【重要裁判例】学校法人中央学院(非常勤講師)事件(東京高等裁判所令和2年6月24日判決)を解説【同一労働同一賃金】

- 1. はじめに
- 2. 事件の概要
- 2.1. 被告(使用者側)
- 2.2. 原告(労働者側)
- 2.3. 判決(結論)
- 3. 問題となった賃金体系(専任教員と非常勤講師の比較)
- 4. 裁判所の判断(第1審・第2審)
- 4.1. 第1審(東京地方裁判所)
- 4.2. 第2審(東京高等裁判所)(本判決)
- 5. 最高裁判所の判決
- 6. 高等裁判所の判決の理由①(労働契約法第20条の判断枠組みについて)
- 7. 高等裁判所の判決の理由②(個別の労働条件についての判断)
- 7.1. 【争点1】非常勤講師の本俸(基本給)が、専任教員の約3分の1にとどまる点
- 7.2. 【争点2】非常勤講師に「賞与・年度末手当」が支給されない点
- 7.3. 【争点3】非常勤講師に「家族手当」および「住宅手当」が支給されない点
はじめに
学校法人中央学院(非常勤講師)事件は、大学を設置・運営する学校法人において、有期労働契約を締結して非常勤講師として勤務していた原告が、無期労働契約を締結している専任教員との間で、本俸(基本給)、賞与・年度末手当、家族手当および住宅手当について不合理な格差があるとして、損害賠償を求めたものです。
長澤運輸事件やハマキョウレックス事件など、同一労働同一賃金に関する事件の多くが、少なくとも一部の手当については契約社員側の主張が認められたのに対し、本事件は、原告が主張したすべての労働条件の相違について「不合理ではない」と判断され、原告が全面敗訴した点に大きな特徴があります。
また、本俸(基本給)そのものに約3倍という大きな格差があるにもかかわらず適法とされた点も、実務上参考になります。
なお、本事件は最高裁判所への上告が受理されず、東京高等裁判所の判決が確定しています。
本稿では、学校法人中央学院(非常勤講師)事件について解説します。
事件の概要
被告(使用者側)
被告は、私立学校法の規定に基づき設立された学校法人であり、中央学院大学(以下、「大学」といいます)等を設置し、運営しています(以下、「学校法人」といいます)。
大学には、被告との間で無期労働契約を締結している専任教員および有期労働契約を締結している非常勤講師等が就労しており、平成27年度当時の教員数は、専任教員が70名、非常勤講師が118名でした。
原告(労働者側)
原告は、平成5年4月頃、被告との間で有期労働契約を締結し、それ以降、大学の非常勤講師として就労していました。
原告は、平成11年以降、18年以上にわたり、大学における「主要授業科目」を含む複数の専門科目、総コマ数5コマ以上の授業を担当しており、専任教員の義務コマ数以上の授業を担当していました。
一方、専任教員は、授業を担当するのみならず、専攻分野についての研究活動、教授会での審議、大学組織上の役職、各種委員会等の委嘱・任命された事項、学生の修学指導および課外活動の指導等、大学運営に関する幅広い業務を行う義務を負っており、原則として週3日以上の出校および兼職禁止などの職務専念義務も課されていました。
原告は、専任教員に支給される本俸(基本給)、賞与・年度末手当、家族手当および住宅手当について、非常勤講師である自分との間の相違は労働契約法第20条に違反するとして、被告に対し、不法行為に基づき、上記相違に係る差額等の損害賠償を求めて訴訟を提起しました(原告は、これとは別に、大学の元法学部長から専任教員への採用を約束されたのに反故にされたとして、契約締結上の過失等に基づく損害賠償も求めましたが、この点は同一労働同一賃金とは異なる論点であるため、本稿では割愛します)。
判決(結論)
東京高等裁判所は、本俸(基本給)、賞与および年度末手当、家族手当および住宅手当のいずれについても、専任教員と非常勤講師との間の労働条件の相違は不合理とはいえないと判断し、原告の請求をいずれも棄却しました。
本判決に対し、原告は最高裁判所に上告しましたが、最高裁判所は令和3年1月22日、上告を棄却するとともに上告審として受理しない旨の決定をし、本判決が確定しました。
問題となった賃金体系(専任教員と非常勤講師の比較)
当時の大学における専任教員と非常勤講師の待遇の違いは、次のとおりです。
| 項目 | 専任教員 | 非常勤講師 | |
| 1 | 本俸(基本給) | 年額約666万5,200円(平均) | 1コマ当たり月額給与制 (原告の年収は約228万3,000円。専任教員の約3分の1程度) |
| 2 | 賞与・年度末手当 | 年額約294万4,178円(平均) | 支給なし |
| 3 | 家族手当 | 支給あり (配偶者がいる者は月額1万6,000円) | 支給なし |
| 4 | 住宅手当 | 支給あり (世帯主は月額1万7,500円) | 支給なし |
