する者、または、満60歳以上の者との契約については、契約期間の上限は5年とされています。
契約期間の下限
一方、契約期間の下限については、特に規制はありません。
ただし、雇止めに関する基準により、会社は、有期労働契約を1回以上更新し、かつ、1年を超えて継続して雇用している従業員との契約を更新しようとする場合は、その契約の実態および従業員の希望に応じて、契約期間をできる限り長くするよう努めなければならない(努力義務)とされています(雇止めに関する基準第4条)。
また、労働契約法では、会社は、その有期労働契約により従業員を雇用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その有期労働契約を反復して更新することのないように配慮しなければならないとされています(労働契約法第17条第2項)。
有期労働契約を締結する際の明示事項(労働条件通知書)
会社は、法律によって、労働契約の締結(従業員の雇入れ)に際しては、従業員に対して、労働条件(労働時間、賃金など)を明示しなければならないとされています(労働基準法第15条第1項)。
特に、有期労働契約を締結する場合には、労働条件通知書において、次の内容を記載する必要があります。
有期労働契約を締結する場合の記載事項
(必ず記載する事項)
- 契約期間の定め
- 契約の更新の有無
(更新がある場合に記載する事項)
- 契約を更新する際の判断基準
- 通算契約期間または契約更新回数の上限の有無とその内容
労働条件通知書に関する詳細は、次の記事をご覧ください。
労働条件通知書(労働条件の明示)とは?記載事項、通知方法などを解説【2024年最新版】
更新の判断基準
会社は、有期労働契約の締結に際しては、従業員に対して、契約期間の満了後における、当該契約の更新の有無を明示する必要があります。
この場合において、契約の更新があることを明示した場合には、併せて、当該契約を更新する場合またはしない場合の判断の基準を明示しなければならず、例えば、契約期間満了時における業務量や、契約期間中の勤務成績に応じて契約を更新する、などといった基準を記載する必要があります(労働基準法施行規則第5条第1項第1号の2)。
通算契約期間または契約更新回数の上限
さらに、有期労働契約の更新があることを明示した場合には、通算契約期間の上限や、契約更新回数に上限があるのか否か(上限がある場合には、その内容)を記載する必要があります(労働基準法施行規則第5条第1項第1号の2)(2024年4月1日施行)。
また、会社は、有期労働契約を締結した後、当該契約の変更時・更新時において、新たに通算契約期間や更新回数の上限を定める場合、または、これらを短縮する(引き下げる)場合は、あらかじめ、その理由を従業員に説明しなければならないとされています(雇止めに関する基準第1条)(2024年4月1日施行)。
パートタイム・有期雇用労働法に基づく労働条件の明示事項
会社は、パートタイム・有期雇用労働法に定める短時間労働者・有期雇用労働者を雇い入れる場合(契約の更新時を含む)には、次の内容について、労働条件通知書などによって明示することが義務付けられています(パートタイム・有期雇用労働法第6条第1項・同法施行規則第2条第1項)。
パートタイム・有期雇用の従業員に対する明示事項
- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
- 短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善などに関する事項にかかる相談窓口(※)
(※)会社は、短時間労働者および有期雇用労働者の雇用管理の改善などに関する事項に関して、相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備しなければならないとされています(パートタイム・有期雇用労働法第16条)。
有期労働契約から無期労働契約への転換(無期転換ルール)
無期転換ルール(無期転換申込権)
「無期転換ルール」とは、同一の会社と従業員との間で、有期労働契約(期間の定めがある労働契約)が通算5年を超えて更新された場合、従業員からの申し込みによって、当該労働契約が無期労働契約(期間の定めがない労働契約)に転換されるルールをいいます(労働契約法第18条第1項)。
このとき、従業員が無期労働契約への転換を申し込むことができる権利のことを、「無期転換申込権」といいます。
無期転換ルールに関する詳細は、次の記事をご覧ください。
無期転換ルール(5年)とは?有期労働契約の「無期転換申込権」をわかりやすく解説
無期転換ルールの対象者
無期転換ルールの対象者(無期転換申込権を行使できる者)は、同一の会社との間で締結された有期労働契約が更新された結果、2以上の有期労働契約の契約期間が通算して5年を超えた者です。
「2以上」とされていることから、少なくとも更新が1回以上行われていることが必要です。
無期転換申込権の行使
無期労働契約への転換は、無期転換ルールの対象者の要件に該当すれば自動的に行われるものではなく、要件を満たした従業員から、会社に対して無期転換への申込(無期転換申込権の行使)をすることが必要です。
