2023年から中小企業に適用される「代替休暇」とは?制度の内容・計算方法(換算率)・労使協定の記載例などを解説
- 1. はじめに
- 2. 代替休暇とは?
- 2.1. 代替休暇とは?
- 2.2. 代替休暇の中小企業への適用
- 3. 代替休暇と他の制度(代休・有給休暇)との違い
- 3.1. 代替休暇と代休の違い
- 3.2. 代替休暇と年次有給休暇の違い
- 4. 代替休暇の計算方法と換算率(代替休暇として与える時間)
- 4.1. 代替休暇の計算方法
- 4.2. 「換算率」とは?
- 4.3. 計算の具体例
- 5. 代替休暇制度を導入するための手続(労使協定)
- 5.1. 労使協定の締結
- 5.1.1. 1.代替休暇の時間の算定方法
- 5.1.2. 2.代替休暇の単位
- 5.1.3. 3.代替休暇を与えることができる期間
- 5.2. 就業規則への記載
- 5.3. 代替休暇の取得日の決定
- 5.4. (参考)労使協定の規定例(記載例)
はじめに
2023(令和5)年4月1日より、中小企業において、1ヵ月60時間を超える法定時間外労働に対して、50%以上(引き上げ前は25%以上)の割増率で計算した割増賃金を支払う義務が生じることとなります(労働基準法第37条)。
すでに大企業においては、2010(平成22)年4月1日の法改正により、当該割増率が適用されていますが、中小企業においては、その適用が猶予されていた経緯があります。
代替休暇は、法定時間外労働が1ヵ月あたり60時間を超える場合に、一部の割増賃金の支払いに代えて休暇を与えることができる制度として、すでに大企業を対象に施行されており、2023(令和5)年4月1日以降は、中小企業も対象となります。
今回は、代替休暇について、制度の内容や、割増賃金を休暇に換算する計算方法、制度を導入する際に要する手続について解説します。
なお、中小企業における割増率の引き上げ(2023年4月1日適用)については、以下の記事をご覧ください。
【2023年改正】中小企業における60時間超の残業に対する割増賃金率の引き上げ(50%)について解説
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代替休暇とは?
代替休暇とは?
「代替休暇」とは、法定時間外労働が1ヵ月あたり60時間を超えた場合に、その超える時間に対する割増賃金(割増率が50%になる部分)の一部の支払いに代えて、相当の休暇を与えることにより、割増賃金の支払いを免れることができる制度です(労働基準法第37条第3項)。
つまり、代替休暇の「代替」とは、「割増賃金の代替(代わり)」を意味します。
代替休暇は、2010(平成22)年4月1日施行の労働基準法の改正によって、創設された制度です。
代替休暇の趣旨は、1ヵ月に60時間を超える長時間労働をした従業員に対して、会社が割増賃金を支払う代わりに休息の機会を与えることにより、従業員の健康を確保することを主な目的としています。
代替休暇の中小企業への適用
大企業においては、2010(平成22)年4月1日の法改正により、代替休暇制度を導入することができるようになりましたが、中小企業においても、2023(令和5)年4月1日以降は、一般に代替休暇制度の適用対象となります。
中小企業の定義については、下表において、「資本金の額または出資の総額」または「常時使用する従業員数」のうち、いずれかに該当する場合は、中小企業に該当します。
なお、これらの要件は、事業場単位(支店や店舗などの場所単位)ではなく、会社単位(企業単位)で判断されます。
業種 | 資本金の額または出資の総額 | 常時使用する従業員数 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他(上記以外) | 3億円以下 | 300人以下 |
代替休暇と他の制度(代休・有給休暇)との違い
代替休暇と代休の違い
代替休暇と類似した名称の制度として、「代休」があります。
代休とは、法定休日(原則として1週間に1日)に従業員が働いた場合において、その後、その法定休日労働の代わりとして、別の労働日を休日として取り扱うことをいいます。
代替休暇と代休は、名称こそ類似していますが、制度としてまったく別のものです。
代替休暇と年次有給休暇の違い
代替休暇は、年次有給休暇とは異なる休暇です(労働基準法では、代替休暇の条文において、「第39条の規定による有給休暇を除く」と明記しています)。
したがって、従業員が有給休暇を取得したとしても、それをもって代替休暇を取得したものとして取り扱うことは認められません。
また、いずれの休暇についても、会社は当該休暇を無給とすることはできず、休暇に対する賃金を支給する必要がありますが、その賃金の内容について違いがあります。
従業員が有給休暇を取得した場合、その時間に対する賃金として、会社は3つの賃金(①平均賃金、②通常の賃金、③標準報酬日額)のうち、いずれによるかを選択することができます(労働基準法第39条第9項)。
これに対して、代替休暇においては、従業員が休暇を取得した時間に対して、会社は「通常の賃金」を支払う必要があるとされており、有給休暇のように賃金額について選択肢がない点に違いがあります(労働基準法第37条第3項)。
代替休暇の計算方法と換算率(代替休暇として与える時間)
代替休暇の計算方法
代替休暇は、割増賃金の支払いに代えて、休暇を与える制度であることから、割増賃金を休暇に換算するための計算をする必要があります。
代替休暇として何時間の休暇を与えるのかについては、例えば「10時間分の割増賃金に対して、10時間の代替休暇を与える」というような単純な計算ではなく、次の計算により求める必要があります。
代替休暇として与えることができる時間
(1ヵ月の法定時間外労働の時間数-60時間)×換算率
「換算率」とは?
