【労働基準法】「年少者」「児童」の労働時間などに関する法規制を解説

はじめに
労働基準法では、年少者および児童を保護する観点から、労働時間などについて、一般の労働者と異なる規制を設けています。
本稿では、年少者および児童の労働時間などに関する法規制について、解説します。
「年少者」「児童」とは(定義)
民法では、「年齢18歳をもって、成年とする」と定められていることから、一般に、成年に達していない18歳未満の者を、「未成年者」といいます(民法第4条)。
これに対し、労働基準法では、次の年齢区分を設けており、労働者を年齢に応じて保護しています。
年齢区分(労働基準法)
- 児童…満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまでの者
- 年少者…満18歳未満の者
なお、親権者または後見人が、未成年である労働者に代わって労働契約を締結すること、および、賃金を代わりに受け取ることは禁じられており、未成年である労働者自身が、独立して労働契約を締結し、賃金を請求することができます(労働基準法第58条、第59条)。
児童
原則(就業不可)
労働基準法では、使用者は、児童が満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで(義務教育期間が終了するまで)は、児童を労働者として使用してはならないとしています(労働基準法第56条第1項)。
例外(制限付きで就業可)
例外として、上記の最低年齢に達しない児童であっても、次の要件をすべて満たす場合には、児童の修学時間外に限り、就業することを認めています(労働基準法第56条第2項)。
児童使用禁止の例外
- 満13歳以上であること(※1)
- 別表第1第1号から第5号までに掲げる事業以外の事業(非工業的事業)にかかる職業であること(※2)
- 児童の健康および福祉に有害でなく、かつ、その労働が軽易なものであること
- 労働基準監督署長の許可を得ること
(※1)満13歳未満の児童
「映画の製作または演劇の事業」については、満13歳未満の児童についても、同様の要件を満たすことにより、就業することが認められています。
(※2)別表第1第1号から第5号までに掲げる事業
別表第1第1号から第5号までに掲げる事業
- 第1号(製造業):物の製造、改造、加工、修理、洗浄、選別、包装、装飾、仕上げ、販売のためにする仕立て、破壊もしくは解体または材料の変造の事業(電気、ガスまたは各種動力の発生、変更もしくは伝導の事業および水道の事業を含む)
- 第2号(鉱業):鉱業、石切り業その他土石または鉱物採取の事業
- 第3号(建設業):土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体またはその準備の事業
- 第4号(運輸交通業):道路、鉄道、軌道、索道、船舶または航空機による旅客または貨物の運送の事業
- 第5号(貨物取扱業):ドック、船舶、岸壁、波止場、停車場または倉庫における貨物の取扱いの事業
年少者を使用する場合
年少者(満18歳未満の者)については、児童に該当しない限り、労働させることが認められていますが、心身の発達などを考慮し、労働時間などについて一部制限が設けられています。
また、年少者保護のために、使用者は、年少者を使用する場合には、その年齢を証明する戸籍証明書を事業場に備え付けることが義務付けられています(労働基準法第57条第1項)。
「戸籍証明書」については、戸籍謄(抄)本または住民基本台帳による「住民票記載事項の証明書」(氏名、生年月日の証明がなされているもの)の備付けでも足りるとされています(昭和50年2月17日基発83号・婦発40号)。
年少者への労働時間制度の適用
原則
年少者を保護する観点から、年少者については、労働基準法が定める労働時間の原則である「法定労働時間」(労働時間を1日8時間・1週40時間以内とする)と、休憩時間の原則である「一斉休憩」(事業場の労働者について、一斉に休憩を与える)を守って労働させる必要があります(労働基準法第60条第1項)。
これにより、労働基準法のうち次の規定は、原則として、適用されません。
年少者に適用されない労働時間・休憩の規定
- 変形労働時間制(1ヵ月単位の変形労働時間制、フレックスタイム制、1年単位の変形労働時間制、1週間単位の非定型的変形労働時間制)(労働基準法第32条の2から第32条の5まで)
- 36協定に基づく時間外労働・休日労働(労働基準法第36条)
- 法定労働時間の特例(※1)(労働基準法第40条)
- 業種等による休憩の特例(※2)(労働基準法第40条)
- 高度プロフェッショナル制度(労働基準法第41条の2)
(※1)法定労働時間の特例
労働基準法によって労働時間の特例が認められる事業(常時10人未満の従業員を使用する、商業・理容業など)については、1週間あたりの法定労働時間は44時間になりますが、当該特例は、年少者には適用されません(労働基準法第40条、同施行規則第25条の2第1項)。
(※2)業種等による休憩の特例
休憩時間の一斉付与には、旅客または貨物の運送の事業など、特例が認められる業種が定められていますが、当該特例は、年少者には適用されません(労働基準法第40条、同施行規則第31条)。
例外1
労働基準法では、労働時間などについて、いくつかの例外規定が設けられていますが、そのうち次の規定については、年少者にも適用されると解されます(平成11年3月31日基発168号)。
年少者にも適用される労働時間などの例外規定
- 非常災害・公務のために臨時に行う時間外労働・休日労働(労働基準法第33条)
