【労働基準法】「平均賃金」とは?平均賃金の計算方法(原則・最低保障額)などを解説
- 1. 平均賃金とは
- 1.1. 平均賃金とは
- 1.2. 平均賃金の算定が必要となる場面
- 2. 平均賃金の計算方法(原則)
- 2.1. 平均賃金の計算方法(原則)
- 2.2. 算定事由が発生した日(上記計算式①)
- 2.3. 直近3ヵ月間(上記計算式②)
- 2.4. 賃金の総額(上記計算式③)
- 2.4.1. 平均賃金算定時の賃金総額に含む賃金
- 2.4.2. 賃金総額に含まない賃金
- 2.4.3. 臨時に支払われた賃金
- 2.4.4. 3ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金
- 2.4.5. 通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないもの
- 2.5. 総日数(上記計算式④)
- 3. 平均賃金の計算例
- 3.1. 計算例
- 3.2. 平均賃金の算定
- 3.3. 平均賃金の端数処理
- 3.4. 休業手当の端数処理
- 4. 平均賃金の最低保障額
- 4.1. 平均賃金の最低保障額
- 4.2. 計算例(最低保障額)
- 4.3. 平均賃金の算定
- 5. イレギュラーなケース(欠勤、新入社員など)
- 5.1. 算定期間中に欠勤がある場合
- 5.2. 雇入れ後3ヵ月に満たない場合(新入社員)
平均賃金とは
平均賃金とは
「平均賃金」とは、労働基準法が定める解雇予告手当や休業手当などにより、従業員の生活を保障するに当たって、これらの額を算定する際に用いられる1日当たりの生活賃金をいいます。
平均賃金の算定が必要となる場面
平均賃金は、労働基準法が定める次の5つの場面において、手当の額などを算定する際に用いられます。
【平均賃金の算定が必要となる場面(労働基準法)】
算定事由 | 内容 | 平均賃金との関係 | 条文 |
解雇予告手当 | 解雇の予告に代えて支払う手当 | 平均賃金の30日分 | 労働基準法第20条 |
休業手当 | 会社の責めに帰すべき休業中に支払う手当 | 休業1日あたり平均賃金の100分の60以上 | 労働基準法第26条 |
年次有給休暇中の賃金 | 年次有給休暇を取得した日に支払う賃金 | 休暇1日あたり平均賃金相当額 | 労働基準法第39条第9項 |
災害補償 | 従業員が業務上負傷し、もしくは疾病にかかり、または死亡した場合の補償 | 休業1日あたり平均賃金の100分の60(休業補償の場合) | 労働基準法第76条など |
減給の制裁の限度額 | 制裁(懲戒処分)として、従業員の賃金を減給する場合の限度額 | 減給1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならない | 労働基準法第91条 |
平均賃金の計算方法(原則)
平均賃金の計算方法(原則)
平均賃金は、原則として、算定事由が発生した日の直近3ヵ月間に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で割ることによって算定します(労働基準法第12条第1項)。
平均賃金の計算式(原則)
算定事由が発生した日(①)の直近3ヵ月間(②)に支払われた賃金の総額(③)÷その期間の総日数(④)
算定事由が発生した日(上記計算式①)
算定事由が発生した日(以下、「算定事由発生日」といいます)は、算定事由に応じて次のとおりです。
算定事由 | 算定事由発生日 |
解雇予告手当 | 解雇の通告をした日 (解雇日を変更した場合であっても、当初の通告日) (昭和39年6月12日基収2316号) |
休業手当 | 従業員を休業させた日 (休業が2日以上にわたる場合には、最初の日) |
年次有給休暇中の賃金 | 従業員が年次有給休暇を取得した日 (休暇が2日以上にわたる場合には、最初の日) |
災害補償 | 業務上の死傷の原因となった事故の発生日、または診断によって疾病の発生が確定した日 (労働基準法施行規則第48条) |
減給の制裁の限度額 | 減給の制裁の意思表示が、従業員に到達した日 (昭和30年7月19日基収5875号) |
直近3ヵ月間(上記計算式②)
平均賃金の算定の基礎となる期間(算定期間)は、算定事由発生日(①)以前の3ヵ月間です。
この3ヵ月間には、算定事由発生日は含まれず、その前日からさかのぼります。
「3ヵ月間」とは、暦日の3ヵ月をいい、例えば、5月10日に算定事由が発生した場合には、その前日の5月9日からさかのぼって3ヵ月前の2月10日まで(89日、閏年で90日)となります。