上記の待遇に対し、非常勤講師である原告は、主に次の点について、専任教員との間に不合理な差があることを主張しました。
主な争点
- 【争点1】非常勤講師の本俸(基本給)が、専任教員の約3分の1にとどまる点
- 【争点2】非常勤講師に「賞与・年度末手当」が支給されない点
- 【争点3】非常勤講師に「家族手当」および「住宅手当」が支給されない点
裁判所の判断(第1審・第2審)
第1審(東京地方裁判所)
第1審(令和元年5月30日判決)は、専任教員と非常勤講師との間の職務の内容等の相違を踏まえ、「本俸、賞与・年度末手当、家族手当および住宅手当のいずれについても不合理とは認められない」と判断し、原告の請求をいずれも棄却しました。
第2審(東京高等裁判所)(本判決)
第2審は、「第一審の判断は相当である」として、原告の控訴を棄却し、第一審の判断をそのまま維持しました。
最高裁判所の判決
最高裁判所は令和3年1月22日、原告の上告を棄却するとともに、上告審として事件を受理しない旨の決定をしました。
これにより、本事件については最高裁判所としての実体判断は示されないまま、東京高等裁判所の判決がそのまま確定しました。
高等裁判所の判決の理由①(労働契約法第20条の判断枠組みについて)
東京高等裁判所は、まず、「同条の規定は、有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件に相違があり得ることを前提に、職務の内容等を考慮して、その相違が不合理と認められるものであってはならないとするものであり、職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であると解される」としました。
そのうえで、原告が主張した「非常勤講師個人の具体的な労働実態と比較すべきである」との主張に対し、「控訴人の業務の内容および当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)、当該職務の内容および配置の変更の範囲その他の事情を考慮して判断することになる」としたうえで、原告が専任教員と遜色のないコマ数の授業を担当し、論文を発表していたとしても、それは労働契約上の義務の履行としてではなく、原告自身の意思や希望に基づくものであったことを指摘しました。
このように、東京高等裁判所は、すでに示されていた最高裁判決の判断枠組みを踏まえたうえで、原告個人の実際の勤務実態そのものではなく、労働契約上の義務・責任の範囲を基準として、職務の内容等の相違を検討するという手法を採用しました。
高等裁判所の判決の理由②(個別の労働条件についての判断)
【争点1】非常勤講師の本俸(基本給)が、専任教員の約3分の1にとどまる点
東京高等裁判所は、専任教員は、一定時間数以上の授業を担当する義務の他、専攻分野についての研究活動を行うことが労働契約上の義務とされ、3年に1回以上論文を発表することも義務付けられている一方、原告が専任教員と遜色のないコマ数の授業を担当したことや論文を複数発表したことは、いずれも義務の履行としてではなく、原告自身の意思や希望に基づくものであったこと、専任教員は教授会における審議や各種委員会委員等の委嘱等、大学運営に関する業務を行う義務を負うのに対し、原告はこれを負わないことから、「本俸の額における相違は不合理とはいえない」と判断しました。
【争点2】非常勤講師に「賞与・年度末手当」が支給されない点
東京高等裁判所は、賞与および年度末手当は、教職員の勤務成績に応じて支給されるものであり、この勤務成績は、一定の期間において労働契約上の義務と職責を果たした程度として把握されるものであるところ、原告と専任教員とでは担当授業時間数や研究活動についての労働契約上の義務に相違があることに加え、専任教員は大学運営に関する各種の業務を行う義務を負い、これに伴う責任を負うことから、「原告に賞与・年度末手当が支給されないことが不合理とはいえない」と判断しました。
【争点3】非常勤講師に「家族手当」および「住宅手当」が支給されない点
東京高等裁判所は、専任教員は、教育活動および研究活動のみならず大学運営に関する幅広い業務を行う義務を負い、職務専念義務も負うところ、大学設置基準により一定数以上の専任教員を確保しなければならないこととされていることに鑑みれば、給与上の処遇を手厚くすることにより相応しい人材を安定的に確保する必要があることから、「家族手当および住宅手当を専任教員のみに支給することは不合理とはいえない」と判断しました。
なお、原告は、被告との労使交渉の結果、非常勤講師の給与が段階的に増額されてきた経緯があること等も主張しましたが、東京高等裁判所は、これらの事情を考慮しても、上記の各判断を左右するものではないとしました。


