労働時間・賃金の「端数処理」に関する労働基準法の行政通達を解説

はじめに

労務管理においては、労働者の労働時間を正確に把握し、賃金を適正に支払う必要があります。

そして、賃金を計算する際には、労働時間や賃金の端数処理を適正に行う必要があります。

もし誤った端数処理をしてしまうと、賃金が適正に支払われず、未払い賃金が生じるなど、思わぬ労務トラブルに発展するリスクがあります。

本稿では、特に労働時間と賃金に関する端数処理の方法を、労働基準法の行政通達を中心に解説します。

労働時間・残業時間の端数処理

1日の労働時間・残業時間の把握

1日の労働時間は、1分単位で把握する必要があります

これは、残業時間(所定労働時間を超えて働いた時間)についても同様です。

したがって、例えば、5分未満や10分未満の残業時間を切り捨てる(残業時間としてカウントしない)などの端数処理は、労働基準法に違反します

認められる残業時間の端数処理

残業時間については、1ヵ月における時間外労働、休日労働、深夜労働の各々の時間数の合計時間に、1時間未満の端数がある場合には、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げることが認められます(昭和63年3月14日基発第150号)。

あくまで1ヵ月における合計時間についてのみ、端数処理を行うことが認められているため、この端数処理を1日ごとに行うことなどは認められません。

なお、この端数処理を行う場合には、端数の時間を切り捨てること(労働者に不利)もあれば、切り上げること(労働者に有利)もあり得ますが、例えば、「切り捨てはするが、切り上げはしない」といった、労働者にとってのみ不利になる取り扱いは認められません。

事例

例えば、1日の所定労働時間が7時間の会社において、4月度における残業時間が次の結果であったとします。

労働日1日の労働時間1日の残業時間
4月○日7時間16分16分
4月△日7時間31分31分
4月□日7時間25分25分

例えば、4月〇日に残業した16分について、これを切り捨て、労働時間を7時間とすることは、労働基準法に違反します。

この事例では、1ヵ月の残業時間の合計時間は、1時間12分(16+31+25)となります。

このとき、1時間未満の端数(12分)を切り捨て、4月度の残業時間を「1時間」として賃金を計算することが認められます。

遅刻・早退した時間の端数処理

労働者が遅刻・早退をしたときにも、労働時間に端数が生じることがありますが、遅刻・早退時間については、端数処理は認められません

したがって、原則どおり、1分単位で遅刻・早退時間を把握し、それに対する賃金を計算して控除する必要があります

例えば、賃金の計算を簡略にするために、30分未満の遅刻・早退時間を30分に切り上げて賃金を控除するような運用は、労働基準法に違反します。

なお、このような取り扱いを、減給の制裁(懲戒処分の一種)として、労働基準法の範囲内で行うことは、差し支えないとされています(昭和63年3月14日基発第150号)。

ただし、減給の制裁は、労働基準法により、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならないとされていることに留意する必要があります(労働基準法第91条)。

時間単位年休の時間数の端数処理

労働基準法では、労使協定に基づき、年次有給休暇を1時間単位で取得すること(時間単位年休)が認められています。

労使協定では、1日分の年次有給休暇が、何時間分の時間単位年休に相当するのかを定める必要があります。

基本的には、所定労働時間を基準に定めますが(例えば、所定労働時間が8時間であれば、8時間分の時間単位年休とする)、所定労働時間が7時間30分や7時間45分であるなど、所定労働時間に1時間未満の端数の時間がある場合もあります。

この場合には、行政通達により、従業員に不利にならないようにする観点から、1時間未満の端数を1時間に切り上げる必要があるとされています(平成21年5月29日基発第0529001号)。

例えば、1日の所定労働時間が7時間30分や7時間45分であれば、端数を切り上げて8時間分の時間単位年休とする必要があり、端数を切り捨てる(7時間とする)ことは認められません。

