【労働安全衛生法】安全衛生管理体制(総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者などの選任義務・職務内容)の基本について解説

はじめに

労働安全衛生法では、労働災害の発生を防止するために、各事業場において自主的な安全衛生活動を行うよう、事業場の業種や規模に応じた安全衛生管理体制について定めています。

本稿では、労働安全衛生法が定める、全産業に共通する一般的な安全衛生管理体制について、解説します。

一般的な安全衛生管理体制【全産業共通】

労働安全衛生法が定める、全産業に共通する一般的な安全衛生管理体制は、次のとおりです。

一般的な安全衛生管理体制

  1. 総括安全衛生管理者
  2. 安全管理者
  3. 衛生管理者
  4. 安全衛生推進者・衛生推進者
  5. 産業医
  6. 作業主任者

総括安全衛生管理者

総括安全衛生管理者とは

総括安全衛生管理者」とは、安全管理者、衛生管理者などを指揮するとともに、労働者の危険または健康障害を防止するための措置を講じるなど、労働災害を防止するために必要な業務を統括管理する者をいいます。

総括安全衛生管理者の選任を要する事業場

事業者は、事業場(※1)について、業種および規模が次の要件に該当する場合には、その事業の実施を統括管理するために、総括安全衛生管理者を選任することが義務付けられています(労働安全衛生法第10条第1項、労働安全衛生法施行令第2条)。

業種規模(使用労働者数)
(※2)
[屋外的産業]
林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業
常時100人以上
[製造工業的産業]
製造業(物の加工業を含む)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、自動車整備業、機械修理業
[商業等]
各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業
常時300人以上
その他の業種常時1,000人以上

(※1)「事業場」とは

労働安全衛生法は、「事業場」を単位として適用されます。

「事業場」とは、工場、事務所、店舗など、一定の場所において相関連する組織のもとに継続的に行なわれる作業の一体をいいます(必ずしも会社単位、組織単位とはなりません)。

したがって、一つの事業場であるかどうかは、主として場所的観念によって決定すべきものであり、同一の場所にあるものは原則として一つの事業場とし、場所的に分散しているものは原則として別個の事業場と判断します(昭和47年9月18日発基91号)。

(※2)「使用労働者数」とは

事業場の規模にかかる要件とされる「使用労働者数」とは、パート、アルバイト、日雇いなど、臨時的に雇用する労働者の数を含めて、常態として使用する労働者の数(常時、何人以上の労働者を使用しているか)によって判断します(昭和47年9月18日基発602号)。

総括安全衛生管理者の職務

総括安全衛生管理者は、安全管理者や衛生管理者などを指揮するとともに、次の業務を統括管理します(労働安全衛生法第10条第1項、労働安全衛生規則第3条の2)。

総括安全衛生管理者が統括管理する業務

  • 労働者の危険または健康障害を防止するための措置に関すること
  • 労働者の安全または衛生のための教育の実施に関すること
  • 健康診断の実施その他健康の保持増進のための措置に関すること
  • 労働災害の原因の調査および再発防止対策に関すること
  • 安全衛生に関する方針の表明に関すること
  • 危険性または有害性等の調査およびその結果に基づき講ずる措置に関すること
  • 安全衛生に関する計画の作成、実施、評価および改善に関すること

安全管理者

安全管理者とは

安全管理者」とは、総括安全衛生管理者が統括管理する業務のうち、安全にかかる技術的事項について管理する者をいいます。

総括安全衛生管理者の選任を要する事業場

事業者は、事業場について、業種および規模が次の要件に該当する場合には、安全管理者を選任することが義務付けられています(労働安全衛生法第11条第1項、労働安全衛生法施行令第3条)。

業種規模(使用労働者数)
[屋外的産業]
林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業
[製造工業的産業]
製造業(物の加工業を含む)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、自動車整備業、機械修理業
[商業等]
各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業
常時50人以上

安全管理者の職務

安全管理者は、総括安全衛生管理者が統括管理すべき業務のうち、安全にかかる技術的事項について管理します(労働安全衛生法第11条第1項)。

具体的には、安全管理者は、主に次の職務を行います。

安全管理者の職務

  • 建設物、設備、作業場所または作業方法に危険がある場合における応急措置または適当な防止の措置
  • 安全装置、保護具、その他危険防止のための設備・器具の定期的点検および整備
  • 作業の安全についての教育および訓練
  • 発生した災害原因の調査および対策の検討
  • 消防および避難の訓練
  • 作業主任者その他安全に関する補助者の監督
  • 安全に関する資料の作成、収集および重要事項の記録
  • その事業の労働者が行なう作業が、他の事業の労働者が行なう作業と同一の場所において行われる場合における、安全に関して必要な措置

また、安全管理者は、作業場等を巡視し、設備、作業方法などに危険のおそれがあるときは、直ちに、その危険を防止するために必要な措置を講じなければならないとされています(労働安全衛生規則第6条第1項)。

衛生管理者

衛生管理者とは

衛生管理者」とは、総括安全衛生管理者が統括管理する業務のうち、衛生にかかる技術的事項について管理する者をいいます。

衛生管理者の選任を要する事業場

事業者は、事業場について、業種を問わず、常時50人以上の労働者を使用する場合には、衛生管理者を選任することが義務付けられています(労働安全衛生法第12条第1項、労働安全衛生法施行令第4条)。