また、賃金の締切日がある場合(一般的な月給制の場合)には、「算定事由発生日の直前の賃金の締切日」からさかのぼった3ヵ月間が算定期間となります(労働基準法第12条第2項)。
また、算定期間中に、次に該当する期間が含まれる場合には、その日数および当該期間中の賃金は控除することとされています(労働基準法第12条第3項)。
平均賃金の算定時に日数・賃金を控除する期間
- 業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業した期間
- 産前産後休業をした期間
- 会社の責めに帰すべき事由によって休業した期間
- 育児休業または介護休業をした期間
- 試用期間
- 正当な争議行為による休業期間(昭和29年3月31日基収4240号)
なお、上記1.から4.の期間が3ヵ月以上にわたる場合には、「その期間の最初の日」を算定事由発生日とみなします(労働基準法施行規則第4条、昭和22年9月13日発基17号)。
賃金の総額(上記計算式③)
平均賃金算定時の賃金総額に含む賃金
基本的に、会社が従業員に支払う賃金は、賃金の総額に含まれます。
基本給はもちろん、例えば、通勤手当、皆勤手当、家族手当、割増賃金などは、すべて賃金総額に含めて平均賃金を計算します。
なお、通勤手当を6ヵ月定期券で支給している場合には、1ヵ月ごとに支払われたものとみなして平均賃金を算定します。
賃金の総額は、税金や社会保険料などを控除する前の額をいいます。
また、現実に支払われた賃金額だけでなく、賃金の支払いが遅れているような場合は、未払賃金も含めて計算します。
賃金総額に含まない賃金
平均賃金の算定において、次の賃金については、賃金総額に含まないものとされています(労働基準法第12条第4項)。
賃金総額に含まない賃金
- 臨時に支払われた賃金
- 3ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金
- 通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないもの
臨時に支払われた賃金
「臨時に支払われた賃金」とは、支給事由の発生が不確定であり、かつ非常に稀に発生するものをいいます(昭和22年9月13日発基17号)。
例えば、次の賃金が該当します。
- 結婚手当(昭和22年9月13日発基17号)
- 私傷病手当(昭和26年12月27日基収3857号)
- 加療見舞金(昭和27年5月10日基収6054号)
- 退職金(昭和22年9月13日発基17号)
3ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金
「3ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金」とは、例えば、年に2回、6ヵ月ごとに支払われる賞与などが該当します。
したがって、算定期間中に賞与を支給していたとしても、賃金総額には含めずに平均賃金を計算します。
通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないもの
特別に法令や労働協約で定められていない現物給与をいいます。
総日数(上記計算式④)
「総日数」とは、総暦日数(カレンダー上の日数)をいい、労働日数ではないことに留意する必要があります。
平均賃金の計算例
計算例
以下、休業手当の支払いを例に、平均賃金の計算例をみていきます。
平均賃金の計算例(休業手当)
- 賃金締切日は毎月末日締め(月給制)
- 4月10日から4月12日までの3日間、従業員Aに会社都合による休業を命じた
- 従業員Aの直近3ヵ月間(1月から3月まで)の賃金総額は、750,000円
- 休業手当は平均賃金の60%とする
なお、休業手当については、次の記事をご覧ください。
【労働基準法】「休業手当」とは?休業手当の要件(帰責事由)、計算方法(平均賃金の60%)などを解説
平均賃金の算定
この事例では、算定事由発生日は、休業を命じた最初の日である「4月10日」となります。
そして、算定事由発生日の直前の賃金締切日は3月末日であるため、1月から3月までの3ヵ月間の賃金の総額と総日数によって平均賃金を算定します。
計算期間 | 日数 | 賃金総額 |
1/1~1/31 | 31日 | 250,000円 |
2/1~2/28 | 28日 | 250,000円 |
3/1~3/31 | 31日 | 250,000円 |
合計 | 90日 | 750,000円 |
(平均賃金の計算)
3ヵ月間の賃金総額750,000円÷総日数90日≒8,333.33円(銭未満切り捨て)
(休業手当の計算)
