【重要裁判例】ハマキョウレックス事件(平成30年6月1日最高裁判所判決)を解説【同一労働同一賃金】

はじめに

ハマキョウレックス事件(平成30年6月1日最高裁判所判決)は、一般貨物自動車運送事業等を営む会社において、有期労働契約を締結して勤務する契約社員(トラック運転手)が、正社員との間で、無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、通勤手当、家族手当、賞与、定期昇給および退職金について、不合理な格差があるとして、会社を訴えたものです。

本事件は、同じ日に判決が言い渡された長澤運輸事件と共に、労働契約法第20条について、最高裁判所として初めての判断を示した重要な裁判例です。

長澤運輸事件については、次の記事をご覧ください。

【重要裁判例】長澤運輸事件(平成30年6月1日最高裁判所判決)を解説【同一労働同一賃金】

本稿では、ハマキョウレックス事件について解説します。

事件の概要

被告(使用者側)

被告は、ハマキョウレックス株式会社(以下、「会社」といいます)です。

同社は、一般貨物自動車運送事業等を営む会社で、裁判当時(平成25年3月31日現在)の従業員数は4,597人でした。

原告(労働者側)

原告は、会社との間で有期労働契約を締結し、トラック運転手として配送業務に従事していた契約社員(以下、「契約社員」といいます)です。

平成20年10月頃に時給1,150円で契約を締結した後、契約を更新しながら勤務していました。

契約社員が勤務する支店では、契約社員と正社員のトラック運転手の業務内容に相違はなく、業務に伴う責任の程度にも相違はありませんでした。

一方で、正社員については、会社の業務上の必要に応じて就業場所の変更を命じられることがあり、出向を含む全国規模の異動の可能性があるほか、等級役職制度が設けられ、教育訓練を通じて会社の中核を担う人材として登用される可能性がある立場にありました。

これに対し、契約社員には、そのような配置転換や出向、人材登用の仕組みは予定されていませんでした。

契約社員は、正社員に支給される無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、通勤手当、家族手当、賞与、定期昇給および退職金が、契約社員である自分には支給されないことは労働契約法第20条に違反し無効であるとして、正社員と同一の権利を有する地位にあることの確認、および正社員との賃金差額の支払いなどを求めて訴訟を提起しました

判決(結論)

最高裁判所は、無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当および皆勤手当にかかる労働条件の相違を不合理と判断し、これらについて会社側に損害賠償責任(不法行為責任)を認める一方で、住宅手当については不合理ではないと判断しました

また、正社員と同一の権利を有する地位の確認請求および賃金の差額請求は、いずれも認めませんでした。

なお、皆勤手当に関する損害賠償請求の部分については、さらに審理を尽くさせるため、原審(大阪高等裁判所)に差し戻されました。

問題となった賃金体系(正社員と契約社員の比較)

当時の会社における正社員と契約社員の賃金体系の違いは、次のとおりです。

 正社員契約社員
基本給
(月給)
基本給
(時間給)
無事故手当
作業手当
給食手当
住宅手当
皆勤手当
通勤手当通勤手当(※)
家族手当
賞与
(原則支給なし)
10定期昇給
(原則昇給なし)
11退職金
(勤続5年以上)

(※)平成25年12月以前は月額の差2,000円。平成26年1月以降は同額。

上記の賃金体系に対し、契約社員は、主に次の点について、正社員との間に不合理な差があることを主張しました。

主な争点

  • 【争点1】契約社員に「無事故手当」「作業手当」「給食手当」が支給されない点
  • 【争点2】契約社員の「通勤手当」が、正社員よりも金額が低い点
  • 【争点3】契約社員に「住宅手当」が支給されない点
  • 【争点4】契約社員に「皆勤手当」が支給されない点
  • 【争点5】これらの相違が労働契約法第20条に違反する場合、契約社員は正社員と同一の権利を有する地位にあるといえるか

裁判所の判断(第1審・第2審)

第1審(大津地方裁判所彦根支部)

第1審(平成27年9月16日判決)は、通勤手当について、正社員との差額(月額2,000円)分のみを不合理と判断し、会社に対して差額相当額(合計1万円)の支払いを命じました。

他方、その他の諸手当については、いずれも不合理とは認めず、契約社員の請求の大部分を退けました。

第2審(大阪高等裁判所)

第2審(平成28年7月26日判決)は、第1審の判断を一部変更し、通勤手当に加えて、無事故手当、作業手当および給食手当についても、正社員との相違は不合理であると判断し、会社に対して合計77万円の支払いを命じました。