時間単位年休については、次の記事をご覧ください。

1時間単位の有給休暇(時間単位年休)とは?制度の内容・労使協定の記載例を解説

賃金の端数処理

1時間あたりの賃金・割増賃金

1時間あたりの賃金額および割増賃金額に、1円未満の端数が生じた場合には、50銭未満(0.5円未満)の端数を切り捨て、50銭以上1円未満の端数を1円に切り上げるものとして端数を処理することが認められます(昭和63年3月14日基発第150号)。

事例

事例

  • 月給:200,000円
  • 1ヵ月の所定労働時間:172.5時間(1日7時間30分×23日)
  • 1ヵ月の残業時間:20時間

・1時間あたりの賃金額の計算

200,000円÷172.5時間=1,159.4202…円

このような場合、50銭未満の端数(0.4202…円)を切り捨て、1時間あたりの賃金額を「1,159円」とすることが認められます。

・割増賃金額の計算

1,159円×20時間=23,180円

1ヵ月あたりの割増賃金額の端数処理

1ヵ月間における割増賃金の総額に、1円未満の端数が生じた場合には、上記(1時間あたりの割増賃金)と同様に、50銭未満(0.5円未満)の端数を切り捨て、50銭以上1円未満の端数を1円に切り上げるものとして端数を処理することが認められます(昭和63年3月14日基発第150号)。

事例

事例

  • 月給:200,000円
  • 1ヵ月の所定労働時間:172.5時間(1日7時間30分×23日)
  • 1ヵ月の時間外労働の時間:20時15分(20.25時間)

・1時間あたりの賃金額の計算

200,000円÷172.5時間≒1,159円(50銭未満の端数を切捨て)

・割増賃金額の計算

1,159円×20.25時間=23,469.75円

このような場合、50銭以上1円未満の端数(0.75)を1円に切り上げ、割増賃金の額を「23,470円」とすることが認められます。

1ヵ月の賃金額の端数処理

1ヵ月の賃金額(賃金の一部を控除して支払う場合には、控除した残額)に100円未満の端数が生じた場合には、50円未満の端数を切り捨て、50円以上の端数を100円に切り上げるものとして端数を処理することが認められます(昭和63年3月14日基発第150号)。

例えば、計算された1ヵ月の賃金が210,545円であった場合、50円未満の端数である45円を切り捨て、「210,500円」を支給することが認められます。

1ヵ月の賃金額の翌月への繰り越し

1ヵ月の賃金額(賃金の一部を控除して支払う場合には、控除した残額)に1,000円未満の端数がある場合は、その端数を翌月の賃金支払日に繰り越して支払うことが認められます(昭和63年3月14日基発第150号)。

例えば、計算された1ヵ月の賃金が210,545円であった場合には、1,000円未満の端数である「545円」を、翌月の賃金支払日に繰り越して支払うことが認められます。

なお、1ヵ月の賃金支払額における端数処理、および翌月への繰り越しが認められるためには、就業規則において、その旨を定める必要があるとされています(昭和63年3月14日基発第150号)。

平均賃金の計算における端数処理

労働者に対し、解雇予告手当(労働基準法第20条)や休業手当(労働基準法第26条)などを支払う際に、労働者の平均賃金を計算することがあります。

平均賃金は、原則として、直近3ヵ月間の賃金総額を、当該期間の暦日数で割ることにより算出します(労働基準法第12条)。

このとき、平均賃金の計算の結果生じた端数については、行政通達により、1銭未満を切捨てして処理することとされています(昭和22年11月5日基発第232号)。

例えば、3ヵ月間の賃金総額が890,000円であった場合には、90日で割ると、「9,888円8888…」という計算結果になります。

このときの端数処理は、1銭未満を切り捨てるため、平均賃金は「9,888円88銭」となります。

平均賃金については、次の記事をご覧ください。

【労働基準法】「平均賃金」とは?平均賃金の計算方法(原則・最低保障額)などを解説