衛生管理者の職務

衛生管理者は、総括安全衛生管理者が統括管理すべき業務のうち、衛生にかかる技術的事項について管理します(労働安全衛生法第12条第1項)。

具体的には、衛生管理者は、主に次の業務を行います。

衛生管理者の職務

  • 健康に異常のある者の発見および処置
  • 作業環境の衛生上の調査
  • 作業条件、施設等の衛生上の改善
  • 労働衛生保護具、救急用具等の点検および整備
  • 衛生教育、健康相談その他労働者の健康保持に必要な事項
  • 労働者の負傷および疾病、それによる死亡、欠勤および移動に関する統計の作成
  • その事業の労働者が行なう作業が、他の事業の労働者が行なう作業と同一の場所において行われる場合における、衛生に関し必要な措置
  • その他、職務上の記録の整備等(衛生日誌の記載等)

また、衛生管理者は、少なくとも毎週一回、作業場等を巡視し、設備、作業方法または衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するために必要な措置を講じなければならないとされています(労働安全衛生規則第11条第1項)。

安全衛生推進者・衛生推進者

安全衛生推進者・衛生推進者とは

安全衛生推進者」とは、安全管理者の選任を要する事業場以外の事業場において、総括安全衛生管理者が統括管理する業務のうち、安全にかかる業務を担当する者をいいます。

衛生推進者」とは、衛生管理者の選任を要する事業場以外の事業場において、総括安全衛生管理者が統括管理する業務のうち、衛生にかかる業務を担当する者をいいます。

安全衛生推進者・衛生推進者の選任を要する事業場

使用する労働者の数が、常時10人以上50人未満の事業場であって、安全管理者を選任すべき業種の事業場では安全衛生推進者を選任し、それ以外の事業場では、衛生推進者を選任することが義務付けられています(労働安全衛生法第12条の2、労働安全衛生規則第12条の2)。

安全衛生推進者・衛生推進者の職務

安全衛生推進者または衛生推進者の職務は、具体的には、次のようなものであるとされています(昭和63年9月16日基発602号)。

安全管理者または衛生管理者が安全衛生業務の技術的事項を管理する者であるのに対して、安全衛生推進者または衛生推進者は、安全衛生業務について権限と責任を有する者の指揮を受けて、当該業務を担当する者であることとされています。

安全衛生推進者・衛生推進者の職務

  • 施設、設備等(安全装置、労働衛生関係設備、保護具等を含む)の点検および使用状況 の確認ならびにこれらの結果に基づく必要な措置に関すること
  • 作業環境の点検(作業環境測定を含む)および作業方法の点検ならびにこれらの結果に基づく必要な措置に関すること
  • 健康診断および健康の保持増進のための措置に関すること
  • 安全衛生教育に関すること
  • 異常な事態における応急措置に関すること
  • 労働災害の原因の調査および再発防止対策に関すること
  • 安全衛生情報の収集および労働災害、疾病・休業等の統計の作成に関すること
  • 関係行政機関に対する安全衛生にかかる各種報告、届出等に関すること

産業医

産業医とは

産業医」とは、事業場において、労働者が健康で快適な作業環境のもとで仕事が行えるよう、労働者の健康管理を行い、専門的立場から指導・助言を行う医師をいいます。

産業医の選任を要する事業場

事業場について、業種を問わず、常時50人以上の労働者を使用する場合には、産業医を選任することが義務付けられています(労働安全衛生法第13条第1項、労働安全衛生法施行令第5条)。

産業医の職務

産業医は、主に次の業務を行います(労働安全衛生規則第14条第1項)。

産業医の職務

  • 健康診断の実施およびその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること
  • 長時間労働者に対する面接指導等の実施およびその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること
  • ストレスチェック結果に基づく面接指導等の実施およびその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること
  • 作業環境の維持管理に関すること
  • 作業の管理に関すること
  • 労働者の健康管理に関すること
  • 健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること
  • 衛生教育に関すること
  • 労働者の健康障害の原因の調査および再発防止のための措置に関すること

産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができます(労働安全衛生法第13条第5項)。

また、産業医は、原則として、少なくとも毎月1回作業場等を巡視し、作業方法または衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならないこととされています(労働安全衛生規則第15条第1項)。

ただし、産業医が、事業者から毎月1回以上、次に掲げる情報の提供を受けている場合であって、事業者の同意を得ているときは、巡視を2ヵ月に1回とすることも認められています。

  • 衛生管理者が行う巡視の結果
  • 上記の他、労働者の健康障害を防止し、または労働者の健康を保持するために必要な情報であって、衛生委員会または安全衛生委員会における調査審議を経て事業者が産業医に提供することとしたもの

作業主任者

事業者は、高圧室内作業その他の労働災害を防止するための管理を必要とする作業で、政令(労働安全衛生法施行令第6条)で定めるものについては、都道府県労働局長の免許を受けた者または都道府県労働局長の登録を受けた者が行う技能講習を修了した者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、当該作業の区分に応じて、作業主任者を選任し、その者に当該作業に従事する労働者の指揮その他の厚生労働省令で定める事項を行わせなければならないと定められています(労働安全衛生法第14条)。