上記の計算式のうち「換算率」とは、割増賃金を休暇に換算するための率をいい、次の計算により算出します。
換算率の求め方
代替休暇を取得しなかった場合の割増賃金率(50%以上)-代替休暇を取得した場合の割増賃金率(25%以上)
法律上の最低ラインの割増賃金率で計算すると、換算率は25%(50%-25%)となります。
前述のとおり、1ヵ月に60時間を超える法定時間外労働があった場合、会社はその超える時間について、50%以上を割増した賃金を支払う必要があります。
一方で、代替休暇を取得した場合、会社はこの割増賃金の一部(1ヵ月60時間を超えることによって割増率が増加する部分)の支払いを免れることができ、60時間を超える法定時間外労働についても、通常の法定時間外労働と同様に、25%以上の割増賃金を支払うことで足りることとなります。
なお、割増賃金率について「以上」と付けて表記するのは、25%(または50%)が法律上の最低ラインであって、会社が独自にこれより高い割増率を定めることが望ましいとされているためです。
計算の具体例
計算の具体例は、次のとおりです。
計算の具体例
【例】
・1ヵ月の法定時間外労働…76時間
・割増賃金率…60時間まで25%・60時間超50%(法定どおりの率)
【結論】
16時間(76時間-60時間)×25%(50%-25%)=4時間(代替休暇の時間数)
1ヵ月の法定時間外労働は76時間であり、60時間を超える時間は「16時間」です。
代替休暇を取得しない場合には、会社はこの16時間について、50%の割増賃金率で計算した割増賃金を支払う義務があります。
次に、換算率は、代替休暇を取得しなかった場合の割増賃金率(50%)から、代替休暇を取得した場合の割増賃金率(25%)を控除した「25%(50%-25%)」となります。
そして、16時間に換算率25%を乗じた「4時間(16時間×25%)」が、会社が従業員に対して与えることができる代替休暇の時間数となります。
したがって、この事例では、従業員が4時間の代替休暇を取得した場合、会社は16時間分の法定時間外労働に対する割増賃金のうち、25%相当分を支払う必要がなくなります。
なお、代替休暇を与えることができるのは、あくまで「60時間を超える法定時間外労働」に対する部分に限られます。
60時間以内の法定時間外労働に対しては、会社は法律どおり25%以上の割増賃金を支払う義務があり、これを免れることはできません。
代替休暇制度を導入するための手続(労使協定)
労使協定の締結
会社が代替休暇制度を導入する場合には、会社と従業員の過半数代表者との間で、労使協定を締結する必要があります。
なお、当該労使協定を労働基準監督署に届出する義務はありません。
労使協定で定めなければならない内容は、以下のとおりです(労働基準法施行規則第19条の2)。
労使協定で定める内容
- 代替休暇として与えることができる時間の算定方法
- 代替休暇の単位
- 代替休暇を与えることができる期間
1.代替休暇の時間の算定方法
代替休暇として与えることができる時間の算定方法とは、前述の換算率に関する内容をいいます。
何%の換算率を用いて、どのように代替休暇を与える時間数を算出するのか、労使協定に具体的に記載します。
2.代替休暇の単位
代替休暇の単位は、1日または半日である必要があります。
ただし、代替休暇として与える時間数が1日または半日に満たない場合であっても、有給休暇など、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇と合わせて、1日または半日の休暇を与えることが認められます(平成21年5月29日基発0529001号)。
3.代替休暇を与えることができる期間
会社が代替休暇を与える日は、法定時間外労働が1ヵ月あたり60時間を超えた月の末日の翌日から、2ヵ月以内とする必要があります(労働基準法施行規則第19条の2第1項第3号)。
代替休暇は、長時間労働をした従業員に対して、休息の機会を与えるための休暇であることから、長時間労働をした月とできるだけ近いタイミングで取得する必要があります。
