副業の申請手続・許可基準に関する就業規則の規定例(記載例)

はじめに

副業」とは一般に、従業員が就業時間外において、他の会社に雇用されること、または個人で事業を営むことをいいます。

政府は、2017年3月に公表した「働き方改革実行計画」において、副業の促進を図ることを明記しました。

その後、2018年1月には厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表し、さらに副業・兼業について「モデル就業規則」(厚生労働省が公表している就業規則のひな型)の変更を行うなど、世の中の全体の流れとしては、副業を容認する方向で進んでいるといえます。

そこで、この記事では、会社が副業を認める場合の申請手続や、許可の基準に関する就業規則の規定例(記載例)を解説します。

なお、副業に関する労務管理については、厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン(2020年9月改定版、以下「ガイドライン」といいます)」が参考になりますので、適宜引用して説明します。

副業の禁止と許可制

副業を全面的に禁止することの可否

まず、そもそも会社が従業員の副業を全面的に禁止することができるかどうかについて、副業は、本業の就業時間外に行われるものであり、いわば私的な時間帯の活動であることから、会社は副業を全面的に禁止することはできないとするのが原則といえます。

副業を許可制にすることの可否

会社は副業を全面的に禁止することはできない一方で、過去の裁判例では、従業員が副業をすることによって、本業の会社における労務の提供に支障が生じる場合や、会社の企業秘密が漏えいするなど、企業秩序を乱す事態が生じる場合には、就業規則によって副業を禁止することが認められると判断しています(マンナ運輸事件/京都地方裁判所平成24年7月13日判決)。

そこで、実務上は、副業を認める場合においても、上記のような事態が生じることを防止する目的の範囲内において、会社は副業を許可制にすることができると考えられています。

副業の申請手続・許可基準に関する就業規則の規定例(記載例)

一定の基準を設けて、副業を許可制にする場合の就業規則の規定例(記載例)は、次のとおりです。

就業規則の規定例(記載例)

(副業の申請手続)

第1条 従業員は、副業を行おうとする場合、事前に、会社に所定の申請書および所定の資料を提出し【注①】、許可を受けるものとする。

2 従業員は、副業先から労働条件通知書を受領した場合、および副業に関する書類の提出を会社から求められた場合は、速やかに会社に提出するものとする。また、従業員は会社の求めに応じて、副業について必要な報告を行うものとする。

(副業の許可基準)

第2条 会社は、従業員から第1条の申請を受けた場合、次の各号のいずれにも該当しない場合【注②】は、これを許可する。また、副業の許可にあたり、会社は条件を付すことができるものとする。

