無期転換ルール(5年)とは?有期労働契約の「無期転換申込権」をわかりやすく解説

無期転換ルールとは

無期転換ルール」とは、簡単にいうと、同一の会社と従業員との間で、有期労働契約(期間の定めがある労働契約)が通算5年を超えて更新された場合、従業員からの申し込みによって、当該労働契約が無期労働契約(期間の定めがない労働契約)に転換されるルールのことをいいます(労働契約法第18条第1項)。

「有期労働契約」とは、6ヵ月や1年など、あらかじめ期間を定めて雇用される契約をいい、一般に、パート、アルバイト、契約社員、嘱託社員などと呼ばれる雇用形態が該当します。

労働契約によって定められた期間が満了した場合に、契約を更新して引き続き雇うか、または契約を終了させるか(一般に、「雇止め」といいます)は、基本的に会社の判断に委ねられています。

一方、有期労働契約によって雇用される従業員にとっては、契約が更新されるかどうか、常に不安定な立場に置かれることから、通算5年を超えて雇用された従業員については、期間の定めがない無期労働契約への転換を申し込むことができる権利(以下、「無期転換申込権」といいます)を認めることによって、従業員の雇用への不安を解消することを目的としています。

無期転換ルールの対象者

無期転換ルールの対象者

無期転換ルールの対象者(無期転換申込権を行使できる者)となるのは、同一の会社との間で締結された有期労働契約が更新された結果、2以上の有期労働契約の契約期間が通算して5年を超えた者です。

「2以上」とされていることから、少なくとも更新が1回以上行われている必要があります。

なお、通算の対象となるのは、2013(平成25)年4月1日以降に開始した労働契約です。

この法律は、職種、年齢などに関わらず、契約期間が通算5年を超えた場合には、無期転換申込権の行使を可能とするものであることから、会社が就業規則や雇用契約書などによって、無期転換申込権の行使を制限することは、法律上、認められません

例えば、無期転換申込権の行使を、過去の勤務成績が良好な者や、一定の年齢以下の者に限定したり、無期転換申込権を事前に放棄することを雇用の条件とすることなどは認められません(平成24年8月10日基発0810第2号)。

労働契約の期間の定めに関するルール(労働基準法)

会社が、期間を定めて従業員を雇用する場合、原則として、契約期間の上限は3年とされています(労働基準法第14条)。

また、例外として、専門的な知識を有する者、満60歳以上の者との契約については、契約期間の上限は5年とされています。

無期転換申込権の行使

無期労働契約への転換は、無期転換ルールの対象者の要件に当てはまれば自動的に行われるものではなく、対象者となった従業員から、会社に対して無期転換申込権を行使することが必要です。

従業員から無期転換申込権の行使があった場合、法律上、「会社は当該申し込みを承諾したものとみなす」と定められていることから、会社は申し込みを拒否することはできません(労働契約法第18条第1項)。

無期転換申込権の行使時期と、無期労働契約の成立日

無期転換申込権の行使時期

従業員が無期転換申込権を行使することができるタイミングは、法律上、更新により通算5年を超えることとなる有期労働契約の契約期間の開始日から、当該契約期間が満了する日までの間とされています。

したがって、有期労働契約の契約期間が満了した後になって、無期転換申込権を行使することはできません。

例えば、契約期間が1年の有期労働契約を締結してから、計4回更新した場合(5回目の契約期間が満了した時点で満5年)、5回目の更新をして、6回目の契約期間がスタートした時点で5年超となり、無期転換申込権が発生します。

この場合において、無期転換申込権を行使することができるのは、6回目の有期労働契約の開始日から、当該契約期間が満了する日までの間となります。

無期労働契約の成立日(転換日)

無期転換申込権を行使した場合には、無期転換申込権を行使した日が属する有期労働契約の期間満了日の翌日から、無期労働契約に転換します。

したがって、無期転換申込権を行使した時点で、すぐに無期労働契約に転換されるものではありません。

例えば、契約期間が3年の有期労働契約を締結してから、1回更新した場合(2回目の契約期間の途中で満5年)、2回目の契約期間の開始日から、当該契約期間が満了する日までの間に無期転換申込権を行使することができます。

そして、当該権利を行使した場合には、2回目の契約期間が満了した日の翌日から、無期労働契約に転換します。

無期転換後の労働条件

無期転換後の労働条件

無期転換後の労働条件(労働時間や賃金など)は、有期労働契約を締結していたときと同じ労働条件を引継ぎます

ただし、当然ですが、無期労働契約の性質上、有期労働契約のときの労働条件の一つであった「契約期間」については、引き継ぐことはありません。

つまり、契約期間以外の労働条件は同じであることから、例えば、正社員と同等の待遇にしなければならないといった制約はありません。

なお、例えば、会社が無期転換権を行使した従業員を対象とした社内規程を作成するなどして、無期労働契約の従業員の労働条件を別に定め、適用することは問題ありません。

定年に関する留意点

無期転換後の労働条件を、有期労働契約のときと同じにすることは問題ありませんが、無期労働契約になったことにより、「期間満了」という契約の終了事由がなくなりますので、新たに「定年年齢」に関する規定を設ける必要があることに留意する必要があります。