例えば、4月における法定時間外労働が60時間を超えた場合、その代替休暇は、60時間を超えた月の末日(4月30日)の翌日(5月1日)から、2ヵ月以内に取得する必要があることから、6月末日が代替休暇を取得するリミットとなります。
そして、4月における割増賃金は、その月の賃金支払日に支払う必要がありますが、その際の割増賃金率は、60時間分について25%以上を計算して支払えば足り、60時間を超える時間外労働について割増賃金を支払う必要はありません。
就業規則への記載
労使協定の締結によって代替休暇の制度を導入する場合には、会社はその内容を就業規則に定める必要があります(平成21年5月29日基発0529001号)。
法律上、就業規則においては「休暇」に関する内容を必ず記載しなければならないとされており(絶対的必要記載事項、労働基準法第89条第1項)、代替休暇はこの休暇に該当するためです。
代替休暇の取得日の決定
代替休暇は、制度を設けた場合でも、従業員に休暇を取得する義務が生じるものではなく、あくまで従業員の意思により取得するものです。
代替休暇の取得は従業員の権利であって、義務にはなり得ません。
そこで、行政通達では、会社に対して、1ヵ月60時間を超えて法定時間外労働をさせた月の末日から起算して、できるだけ短い期間内に、従業員に代替休暇を取得するかどうかの意向を確認することとしています(平成21年5月29日基発0529001号)。
(参考)労使協定の規定例(記載例)
代替休暇に関する労使協定の規定例(記載例)は、次のとおりです。
労使協定の規定例(記載例)
代替休暇に関する協定書
株式会社●●と、その従業員の過半数代表者●●●●とは、代替休暇に関して、次のとおり協定する。
(代替休暇の対象者および期間)
第1条 代替休暇は、賃金計算期間の初日を起算日とする1ヵ月において、60時間を超える法定時間外労働を行った従業員のうち、半日以上の代替休暇を取得することが可能な従業員(以下、「対象従業員」という)に対して、当該従業員が代替休暇を取得する意向を示した場合に、当該月の末日の翌日から2ヵ月以内に与える。
(代替休暇の付与単位)
第2条 代替休暇は、半日または1日単位で与える。この場合の半日とは、午前(9時から14時)、または、午後(14時から18時)の4時間の就労時間をいう。
(代替休暇の計算方法)
第3条 代替休暇を与える時間数は、1ヵ月60時間を超える法定時間外労働の時間数に対して、換算率を乗じて得た時間数とする。
2 前項において、換算率とは、代替休暇を取得しなかった場合に支払うべき割増賃金率50%から、代替休暇を取得した場合に支払うべき割増賃金率25%を控除した、25%とする。
3 会社は、対象従業員が代替休暇を取得した場合、取得した時間数を換算率で除して得た時間数については、25%の割増賃金率で計算した割増賃金相当額の支払いを要しないこととする。
(代替休暇の意向確認)
第4条 会社は、1ヵ月に60時間を超える法定時間外労働を行った対象従業員に対しては、当該月の末日の翌日から起算して5営業日以内に、代替休暇の取得について意向を確認する。
(賃金の支払日)
第5条 会社は、前条の意向確認の結果、取得の意向があった場合には、本来支払うべき割増賃金のうち、第3条第3項により支払いを要しないとされる割増賃金相当額を控除した額を、通常の賃金支払日に支払うこととする。ただし、当該月の末日の翌日から2ヵ月以内に代替休暇の取得がなされなかった場合には、取得がなされないことが確定した月にかかる賃金支払日において、当該控除した割増賃金相当額を支払うこととする。
2 会社は、前条の意向確認の結果、取得の意向がなかった場合には、当該月に行われた法定時間外労働にかかる割増賃金について、通常の賃金支払日に支払うこととする。
(有効期間)
第6条 本協定の有効期間は●年●月●日から●年●月●日までの1年間とする。ただし、この協定の有効期間満了日の1ヵ月前までに、会社または従業員のいずれからも異議の申し出がないときは、この協定はさらに1年間有効期間を延長するものとし、以降も同様とする。
●年●月●日
株式会社●●代表取締役●●●●
従業員代表●●●●