「短時間正社員」とは?制度の内容・就業規則の規定例(記載例)などを解説
はじめに
近年、少子高齢化や、働き方に対する価値観の多様化が進む中で、会社には、従業員がより柔軟に働くことのできる制度を設けることが求められているといえます。
そのひとつとして、育児や介護などの事情を抱えた正社員が、ワークライフバランスを図りつつ就業することができる制度として、所定労働時間が通常よりも短い正社員(以下、「短時間正社員」といいます)としての働き方が注目されています。
本稿では、会社が短時間正社員に関する制度を設ける場合の留意点や、就業規則の規定例(記載例)などについて解説します。
短時間正社員とは(定義)
正社員とは
「正社員」とは、一般に、雇用期間の定めがなく、フルタイムで働く従業員をいい、組織における基幹的業務を担う従業員をいいます。
これに対し、正社員以外の従業員を、一般に「非正社員」といい、非正社員の種類には、パートタイマー、アルバイト、契約社員、嘱託社員、または派遣社員などがありますが、法律上、明確に区別されているものではありません。
短時間正社員とは
「短時間正社員」とは、一般に、正社員としての身分を維持しながら、フルタイムで働く正社員(以下、「フルタイム正社員」といいます)よりも、働く時間(所定労働時間)が短い従業員をいいます。
短時間正社員は、主に次の2つに分類されます。
短時間正社員の分類
- フルタイム正社員について、育児や介護などの事情(ライフスタイルの変化)を考慮し、一定の期間を定めて所定労働時間を短縮し、当該期間の終了後は、再びフルタイム正社員に復帰することを前提とするもの(期限型)
- 入社時から短時間正社員としての雇用区分で採用を行い、恒常的にフルタイム正社員よりも短い所定労働時間で勤務するもの(無期限型)
短時間正社員の目的
短時間正社員制度は、特に従業員のライフスタイルの変化に着目し、例えば、①育児や介護と両立するため、②定年延長した従業員の健康状態に配慮するため、③資格取得や語学習得などの自己啓発と両立するため、④ボランティアなど社会貢献活動に参加するため、などの事由によって、フルタイムで就労することが困難となる事情が生じた場合に、やむなく離職することを防止するために、当該事由が解消されるまでの間、短時間正社員として処遇し、引き続き正社員としての雇用を維持していくことを目的とするものであり、優秀な人材の流出を防ぐために、有効となり得る制度といえます。
短時間正社員の所定労働時間・所定労働日数
短時間正社員の所定労働時間・所定労働日数については、①1日あたりの所定労働時間(勤務時間)を短縮する場合、②1週間(または1ヵ月間)あたりの所定労働日数(勤務日数)を短縮する場合、または、③これらを組み合わせる場合があります。
いずれの場合でも、従業員のライフスタイルに合わせて、複数のパターンから選択することができるような制度設計にすることが望ましいと考えます。
短時間正社員の所定労働時間・所定労働日数の例
- 1日あたりの所定労働時間を、5時間、6時間、または7時間の選択制とする
- 1日あたりの所定労働時間はフルタイム正社員と同じ時間とするが、1週あたりの所定労働日数(勤務日数)を、週4日に短縮する
- 週3日を上限として、従業員が曜日を選択して休日を決定することができる制度とする
短時間正社員制度のメリット・デメリット
短時間正社員制度のメリット
離職の防止・定着率の向上
近年、少子高齢化が進み、労働人口が減少していくなかで、人手不足に陥る企業が増加しています。
そのような中、雇用の間口を広げて多様な人材を受け入れるためには、従業員のニーズに応じた雇用区分を設け、多様な働き方が可能な就業環境を整備することが必要となります。
また、すでにフルタイム正社員として雇用している従業員についても、育児や介護などライフスタイルの変化による離職を防止することができるなど、定着率の向上(離職の防止)に資することが考えられます。
優秀な人材の確保
パートタイマーなど非正社員として働く従業員の中には、諸事情によりフルタイムで勤務することを諦めているものの、もし短時間正社員として働く機会があれば、短時間正社員を望む者も潜在的に存在します。
人口減少に伴う労働力不足に対処するためには、これらの人々を有力な戦力として活用することを検討することも必要です。
