【割増賃金】計算の基礎となる賃金から「除外できる賃金・除外できない賃金」を解説
- 1. 割増賃金の支払義務と計算方法
- 1.1. 割増賃金とは
- 1.2. 割増賃金の計算方法
- 2. 割増賃金の計算の基礎となる賃金から「除外」することができる賃金(手当)
- 2.1. 計算から「除外」することができる賃金
- 2.2. 割増賃金の計算の基礎から除外できる理由
- 3. 家族手当
- 3.1. 除外できる例
- 3.2. 除外できない例
- 4. 通勤手当
- 4.1. 除外できる例
- 4.2. 除外できない例
- 5. 別居手当
- 6. 子女教育手当
- 7. 住宅手当
- 7.1. 除外できる例
- 7.2. 除外できない例
- 8. 臨時に支払われた賃金
- 8.1. 具体例
- 8.2. 参考裁判例(業績給)
- 9. 1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金
- 10. その他の手当
- 10.1. 宿日直手当
- 10.2. 夜間看護手当
割増賃金の支払義務と計算方法
割増賃金とは
従業員の労働時間は、労働基準法により、原則として1日8時間、1週40時間を超えてはならないとされており、これを「法定労働時間」といいます(労働基準法第32条)。
そして、従業員が法定労働時間を超えて働いた場合(これを「(法定)時間外労働」といいます)には、会社は従業員に対し、通常の労働時間の賃金に25%以上(月に60時間を超える場合は50%以上)を割り増した賃金を支払う義務が定められており、この賃金を「割増賃金」といいます(労働基準法第37条)。
また、割増賃金は、従業員が法定休日に働いた場合(割増率は35%以上)、または午後10時から午前5時までの間の深夜の時間帯に働いた場合(割増率は25%以上)にも生じます。
労働の種類 | 発生条件 | 割増率 |
(法定)時間外労働 | 法定労働時間(1日8時間・1週40時間)を超えて労働をさせたとき | 25%以上 (1ヵ月60時間を超える時間外労働については50%以上) |
(法定)休日労働 | 法定休日(原則として週1日)に労働をさせたとき | 35%以上 |
深夜労働 | 午後10時から午前5時までの間の時間帯に労働をさせたとき | 25%以上 |
割増賃金の計算方法
多くの会社では、正社員について月給制を採用していることから、支払うべき割増賃金を算定する際には、次のような計算式によって、「1時間あたりの賃金額」を計算する必要があります。
割増賃金の計算(1時間あたりの賃金額)
割増賃金の計算の基礎となる賃金÷1ヵ月あたりの平均所定労働時間=1時間あたりの賃金額
1時間あたりの賃金額を算出した後、当該賃金に割増率を加算し、時間外労働などを行った時間に応じて、支払うべき割増賃金を計算します。
割増賃金の計算(時間外労働の場合)
1時間あたりの賃金額×1.25×時間外労働時間数=割増賃金の額
ここで問題となるのが、「割増賃金の計算の基礎となる賃金」です。
多くの会社では、賃金として、基本給などの固定給に加えて手当などが上乗せされていることがあります。
このとき、会社が自由に手当などを除いて計算することを認めると、それによって割増賃金の額を操作することが可能になることから、法律によって、割増賃金の計算の基礎に含めるべき賃金と、含める必要のない賃金(除外できる賃金と、除外できない賃金)とが区別されています。
割増賃金の計算の基礎となる賃金から「除外」することができる賃金(手当)
計算から「除外」することができる賃金
法律により、次の7つの賃金(手当)については、割増賃金の計算の基礎となる賃金から除外することができる(計算に含めなくてよい)こととされています(労働基準法施行規則第21条)。
割増賃金の計算の基礎となる賃金から除外できる賃金
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金
上記の賃金は、割増賃金の計算の基礎となる賃金から除外することができる賃金を、限定して列挙したものであり、例示(一例を示したもの)ではないことに留意する必要があります。
したがって、上記に該当しない賃金は、すべて割増賃金の計算の基礎としなければなりません。