従業員から無期転換申込権の行使がなされた場合、法律上、「会社は当該申し込みを承諾したものとみなす」と定められていることから、会社は申し込みを拒否することはできません(労働契約法第18条第1項)。
無期転換申込権を行使した場合には、無期転換申込権を行使した日が属する有期労働契約の期間満了日の翌日から、無期労働契約に転換します。
有期労働契約を更新する際の対応
会社は、有期労働契約の更新時において、更新によって従業員に無期転換申込権が発生する場合には、「無期転換の申し込みに関する事項」を明示する必要があります(労働基準法施行規則第5条第5項)(2024年4月1日施行)。
「無期転換の申し込みに関する事項」とは、例えば、従業員が無期転換申込権を行使する際の申込期限、行使した場合の無期労働契約への転換時期、申込手続などが考えられます。
これに併せて、会社は、契約の更新時において無期転換申込権が発生する従業員に対しては、更新の際に無期転換後の労働条件を明示する必要があります。
有期労働契約と同一労働同一賃金
「同一労働同一賃金」とは、同一の会社における、正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差を解消することを目的とした制度をいいます。
会社は、職務の内容が通常の従業員(正社員など)と同一の短時間・有期雇用従業員であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容および配置が、当該通常の従業員の職務の内容および配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるものについては、短時間・有期雇用従業員であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならないとされています(パートタイム・有期雇用労働法第9条)。
有期労働契約を雇止めする(更新しない)場合の留意点
有期労働契約の途中解約(解雇)
会社が契約期間の途中で、一方的に従業員との契約を終了させることは、法的には「解雇」(正社員など、期間の定めのない労働契約を一方的に解約すること)に該当することがあります。
会社が有期労働契約に基づき雇用している従業員について、その契約期間の途中において解約(解雇)する場合には、労働契約法により、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、従業員を解雇することができないと定められています(労働契約法第17条)。
裁判例では、「やむを得ない事由」とは、客観的に合理的な理由および社会通念上相当である事情(A)に加えて、当該雇用を終了させざるを得ない特段の事情(B)と解するのが相当であるとしています(仙台高等裁判所平成24年1月25日判決)。
もともと、有期労働契約に限らず、一般に会社が従業員を解雇するためには、Aの事情が求められているところ(労働契約法第16条)、有期労働契約においては、さらにBの事情が求められることとなります。
つまり、契約期間の途中での解約(解雇)の有効性について、有期労働契約は、無期労働契約よりも狭く(厳しく)判断されるといえます(平成20年1月23日基発第0123004号)。
なお、契約期間の途中で解約(解雇)をする際の手続としては、会社は解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要になります(労働基準法第20条)。
「解雇予告」とは、会社が従業員を解雇する場合の手続として、原則として、少なくとも30日前までに解雇の予告をしなければならない(または、予告に代えて、「解雇予告手当」として30日分の平均賃金を支払う)ことをいいます。
契約期間の満了後、更新しない(雇止めする)場合
法律では、従業員が、有期労働契約の契約期間の満了時において、その有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある場合には、会社は、雇止めをすることに客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められない限り、雇止めをすることは認められないとされています(労働契約法第19条第2号)。
これを「雇止めの法理」といい、従業員が契約の更新について「合理的な期待」を抱いていると認められる場合には、雇止めについて「解雇」と同視して、解雇に関する法理を類推すべきとする理論に基づいています(日立メディコ事件/最高裁判所昭和61年12月4日判決など)。
有期労働契約を更新しない(雇止めする)際の予告手続
会社が次に該当する有期労働契約の契約を更新しない場合には、契約期間満了日の30日前までに予告をしなければならないとされています(雇止めに関する基準第2条)。
ただし、あらかじめ契約を更新しない旨を明示している場合を除きます。
契約の不更新時に予告を要する場合
- 3回以上契約が更新されている場合
- 雇入れの日から1年を超えて継続勤務している場合
雇止めの理由の明示
有期労働契約が更新されなかった場合において、従業員が更新しなかった理由について証明書を請求したときは、会社は、遅滞なくこれを交付しなければならないとされています(雇止めに関する基準第3条第2項)。