そこで、短時間正社員制度を導入することによって、これまでフルタイムで働くことができないため正社員として働くことを諦めていた人々を、正社員に登用することによって、優秀な人材の確保を目指すことが考えられます。
短時間正社員制度のデメリット
短時間正社員制度を導入することにより、所定労働時間が短縮されることに伴い、業務内容によっては、取引先や顧客などへの対応に支障が生じることがあり、また、1つの仕事を複数人が共同で行う場合には、社内の連絡体制や責任の所在をどうするかといった課題が生じることがあります。
そこで、短時間正社員制度を導入するに際しては、あらかじめ考えられる課題を洗い出し、課題の解決策について労使で十分に話し合うなど、社内体制を事前に整備しておく必要があります。
また、短時間正社員制度を利用する際に、「他の従業員に迷惑をかけるのではないか」といった気遣いにより、制度の利用が抑制されてしまうことがあります。
そこで、短時間正社員制度を導入する際には、会社はすべての従業員に対し、制度の趣旨について丁寧に説明を行い、理解を得ておくことが重要です。
短時間正社員の賃金・賞与など
賃金(給与)
短時間正社員となる従業員の賃金は、フルタイム正社員であったときの賃金から、短縮された所定労働時間に応じて賃金を控除することが一般的といえます。
例
・フルタイム正社員としての賃金(所定労働時間8時間):月額24万円
・短時間正社員としての賃金(所定労働時間6時間):月額18万円
※1ヵ月の所定労働日数は同じ
(計算)
24万円÷8×6=18万円
これは、従業員が労務を提供しない時間に対しては、会社はその対価である賃金を支払う必要がないという考え方(ノーワークノーペイの原則)に基づく賃金の控除です。
また、基本給についてのみ上記の計算によって減額し、役職手当や職務手当などの諸手当については、減額しないということも考えられます。
賞与
賞与についても、基本給をベースに算定される部分については、賃金(給与)と同じく、所定労働時間に応じて算定することが一般的といえます。
ただし、会社の業績や、個人の成果に応じて算定される部分については、労働時間の長短に関わらず、フルタイム正社員と同様の基準で算定すべきと考えます。
就業規則の規定例(記載例)
社内規程としては、フルタイム正社員に適用される就業規則の一部として(正社員の一種として)、短時間正社員について規定すると整理しやすいと思います。
短時間制社員に関する就業規則の規定例(記載例)は、次のとおりです。
就業規則の規定例(記載例)
(短時間正社員の定義)
第●条 この就業規則において、「短時間正社員」とは、正社員のうち、正社員の所定労働時間よりも短い所定労働時間によって勤務する者をいう。ただし、別に定める、育児・介護休業等に関する規程に基づき、所定労働時間の短縮措置等の適用を受ける者を除くものとする。
(短時間正社員の所定労働時間)
第●条 本就業規則第●条(正社員の所定労働時間)の規定に関わらず、育児もしくは家族の介護、または疾病もしくは傷病などによってフルタイム勤務が困難であることなどの事由により、短時間勤務を希望する正社員は、会社に申し出て、会社の承認を受けることによって、短時間正社員として勤務することができる。
2 前項の承認を受けた短時間正社員の所定労働時間は、実働1日6時間とし、始業・終業時刻は、次の勤務パターンの中から、従業員の希望に基づき会社が決定する。
A勤務 | B勤務 | |
始業時刻 | 午前10時 | 午前9時 |
終業時刻 | 午後5時 | 午後4時 |
休憩時間 | 午後1時から午後2時まで | 正午から午後1時まで |
3 短時間正社員として勤務する期間の開始日および終了日は、個別の事情を勘案して、会社が定める。また、当該期間の変更は、短時間正社員から変更を希望する旨の申し出があり、かつ会社が承認したときに限り行うことができるものとする。
(短時間正社員の所定労働日および休日)
第●条 短時間正社員の所定労働日および休日は、正社員と同様とする。
(短時間正社員の賃金)
第●条 短時間正社員の賃金は、正社員と同様の評価項目に加え、正社員の所定労働時間に対する短時間正社員の所定労働時間の割合を考慮して決定する。