例えば、会社の就業規則などに定めた場合や、従業員との間で合意がある場合であっても、上記以外の賃金を割増賃金の計算の基礎となる賃金から除外することはできません。
また、上記の賃金は、名称にかかわらず、実質、実態によって判断されます(昭和22年9月13日基発17号)。
したがって、手当の名称が必ずしも一致している必要はなく、その賃金の趣旨や目的に照らして、上記の賃金に該当する場合には、割増賃金の計算の基礎から除外することができます。
割増賃金の計算の基礎から除外できる理由
上記の賃金を、割増賃金の計算の基礎から除外することができる理由は、これらの賃金は、一般的に、労働との直接的な関係が薄く、個人的な事情に基づいて支給されるものであるためです。
もし、これらの賃金を労働の対価として割増賃金の額に反映させてしまうと、例えば、家族手当(1.)の場合、家族の多い従業員の方が、家族の少ない従業員に比べて割増賃金が多くなり、不公平が生じます。
また、通勤手当(2.)の場合、通勤費の高い従業員の方が、そうでない従業員に比べて割増賃金が多くなり、不公平が生じます。
臨時に支払われた賃金(6.)を割増賃金の計算の基礎から除外することができる理由は、当該賃金は労働基準法が計算の基礎として定める「通常の労働時間または労働日の賃金」とはいえないためです。
また、1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金(7.)を割増賃金の計算の基礎から除外することができる理由は、計算技術的に、当該賃金を割増賃金の計算に含めることが困難であるためです。
家族手当
割増賃金の計算の基礎から除外することができる家族手当とは、扶養家族の人数またはこれを基礎とする家族手当額を基準として算出された手当をいいます。
会社によって、「生活手当」、「扶養手当」、「配偶者手当」、または「子供手当」などの名称の場合もあります。
除外できる例
扶養義務のある従業員に対して、家族の人数に応じて支給する家族手当は、割増賃金の計算の基礎から除外することができます。
除外できる例
家族の扶養義務のある従業員(例えば、世帯主の従業員など)に対して、配偶者は月額1万円、その他の家族は1人あたり5千円を支給する場合
除外できない例
扶養家族の有無や、家族の人数に関係なく、一律に支給する家族手当については、割増賃金の計算の基礎から除外することができません。
除外できない例
扶養家族の人数に関係なく、従業員に対して一律に、月額1万円を支給する場合
行政通達により、家族手当が支給される従業員との均衡を図るために、独身者に対しても一定額の手当が支払われている場合には、独身者に支払われている手当と同額の部分については、割増賃金の計算の基礎から除外することはできないと解されています(昭和22年12月26日基発第572号)。
また、扶養家族のある従業員に対して支給される家族手当のうち、「従業員本人分」として支払われている部分は、割増賃金の計算の基礎から除外することはできないと解されています(同通達)。
通勤手当
割増賃金の計算の基礎から除外できる通勤手当とは、通勤距離または通勤に要する実際の費用に応じて算定される手当をいいます。
除外できる例
通勤に要した実際の費用に応じて支給される通勤手当(実費支給の通勤手当)は、割増賃金の計算の基礎から除外することができます。
除外できる例
6ヵ月定期券に相当する額を、通勤手当として支給する場合
除外できない例
通勤に要した費用や通勤距離に関係なく、一律に支給される通勤手当は、割増賃金の計算の基礎から除外することができません(昭和23年2月20日基発297号)。
除外できない例
実際の通勤距離に関わらず、従業員に対して一律に、通勤手当として1日500円を支給する場合
なお、一定額までは距離にかかわらず一律に支給するような場合には、この一定額部分については、割増賃金の計算の基礎から除外することができません(昭和23年2月20日基発297号)。
別居手当
別居手当は、転勤など会社の異動命令により、従業員がその扶養家族との別居を余儀なくされる場合などに支給される手当をいいます。
例えば、「単身赴任手当」などが該当します。
子女教育手当
子女教育手当は、従業員が扶養する子の教育費などを補う目的で支給される手当をいいます。
住宅手当
割増賃金の計算の基礎から除外できる住宅手当とは、住宅に要する費用に応じて算定される手当をいいます。
除外できる例