他方、住宅手当、皆勤手当、家族手当、定期昇給および賞与については、いずれも不合理ではないと判断しました。

最高裁判所の判決

最高裁判所は、第2審(大阪高等裁判所)の判断のうち、無事故手当、作業手当、給食手当および通勤手当を不合理とした部分、住宅手当を不合理でないとした部分は、いずれも是認することができるとしました。

他方、皆勤手当について不合理でないとした第2審の判断は是認することができないとして、この部分を破棄し、更に審理を尽くさせるため、原審(大阪高等裁判所)に差し戻しました。

最高裁判所の判決の理由①(労働契約法第20条の効力・判断枠組みについて)

最高裁判所は、まず、労働契約法第20条の法的性質について、「同条の規定は私法上の効力を有するものと解するのが相当であり、有期労働契約のうち同条に違反する労働条件の相違を設ける部分は無効となるものと解される」としました。

もっとも、「有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が同条に違反する場合であっても、同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではない」と判断し、労働契約法第20条の違反が認められたとしても、契約社員の労働条件が、当然に正社員と同一になるものではないことを明らかにしました。

このため、原告が求めていた、正社員と同一の権利を有する地位にあることの確認と、賃金差額の支払いは、いずれも認められませんでした。

次に、労働契約法第20条にいう「期間の定めがあることにより」の意義について、最高裁判所は、「有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいうものと解するのが相当である」と示しました。

また、「不合理と認められるもの」の意義については、「有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいうと解するのが相当である」と示しました。

最高裁判所の判決の理由②(個別の賃金について)

最高裁判所は、賃金の総額を比較するのではなく、各賃金項目の趣旨を個別に考慮して、それぞれの相違が不合理であるかどうかを検討しました(この個別考慮の考え方は、同日判決の長澤運輸事件においても示されています)。

賃金項目ごとに検討した結果は、次のとおりです。

【争点1】契約社員に「無事故手当」「作業手当」「給食手当」が支給されない点

最高裁判所は、「無事故手当」について、優良ドライバーの育成や安全な輸送による顧客の信頼獲得を目的とするものであり、契約社員と正社員とで職務の内容に違いがない以上、安全運転や事故防止の必要性に差はないとして、正社員に対して上記の無事故手当を支給する一方で、契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、不合理と認められるものに当たると判断しました。

「作業手当」については、特定の作業を行った対価として、作業そのものを金銭的に評価して支給される性質の賃金であるとした上で、契約社員と正社員の職務内容に違いがないことなどから、正社員に対して上記の作業手当を一律に支給する一方で、契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、不合理と認められるものに当たると判断しました。

「給食手当」については、従業員の食事にかかる補助として支給される趣旨のものであり、勤務時間中に食事をとる必要性は契約社員と正社員とで異ならないことから、正社員に対して上記の給食手当を支給する一方で、契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、不合理と認められるものに当たると判断しました。

【争点2】契約社員の「通勤手当」が、正社員よりも金額が低い点

最高裁判所は、「通勤手当」について、通勤に要する交通費を補填する趣旨で支給されるものであり、労働契約に期間の定めがあるか否かによって通勤に要する費用が異なるものではないことから、正社員と契約社員との間で上記の通勤手当の金額が異なるという労働条件の相違は、不合理と認められるものに当たると判断しました。

【争点3】契約社員に「住宅手当」が支給されない点

最高裁判所は、住宅手当については、他の手当とは異なる判断をしました。

住宅手当は従業員の住宅に要する費用を補助する趣旨のものであるところ、正社員には転居を伴う配転が予定されているのに対し、契約社員には就業場所の変更が予定されていないことから、正社員に対して住宅手当を支給する一方で、契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、不合理であると評価することができるものとはいえないと判断しました。

【争点4】契約社員に「皆勤手当」が支給されない点

「皆勤手当」については、会社が運送業務を円滑に進めるために出勤するトラック運転手を一定数確保する必要があることから、皆勤を奨励する趣旨で支給されるものであるとした上で、契約社員と正社員の職務内容に違いがない以上、出勤者を確保する必要性についても両者に差はないとして、正社員に対して皆勤手当を支給する一方で、契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、不合理と認められるものに当たると判断しました。

この判断は、第2審(大阪高等裁判所)が皆勤手当を不合理でないとしていた点を覆すものです。

最高裁判所は、この部分について原判決を破棄し、契約社員が皆勤手当の支給要件を満たしているか否か等についてさらに審理を尽くさせるため、原審に差し戻しました。

なお、家族手当、賞与、定期昇給および退職金については、原審(大阪高等裁判所)において不合理ではないと判断された部分であり、この点についての最高裁判所としての判断は示されていません(最高裁判所が当該部分に関する上告を受理せず、排除したためです)。