一、労務提供上の支障がある場合、またはそのおそれがある場合【注③】

二、従業員の健康に問題を生じる場合、またはそのおそれがある場合【注④】

三、企業秘密が漏えいする場合、またはそのおそれがある場合

四、会社の名誉や社会的信用を損なう行為、もしくは信頼関係を破壊する行為がある場合、またはそのおそれがある場合

五、競業により、会社の利益を害する場合、またはそのおそれがある場合

六、許可申請にあたり、必要な書類または情報を会社に提出しない場合

七、入社3年未満の従業員、または取締役等の役員を兼務する従業員である場合【注⑤】

八、その他、前各号に準じる事由がある場合

2 会社は、前項の判断にあたり、従業員に対し、副業予定先での勤務条件に関する書類または事業内容・業務内容などに関する書類等の提出を求めることができる。

3 会社は、副業を許可するか否かの判断結果について、書面にて従業員に通知するものとする。

4 会社は、第1項の許可をした後においても、副業が第1項各号の事由に該当し、またはそのおそれがあると判断した場合は、いつでも副業の許可を取り消すことができる。

以下、規定例(記載例)のポイントについて解説します。

副業をする際の申請書の提出について【注①】

ガイドラインでは、会社は、従業員が副業を申請する際において、例えば次の内容を確認することが必要である旨が定められています。

副業の申請があったときの確認事項

  • 副業先での業務内容
  • 労働時間を通算する対象となるかどうか
  • (労働時間を通算する場合)副業先での労働日、労働時間、始業・終業時刻など

これらの内容を会社が漏れなく確認できるようにするためには、口頭ではなく、「副業許可申請書」などの申請書の提出を求めることが望ましいといえます。

会社には安全配慮義務があり、従業員が副業をした結果、長時間労働をすることによって、心身の健康を害することのないよう、配慮する必要があります。

そこで、会社には、従業員から副業の申請があった場合、副業先で従事する業務の内容や、労働時間を把握するように努めることが求められます。

副業を認める場合の許可基準について【注②】

副業を認める場合の許可基準については、副業による労務提供上の支障の度合いなど、副業を認めることによる会社のリスクを考慮して、許可を出すかどうかを慎重に判断する必要があります。

従業員の心身面への負担が懸念される場合などには、労働時間など副業先での就労内容について、一定の条件を付した上で許可するという選択肢もあります。

副業と解雇【注③】

副業によって本業に支障が生じているかのように見受けられる場合であっても、それをもって解雇するのは難しいといえます。

例えば、ある裁判例では、大学教授が無許可で語学学校の講師などの業務に従事し、講義を休講したことを理由として行われた懲戒解雇について、副業は夜間や休日に行われており、本業への支障は認められず、解雇を無効と判断しています(東京都私立大学教授事件/東京地方裁判所平成20年12月5日判決)。

その一方で、毎日6時間にわたるキャバレーでの無断就労を理由とする解雇について、兼業は深夜に及ぶものであって余暇利用のアルバイトの域を超えるものであり、社会通念上、会社への労務の誠実な提供に何らかの支障を来す可能性が高いことから、解雇を有効とした判断した裁判例もあります(小川建設事件/東京地方裁判所昭和57年11月19日判決)。

上記は無断・無許可で副業をしていた事例ですが、会社が副業を許可していた場合には、なおさら解雇のハードルは上がるといえます。

副業の許可をする場合には、これらのリスクを十分に勘案した上で、慎重に判断する必要があるといえます。

安全配慮義務の問題について【注④】

会社にとって、副業を認めることのリスクとして、従業員の健康管理の問題があります。

会社は法律上、従業員の心身の健康・安全について、配慮する義務を負っており(労働契約法第5条)、これに違反することは、「安全配慮義務違反」として損害を賠償するリスクがあります。

そして、副業においては、本業と副業における業務の負荷が相まって、従業員に心身の健康障害が生じた場合、本業先と副業先のいずれの会社が責任を負うのか、という問題が常につきまといます。

この点、本業の業務の負荷だけでは、過重労働に至るほどの負荷とは認められないとしても、本業先は副業の内容を把握しつつ許可している以上、副業の業務内容も踏まえつつ従業員の心身に配慮すべきであり、安全配慮義務の責任を免れることはできないのではないか、という見方もできます。

この問題については裁判例が確立しておらず、明確な基準はありませんが、会社が副業を許可することのリスクとして、十分に留意しておくべき点といえます。

副業を認める対象者について【注⑤】

会社が副業を認めるとしても、対象となる従業員について、ある程度限定することが必要になる場合があります。

例えば、従業員が入社してしばらくの間は、まずは本業に集中してもらいたいと考えるのは会社として当然のことであり、また、本業が未熟であるうちは、副業による支障も生じやすいといえます。

また、反対に、一定以上の役職にある従業員についても、本業における責任の重さから、情報漏えいのリスクを踏まえて(少なくとも競業・同業他社での副業を禁止するなど)副業を制限する必要が生じる場合があります。

そこで、上記の就業規則の規定例では、入社後3年未満である従業員など、一定の従業員について、副業を許可しないとする旨を定めています。

その他

上記の規定例(記載例)の他、必要に応じて、就業規則に副業許可の取り消し事由を定め、または副業内容に変更が生じた場合の会社への報告義務などを定めることが考えられます。

また、許可について、例えば1年の更新期限を設けるなど、会社が従業員の副業について、ある程度はコントロールできるようにすることも有用であると考えます。

一般的には、中小企業で人員や資源が限られるほど、容易には副業を認めにくい傾向があるといえます。

そこで、仮に副業を認めるとしても、無条件・無制限に認めるのではなく、まずは限定的に許可をしていくような運用をされるのもよいと考えます。