住宅に要する費用に、一定率を乗じた額を支給する住宅手当は、割増賃金の計算の基礎から除外することができます。
除外できる例
賃貸住宅に居住する従業員に対しては、家賃の一定割合を支給し、持ち家に居住する従業員に対しては、ローン月額の一定割合を支給する場合
また、家賃やローンの額を段階的に区分し、その段階に応じた額を支給する場合も、除外することができると解されます。
除外できる例
家賃月額が5万円から10万円の従業員には2万円、家賃月額が10万円を超える従業員には3万円を支給する場合
除外できない例
住宅の形態ごとに、一律に定額で支給する住宅手当は、割増賃金の計算の基礎から除外することができないと解されます(平成12年3月31日基発170号)。
除外できない例
賃貸住宅に居住する従業員に対しては、2万円を支給し、持ち家に居住する従業員に対しては、3万円を支給する場合
また、扶養家族の有無、役職、等級に応じて支給額を変えるなど、住宅以外の要素に応じて支給することとされているものについても、割増賃金の計算の基礎から除外することができないと解されます。
臨時に支払われた賃金
具体例
臨時に支払われた賃金とは、次の賃金をいいます(昭和22年9月13日基発17号)。
臨時に支払われた賃金の例
・臨時的・突発的な事由にもとづいて支払われたもの
(例)私傷病手当、加療見舞金
・支給条件はあらかじめ確定しているが、支給事由の発生が不確定であり、かつ非常に稀に発生するもの
(例)結婚手当、退職金
参考裁判例(業績給)
会社が支給する「業績給」が、臨時に支払われた賃金に該当すると判断されました(PMKメディカルラボ事件/東京地方裁判所平成30年4月18日判決)。
この事案では、エステサービスを提供する会社が、店舗ごとに売上目標金額を定め、その売上目標を達成した場合に業績給を支給していました。
そして、多くの店舗では業績給が毎月支給されるものではなかったことから、その支給実績を考慮し、その発生が不確実な一定の条件に結び付けられており、業績給は臨時に支払われた賃金に該当するものとして、割増賃金の計算の基礎となる賃金から除外されると判断されました。
1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金
1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金とは、賞与、または1ヵ月を超える期間についての精勤手当、勤続手当、能率手当などを指すと解されています(労働基準法施行規則第8条)。
1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金
- 1ヵ月を超える期間を対象として支給される「賞与」
- 1ヵ月を超える期間の出勤成績によって支給される「精勤手当」
- 1ヵ月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される「勤続手当」
- 1ヵ月を超える期間にわたる事由によって算定される「奨励加給」または「能率手当」
なお、ここでいう賞与とは、あくまで、あらかじめ支給金額が確定されていない賃金を意味します(昭和22年9月13日発基第17号)。
そのため、年俸制において、月払いの給与部分と賞与部分とを合計した額を年俸として定めている場合には、賞与の支給額があらかじめ確定しているといえるため、割増賃金の計算の基礎から除外することはできないと解されています(平成12年3月8日基収第78号)。
その他の手当
宿日直手当
宿日直手当は、割増賃金の計算の基礎となる賃金から除外されます。
割増賃金は、通常の労働時間または労働日の賃金に対して生じるものであり、一般に深夜ではない所定労働時間に労働した場合に支払われる賃金です。
これに対して、宿日直手当は、所定労働時間外になされる労働に対する賃金であるため、「通常の労働時間または労働日の賃金」には含まれないと解されています。
夜間看護手当
正規の勤務時間による勤務の一部または全部が深夜(午後22時後から午前5時までの間)において行われる看護の業務などに従事したときに支給される「夜間看護手当」は、通常の労働時間または労働日の賃金ではないことから、割増賃金の計算の基礎となる賃金から除外することができると解されています(昭和41年4月2日基収第1262号)。