平均賃金8,333.33円×60%×3日≒15,000円(円未満四捨五入)
平均賃金の端数処理
平均賃金の計算の結果生じた端数については、行政通達により、「銭未満を切捨て」して処理することとされています(昭和22年11月5日基発232号)。
例えば、上記の事例では、3ヵ月間の賃金総額750,000円を総日数90日で割ると、「8,333.3333…」という計算結果になります。
この場合の端数については、銭(1円の100分の1)未満を切り捨てる(少数点第3位以下を切り捨てる)ため、平均賃金は、8,333.33円(8,333円33銭)となります。
休業手当の端数処理
休業手当の計算の結果生じた端数処理については、「円未満の端数を四捨五入」することとされています(通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律第3条)。
上記の事例では、計算の結果は「14,999.994円」となりますが、休業手当の額は円未満を四捨五入して15,000円となります。
平均賃金の最低保障額
平均賃金の最低保障額
平均賃金には、最低保障額が定められています。
これは、パートやアルバイトなど労働日数が少ない場合や、日雇いや出来高などで働いている場合には、原則どおりの計算方法によると、平均賃金が著しく低くなり、保護に欠けることがあるためです。
そこで、平均賃金の算定において、賃金の全部または一部が、日給・時間給・出来高払い制その他の請負制によって支払われる場合は、最低保障額の計算を行い、原則どおり計算した額と最低保障額とを比較し、いずれか高い額を平均賃金とします(労働基準法第12条第1項第一号)。
平均賃金の計算(賃金の全部が日給・時間給・請負制の場合の最低保障額)
算定事由が発生した日の直近3ヵ月間に支払われた賃金の総額÷その期間の労働日数×60%
なお、賃金の一部が、月、週その他一定の期間によって定められた場合には、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と、上記の計算式で算出した額との合算額をもって平均賃金を算定します(労働基準法第12条第1項第二号)。
計算例(最低保障額)
以下、最低保障額が適用される場合の平均賃金の計算例をみていきます。
平均賃金の計算例(休業手当)
- 賃金締切日は毎月末日締め(時給制)
- 4月10日から4月12日までの3日間、パート従業員Bに会社都合による休業を命じた
- パート従業員Bの直近3ヵ月間(1月から3月まで)の賃金総額は、200,000円
- パート従業員Bの直近3ヵ月間(1月から3月まで)の労働日数は、30日 ・休業手当は平均賃金の60%とする
平均賃金の算定
この事例では、算定事由発生日は、休業を命じた最初の日である「4月10日」となります。
そして、算定事由発生日の直前の賃金締切日は3月末日であるため、1月から3月までの3ヵ月間の賃金の総額と日数を把握します。
このとき、最低保障額を計算するために、各計算期間における労働日数についても把握します。
計算期間 | 日数 | 労働日数 | 賃金総額 |
1/1~1/31 | 31日 | 10日 | 65,000円 |
2/1~2/28 | 28日 | 10日 | 65,000円 |
3/1~3/31 | 31日 | 10日 | 65,000円 |
合計 | 90日 | 30日 | 195,000円 |
(平均賃金の計算)
3ヵ月間の賃金総額195,000円÷総日数90日≒2,166.66円(銭未満切り捨て)[①]
(平均賃金の最低保障額の計算)
3ヵ月間の賃金総額195,000円÷労働日数30日×60%=3,900円[②]
【結論】[①]と[②]を比較し、高い方の[②]を平均賃金とする。
(休業手当の計算)
平均賃金3,900円×60%×3日=7,020円
イレギュラーなケース(欠勤、新入社員など)
算定期間中に欠勤がある場合
月給制において、賃金がその期間中の欠勤日数や欠勤時間数に応じて減額された場合には、最低保障額の計算を行い、欠勤しなかった場合に受けるはずの賃金の総額を、その期間中の所定労働日数で割った額の100分の60を算定します(昭和30年5月24日基収1619号)。
雇入れ後3ヵ月に満たない場合(新入社員)
新入社員など、算定事由の発生した日以前に3ヵ月間の期間がない場合には、雇入れ後の期間と、その期間中の賃金によって平均賃金を算定します(労働基準法第12条第6項) 。
なお、算定期間が2週間未満の者(昭和45年5月14日基発375号)、または、雇入れ当日に算定事由が発生した場合(昭和22年9月13日発基17号)については、都道府県労働局長が平均賃金を決定するものとされています。