- 4週間を通じて4日以上の休日を与える変形休日制(労働基準法第35条)
- 労働時間・休憩・休日にかかる規定の適用除外(労働基準法第41条)
例外2
前述のとおり、年少者には、変形労働時間制は適用されませんが、例外として、満15歳以上18歳未満の者については、満18歳に達するまでの間(満15歳に達した日以後の最初の3月31日までの間を除く)、次に定めるところにより、変形労働をさせることが認められています(労働基準法第60条第3項、同施行規則第34条の2の4)。
年少者に認められる変形労働
- 1週間の労働時間が40時間を超えない範囲内において、1週間のうち1日の労働時間を4時間以内に短縮する場合に、他の日の労働時間を10時間まで延長すること(※)
- 1週間について48時間、1日について8時間を超えない範囲内において、1ヵ月単位の変形労働時間制または1年単位の変形労働時間制により労働させること
(※)事例
例えば、月曜日の労働時間を3時間とする代わりに、水曜日の労働時間を9時間とすることが認められます。
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 |
3 | 7 | 9 | 7 | 7 | 7 | 休 |
また、週休2日制のように、法定の休日の他に休日が1日ある場合には、その休日は「労働時間を4時間以内に短縮した」日に該当するため、他の日に10時間まで労働させてもよいと解されます(平成6年3月31日基発181号)(共溶工業事件/仙台家庭裁判所昭和42年10月4日判決)。
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 |
3 | 7 | 10 | 7 | 10 | 休 | 休 |
さらに、「他の日」は1日に限らないため、週40時間の範囲内であれば、2日以上設けても構いません(昭和63年3月14日基発150号)。
年少者の深夜労働
原則
使用者は、満18歳に満たない者を、深夜業(午後10時から午前5時まで)に使用してはならないとされています(労働基準法第61条第1項)。
例外
例外として、交替制(同一の労働者が、一定期日ごとに、昼間勤務と夜間勤務とに交替でつく勤務の態様をいいます)によって働く満16歳以上の男性については、深夜業に使用してもよいとされています(労働基準法第61条第1項但書)(昭和63年3月14日基発150号)。
なお、交替制によって労働させる事業(事業全体として交替制をとっていることを意味しますが、必ずしも労働者全員が交替制で労働している必要はありません)については、労働基準監督署長の許可を受けることにより、午後10時30分まで使用することが認められます(労働基準法第61条第3項)。
これは、午後10時から30分間の深夜業を認めることにより、①午前5時から午後1時45分(休憩45分)と、②午後1時45分から午後10時30分(休憩45分)の2交替制により、実働8時間の労働をさせる事業に年少者を使用することが可能になることから、設けられた規定です。
ただし、この場合には、労働基準監督署長の許可を受けることが必要であり、また、午後10時から午後10時30分までの30分間については、深夜労働にかかる割増賃金の支払いが必要となります(昭和63年3月14日基発150号)。
適用除外
上記の規定は、次の場合には適用しないこととされています(労働基準法第61条第4項)。
年少者の深夜業(適用除外)
- 非常災害の場合(労働基準法第33条第1項)
- 農林業、水産・畜産業、保健衛生業
- 電話交換業務
児童の深夜業
児童については、年少者よりも深夜業の時間帯が長く定められており、原則として、午後8時から午前5時までの間に使用してはならないとされています(労働基準法第61条第5項)。
就業制限
危険業務・有害業務の禁止
満18歳未満の者を、一定の危険業務、有害業務に就労させることは禁止されています(労働基準法第62条第1項・第2項)。
「危険業務」とは、「運転中の機械もしくは動力伝導装置の危険な部分の掃除・注油・検査もしくは修繕」、「運転中の機械もしくは動力伝導装置へのベルト・ロープの取付けもしくは取外し」、「動力によるクレーンの運転」など、厚生労働省令で定められている危険な業務または重量物を取り扱う業務をいいます(労働基準法第62条第1項、年少者労働基準規則第7条、第8条)。
「有害業務」とは、「毒劇薬・毒劇物その他有害な原料もしくは材料または爆発性・発火性・引火性の原料もしくは材料を取り扱う業務」、「著しくじんあいもしくは粉末を飛散し、もしくは有毒ガスもしくは有害放射能を発散する場所、または高温もしくは高圧の場所における業務」、「その他安全・衛生または福祉に有害な場所における業務」をいいます(労働基準法第62条第2項)。
坑内労働の禁止
満18歳未満の者の坑内労働は禁止されています(労働基準法第63条)。
罰則
第56条(最低年齢)、第63条(坑内労働の禁止)への違反については、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が定められています(労働基準法第118条)。
第61条(深夜業)、第62条(危険有害業務の就業制限)への違反については、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が定められています(労働基準法第119条)。
第57条(年少者の証明書)、第58条(未成年者の労働契約)、第59条(未成年者の賃金の代理受領)への違反については、30万円以下の罰金が定められています(労働基準法第120条)。