定年年齢を設けないと、無期転換した従業員には定年がないこととなり、自主退職や解雇をしない限り、当該従業員を退職させる事由がなくなる(理論上、亡くなるまで雇用する必要が生じる)ためです。

通算契約期間(5年)がリセットされる場合(クーリング期間)

クーリング期間とは

前の有期労働契約の契約期間の満了日と、後の有期労働契約の契約期間の開始日との間に、原則として、6ヵ月以上の空白期間があるときは、その空白期間より前の有期労働契約については、無期転換ルールにおける通算契約期間(5年)に参入しないこととされています(労働契約法第18条第2項)。

これは、無期転換申込権が発生するための要件である、通算契約期間が5年超であるかどうかの判断に際して、有期労働契約が一定期間存在しない空白期間が続いた場合には、当該通算契約期間の計算がリセットされることを意味し、これを「クーリング期間」ということがあります。

有期労働契約の期間が1年未満の場合

空白期間の前の有期労働契約の契約期間が1年未満の場合には、空白期間は、当該契約期間に2分の1を乗じた期間(1ヵ月未満の端数は1ヵ月とする)となります(平成24年10月26日厚生労働省令第148号)。

例えば、前の有期労働契約の契約期間が4ヵ月であった場合には、空白期間は2ヵ月以上となります。

【空白期間(クーリング期間)のまとめ】

有期労働契約の契約期間空白期間
2ヵ月以下1ヵ月以上
2ヵ月超~4カ月以下2ヵ月以上
4ヵ月超~6カ月以下3ヵ月以上
6ヵ月超~8カ月以下4ヵ月以上
8ヵ月超~10カ月以下5ヵ月以上
10ヵ月超~1年未満6ヵ月以上
1年以上6ヵ月以上

無期転換ルールの例外・特例(10年ルールの適用)

無期転換ルールには、一定の条件に該当する場合には、特例が設けられています。

【例外①】高度な専門的知識を有する場合

高度の専門的知識等を有する者が有期労働契約を締結し、一定額以上の収入があり、かつ都道府県労働局長の認定を受けた業務(プロジェクト)に就く場合には、無期転換ルールの特例を受けることができます。

高度専門職の特例を受ける高度専門職については、通算契約期間が、認定プロジェクトの開始の日から完了までの期間(当該期間が10年を超える場合には10年)に延長されることとなります。

つまり、プロジェクトの期間中は、原則として無期転換申込権を行使することができないこととなります。

高度専門職であること

対象となる「専門的知識等」とは、専門的な知識、技術または経験であって、高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当するものをいうとされています(専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法第2条第1項)。

具体的には、博士の学位や医師などの有資格者、特許の発明者などが高度専門職として定められています(平成27年厚生労働省告示第67号)。

高収入の条件であること

有期労働契約の契約期間において、会社から支払われることが見込まれる賃金の額を、1年間当たりの賃金の額に換算した額(年収相当額)が、1,075万円を超える者をいいます。

都道府県労働局長の認定を受けること

会社が高度専門職の特例を受けるためには、高度専門職を就かせるプロジェクトに関して、一定の雇用管理に関する措置を講じたうえで、「第一種計画認定・変更申請書」を提出し、都道府県労働局長の認定(第一種計画認定)を受ける必要があります。

【例外②】定年後、引き続き雇用される場合

定年後に、同一企業において有期労働契約で継続雇用される高齢者であって、適切な労務管理上の措置が講じられており、都道府県労働局の認定を受けた場合、定年後引き続き雇用されている間(上限なし)は無期転換権が発生しません

なお、特例の対象者は、あくまでも「定年後」に継続雇用または再雇用される高齢者です。

したがって、定年年齢を過ぎて、新たに有期労働契約により雇用された高齢者は、特例の対象とはなりません。

会社がこの特例を受けるためには、一定の雇用管理に関する措置を講じたうえで、「第二種計画認定・変更申請書」を提出し、都道府県労働局長の認定(第二種計画認定)を受ける必要があります。

【例外③】大学の教員、研究開発法人の研究者の場合

化学技術に関する研究者または技術者が、研究開発法人または大学等を設置する者との間で有期労働契約を締結したなどの場合には、通算期間が例外的に10年に延長されます。